【文徒】2018年(平成30)5月22日(第6巻92号・通巻1266号)

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1)【記事】勁草書房新刊『電力と政治』に朝日記者らが「記事の切り貼りだ」と猛批判
2)【本日の一行情報】
3)【御礼】「今井照容還暦&出版人五周年」祝いの一夕に御参加いただきありがとうございました

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1)【記事】勁草書房新刊『電力と政治』に朝日記者らが「記事の切り貼りだ」と猛批判(岩本太郎)

哲学や社会学政治学などの書籍を中心に発行し、羽仁五郎『都市の論理』や浅田彰『構造と力』、『吉本隆明全著作集』の版元としても知られる勁草書房が今年4月で創業70周年を迎えた。創業記念企画として4月には「けいそうブックス」を創刊。書店でも70周年記念フェアとして「著者が選ぶ 勁草書房のこの3冊」を各地で開催中だ。
http://keisobiblio.com/2018/04/12/keiso70_shacho01/
http://www.keisoshobo.co.jp/news/n24381.html
社長の井村寿人(創業者・井村寿二の息子で2代目社長)も同社の公式サイトに登場し、同社のこれまでの歴史や今後の展望などについて、インタビューに応える形で語っている。
http://keisobiblio.com/2018/04/12/keiso70_shacho01/
去る2月に発行した上川龍之進の『電力と政治』(上・下)も好調。3月には朝日新聞に、5月には日経新聞にも書評が載った。創業記念の4月には重版もかかるなど70周年に花を添えている。
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b345543.html
https://www.asahi.com/articles/DA3S13408259.html
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO30366760R10C18A5MY5000/
https://twitter.com/keisoshobo/status/985726583947186176
上川は1976年生まれで京都大学大学院法学研究科で博士課程を修了。現在は大阪大学大学院法学研究科准教授(専門は政治過程論)で、他に『日本銀行と政治――金融政策決定の軌跡』 『小泉改革政治学――小泉純一郎は本当に「強い首相」だったのか』などの著書を持つ若手の政治学者だ。
http://www.keisoshobo.co.jp/author/a161251.html
ところがこの『電力と政治』に対して、同書を書評欄で紹介した朝日新聞にかつて所属した元記者、および現在所属する記者が先日来Twitterで相次いで批判する事態が起きている。どちらも朝日でこれまで原発問題を追い続けてきた記者であり、上記の勁草書房の公式アカウントでの同書重版告知を引用RT。つまり版元に直接届く形で怒りをぶつけているのた。まず、OBで現在は科学ジャーナリストとして活躍中の添田孝史は以下のように書く。
《上巻p.194〜204の津波想定問題について「添田孝史の研究に依拠して」とは書かれていますが、引用部分を除くと、ほぼ何も残りません。著作権法による「引用する側とされる側の双方は、質的量的に主従の関係であること」のルールを逸脱しています。御社は、これを迫真のドキュメント!として売るのですか》
https://twitter.com/sayawudon/status/996208433610113024
《いろんな著作を読みやすく上手につないだ総説としての価値はあるようですが、引用部分と著者自身の文の区別をより明確にすることが必要と思われます。また、他のジャーナリストたちが苦労して書いたドキュメントを切り貼りした本を「迫真のドキュメント」と宣伝する御社の姿勢に、一番問題あります。》
https://twitter.com/sayawudon/status/996211925426962432
現役の経済部記者で「核と人類取材センター」も兼務する小森敦司はさらに強い口調で版元を非難する。
《恥ずかしくないのだろうか。私の記事や著書抜きにこの本は出せただろうか。私はこの著者や出版社のために取材をしたのではない。》
https://twitter.com/komoriku_n/status/996047422471061504
《違います。原発導入期のことも、東京理科大橘川武郎先生や亡くなられた九州大学吉岡斉先生(直接取材は一回しかないが恩師と思っている)、NHKの取材班らの労作の要点を並べている。この著者が初めてこの世の出す新しい事実はどの頁のどこなのか、ぜひ、お教えいただきたい。》
https://twitter.com/komoriku_n/status/996335021622415360
《使われた量からして、私の記事も先行研究の一つだろう。著者と出版社に言いたい。次は、私の記事は使わないでください。お願いします。いっさい、かかわらないでください。》
https://twitter.com/komoriku_n/status/996378419645505537
