【文徒】2018年(平成30)6月15日(第6巻110号・通巻1284号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】武邑光裕「さよなら、インターネット」(ダイヤモンド社)は必読文献だ!
2)【記事】RADWIMPS 野田洋次郎「HINOMARU」騒動
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                                • 2018.6.15 Shuppanjin

1)【記事】武邑光裕「さよなら、インターネット」(ダイヤモンド社)は必読文献だ!

「記憶のゆくたて デジタル・アーカイヴの文化経済」で知られる武邑光裕、と書いて気がついた。同書は2003年に東京大学出版会から刊行されたが、現在、品切れで重版未定だという。テレコム社会科学賞を受賞している「古典」であるにもかかわらず、だ。資源の無駄遣いとしか思えないような出版物は相も変わらず溢れかえり、出版市場の縮小は、まさに悪貨が良貨を駆逐している様相である。
http://www.utp.or.jp/book/b302388.html
私などの認識からすると武邑光裕NTT出版の季刊誌「インターコミュニケーション」の責任編集を浅田彰伊藤俊治・彦坂裕とともにつとめていた人物である。蛇足ながら言えば、時代から取り残される寸前だった私がデジタルシフトするに当って参考にしたのが「インターコミュニケーション」であった。
http://www.ntticc.or.jp/ja/about/publication/inter-communication/#ic-2008
武邑光裕が久しぶりに新刊を出すことになった。「記憶のゆくたて デジタル・アーカイヴの文化経済」以来、15年振りとなる新刊だ。タイトルは「さよなら、インターネット」。何とも挑発的で刺激的なタイトルである。版元はダイヤモンド社だ。「WIRED日本版」の連載をまとめたものだという。
そういえば「WIRED日本版」元編集長の若林恵岩波書店から「さよなら未来」を上梓している。6月7日に武邑光裕若林恵によるトークイベント「さよならインターネット・さよなら未来〜GDPRと新しいコモンズ」が開催されたそうだ。
GDPRとは、EUが5月25日に施行した企業の個人情報利用を規制する一般データ保護規則である。これに違反した企業は1000万〜2000万ユーロ(約13〜26億円)または全売上高の2〜4%の制裁金が課されるそうだ。グーグルとフェイスブックが施行初日に提訴されたことは周知の通り。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1805/27/news011.html
武邑光裕によればGDPR緑の党出身の未だ35歳という若き政治家ヤン・フィリップ・アルブレヒトが中心となってつくったものだそうだ。ヤン・フィリップ・アルブレヒトについては、この動画をご覧下さい。ビール好きなんだね。
https://www.youtube.com/watch?v=Zf2GuDsiBp0
ヤン・フィリップ・アルブレヒトを主人公に据えた「デモクラシー」なるドキュメンタリー映画まで製作されている。
http://www.rionishiyama.net/?p=1962
武邑光裕GDPRの原点はルネサンスにあると考えているようだ。「ASCII.jp」に掲載された「インターネットの終わりと始まり」(盛田諒)は次のように書いている。
「神から人間へ。人々はキリスト教支配から解き放たれ、人間であるということをふたたび考えるべきだ、というのがルネサンスの思想だ。ひるがえって現在、テクノロジー一神教よろしく強大な宗教のようなものになっている。わたしたちは毎日のようにスマートフォンを通じて神のように圧倒的な力を礼拝している。『それに気づかせる最大の装置がGDPR』(武邑さん)なのだという」
http://ascii.jp/elem/000/001/691/1691713/
むろん、GDPRは日本の企業にとっても無縁なことではない。武邑光裕は、こう書く。
「世界がインターネットでつながっている現在、GDPRの影響は全世界に及ぶ。当然、EU加盟28ヵ国から遠く離れた日本でも、EUの個人データと関わる企業は山とある。かつてEUカルテル法により巨額の制裁金を支払った日本企業が思い起こされる。日本はEUからデータ保護に関する「十分性認定」を受けていないため、データ保護に関しては米国と同様、世界の無法地帯とみなされている。日本の改正個人情報保護法も、GDPRから見れば10年遅れの法律である」
https://diamond.jp/articles/-/170897
メディアを稼業とする者にとって「さよなら、インターネット」は必読文献となりそうである。今すぐ書店に予約するか、アマゾンでポチろう。
https://honto.jp/netstore/pd-book_29064529.html
「DIGIDAY」が「ワシントン・ポストGDPR 対策のペイウォールを開始:データトラッキング回避に課金」を掲載している。
GDPRに対するアメリカのパブリッシャーたちの戦略はさまざまだ。単純にヨーロッパからのサイト訪問者をブロックするトロンク(Tronc)のような社もあれば、余分な物を一切取り除いたバージョンのサイトをヨーロッパからのユーザーに提供しているギャネット(Gannett)のUSAトゥデイ(USA Today)のようなパブリッシャーもある。USAトゥデイのこのシンプルなサイトはユーザー体験という点では通常のサイトよりもずっと快適だという声も挙がっている。ニューヨーク・タイムズプログラマティック広告を取り除いたようだ(タイムズ社は本稿へのコメント要請には応えなかった)。データトラッキングをしてほしくないユーザーには追加料金を要求するというワシントン・ポストのアプローチは新しい」
https://digiday.jp/publishers/washington-post-puts-price-data-privacy-gdpr-response-tests-requirements/
ツイッター利用規約を改定し、「13歳未満の利用は禁止」という条項を盛り込んだのは「GDPR」によるものだ。GDPRでは個人情報の提供に親の同意が必要となるため、13歳未満のアカウントが凍結されることになったのである。「GIGAZINE」が「Twitterが13歳以下のアカウントを凍結したのは新データ保護規則『GDPR』によるものだった」を掲載している。
https://gigazine.net/news/20180613-twitter-accounts-lock-by-gdpr/
GDPRによって広告ビジネスのあり方は劇的に変化するかもしれないのである。

