【文徒】2018年(平成30)5月23日(第6巻93号・通巻1267号)

Index------------------------------------------------------
1)【御礼】
2)【記事】是枝裕和監督「万引き家族」がカンヌ映画祭パルムドールに輝く
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                                • 2018.5.23 Shuppanjin

1)【御礼】

私が今日まで何とか持ちこたえて来たのは、焦点を二つ持ったからではないかと思っている。焦点を二つ持つことを右手左手と言い換えても良いだろう。私にとって、二つの焦点は相当、離れている。この二つの焦点が描いて来た楕円が私の人生であったのかもしれない。私の人生は常に楕円であったし、徹頭徹尾、楕円であったと言い切っても良いだろう。
私はたまさか楕円的人生を歩んでしまったけれど、紙を中心に据えた出版業界は、これまで円の歴史を積み重ねて来たのではないだろうか。その中心が現在デジタルによって蝕まれている。もちろん、楕円に中心が存在しないわけではない。ただ、楕円においては二つの焦点が中心を守ってくれているのだ。出版業界も楕円を志向すべきではないのかと、私はふと思ってしまう。恐らく出版業界は今まさに転形期に直面しており、ここで問われているのは楕円の未来を切り拓くことなのではないかと。
周知のように、転形期とは花田清輝の造語だろう。講談社学術文庫で手軽に読める「復興期の精神」で、花田は「転形期にいかに生きるか」と問いながら「楕円」について縦横無尽に論じている。
私は今後とも一つの焦点を義理に置き、今一つの焦点を筋目において、この業界の片隅で楕円を描いていければ、これに勝る幸せはないと思っている。
振り返れば、今日に至るまで皆さまには多大なる迷惑をかけていることだろう。この場を借りてお詫び申し上げたい。
何よりも一昨日はお忙しいなか私の還暦と創立5周年を祝う小宴に出席して下さったことに心より感謝申し上げる次第である。

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2)【記事】是枝裕和監督「万引き家族」がカンヌ映画祭パルムドールに輝く

カンヌ映画祭に出品された是枝裕和監督の「万引き家族」が最高賞パルムドールを獲得した。読売新聞が早速5月22日付の社説で取り上げた。次のように結ぶのは読売新聞らしい。
「政府は映画産業の海外展開に取り組んでいる。今回の受賞を追い風に、日本映画の魅力を一層広く発信していきたい」
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20180521-OYT1T50108.html
実は、是枝は大島渚の遺志を継ごうとしている映画人ではないのだろうか。韓国の「中央日報」のインタビューに応じて次のように語っている。
「日本は経済不況で階層間の両極化が進んだ。政府は貧困層を助ける代わりに失敗者として烙印を押し、貧困を個人の責任として処理している。映画の中の家族がその代表的な例だ」
「「共同体文化が崩壊して家族が崩壊している。多様性を受け入れるほど成熟しておらず、ますます地域主義に傾倒していって、残ったのは国粋主義だけだった。日本が歴史を認めない根っこがここにある。アジア近隣諸国に申し訳ない気持ちだ。日本もドイツのように謝らなければならない。だが、同じ政権がずっと執権することによって私たちは多くの希望を失っている」
http://japanese.joins.com/article/462/241462.html
サンセバスチャン国際映画祭で大島渚特集が組まれた際に是枝監督は現地で次のように述べている。
「僕自身はよく小津(安二郎)の孫だと言われますが、決して大島の子どもだとは言われません。確かに、作品のスタイルもテーマも、撮影現場での在り方も、大島監督と僕の間には大きな違いがあるでしょう」
「しかし、彼が繰り返し語り、また描いてきた日本人の問題点。例えば戦争を哀れみとともに描き、涙を流すことで自らの加害責任を忘れてしまうような甘えた態度。そのような『被害者意識』への厳しい告発は、僕のモノ作りとしての大きな指針にさえなっています。大島監督は生涯『怒り』の作家であり続けた人です。彼の正しい怒りに、ぜひこの機会に触れてみてください」
https://www.cinematoday.jp/news/N0056604
是枝監督自身のツイート。
カンヌ映画祭⑧興奮の夜が明けて名残惜しいですがカンヌの街を出ました。パルムドールのトロフィーはスタッフに預け、僕は日本には帰らずにニューヨークへ向かっています。大好きな役者さんと打ち合わせ。授賞式より、むしろ緊張しています」
https://twitter.com/hkoreeda/status/998118555160805376
早くも宝島社がノベライズした。映画公開に先駆けて5月28日に発売する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000678.000005069.html
宝島社は書籍出版でもフットワークが良い。

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3)【本日の一行情報】

集英社は「週刊少年ジャンプ」の創刊50周年を記念して、100作以上、計2万話以上が無料で読めるスマホ漫画サイト、スマホ漫画アプリの「ジャンプPARTY」のサービスを3月5日にたちあげたが、5月11日をもって終了した。スポーツニッポンによれば「利用者は100万人を超え、読まれた話の総数は2553万8756。最も多い人は2909話を読んだと発表された」そうだ。
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2018/05/21/kiji/20180521s00041000076000c.html
利用者100万人を多いとみるか少ないとみるかである。

◎アニメ映画「名探偵コナン ゼロの執行人」の38日間の興行収入は72億円を突破したそうだ。6年連続で記録を更新したことになる。80億円突破も視界に入っている。
https://cho-animedia.jp/anime/47051/