《しつこいよ、と私も思う。ところが、どうしょもない書評が続くので、ツイートし続けてます。》
https://twitter.com/komoriku_n/status/996382333958635520
《あの本は第1、2章で原子力の導入期や反原発運動の高まりをを「描いて」いるが、故・吉岡斉九州大学教授の名著「原子力の社会史」を中心に、橘川武郎先生やNHK取材班の本のデータを切り貼りしたものではないだろうか。心から敬愛する吉岡先生はこうした引用を喜んだだろうか。》
https://twitter.com/komoriku_n/status/997283454092951552
これに対して勁草書房Twitter公式アカウントは20日までの時点で全く反応していない。一方で、ほどなく脇からギャラリーも参戦。「田舎の広告屋。元国交省専門紙記者会、元国交省関東地方整備局竹芝記者会、元『噂の真相』地方委託記者」だという「昼寝猫」はこう呟く。
勁草書房のアカウントフォロー1とか、読者からの声聞く気のなさといい、数日前から無断引用と思しき疑義について当事者らが声を上げているのに無視ぶっこいてる態度といい、いかにもなブルジョワで感じ悪いわw》
https://twitter.com/tcv2catnap/status/996313633452843011
NPOインターネット放送局「OurPlanet-TV」代表で、原発問題を継続取材中の白石草も疑問を投げかける。
《一次資料の発掘は最も骨の折れる作業。研究者はこんなことしてしまうのか。しかし、内容が凄ければ凄いほど編集者は気づくはずだし、歯止めをかけますよね。普通。》
https://twitter.com/hamemen/status/996291275023265792
他方、上記の添田のツイートを引用RTする形で、歴史学者政治学者の小菅信子はこう書いていた。
《なるほど。新聞記者はしばしば学者の研究成果を恣意的に引用したり、先行研究を無視します。少しは「された側」の気持ちや憤りがおわかりになったでしょうか。たとえば朝日新聞にたいして同様の繰り返し批判リプをしようと、無視されるだけでは? しつこく勁草書房に絡むのはいかがなものでしょう。》
https://twitter.com/nobuko_kosuge/status/996530014991536128
やがてtogetterで「まとめ」も立ったが、次第に添田や小森の主張に対する反論も目立つようになってきた。
《纏められた記者(?)がどうということではないが、新聞とかで「無断引用」という奇妙な言葉が見られるのはこんなふうに引用を理解してる人が多いからなんですね…。引用は、一定の条件を満たす限り本人に許諾を得る必要はまったくないわけで、お断りしますとかしないとかそういうもんではないでしょう。この本が一定の条件の範囲に収まってるのかは知らんけど、まとめられた言い方見る限り下手したら名誉毀損で逆に訴えられるんではないかな。》
《「自分への断りなしに自著から引用をするのはいかがなものか」という批判は、アカデミックな研究書に対しては的外れなものだろう。論文を書く際に毎回引用元の著者へ許可を取ることは一般的でないし、現実的でもない。裏を返せば、事前に自分に許可を取って、自分が納得いく形であれば引用を容認するということだろうか?そのような党派的な態度が先立っているように見えてしまう点には違和感を感じる。であるからこそ、上で添田孝史(@sayawudon)氏が指摘しているように、本来自由な引用を含めたアカデミックな作法の上に成立しているであろう研究書を、あたかもジャーナリスティックな価値を多分に含んだ書物であるかのように喧伝し、いらぬ反発を買ってしまっている勁草書房の販売戦略には(それが一番の問題かどうかはさておき)一考の余地が存在するという点には同意する。》
《(当該書を読んでない事を断った上で)新聞記者さんがネットの学者先生に「引用の要件も知らんのか」と叩かれているが、何十年も前の記事や回想録を引用して現代の視点から再構成して歴史書を書くならわかるけど、昨年掲載された記事やまだ存命の関係者インタビューをそのまま引用して「全史」と謳われたら、そりゃあ記者さんも良い気持ちはしないだろうと思う。近過去を歴史にする難しさというか。》
https://togetter.com/li/1227602#c4983474
《出典明記してあるのなら何を怒ってるのか理解できない。「この俺が取った特ダネなのにいいい」という新聞記者特有の習性に基づく反応、なら理解はできるが全然支持できない。》
https://twitter.com/iwashiryo1/status/997853754840956928
なお、著者である上川龍之進自身もこの件では今のところ何も語っていないようだ。ただ、引用は著作権法が挙げる要件を満たせば適法であり、原著者の許可はいらない。「公刊した著作物を引用するな」という権利はないのだ、ということは付言しておきたい。記者の人の怒りもわからないでもないが、すべての記者が取材対象から完全な合意を得て記事を発信しているわけではあるまい、とも思う。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

