【文徒】2018年(平成30)6月18日(第6巻111号・通巻1285号)

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1)【記事】「ONE PIECE」89巻の「配慮を欠いた表現」
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】「ONE PIECE」89巻の「配慮を欠いた表現」

集英社週刊少年ジャンプ」公式サイトは6月14日付で「『ONE PIECE』最新89巻(6月4日発売)の作者コメントに関して」を発表した。
「6月4日に発売したコミックス『ONE PIECE』89巻の作者コメント欄において、配慮を欠いた表現がありました。編集部、作者共々反省しております。今後は、より一層表現に留意して参ります」
https://www.shonenjump.com/j/2018/06/14/20180614_oshirase001.html
共同通信の配信記事によれば、作者の尾田栄一郎さんが、表紙カバーの折り返し部分にあるコメント欄で唐揚げの話を載せ、「恥ずかしながら 89巻、始まります」などと記述していたことが元日本兵の故横井庄一さんを想起させ配慮に欠けていたということであるようだ。来月配信のデジタル版では、作者コメントを差し替えるか削除するそうだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3178322014062018000000/
「ハフポスト日本版」の「『ONE PIECE』89巻が物議。残り物の唐揚げを故・横井庄一さんにたとえる ⇒ 集英社が反省文を掲載」は次のように書いている。
「尾田さんは、食事の際に皿に一つだけ残った唐揚げを、グアム島に戦後28年間潜伏した陸軍軍曹の故・横井庄一さんに例えて『横井軍曹』と名付けたという。その上で『横井軍曹残ってるよ!誰か戦争を終わらせて!』と書いている」
https://www.huffingtonpost.jp/2018/06/14/onepiece89_a_23458585/
古谷経衡 はツイートで「これぞ言論弾圧じゃねかい」とツイートしている。
https://twitter.com/aniotahosyu/status/1007180056198721536
永遠の0」の百田尚樹のツイート。
「品性のカケラもないセンス。
しかし、サヨクはこれには見て見ぬ振りだろうな」
https://twitter.com/hyakutanaoki/status/1007234022328504321
「祖父たちの零戦 」(講談社)や「零戦隊長 - 二〇四空飛行隊長宮野善治郎の生涯」(光人社)などの著書を持つカメラマン神立尚紀 のツイート。
「なんで、誰に謝罪してるんだろう。クレーマー?息苦しい世の中だ。 横井さんが帰って来た当時は、『恥ずかしながら』は、それこそ流行語になったし、コントのネタにもされていたものだけどね。趣味がいいとは思わないが、出版社が謝罪するほどのことなのかな 」
https://twitter.com/koudachinaoki/status/1007273061538598912
「しらべぇ」が「『ONE PIECE』作者の表紙カバーコメントに物議 『難しい時代だ』と困惑の声も」を掲載し、「過去に問題にならなかったとしても、現在では『アウト』だと考えている人が多いようだ」と書いているが、 時代の「空気」が変わったということなのだろうか。
https://sirabee.com/2018/06/15/20161668938/
私は山本七平が「『空気』の研究」(文藝春秋)で「われわれが通常口にするのは論理的判断の基準だが、本当の決断の基本となっているのは、『空気が許さない』という空気的判断の基準である 」と喝破したことを思い出した。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167306038
作家にも、編集者にも丁寧さが求められているのではないだろうか。「配慮を欠いた表現」と簡単に片づけるのではなく、どのような表現がどのような配慮を欠いていたのかを説明する必要があると思うのである。

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2)【本日の一行情報】

◎英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所によれば、米でニュースの収集にフェイスブックなどソーシャルメディアを利用する割合が低下し始めたそうだ。若者の間では、ニュースの議論にワッツアップなどメッセージアプリを利用する傾向が強いという。
https://jp.reuters.com/article/global-media-facebook-idJPKBN1JA05W

ツイッターにとって日本市場は世界で唯一、四半期ごとの売上が1億ドルを超えるマーケットだそうだ。ツイッター広告プロダクトの統括責任者を務める、ブルース・ファルクが来日したが、「マーケジン」で次のように語っている。
「世界のモバイルデータ使用量の75%以上が動画によるものとされ、Twitterにおいても動画視聴の93%がモバイルからの再生です。Twitterでは世界全体で1日の動画視聴数が14億あり、そのうちの約3億が日本です」
https://markezine.jp/article/detail/28594
わが国の一般大衆はツイッターの匿名性がお気に入りなのだろう。

