【文徒】2016年(平成28)8月18日(第4巻154号・通巻841号)

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1)【記事】ブックオフはネットの中古価格情報で業績悪化!?(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】ブックオフはネットの中古価格情報で業績悪化!?(岩本太郎)

今年3月期決算において、2004年の上場以来初めての赤字(営業利益で約1.5億円)を記録したブックオフだが、その主たる要因についてマーケティングコンサルタントの沼田敏明が『Business Journal』の記事で次のように指摘している。
ブックオフに中古品を売っていた人たちの間で、「ブックオフに売るよりも自分でヤフオクに出品したほうが高く売れる」ということが広く知られるようになり、それなりに需要がありそうであればブックオフには持ち込まなくなってきている。
また、ブックオフで商品を購入して、ヤフオクで転売する「セドリ」と呼ばれる手法で利益を上げていた人たちは、ブックオフの商品がヤフオクでの需要を反映させた価格になってきたことから、ブックオフで購入しなくなった。
同社は、主力商材である中古本市場が縮小を続けるなかで、本だけでなくあらゆるものをリユースする業態へと転換する移行期にある。そのため、人員補強、テレビCM、ヤフオク併売システムの導入など、先行投資を行ってきた。売り上げが増えれば、収益は改善すると見込んでいたためだ。実際に売り上げは増えたが、支出増をカバーするには至らなかった》
《また、ブックオフに売る、ブックオフから買う、というサイクルから離脱してしまった顧客を取り戻す施策を打ち出さなければ先細りになるのは明らかだ。ヤフオクなどの普及により個人売買が容易になった昨今、不要になった物を売りたい人も「良い物はブックオフには持ち込まない」という流れが定着し始めている。そうなれば、「良い物を置いていないブックオフで買い物はしない」と考える人が増える悪循環になる》
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16330.html
ネットの価格情報に脅かされているという点では、新刊書店の衰退要因と共通するものがあるといえるだろう。
もとより、ブックオフ自身もそれについては、主力の中古本市場が縮小傾向に傾向にあることとも併せて、今後に向けた方策として、記事にもある通り「人員強化」「ヤフオク!出品の直営店舗への導入」「中古家電の直営店舗への導入」「プロモーション集中投下」などを打ち出してきたわけだが、現状ではそれらの投資が効果をあげず収益を悪化させる結果となっている。
特に上記のうちの中古家電について、赤字転落が明らかになった今年春の時点に掲載された『東洋経済オンライン』4月3日号の「ブックオフが赤字、『中古家電』でつまづき 中古本市場が縮小する中、活路は見つかるか」という記事の中で記者の野口晃が次のように指摘している。
《中古家電市場には、ハードオフコーポレーショントレジャー・ファクトリーなど、先発組が存在する。(略)ハードオフなど先発組が郊外を中心に中古家電の陳列に適した大型店を展開しているのに対し、同社の直営店の大半は中古家電を販売するのに十分なスペースがない「ブックオフ」店だ。中古本やソフトメディア、アパレル、スポーツ用品、ブランド品、楽器、生活雑貨までを扱う「ブックオフ&スーパーバザー」の出店を進めているが、まだ直営店全店の1割弱にすぎない。
今後は、ブックオフ店を中古家電の販売も可能なように移転・増床するか、移転が困難な場合は中古家電の買い取り機能だけに特化させるなど、スクラップ・アンド・ビルドを進めていく。何でもリユースへの変身の道は平坦ではないようだ》
http://toyokeizai.net/articles/-/111066?page=1
問題の核心は新古書店から「何でもリユース」への業態転換のカギを握る中古家電の買い取りが、計画どおり進んでいないことのようだ。
これは新刊書店が「多角化」と称しつつも、既存の書店ビジネスをベースにしたやり方ではなかなか効果をあげられていないというのと似ている。「餅は餅屋」にこだわっていては、どんなに新市場(ハンバーグ)が有望だとしてもハンバーグ店にはなれない。
ブックオフもそうした限界に直面しているということだろうか。かつて再販制度に基盤を置いた新刊書店の盲点を、新古書店という形態で突いて伸長してきたブックオフがそうした現状ビジネスに足元をとられているのにはある種の皮肉を感じる。
ちなみに、筆者(岩本)の自宅の近所である中野区中央1〜5丁目界隈には、青梅街道に沿ってブックオフが2店(1店は丸ノ内線新中野駅、もう1店は隣りの中野坂上駅に隣接)あるが、この界隈はここ十数年間で新刊書店が間違いなく十数店は閉店に追い込まれており、今は「近所の書店」と言えば新刊書店よりブックオフという状況だ。
いずれも広い店舗面積を持ち、店内は多くの客でにぎわっている。そうした各店を単に中古品の売り買い拠点以上の"場"とする戦略を立てたらと思うのだが。"モノよりも(あるいはモノと一緒に)体験"こそが、これからの物販店舗ビジネスの鍵ではないか。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎近著『角川映画1976─1986 増補版』(角川文庫)について著者の中川右介が『AERA』に寄稿。
《ひとつひとつを見れば、「角川映画」には、何ら新しいものはなかった。アップルのiPhoneが出たときも、個々の技術に独創性はないと批判されたが、それと同じだ。既存のものを統合して「新しいもの」を作った点で、角川映画は、アップルと同じくらい、ユニークだったのだ》
角川映画が生んだ最大のスターとは、薬師丸ひろ子でも原田知世でもなく、角川春樹その人だった。
あの時代、そしていまにいたるまで、映画プロデューサー、あるいは出版社社長で角川春樹ほど知名度のある人はいない。講談社小学館の社長の名は出版業界では知られていても、一般の人は知らない。しかし、角川春樹は有名だった。その点でも、角川はアップルのジョブズに先駆けている》
http://dot.asahi.com/aera/2016081200132.html