◎「will編集部」のツイートは紹介しておこう。
保守論壇誌の雄である『文藝春秋』が、岩波書店の『世界』に近づいたかと思ったら、遥かにジャンプして東スポ級の大見出し!
前後の文脈を無視して言葉尻で内容と真逆の大見出しなんて、まさに印象操作そのもの。『政と官』以前に劣化が止まらない『文藝春秋』よ、貴誌はいったいドコへいっちゃうの?」
https://twitter.com/WiLL_edit/status/996678875563286528
現在の「文藝春秋」編集長は大松芳男。山口一臣は伏字にしていたが連判状に名前を連ねた文藝春秋6(シックス)のひとりである。この6人に新たに2名が加わった8名を「部署長および管理職有志」とした「部署長の皆様ならびに管理職の皆様」という文章が送信された。
「私たちは、現執行部の中の特定の誰かを担ごうとか、特定の誰かの意に沿って声を上げたわけではありません。私たちは、近年の社を覆ってきた、物が言いにくい空気、不安や疑心暗鬼が蔓延している状況に強い危機感を抱いていました。
そうした中、4月以降、松井社長が示した自身の会長就任および新執行部人事に関して、社内で様々な憶測や噂が飛び交いました。私たちが抱いていた危機感はより深まり、何らかの形で声を上げなければならないと考えました。そして、少人数の部署長で相談し、メールの文面や会社への要望書案について議論しました。その過程において、性急に過ぎた面があったことは否めません。その点についても、反省しています」
「私たちが第一に願っているのは、社内の暗い空気を一掃し、文藝春秋がもう一度、誰に対しても遠慮なく物が言える、かつての自由闊達な社風を取り戻すことです。そして、新執行部人事が発足した後、今回の混迷を乗り越えて、全社員が一丸となって自分の仕事に邁進することができる環境を取り戻すことです」
5月23日(水)午後6時から西館地下1Fで皆さんの意見を伺う会が開催される。

◎恵谷治が亡くなった。「西サハラポリサリオ戦線の記録」(朝日イブニングニュース社)や「1967年10月8日―チェ・ゲバラ 死の残照」(毎日新聞社)が忘れられない。特に前者は船戸与一「猛き箱舟」の成立に大いに貢献している。
https://www.sankei.com/life/news/180521/lif1805210031-n1.html

日本テレビ放送網は、7月21日(土)より、全国5大アリーナで合計20万人を動員すると意気込むアカデミック・ライブショー「世界一受けたい授業 THE LIVE 恐竜に会える夏!」を開催する。
https://sekajulive.com/
うんこ漢字ドリルで人気の「うんこ先生」と恐竜のコラボも決まった。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000034228.html

◎「J-CASTニュース」は「講談社『買わないで』まんだらけ『非は出版社』 『愛と誠』原画落札、議論は平行線」を掲載している。
https://www.j-cast.com/2018/05/21329198.html?p=all
まんだらけ」が「弊社オークションサイトで落札された作品について」という文章を発表している。そこには、こう書かれていた。
「『編集部として当時の原画管理に関する意識の甘さを猛省しています』とありますように仰っていることが事実なら明らかに非は出版社様にありますので、本当に反省されておられるのなら、そしてその原稿が今回の出品物であったならその責務を果たすためにオークションで落札して作者様にお返しすべきではなかったのでしょうか。その時間的余裕は充分あったはずですし、お申し出があれば弊社は協力していました」
https://mandarake.co.jp/information/comment.html
昨日の文徒でも紹介したが、ながやす巧の妻である永安福子のコメントはホーム社の「壬生義士伝」のサイトに掲載された。
「巧は一人で作品を描くために時間も費用もかかります。 収入のすべてを作品づくりにかけてきたので、財産などありません。 オークションにかけられた原稿が、400万円という途方もない金額で落札されました。 私達の子供なのに手の届かないところへ行ってしまいました。 悲しくて胸がつぶれそうです。 オークションが終わったあと、巧も私も毎日落ち込んでいます。 何とかならないかと、精一杯手を尽くして下さった関係者の皆さんには、心から感謝しています。 読者の皆様のあつい応援も、とても嬉しかったです」
http://www.mibugishiden.com/comment.html
作者夫妻を悲しくて胸がつぶれそうな事態を引き起こしたのは誰なのか。理由はどうあれ、第一義的には、原画を紛失させ、そのまま今日に至るまで放置して来た出版社である。

◎内沼晋太郎の「これからの本屋読本」がNHK出版から刊行される。
https://www.cinra.net/news/20180521-numabooks

◎「群像」編集部のツイートだ。
穂村弘さんの17年ぶりの新歌集『水中翼船炎上中』。今月21日以降に発売予定ですが、デザイナー名久井直子さんによる装幀の色校はこんな感じです。タイトルの入った函を外すと、なんと9種類の柄の表紙が・・・!これはその一つです」
https://twitter.com/gunzo_henshubu/status/995959927498620929
新宿紀伊國屋書店穂村弘東直子トークイベントが6月8日(金)に開催される。
https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Shinjuku-Main-Store/20180514100020.html

KADOKAWAファンタジア文庫は創刊30周年を迎え、「ファンタジア文庫Anniversaryフェア」を5月19日(土)より開催する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004552.000007006.html

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4)【深夜の誌人語録】

悲観する必要はないが、楽観しては絶対に駄目である。