テレビ東京ホールディングス東京放送ホールディングス電通博報堂DYメディアパートナーズ日本経済新聞社WOWOWの6社が運営する「Pravi」(パラビ)はドラマ「ケイゾク」「SPEC」に連なるシリーズ最新作「SICK’S 恕乃抄」の配信し際して「ピンチョス配信」を導入した。ピンチョス配信とは、毎日1?2分の短編シーンを配信し、1ヶ月かけて1話を完結させ、そこで完全パッケージ版を公開するというアプローチである。
http://realsound.jp/tech/2018/06/post-205730.html

◎業務上横領容疑で博報堂DYミュージック&ピクチャーズの元社員小林宏至容疑者が逮捕された。映画などを収録する放送用テープ約7800本(1900万円相当)を着服した容疑。2011年11月から昨年3月にかけ、約1億1400万円分のテープを転売したとみられる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018061400628&g=soc

朝日新聞社の主催による「ムンク展――共鳴する魂の叫び」が上野の東京都美術館で10月27日より開催される。むろん、「叫び」もやって来る。初来日となる。
https://www.asahi.com/articles/ASL6D462TL6DUCVL00M.html

◎フジテレビがドイツ公共放送ZDF系の制作会社「ZDFエンタープライズ」と10話で約1500万ユーロ(約20億円)をかけて、サッカーの移籍市場を舞台にしたドラマ「The Window」を共同制作するという。
https://www.asahi.com/articles/ASL6F4CFPL6FUCVL00C.html

日本新聞協会が発表した「軽減税率、確実に導入を 新聞協会・白石会長 書籍・雑誌にも適用求める 活字議連総会」によれば、活字文化議員連盟の総会に出席した新聞協会の白石興二郎会長(読売)は来年10月の消費税率引き上げとともに予定される新聞への軽減税率導入について、確実な実行と即売や電子新聞、書籍・雑誌への適用を求めたが、出版界が軽減税率の対象図書を区別する自主管理団体の設立を表明したことが議連に評価され、議連は新聞とともに書籍・雑誌への適用を求める活動方針を採択した。
「書籍出版協会の相賀昌宏理事長は、増税による価格上昇は新刊発行や書店数、出版社や作家への還元が減り『知的、文化的環境が衰退する』と指摘した。流通コードを管理する自主管理団体の下に第三者委員会を設置し、有害図書の排除に努めると述べた」
http://www.pressnet.or.jp/news/headline/180611_12249.html

◎アムタスは、電子コミック配信サービス「めちゃコミック」(めちゃコミ)において、芳文社との協業企画の一環として、「週刊漫画TIMES」の掲載作品を6月1日(金)より独占先行配信を開始する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000167.000022277.html

◎「山と溪谷」が7月号で通巻999号。7月14日発売の8月号で通巻1000号となる。1930年(昭和5年)の創刊から題字を変えることなく今日に至っている。
https://www.jiji.com/jc/article?k=000002192.000005875&g=prt

ラグーナテンボス(愛知県蒲郡市)が運営するテーマパークのラグナシアは、7月21日(土)より「〜コロコロコミック×ドラえもん Presents 〜 コロツアーDX in ラグナシア」を開催する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000013967.html

◎「週刊実話」が「相変わらずの誤報に情報漏えいも! “内部統制”がまったくとれていないフジテレビ」を掲載している。今度はフジテレビのサッカー公式ツイッターアカウント で日本代表対パラグアイ戦の開始前、「勝つのはパラグアイ」と誤って投稿した。
https://wjn.jp/article/detail/6257206/
これがそう。
https://togetter.com/li/1236742
当然、謝罪のツイートを投稿。
「先ほどフジテレビサッカー公式アカウントにて「勝つのはパラグアイ」と誤投稿がございました。既に投稿は削除させて頂きましたが、フォロワーの皆様に誤解を与えるような内容となってしまいましたことをお詫び申し上げます 」
https://twitter.com/cxfootball/status/1006521745916850180
週刊実話」は「フジ関係者」 に次のように発言させている。
「ミスがあるたびに定例社長会見で記者にツッコまれているが、上層部は『ミスを検証し、再発防止を現場に周知徹底させます』と回答しているが、まったくそうはなっていない状態。情報に対するチェック機能がまったく稼働していないのでこういうことが起きてしまう。おそらく、投稿したのは社員ではないスタッフでは。そういうことが起きる一因が、社員とそうでないスタッフのすさまじい給与格差といわれていり、それはどうやっても改善できないまま」

