忌花学廃人篇 その四

舞ふごとに罪を重ねし黒揚羽
一匹で生きる金魚の金魚鉢
ここよりは他人の顔の朝顔
祈るほど孤独となりて心太
山鳩を撃ちて悲しき日焼かな
父帰る舌は蛞蝓棒は棒
洞穴に棒を挿す夜の蝉時雨
ここそこに蜜の染み入る五月闇
火遊びや総天然色の水中花
敵となり友とならざる蠅の王
やや毒の強き棘あり夏の牝
実存の暗さ漂ふ水中花
箱舟に亀裂を残す花火かな
存在も非在も香る不在かな
逆説を麦酒とともに逆上す
捨てられし朝はゴッホの色のやう
処刑まで無機にさすらふ紙飛行機
然り首塚に少女濡れてゐる
恍惚の罪を鞭打つ土佐源氏
火遊びを隠す秘境の殺風景
氷河期に迷ふ阿弥陀の善がりけり
剃刀の錆びゆく国家の腹上死
故郷の写真を燃やす敗戦日
死をなさんとすれば詩歌舞ひ散れり
しきしまの旅を自慰する忠孝不二
夜は長し愛なる文字は辞書に捨て
赤土の荒野に縄の党宣言
堕落のわれ一個の凶器なりけり
酔ふほどに笑はず泣かず待ち惚け
嘉手納発極楽行の焼夷弾
恍惚の紅葉且つ散る殺風景
空洞を旅するesの神無月
神々の自決を綴る枯木立
鷹泣くやその氷河期の白が死ぬ
木枯しは汽笛の沈む夜に泣けり
蝋燭に揺るる乳首の降誕祭
消しゴムや思考停止の去年今年
凍蝶の交尾に君は煙草吸ふ
襟巻で吊るす自画像それでよし