                                                                                                          • -

2)【記事】RADWIMPS 野田洋次郎「HINOMARU」騒動

「HINOMARU」を作詞したRADWIMPSの野田洋次郎SNSで批判が巻き起こった程度で何故に謝るのであろうか。そもそも「色んな人の意見を聞いていてなるほど、そういう風に戦時中のことと結びつけて考えられる可能性があるかと腑に落ちる部分もありました。傷ついた人達、すみませんでした」と書くくらいなら、「HINOMARU」なる曲を発表する必要はあるまい。「純粋に何の思想的な意味も、右も左もなく、この国のことを歌いたいと思いました」という程度の認識だから謝罪してしまうということなのだろうか。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/06/11/rad-syazai_a_23455806/
https://www.asahi.com/articles/ASL6D42L6L6DUCVL006.html
https://twitter.com/YojiNoda1/status/1004970464635047936
津田大介は次のようにツイートしているが、私もその通りだと思う。野田の歌詞に対する「イデオロギー批判」はしても、それを発禁にしろ!などと「言論弾圧」を煽動してはなるまい。
野田洋次郎さんは謝罪するべきではなかったと思うし、発禁とか求めてる人はどうかと思いますけどね。別にあれで傷ついた人ってほとんどいない気がするし」
https://twitter.com/tsuda/status/1006981690961506304
辻田真佐憲は「現代ビジネス」で「HINOMARU」を次のように評価している。
「作者は、愛国心を発露しようとして、愛国歌の構図はほぼ完全におさえた。だが、そこに当てはめる言葉の選択に失敗してしまった。そのため、この愛国歌がフェイクであり、空洞であることをかえって明らかにしてしまったのではないか」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56060
町山智弘のツイート。
「『いざ行かん 日出づる国の御名のもとに』などと歌っておいて、『なるほど、そういう風に戦時中のことと結びつけて考えられる可能性があるか』と白々しく言うところが、まあ、今のいろんなものと似ていますね」
https://twitter.com/TomoMachi/status/1006875281800323073
その点、「異国の丘」などは傑作であった。
http://j-lyric.net/artist/a005822/l001002.html
「襟立ててハルピン破れて異国かな」や「南国に死して御恩のみなみかぜ」は攝津幸彦の「皇国前衛歌」だ。次の一句も攝津幸彦である。
蝉しぐれもはや戦前かも知れぬ

                                                                                                          • -

3)【本日の一行情報】

◎凄いねぇ。だって発売前から重版に次ぐ重版なんだぜ。講談社は6月26日発売の「乃木坂46写真集 乃木撮 VOL.01」を、発売前2度目となる3万部の重版が決定、これで累計発行部数は28万部!
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201806120000476.html