小池百合子都知事カイロ大学卒業 という卒業証書は1982年 に講談社 から刊行した「振り袖、ピラミッドを登る」の扉で使ったものと、 フジテレビが2016年6月30日放送の「とくダネ!」で明らかにしたもの とは別ものであった可能性があるようだ。「文春オンライン」が「小池百合子都知事カイロ大学「卒業証書」画像を徹底検証する」を掲載している。これを読むと「文藝春秋」本誌に掲載された同じ執筆者による「小池百合子『虚飾の履歴書』」 も読みたくなるというもの。
http://bunshun.jp/articles/-/7792
「文春オンライン」と文藝春秋が擁する雑誌の、こうした連動は大いに取り組むべし。繰り返し、繰り返し取り組むことが重要なはずである。

◎9月29日(土)・30 日(日)に若洲公園(新木場)で開催される「ぴあフェス」こと「PIA MUSIC COMPLEX 2018」 の第3弾出演アーティストと、出演日が決定した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000878.000011710.html
こういうノリ好きだなあ。

朝日新聞デジタルが6月15日付で「コインハイブ採掘『悪いことなの?』 サイト運営者語る」を掲載した。
「ウェブサイトを閲覧した人のパソコン(PC)に仮想通貨の『採掘』(マイニング)プログラムを無断で送り込み、サイトの運営収入を得ていたとして、各地の警察がサイト運営者の摘発に踏み切った。不正にあたるかどうか、議論のある事案。『ぼくたち、そんなに悪いことをしたのでしょうか?』。同様のサイトを運営していた1人が、朝日新聞の取材に語った 」
https://www.asahi.com/articles/ASL6H10SFL6GULZU012.html
コインハイブはウィルスなのかどうか。「読売オンライン」も6月11日付で「他人のPC『借用』仮想通貨計算 ウイルスか合法技術か」を掲載している。
コインハイブは、昨年9月にアルゼンチンの技術者らが発表したサービスで、サイトに専用プログラムを設置すると、閲覧者のブラウザーにマイニングのための計算をさせ、計算結果をコインハイブ用のサーバーに送信させる仕組みだ。収益の7割はサイト運営者が、3割は開発者側が受け取る」
「摘発には疑問の声も上がっている。コインハイブで使われている技術は、通常のサイト運営で使われている広告と同じ仕組みのものだからだ」
http://www.yomiuri.co.jp/science/feature/CO017291/20180611-OYT8T50002.html
毎日新聞は6月12日付で「仮想通貨 他人PCで獲得 了解得ず『採掘』初立件 」を掲載している。
「合同捜査本部がマイニングを明示していないHPに絞って立件に踏み切ったのは『拒否できる仕組みが広がっている広告と異なり、利用されていると気づくことすらできないから』(捜査関係者)だ。だが、横浜地裁の事件で弁護人を務める平野敬弁護士は「コインハイブだけ悪者にされるのはおかしい」と訴え、全面的に争う構えだ 」
https://mainichi.jp/articles/20180612/k00/00m/040/150000c

◎学研プラスは、7月6日(金)に金属フィギュアが作れる工作キット 「ブラキオサウルス 増補改訂版」を発売 する。このシリーズは2004年に4アイテムからスタートしたシリーズは、現在、累計発行数100万部を超え、全26アイテム となっている。価格は本体2,400円+税 。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001662.000002535.html

◎「コミック百合姫」(一迅社)で連載されている「私に天使が舞い降りた!」がTVアニメ化されることになった。
https://news.mynavi.jp/article/20180615-646971/

◎「マネーポストWEB」(小学館)が「化粧品を買わなくても大丈夫? 雑誌の付録をフル活用する節約術」を掲載している。つまり、美容誌と化粧品は競合関係にあるということだ。化粧品メーカーからすれば美容誌に出稿する意味が問われることになる。
https://www.moneypost.jp/286225/2/