新潟市で起きた小学2年生児童の殺害事件で、児童の遺族が16日に新潟県警を通じてコメントを発表(以下に全文)。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018051601255&g=soc
一方で『JCASTニュース』は、上記の遺族のコメントの末尾にあった《どうかこのような心情をご理解いただき、今後、家族や親族等に対する取材、撮影等についてはご遠慮いただきたいと思います》の部分をテレビでは読まない報道が相次いだとして、インターネット上では疑問の声が上がっていることに言及。
https://www.j-cast.com/2018/05/18329059.html
既に事件が「起こった後」の現場で「現在進行中の最も大きな事件」は大抵マスメディアの報道陣による取材攻勢なのだが、それをマスメディア自身が報じないのもまた常である。

◎サイトブロッキングについて政府が「事業者による自主的な取り組みとして行うのが適当」としつつも、実は方針の決定前に通信大手3社に対して総務省が実施要請していたと『日経×TECH』が報道。4月9日に総務審議官の鈴木茂樹がNTT・KDDIソフトバンクの経営幹部を訪れ、直々に要請していたという。
http://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/00496/

◎インターネット上で著作物の利用を拡大する改正著作権法参院本会議で18日に可決、成立。著作権者の許諾なしに書籍全文を電子データ化し、特定のキーワードを含む書籍をネットで検索できるようにする(権利保護のため検索結果の表示はタイトルや本文の一部などに限定)規制緩和などが盛り込まれた。一部を除き来年1月1日に施行される。
https://this.kiji.is/370054498091074657
その改正著作権法を同日のTBSラジオ荻上チキ・Session-22」がさっそくテーマとして取り上げた。著作権に詳しい弁護士の福井健策は荻上との電話での対談の中で「既に社会(の現実)に対して周回遅れになっている部分を何とかキャッチアップしようとした改正」と解説し、個別の条項については評価。しかし一方、関連して今国会で進められているTPP承認の中で上がっている著作権保護期間の「死後70年」への延長については「却って死蔵され埋もれてしまう作品が増えるだけではないか。デジタルアーカイブを推進しようとしている動きにも逆行しているし、ちぐはぐだ」との懸念を表明した。
https://www.tbsradio.jp/254149

◎『愛と誠』の原画が「まんだらけオークション」に出されていた問題で、作画を担当した漫画家・ながやす巧の妻・永安福子が漫画『壬生義士伝』(原作・浅田次郎、漫画・ながやす巧)のサイトで、心労で体調が悪化したという本人に代わってコメントを発表。《オークションにかけられた原稿が、400万円という途方もない金額で落札されました。私達の子供なのに手の届かないところへ行ってしまいました。 悲しくて胸がつぶれそうです》など長文で心情を吐露している。
http://www.mibugishiden.com/comment.html
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1805/19/news025.html

アラーキーこと荒木経惟が長年被写体にしてきた女性から「#MeToo」告発された問題について、かつて平凡社の編集者だった1990年代後半に荒木の写真集や著作物を手掛けてきた畑中章宏(作家・民俗学者)が『現代ビジネス』に「アラーキーは、なぜ時代と乖離したのか?」との論考を寄稿。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55709

◎同じく『現代ビジネス』で、“新聞読み比べ芸人”を標榜するプチ鹿島が各紙に掲載される「首相動静」を元に「安倍首相の『5年半分の映画動静』」を寄稿。『ペンタゴン・ペーパーズ』はまだ観ていないらしい。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55626

サイバーエージェントが運営する『新R25』の編集デスク・天野俊吉が16日に自身のTwitterアカウントで《「ポプテピピック」の“絵”がマジで苦手。 ノリが苦手なのもあるけど、特徴的な目とかに「ヒッ!」ってなる》などとツイート。これをわずか10分ほど後には『ポプテピピック』の大川ぶくぶが見つけ《俺サイバーエージェントと仕事してんだけど、、、まじ?》《これでヘソ曲げて仕事切ったりとかはしないけど こういうのはちゃんと怒られろと思った》とツイート。天野は即座に当該ツイートを削除のうえ謝罪。
http://getnews.jp/archives/2045015

◎昨年末にエッセイ『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』を上梓し、現在も『日刊大衆』『新文化』でも連載を持つなどカリスマ書店員として知られる新井見枝香(三省堂書店神保町店勤務)が、ある広告で自身が名前出し(肩書は「書店員」)・顔出ししながら「隠れた名作を発掘します!」と吹き出しで語っていることについて、自身のTwitterアカウントで《そんなこと言ってねぇよ》と写真を添えてツイート。
https://twitter.com/honya_arai/status/996178343446724610
http://getnews.jp/archives/2044648
どこの広告なのかは定かでないが、「ちっちゃい出版社のスナイパー営業」だという人物が上記の新井のツイートにこんなリプライを返していた。
《すみません出来心で作ったら思いのほかしっくりきたもので……。》
https://twitter.com/Oft_Gefragt/status/996392223951351808