◎LINEは最終黒字への転換に成功しつつあるようだ。こちらの主な要因はモバイル広告の伸長で、今年1〜6月期で既に売り上げの36%を占めるに至ったとのこと。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO06143990W6A810C1DTA000/

三省堂書店大丸札幌店が8月28日で閉店。
https://www.books-sanseido.co.jp/news/4133#Pu5s7AY.twitter_tweet_ninja_l

丸善の札幌北一条店も9月4日で閉店。
http://honto.jp/store/news/detail_041000019769.html

◎一方で、まさに地域密着型(?)の専門書店が東京・吉原に登場。戦後の売春史に関する資料の発掘・復刻などを行うカストリ出版の直営店として9月3日にオープンする「カストリ書房」は、いわば売春専門書店だ。店舗の改装費用や運営費を、目下本誌版元も活用しているクラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」にて募集中とのこと。
http://kastoripub.blogspot.jp/
https://camp-fire.jp/projects/view/9828
http://kai-you.net/article/32156

◎失踪を繰り返してきた父親の姿を、息子の写真家・金川晋吾が撮り続けてきた写真集『father』(京都の青幻舎が発刊)の写真展が、今月29日まで新宿のニコンサロンで開催中。
http://www.seigensha.com/sp/father/
http://ima.goo.ne.jp/column/article/4388.html
http://www.nikon-image.com/activity/salon/exhibition/2016/08_shinjyuku.html#03

◎マンガ家として『マッハ三四郎』『弾丸児』などの作品を発表し、吉田竜夫らと共に設立したタツノコプロで『タイムボカン」シリーズや『科学忍者隊ガッチャマン』『ハクション大魔王』など70〜80年代に一時代を築いた“タツノコアニメ”作品群でキャラクターデザインやプロデューサー、監督を務めた九里一平の作品や自伝をまとめた『九里一平PAST&FUTURE』が、9月中旬に河出書房新社より刊行される。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309920948/
http://natalie.mu/comic/news/198148

◎民放テレビ業界草創期の優れたドキュメンタリー番組として語り継がれる『ノンフィクション劇場』『すばらしき世界旅行』などをプロデューサーとして手掛けた故・牛山純一の足跡を追った評伝『テレビは男子一生の仕事 ドキュメンタリスト牛山純一』(鈴木嘉一著・平凡社刊)を川本三郎毎日新聞で書評している。
著者の鈴木は読売新聞記者として長年にわたり放送業界の動向を取材しており、関係者への取材などを通じて5年がかりでまとめたものを放送専門誌『GALAC』で連載。それを一冊にまとめたのが本書だ。
それにしても、かつて自らが取材・製作したドキュメンタリー『南ベトナム海兵大隊戦記』が内容について政府・自民党筋からの抗議を受けて放送中止に追い込まれた経験も持つ牛山は、あの世から今の放送ジャーナリズムの状況をどんな思いで見ていることだろうか。
http://mainichi.jp/articles/20160814/ddm/015/070/041000c
http://www.heibonsha.co.jp/book/b238277.html

◎なおも緊迫した状況の続く沖縄・高江において報道陣の現場立ち入りが制限されていることに加え、東京都知事に就任した小池百合子が早々に記者会見での質問回数規制を始めるといった昨今の風潮に、専修大学教授の山田健太日本新聞協会出身)が『琉球新報』の「メディア時評」で異議を唱え警鐘を鳴らしている。
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-335223.html

◎今年4月よりコミュニティFM渋谷のラジオ」を立ち上げた箭内道彦(クリエイティブディレクター・「風とロック」代表)が語る「ラジオの可能性」。
《「渋谷に町内会を作りたかったんです。町内会のお祭りのときって、おじいちゃんおばあちゃん、子どもや若者、みんな集まってきて、つながってワイワイやるじゃないですか。都会だから顔が見えないんじゃなくて、都会だからこそ、おもしろい人がたくさんいて、刺激し合ったり、時にはけんかしたり、仲良くしたり。そんな関係があると災害があったときは絶対強いし。そういう場所を作りたかったんですよね」(箭内さん)
渋谷のラジオ」のタイムテーブルを見ると、焼き鳥屋のおじさんも出演していれば、立川談春さんが番組を持っているなど超豪華なゲストもたくさん出演しています。ほかでは出演しないという人も、ローカルラジオというツールをおもしろがって出演してくれることも多いのだとか。また、「渋谷のラジオ」のスタジオは渋谷駅のすぐ近くにあるため、たまたま前を通った有名人がゲストに出演なんてことも。先日も、たまたま近くで飲んでいたという、しりあがり寿さんの姿を呼び止め、オンエアに飛び入り参加してもらったのだそう》
かつて2005年に著名な広告クリエイターを渋谷のラフォーレに集めて一般の人も参加可能なイベント「広告サミット」を主宰したり、近年でも被災地である出身地の福島県で「風とロック芋煮会」を開くなどの活動で知られる箭内は、常に「開かれた"場"」の重要性に意識的であるという点では、今の広告クリエイターの中では数少ない存在なのかもしれない。
http://getnews.jp/archives/1506601

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

小異を「残して」大同につくのが大事。「捨てろ」などと言う者を信じてはいけない。