◎「ポパイ」(マガジンハウス)のデジタル版が8月9日発売号より リリースされることになった。電子書店での単号(アラカルト)売りの他、iOSアプリによるデジタル版定期購読、デジタル版の定額読み放題サービス「dマガジン」への参加及び、紙版の雑誌とデジタル版を紙版の金額で購入できる「三省堂書店のサービス『デジプラス』」、「TSUTAYAのサービス『Airbook』」の利用も同時に開始する。 これにより、マガジンハウスは全定期雑誌をデジタル版で提供することになる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000030125.html

KDDIが運営する「ブックパス」は、島をテーマにしたマンガを期間限定で読み放題とする「こんな島には行ってはいけない特集」を開始 した。読み放題の対象となるのは「鬼畜島」(竹書房 1巻 )、「天獄の島」(日本文芸社 1〜3巻)、 「絶望の犯島―100人のブリーフ男vs1人の改造ギャル」(双葉社 1〜2巻)、「特攻の島」(佐藤漫画製作所 1〜9巻)。
実際に行ける安全な島への旅行に役立つ、50,000円相当の旅行クーポンを抽選で2組にプレゼントする企画も実施する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000288.000006388.html
https://bookpass.auone.jp/info/blackislands/?aid=lbs_AW0_release_004

◎「日刊サイゾー」が「全国屈指でも蔵書数は1万2,000冊程度……電子書籍図書館がショボくて、青空文庫ばかりの理由とは?」を掲載している。これは綾瀬市立図書館の電子書籍図書館のことだが、加えて言えば1万1,000冊は「青空文庫」 のものだという。今後、蔵書数は青空文庫のもの以外も増やして2万冊前後になる予定 だそうだ。
「それでも、蔵書数は全国屈指。それが、現在の日本における電子書籍図書館の現状なのである。すでに海外では電子書籍の貸し出しを実施している図書館も当たり前だが、日本は、まだまだ発展途上。別に綾瀬市だけでなく、電子書籍の貸し出しを行っている多くの図書館が、青空文庫の貸し出しを実施しているのだ 」
http://www.cyzo.com/2018/06/post_166055_entry.html
図書館にとって電子書籍は維持費が高 くなるのだ。

文藝春秋は「週刊文春」4月19日号から5月17日号まで4回に渡って掲載した 「危ない中国食品2018」 を電子書籍オリジナルとして300円(税込) でリリースした。
https://www.atpress.ne.jp/news/158847

◎「Amazon Prime Videoチャンネル 」が日本でも提供されることになった。これはAmazonプライム会員が、ニュースやスポーツ、将棋など20種類 に及ぶ有料チャンネルから観たいチャンネルだけ選んで登録し、コンテンツを視聴できる、プライム会員向けの有料サービス だ。米国や英国などでは同サービスを既に展開しており、日本は5カ国目 となる。
極道戦線チャンネルが月540円、BBCワールドニュース が月778円。日経CNBC プラス が月972円 。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000827.000004612.html

◎産経が「ヒット作を連発しながら他社で取締役も “熱狂”の編集者・箕輪厚介氏が働き続ける理由」を掲載している。
https://www.sankei.com/life/news/180615/lif1806150018-n1.html
箕輪厚介は「日本を代表する編集者」であるらしいのだが、 私は箕輪の編集した本を一冊も買ったことも、読んだこともないので評価しようもない。ただ水道橋博士との一戦には興味がある。
https://www.value-press.com/pressrelease/203171
私が箕輪に胡散臭さを感じるのは何故だろうか。例えば私は見城徹に胡散臭さを感じない。見城にあって、箕輪にないものは何なのか?「教養」だったりして。私が念頭に置いているのは竹内洋 の「教養主義の没落」(中公新書)である。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2003/07/101704.html

◎「DIME」(小学館)8月号の特別付録「DIME STICK TOOL SET6」 。このペン型ドライバーは欲しい。
https://dime.jp/genre/558149/

◎全国の保育所保育士の8割近くが利用したことがあるというWebサービス「HoiClue」(ほいくる)を運営する キッズカラーが小学館と資本・業務提携した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000004151.html
キッズカラーのホームページがコレ。
https://www.kids-color.co.jp/

