シャープが80型液晶テレビを発売!?高度成長の価値観が亡霊として蘇った!!

大きいことはいいことだ、という森永製菓のコマーシャルがあった。音楽家山本直純が気球に乗って登場し、自ら作曲したコマソンに合わせて身を乗り出してタクトを振るという内容であった。

大きいことは いいことだ それ!/おいしいことは いいことだ それ!/森永エールチョコレート/大きく食べて おいしくたべて/50円とは いいことだ/「50円」/森永エールチョコレート/「勝負あり」

1967(昭和42)年のコマーシャルである。高度成長の時代のど真ん中で登場した。コマーシャルの背景となる富士山は日本一の山であるし、山本の乗る気球は上昇し続け、富士山さえも越えてしまおうとばかりに「大きいことはいいことだ」と歌うのは、高度成長という時代の価値観そのものをアジテーションしていたと言って良いだろう。大量生産、大量消費の高度成長の時代は「大きいことはいいことだ」とばかりに500人乗りのジャンボジェット機が登場したし、プロレスにおいてはジャイアント馬場が数々の名勝負を繰り広げていた。マラッカ海峡を通れないほど大きなタンカーも話題になったと記憶している。テレビのヒーローは変身することでビルよりも大きくなるウルトラマンに他ならなかった。むろん、企業は売上高を競ったし、サラリーマンの給料も、物価も上がった。
そんな時代の価値観が亡霊としてシャープに蘇ったとしか私には思えなかった。苦境が伝えられる家電業界だが、その一つであるシャープが国内最大となる80型の液晶テレビを6月20日から発売すると発表した。これまで国内で販売されているテレビで最大のものは70型であったが、これを大きく上回る大きさのテレビである。何しろ画面の大きさはタタミで言うと一畳分もある。横幅が1.8m、高さが1mもある。お値段は95万円らしいが、まさに「大きいことはいいことだ」を地でゆく商品である。しかし、こんなことをやっているから家電メーカーは駄目なのだと私は思った。東京新聞が4月19日付の経済面で書いていたが「…薄型テレビに占める50型以上の販売台数の比率は3.5%(昨年12月、BCN調べ)にとどまり、販売台数を伸ばすのは容易ではなさそうだ」と誰もが首を傾げるような商品なのである。清水メディア戦略研究所を主宰する清水計宏も次のようにツイートしている。

家電メーカーのテレビの新製品の発表会に出て、画質や大型化、機能面ばかりの説明に徹していたので、これでは韓国・中国・台湾企業にやられるなと思った。使い心地、親近感、愛着・愛情、矜持といった要素に、もっと気を配れば、どこに力を入れればいいか分かるはずなのに・・・。

私の評価はもっと厳しく、この80型テレビの発売は、亡霊として蘇った高度成長の価値観による玉砕マーケティングとしか理解できないでいる。後退戦において安易に玉砕を選択するという文化が経済の領域に生きていたのである。そもそも高度成長を支えていたのは「大東亜戦争」という総力戦が育んだ組織であり、制度であり、人材であり、文化だったということもできるのかもしれない。日本の企業は武器を持たない関東軍として世界に雄飛していった。いずれにせよ、シャープの80型液晶テレビは私も今という時代に咲いてしまった季節はずれの徒花にしか過ぎない。もはや大きいことはいいことでも何でもない。脱落した中流にとって大きいことは悪いことなのだ。東京スカイツリーもまた、と書きたいところだが、そこは取り敢えず留保しておこうか。いや、やはり言ってしまおう。東京スカイツリーの634mというバカでかさは、張子の虎にしか過ぎないと。誤解を恐れずに言えばシャープのみならず、わが国の家電メーカーに決定的に欠けているのはアップルのiPhoneiPadに代表されるような「小ささ」と「単純さ」の両立ではないのか。小さくて、単純であるということは洗練されているということでもある。かつてソニーの「ウォークマン」がそうであったように、だ。
ところで、わが国の家電業界は世界的なメーカーがシノギを削っているが、こうした家電メーカーが海外に進出できたのは(大きくなれたのは)、狭い国土に一億人を超える人口が支える内需があってこそのことであったと思う。しかし、その内需が危機に直面している。小泉内閣新自由主義路線に舵を切って以降、格差社会が到来し、内需を支えてきた中流層が崩壊しつつあるのはもちろんのこと、仮に景気が回復し、格差が多少なりとも縮まっても、本格的な少子高齢化社会が到来することを考えれば内需は縮小するばかりであろう。そういう意味では国内の家電メーカーは最終的に3社程度に再編されない限り、世界を相手にしたビジネスは不可能なのではないか。それとも、それ以前に中国資本や台湾資本、韓国資本の軍門に下るかだろう。シャープの筆頭株主は既に台湾の鴻海グループか。そうするとシャープが80型テレビをもって玉砕しようというのも頷けないわけではない。