リクルートホールディングスの株価が18日の東京市場で上場来高値を連日で更新。国内の人手不足を追い風とみた国内外の機関投資家の買いを集めたらしい。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30695240Y8A510C1EN1000/

◎そのリクルートの世界戦略の中核となる米求人サイト大手「インディード」の恵比寿ガーデンタワー32階にある日本オフィスを日経新聞が取材。2012年の買収以来、同社の手法がリクルートの事業戦略にもたらしつつある変化について報じている。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30687600Y8A510C1X11000/

◎「リクルート」の商号を勝手に用いて「リクルートcom」を名乗る求人サイトを立ち上げ、昨年12月から今年4月までに107法人から計約1280万円を集めたという男5人が、不正競争防止法違反(著名表示冒用)の疑いで警視庁組織犯罪対策4課により16日に逮捕された。
https://this.kiji.is/369340815791653985

◎受刑者が出所した後の社会復帰を支援する目的で、日本で初めての刑務所専門求人誌だという雑誌『Chance!!』が3月に創刊された。全国の刑務所や少年院など20以上の施設に合計800部が配布され、支援団体を通じて130人以上の受刑者にも配られたという。版元は、犯罪歴や非行歴のある人の就労支援を手がける株式会社ヒューマン・コメディ。
http://goo.gl/9j8g2M
週刊ポスト』が5月25日号でレポートしている。
https://www.news-postseven.com/archives/20180520_673556.html

◎埼玉県久喜市で4月22日に行われた市長選挙で新人が当選。敗れた前市長の時代に進められていた、市内の東京理科大学跡地への給食センターの建設が撤回されたが、同計画について巻頭で記事を掲載していた「広報くき」5月1日号が選挙結果を受けて配布中止となり、約6万部が廃棄され、印刷費など約144万円が無駄となる事態に。市の担当者は「選挙結果まで考えが至らなかった」とコメント。
https://mainichi.jp/articles/20180518/k00/00e/040/180000c?fm=mnm

◎都内の国分寺駅北口にあるケーキ屋さん「多根果実店」が来たる23日に1日限定のブックカフェになるそうだ。東京学芸大学出身の若者2人が在学中に結成した、出張本屋などを行うユニット「劃桜堂(かくおうどう)」が《若者が本を読まないのは糖分が足りないからだ》と謳いつつ企画。当日は同店内に小説や実用書、料理本など100冊余りの本を用意。夜には東京学芸大学の学生らによるプチ演奏会も予定しているとのこと。
https://twitter.com/kakuodou_books/status/991260538133921792
https://www.facebook.com/events/374575226377110/
https://tachikawa.keizai.biz/headline/2659/

日本経済新聞Amazonで定期購読の受付を始めた。朝夕刊セットの6カ月定期購読(途中解約は不可)で、価格は2万9400円(税込、配送料含む)。今回は5月18日から7月25日までに期間を限定した試験販売で、5月25日までに注文を完了すると、6月1日から配達開始となる。大手の日刊全国紙がAmazonで定期購読を受け付けるのは初めてという。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1805/19/news021.html#utm_term=share_sp
http://goo.gl/JgvtKY
そういえばアマゾンではだいぶまえから「新聞紙 (新古・未使用)」なんてのが売られている。ペット飼育の中敷用ということで、販売店におけるいわゆる「押し紙」の再活用ではないか、などともささやかれている。
https://amzn.to/2GzyXF8

◎『FACTA』が触れていた文藝春秋の“社長内紛劇”について、同社社内で流れたという“連判状”を山口一臣がほぼ全文引用(幹事の名前は伏字で)のうえ記事で紹介している。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamaguchikazuomi/20180521-00085461/

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3)【御礼】「今井照容還暦&出版人五周年 祝いの一夕」に御参加いただきありがとうございました(岩本太郎)

昨21日、神田駿河台山の上ホテル」にて開催いたしました「今井照容還暦&出版人五周年祝いの一夕」には、大勢のみな様にお運びいただき、まことにありがとうございました。実行委員として運営に携わりましたが、大したおかまいもできず、不手際も多かったなか、温かいご指導ご鞭撻を賜りましたことを感謝いたします。出版人代表・今井からのご挨拶はまた改めるといたしまして、まずは実行委員会を代表いたしまして御礼申しあげたく思います。重ねてありがとうございました