朝日新聞が讀賣にケンカを売ったぞ!朝日新聞がスクープした巨人軍巨額契約金問題を裏目読みする

朝日新聞のスクープである。3月15日付朝刊の一面に七段組みで掲載された記事の見出しには、こうあった。
「巨人、6選手に契約金36億円」「球界申し合わせ超過」
プロ野球界では新人契約金に関して、1億円+出来高払い5千万円を最高標準額として申し合わせてきたが、讀賣巨人軍はこの標準額を超える契約を多数の選手と交わしていたというのである。そのなかで朝日新聞が確認できたのは1997年〜2004年度に結ばれた阿部慎之助選手、上原浩治選手、野間口貴彦選手、二岡智宏選手、高橋由伸選手、内海哲也選手の6選手の契約であり、総36億円のうち27億円が最高標準額を超過していたと報じた。
朝日新聞の最近のスクープを代表するのは何と言っても前田検事の押収フロッピー改竄事件であったと思うが、これは板橋洋佳記者の特ダネであった。ところが今日の讀賣巨人軍の巨額契約金スクープに特ダネ記者の名前は刻まれていなかった。朝日新聞では社会面でも、この話題を大きく扱っているが、そこにも記者の名前はなかった。朝日新聞には特ダネ記者の名前を明かせない「不都合な理由」でもあったのであろうか。
朝日新聞が球界の申し合わせを逸脱した契約にかかわる「内部資料」を入手していなければ、このスクープは不可能である。当然、それは讀賣巨人軍の経営にかかわっていたような幹部しか入手できない類の「内部資料」だ。そうしたネタ元絡みの理由から、朝日新聞は特ダネ記者の名前を明かさなかったのかもしれない。私ならずとも「あの人」の顔が思い浮かんでくるのではないだろうか。実際、このスクープ記事の背景に「あの人」の顔を思い浮かべたのは私だけではなかった。朝日新聞出版で『週刊朝日』の元編集長として知られる、言わば朝日新聞にとって身内でもある山口一臣も次のようにツイートしていた。

ネタ元はやっぱりあの人かな?

作家の館淳一もツイートしている。

今日の朝日の「巨人軍契約金違反」のスクープは、やはり清武元代表がネタ元と考えていいんでしょうかね。

いずれにせよ、この記事はスクープとは言っても、一面で報じたことに違和感を覚える読者もいることだろう。週刊誌ならまだしも、天下の朝日新聞が一面で報じる内容なのか、しかも読めばドラフトに逆指名があった、古い時代の話であり、しかも現状ではあり得ない話ではないか、そんな記事をデカデカと報じる前にもっと報じるべきテーマがあるだろうに!というわけだ。むろん、朝日新聞の立場からすれば、プロ野球野球協約にあるように野球を「不朽の国技」として位置づけている国民的なスポーツである以上、球界の申し合わせを逸脱するかのような契約がまかり通っていたということは、一面で報じるに足る内容だということになるだろう。しかし、それは「建前」だと思う。このスクープに最も歓喜したのは誰かを考えれば、朝日新聞の「本音」が透けてくる。思うにスクープに最も歓喜したのは読者ではなく、朝日新聞の販売部門でなかったろうか。だとすれば、こうも「妄想」できよう。讀賣新聞の拡販戦略にとって讀賣巨人軍は欠かせないコンテンツであることは周知の事実である。朝日新聞は「夏の甲子園」を擁しているとはいえ、読売新聞との販売競争の最前線では讀賣巨人軍に煮え湯を飲まされてきたことを考えれば、どんなに建前、綺麗事を並べたところで、販売戦略的には読売潰しが「本音」であろう。だからこそ、当該選手の顔写真まで使ってスキャンダラスに報じる必要があったのである。そのくらい朝日新聞が営業的に追い詰められているということでもある。私の「妄想」はあながち的外れではあるまい。
一方、朝日新聞にケンカを売られた形の讀賣新聞は早速、同日付朝刊の社会面で朝日新聞に反論している。正確に記すならば、讀賣巨人軍が朝日新聞から取材を受けたことに対して反論の文書を公表したという形で朝日新聞に反論している。讀賣新聞によれば、2007年に新人選手の契約金は1億円、出来高払いは契約金の50%を上限と決めるまでは、最高標準額は「緩やかな目安」として12球団で一致して合意文書にまとめてあり、何ら問題はなかったのだと。確かに讀賣巨人軍にルールの逸脱はなかったのであろう。しかし、最高標準額が「緩やかな目安」にしか過ぎなかったほど、プロ野球界はルーズな世界であったのかと私などは驚かざるを得ない。また「緩やかな目安」であったとして、朝日新聞が書いているように横浜(当時)や西武が最高標準額を超えて契約していたことが発覚した際に日本野球機構は厳重注意処分としている事実はどう考えれば良いのか。讀賣巨人軍の契約は日本野球機構から厳重注意処分を受けた横浜や西武の契約と、どこがどう違うのだろうか。仮に横浜や西武の契約が讀賣巨人軍同様に「緩やかな目安」の範囲内で行われていたとすれば、讀賣新聞はジャーナリズムの責任において横浜や西武を擁護する必要があったのではないだろうか。毎日新聞によれば讀賣巨人軍は「ファンや球界関係者らに対して重大な誤解を与えると同時に、各選手のプライバシーと名誉、当球団の名誉と営業上の秘密に関して極めて深刻な影響を及ぼす」とし、球団と選手への謝罪と、紙面への謝罪文掲載を朝日新聞に求めたというが、讀賣巨人軍および讀賣新聞は、ここで私が指摘したような疑問に答えない限り、朝日新聞に反論したことにはなるまい。裁判、裁判と大騒ぎするよりも前に讀賣新聞の読者や讀賣巨人軍のファンにきちんと説明を果たしてもらいたいということだ。