◎「美人百花」の岡村宗勇編集長が角川春樹事務所を6月30日付で退職することになった。後任は金井美沙デスクが昇格する。

講談社からジョルジョ・アガンベンの「実在とは何か マヨラナの失踪」(選書メチエ)が刊行される。これは絶対に買わねばなるまい。
https://twitter.com/jimbunshoin/status/994390465079365632
アガンベンは映画にも出ている。パゾリーニがキリストを「活動家」として描く映画「奇跡の丘」で十二使徒のひとりであるフィリポを演じている。アガンベンはこの時、22歳である。「ある家族の会話」(白水社)で知られている小説家のナタリア・ギンズブルグも「奇跡の丘」には出演している。
https://eiga.com/movie/43650/
加藤典洋の「人類が永遠に続くのではないとしたら」(新潮社)は見田宗介に始まり、吉本隆明ルーマンフーコーアガンベンの論考を橋爪大三郎を踏まえて言えばパスを繋ぐように援用しながら思想を深めている。
http://www.shinchosha.co.jp/book/331212/
「所有しないで使用する」んだよね。アガンベンの英訳者として知られるダニエル・ヘラー=ローゼンの「エコラリアス」がみすず書房から刊行された。
https://twitter.com/misuzu_shobo/status/1004921657931194369
https://www.msz.co.jp/book/detail/08709.html

◎「おひとりさま限定ぴあ お出かけ編」が発売された。
https://www.work-master.net/2018128891

◎10年前に刊行された「30歳の保健体育」(三葉)の続編が一迅社から刊行された。タイトルはズバリ「40歳の保健体育」だ。「30歳の保健体育」は累計50万部を超えるベストセラーとなっているそうだ。
https://netatopi.jp/article/1127361.html
「70歳の保健体育」なんて売れそうだな。

◎日本インターネットプロバイダー協会とドワンゴは共同で、「ニコニコ生放送」において、6月22日(金)19時より、海賊版サイト対策に関する討論会「激論 どうなる、海賊版サイト対策のこれから」を実施する。出演は石田慶樹(NGN IPoE協議会 会長)、川上量生カドカワ代表取締役社長)、立石聡明(日本インターネットプロバイダー協会副会長)、中川譲(インターネットユーザー協会幹事)、村瀬拓男(弁護士)、森亮二(弁護士)。進行は堀潤
https://www.jaipa.or.jp/topics/2018/06/post-12.php
村瀬は新潮社出身の弁護士。といって大学は文系ではない。東京大学工学部の卒業。
http://www.youga-law.jp/profile.shtml

◎日経によれば「米フェイスブックは12日、消費者の評価が著しく低い広告主を排除する仕組みを採り入れると発表した」そうだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31695500T10C18A6000000/

◎内沼晋太郎の「これからの本屋読本」(NHK出版)が話題になっているけれど、私は読む気なし、買う気なし。むしろ見た目からして嫌悪感が首をもたげてしまう。
https://wired.jp/2018/06/13/future-of-reading/
内沼の本屋って自力、自前とは無縁なんだもの。つまり、自立もなければ、「個立」もないのよ。私は鈴木敏文を全く評価しなかったように内沼晋太郎も評価できない。ちなみに私は若い頃から睡眠時間だけは削って来た。今でも寝ないで頑張るのが偉いと思っているよ。
https://casabrutus.com/design/77545

朝日新聞社は13日、共通プラットフォーム上で複数のサイトを運用する「ポトフ」事業の一環として本を紹介するウェブサイト「好書好日」をオープンした。
https://book.asahi.com/
「ポトフ」事業の第一弾の5サイトが出揃ったことになる。残りの4サイトは「DANRO」「GLOBE+」「telling,」「sippo」。
https://www.asahi.com/articles/ASL6F56QJL6FULZL002.html
ひとりの時間を楽しむ人たち向けのサイトが「DANRO」。
https://www.danro.bar/
「GLOBE+」は海外の旬な情報を提供するサイトだ。
https://globe.asahi.com/
「telling,」は女性向け。
https://telling.asahi.com/
「sippo」は尻尾。犬猫ペットのサイトだ。
https://sippo.asahi.com/

◎2014年〜2015年に「別冊マーガレット」(集英社)で連載されていた「宇宙(そら)を駆けるよだか」がNetflixでオリジナル実写ドラマ化された。主演はジャニーズWEST重岡大毅神山智洋
http://www3.cinematopics.com/archives/85015

◎「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載されている空知英秋のマンガ「銀魂」を原作とした実写映画「銀魂2 掟は破るためにこそある」が製作される。
https://rockinon.com/news/detail/177103

◎2012年から「月刊Office YOU」で連載され、現在も続編「しっぽ街のコオ先生」として連載がつづく「僕とシッポと神楽坂」がテレビ朝日で実写ドラマ化され、10月から放送がスタートする。
https://www.cinematoday.jp/news/N0101478

                                                                                                          • -

4)【深夜の誌人語録】

理想から地獄が生まれるし、善意から憎悪が生まれる。