電通が発表した「世界の広告費成長率予測」 によれば2018 年の世界の総広告費は 6,135 億ドルに達し、過去最高となる見通し だ。また2018 年には世界の総広告費に占めるデジタル広告費のシェアは 38.4%となり、初めてテレビ広告費 を上回るという。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018065-0614.pdf

◎「『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィ」の名義で、熊本地震の復興支援として、ふるさと納税を含む8億円の寄付があった !西日本新聞は次のように書いている。
「蒲島知事によると、尾田さんからは2016年の熊本地震後、『ルフィ』名義で5億円の義援金と3億円の寄付が寄せられていた。尾田さんの意向に沿い、これまで公表していなかった 」
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/424866/

魚住昭講談社の「現代ビジネス」に連載する「大衆は神である」の連載が第六回を迎えた。今回の「日本の出版文化を育んだ男の、『やんちゃな幼少期』」は、「この親にしてこの息子ありと言えようか」と結ばれている。「この親」とは野間好雄のこと。野間清治の幼馴染たちの好雄評を魚住は紹介している。
「〈忌憚なく言えば、野間さんに偽物の書画を売りつけられた人はいくらあるか知れない〉〈それから、売ってやるなんて言って(書画を)持っていってそれっきり品物も返らなければ、金も入らなかったというような──〉〈ご自分(=好雄)でもそれを極める眼がなかったとか言いますね〉〈偽物ばかり売っておったのでもない。私どもの父も買いましたが、これは本物でした〉〈(清治の)お父さんに迷惑を蒙らない人はないくらいです〉〈(好雄に)嵌(は)められたくらいはいいけれども、(好雄が品物を)持っていきっぱなしがたくさんあったのです〉」
「この息子」とは「戦前日本を席巻するメディア・コングロマリット大日本雄弁会講談社』を生み出した」野間清治である。魚住は野間清治の「超問題児」ぶりを次のように書いている。
「が、高等小の1年になると、にわかに性格が変わってガキ大将になり、あらゆる悪さをやった。
あるとき、彼が父・好雄に作ってもらった小刀を友だちに自慢した。すると『その刀がそんなに切れるか』と言われたのでカッとして、その友だちの唇をつかみ、刃でズブッと切った。
また、あるときは、いつもはおとなしい隣村の生徒の言葉が気にさわったので、その生徒の胸倉をつかんで投げた。すると、生徒の頬のあたり一面が地面にこすれて出血し、ひどいケガになった。さすがに気の毒になり、『キミ、勘弁してくれ』とひたすら謝った」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56045
高等小学校時代の野間清治について、講談社は例えば社史「講談社の80年」に掲載した「野間清治小伝」で次のように書いている。
野間清治は新宿尋常小学校(4年制)に進学する。これは子どもに最上の教育をという好雄の考えからだった。この高等小学校時代を通じて、運動や遊戯に夢中の腕白少年にと成長する。物語や講談にも興味をもちはじめ『里見八犬伝』の話など、演説の真似ごともはじめるようになる。学校とは別に個人授業で英語のリーダーや四書五経などを収めた」
「運動や遊戯に夢中の腕白少年」という記述からは小刀で友だちの唇をつかみ、刃でズブッと切るような少年は想像できまい。
魚住昭野間清治の沖縄での中学教諭時代について「日本共産党の指導者として有名な徳田球一」の「獄中十八年」における記述を紹介している。
それによれば野間清治は「私が中学一年のときの漢文の先生だったが、漢文などはほとんど知らない。教室では石童丸(いしどうまる=出家した父を探して幼子が高野山を訪ねる仏教説話)の話や、講談、なにわぶしのようなことばかりやっていた」「しかもかれは、遊廓を宿舎とし、まいにちそこから酔っぱらって出勤した」という。魚住は、こうした徳田の評価を否定していない。
一方、社史「講談社の80年」における「野間清治小伝」は、野間清治の沖縄時代をこう描いている。むろん、徳田の評価とは180度違っている。
「沖縄でもその性格は同僚や生徒に愛され、評価する人も多く、明治39年には27歳で県視学になる」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55801
これまで社史では書いてこなかったような歴史をスキャンダリズの手法をもって自ら暴き始めた講談社の狙いは、いったいどこにあるのだろうか。

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3)【深夜の誌人語録】

見方を変えるということは世界を変えるということでもある。