【文徒】2018年(平成30)7月31日(第6巻141号・通巻1315号)

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1)【記事】「新聞社が生き残れなくなった時代」に新聞が生き残る道
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】「新聞社が生き残れなくなった時代」に新聞が生き残る道(岩本太郎)

新潮社から2月に『新聞社崩壊』を上梓した畑尾一知(元朝日新聞社販売管理部長)が28日付『マル激トーク・オン・ディマンド』に出演。神保哲生宮台真司と「だから新聞は生き残れない」をテーマに語り合っていた。
「我々がこの番組を始めた頃にはまだマスメディアに力があったが、もはや今さら取り上げるのもという感がある」(神保)、「アメリカに比べて10年くらい遅れて同じ状況がやってきているのではないか」(宮台)と語る2人に対し、畑尾は日本で「新聞が読まれなくなった理由」として《値段の高さ、記事の劣化、新聞社に対する反感》の3つを挙げ、次のように解説していた。
朝日新聞を例に取ると、1970年代に700円台だった月極の購読料はその後、高騰を続け、1980年代には2000円台、1990年代には3000円台まで値上げされている。これは紙代の上昇などをそのまま反映したものだそうだが、その間、新聞社は人件費やその他のコストを削るなどの経営努力をほとんど何もしてこなかった》
《畑尾氏はそれでも、紙の新聞には一定のニーズがあるとの見方を示す。新聞社が社員を半分に削り、紙面も半分以下にしてスリム化を図れば、新聞社は生き残ることが可能かもしれない。しかし、既存の新聞社には、それはできないだろうと畑尾氏は言う。要するに、破綻しているのは新聞社のビジネスモデルではなく、新聞社の経営体質の方なのだ》
http://www.videonews.com/marugeki-talk/903/
上記の『マル檄』では他に「若者の新聞離れ」についても触れているが、そのあたりを新聞業界やNHK放送文化研究所による統計データなども引き合いに出しつつ、エコノミストの島澤諭(内閣府・旧経済企画庁出身)が25日付の『Yahoo!ニュース』で論じていた。2007年と2017年との、間に10年を置いた同じテーマでの調査データを比較しながら、島澤は30代前後の若い世代ほど新聞離れがこの間に顕著に進んだ理由を末尾で次のように指摘する。
《上がり続ける購読料、様々な偏向報道、建前だけの不偏不党、報道の自由を振りかざしつつ報道しない自由のステルス的行使、国民には財政再建のための痛み−つまり、消費税引き上げ−の受け入れの必要性を説きながら、自分たちは軽減税率を要求する二枚舌等々、多くの国民、特に若い世代はこうした欺瞞を敏感に嗅ぎ取り、不信を強め、それが新聞離れを惹起しているのではないか》
https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasawamanabu/20180729-00091030/
ただ、そうは言いながらも畑尾は上記の通り《紙の新聞には一定のニーズがある》として報道機関としての新聞が抱えるリソースは否定しないし、島澤にしても《ネット時代でも一次情報の有力な提供媒体は今のところ新聞であることは間違いない》と語る。要は今の新聞が持っている機能や役割自体は今後も社会からは期待されているという見立てである。とはいえ、その役割を旧来からの新聞社だけに委ねる必要も別になかろう。
朝日新聞社会部記者出身で『AERA』編集長も務めた代表の蜷川真夫は、自身が代表を務める『J-CASTニュース』が7月26日で創刊から12周年を迎えた翌日、コラム「編集長からの手紙」において、創刊当初に比べて「ネットニュースは進化したのか、退化したのか」と表題で提起しつつ次のように述べていた。
《ここ数年感じるのは「逆転現象」である。印刷物の情報とネットの情報の質と量の逆転である。
印刷物からのコンテンツ流用で始まったネットニュース、もっと範囲を広げてネット情報まで考えると、回線の大容量化や表示技術、表現の進歩で逆転現象が始まっている。発信される情報は、印刷物よりネットのほうが多くなってきた。多くの雑誌が休刊し、新聞は部数を減らした。多種多様な情報誌が印刷からネット配信に置き換えられた。
ネット情報の質的な変化も感じる。様々なジャンルの情報がネットに配信され、画面デザインは豊かになった。ネットブラウザでの表現は格段に向上した。(略)記者がストーリーを考えて取材して記事にする。ネットにはこの種の記事が多くなってきた。元々は雑誌得意の企画手法であり、ネットもいよいよ雑誌手法のニュースがのしてくるのではないかと思う》
https://www.j-cast.com/2018/07/27334803.html
津田大介は『週刊朝日』8月3日号の連載で「報道メディアとの共存めざすグーグル」と題し、米国でGoogleが「Google News Initiative(GNI)」と銘打ち、報道業界とのコラボレーションを推進する姿勢を打ち出したことを取り上げている。
《3年間で3億ドル(約340億円)もの予算が投じられるGNIは、質の高いジャーナリズムの強化、持続的成長を可能にするビジネスモデルの構築、報道機関によるテクノロジー利用の促進という三つの目標を掲げている。(略)そのGNIが7月9日、「信頼性の高いニュース動画」の提供に向けて、2500万ドル(約28億円)の予算を投じる複数の取り組みを発表した》
《ユーチューブのトップページには、「トップニュース」セクションや、事件・事故の発生時には「速報」セクションが設置され、信頼性の高い報道動画へのアクセスを促していくという。こちらは日本を含め17カ国で開始される》
https://dot.asahi.com/wa/2018072500010.html
産業としての新聞社は衰退するだろう。だが機能としての「新聞」は相変わらず必要とされ、GAFAはじめネットメディアが取って代わろうとしている。どうシフトしていくのか。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

小学館のアプリ「サンデーうぇぶり」「マンガワン」が、休刊した『ヤングサンデー』に連載されていた作品を無料で読めるキャンペーンを実施。「サンデーうぇぶり」では『土竜の唄』『鉄腕バーディー』『クロサギ』『RAINBOW-二舎六房の七人-』『お〜い!竜馬』『とめはねっ!鈴里高校書道部』の1巻と2巻について既に実施中(8月2日まで)。「マンガワン」では8月中に『Bバージン』『太郎』『SEX』について順次実施の予定。
https://www.oricon.co.jp/news/2116492/full/
ヤングサンデー』は2008年7月31日発売号を最後に休刊。それから今日でちょうど10年になる。

◎無料アプリ「マンガトリガー」を運営するナンバーナイン(本社・渋谷)が「打倒海賊版サイト」を謳いつつ、漫画家向けの電子書籍配信代行事業をこのほど開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000027584.html
同社代表の小林琢磨はUSEN出身で2008年に漫画制作代理店「サーチフィールド」を創業。2016年にホリエモンこと堀江貴文と共同でナンバーナインを設立した。
https://no9.co.jp/about
去る25日にはCAMPFIREとの共同で漫画クラウドファンディング事業も始めている。
https://camp-fire.jp/channels/no9

KADOKAWAは『コンプティーク』の増刊としてバーチャルユーチューバーの専門情報誌『Vティーク』を7月26日に発売した。
https://panora.tokyo/70065/

◎一方、ドワンゴはバーチャルユーチューバーが盛り上がっている状況を受ける形で、札幌市のゲーム開発会社インフィニットループとの合弁会社「バーチャルキャスト」を27日に設立。カドカワグループとしてのVR市場における事業拡大を同社を拠点としつつ図っていくようだ。
http://dwango.co.jp/pi/ns/2018/0727/index.html
http://ascii.jp/elem/000/001/718/1718138/
https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201807300271

◎光文社『bis』でもユーチューバーが活躍している。同誌でモデルを務める一方でユーチューバー、ガールズバンドのボーカルとして活動中の佐藤ノアの撮影をサポートするアルバイトの募集が20日から始まっている。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000514.000002302.html

◎今年3月に新宿歌舞伎町にオープンしたライブハウス「ROCK CAFE LOFT」が杉田水脈LGBT論文をめぐる問題をテーマにしたトークイベント「緊急討論:生産性 my ass!なぜ私たちは杉田と戦うのか。愛国戦隊・狂気の水脈を絶て!』を8月4日の夜7時より開催することになった。R&Bやヒップホップの情報サイト『bmr』編集長を務める音楽評論家の丸屋九兵衛、ゲイ・アクティビストでもあるライター・編集者の宇田川しいが出演の予定だ。
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/rockcafe/95513
「ROCK CAFE LOFT」は名前の通りロックを聞かせるライブハウスとしてオープンしたものの今のところ客足は思わしくなく、オーナーの平野悠は頭を抱えているようだ。
https://www.facebook.com/yu.hirano.338/posts/1824582594285483
20〜30人規模でのトークライブの開催にはうってつけの空間でもあり、先日私が話を聞いた際にも「どんな企画でもいいから」と平野は話していた。他のロフト系ライブハウスは活況でイベント日程も早めに決まってしまうため、こうした流行りの話題をテーマにした緊急のトークライブ開催などには有効活用できるかもしれない。

◎神奈川県三浦市で三根かよこ・ミネシンゴの夫婦が営む出版社「アタシ社」が昨年4月に創刊した雑誌『たたみかた』の第2号を7月31日に発売する。今回の特集は「男らしさ 女らしさ」。セクハラやパワハラジェンダー問題などにおける男女の対立構造に焦点をあてた論考などを掲載するようだ。
https://twitter.com/tatamikata/status/1023036570985590784
https://tatamikata02.themedia.jp/

リクルートはAIを導入することで業務の効率化をかなり進めているようだ。校閲部門では昨年5月に「リクナビネクスト」で最初に導入。従来は入稿システムに原稿を登録してから校閲スタッフが原稿を査読して完了するまで1週間を要したのが数秒で片付くようになり、そのぶん効率化されたほか、営業活動にもっと時間を割くことも可能になったという。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32538030T00C18A7000000/

◎『東洋経済オンライン』が30日に発表した最新版の「業界別」で見た就職人気ランキングでは「マスコミ」で総合トップ10に入った会社が1つもなかったそうだ。業界1位は博報堂博報堂DYメディアパートナーズ(総合11位)で2位が講談社(同19位)、5位が集英社(同42位)、6位がKADOKAWA(同45位)、7位が電通(同54位)、9位が読売新聞(同64位)、10位がNHK(同66位)だったとのこと。
https://toyokeizai.net/articles/-/231133
かつて朝日新聞・フジテレビ・電通などマスコミ企業が総合でも上位を独占していた時代を想うと隔世の感がある。