【文徒】2018年(平成30)4月17日(第6巻70号・通巻1244号)

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1)【記事】ブロッキング問題続報。知財本部での議論は何故「非公開」とされたのか?
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】ブロッキング問題続報。知財本部での議論は何故「非公開」とされたのか?(岩本太郎)

前日も触れた海賊版サイトのブロッキング問題に関して、今年2月16日に内閣府知的財産戦略本部がこの問題について集中的に議論を行った「検証・評価・企画委員会コンテンツ分野会合」の議事録が非公開になっている。ただし、「非公開」は決して異例ではないそうだ。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/
『ねとらぼ』は、知的財産戦略推進事務局に取材している。知財本部では2013年11月から知的財産の活用について議論する「検証・評価・企画委員会」を有識者を集めて開催しており、そのうちの1つ「コンテンツ分野」の会合では定期的に海賊版サイトへの対策についても話し合い、これまでの5回にわたる会合の議事録は原則公開としているが、2月16日の「第3回会合」だけが何故か議事要旨のみの公開で、サイト上でも非公開と表記されているのだ。
この非公開の措置は委員会の座長を務める中村伊知哉(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)を含む事務局全体の判断により事前に決まっていたのだそうだ。『ねとらぼ』の取材に応じた知財局の担当者は次のように答えている。
海賊版サイトによってどれだけ被害が生じているのか個別の具体的な状況を討論する場では、どうしてもサイト名などの固有名詞が出てしまい、それがサイトの宣伝につながってしまうと判断したためです。また企業が公にはしていない数字などの情報も出てしまうので、全てをつまびらかに公開するのが難しいのもあります》
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/13/news114.html
一応公開された「議事要旨」は以下のようなものだ。
「議事次第に沿って、(1)インターネット上の海賊版対策に関する論点整理について、参考人からの提案を含めた報告を踏まえ、質疑応答・意見交換を実施。主な意見は以下のとおり。
(なお、(2)模倣品・海賊版対策についてのフォローアップについては、各省庁から、資料に基づいて取組みの現状等に係る報告があり、特段の質疑等はなし。)
委員から、サイトブロッキングに係る通信の秘密について、DNS ブロッキングにおけるDNS サーバーとの通信においても該当するのか、との質問があった他、各コンテンツ業界における危機的ともいうべき被害状況、対策が極めて困難な侵害実態、法制化によらない迅速なサイトブロッキング導入の必要性に係る意見や緊急事態への対応という観点でスピード最優先の複合的かつ多角的な対策内容を決めていくべき、といった指摘 があった」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/contents/dai3/gijiroku.pdf
「コンテンツ分野を取り扱う会合への出席者」(16名)の顔ぶれは以下に公開されている。出版に関わりがある出席者は講談社社長の野間省伸カドカワ社長の川上量生である。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/meibo_2018.pdf
他の大手出版社の関係者の出席がないのは、講談社カドカワのように経団連に加わっていないからなのだと思われる。
http://www.keidanren.or.jp/profile/kaiin/kigyo.pdf
出版広報センターは13日「政府による海賊版サイトに対する緊急対策について」と題した声明の中で、こう書いている。
《これは政府が海賊版サイトの問題を、わが国のコンテンツ産業の基盤を揺るがす重大な問題と認識していることを示すものであり、出版界として歓迎します。》
http://shuppankoho.jp/doc/20180413.pdf
前日の12日にはメディアドゥホールディングスの株価が《政府が漫画やアニメなどのコンテンツを無断でネットに掲載する海賊版サイトへの対応として、接続を強制遮断する措置を検討する方向で動きだしたことが伝って》急騰。東証1部の値上がり率トップになっていたそうだ。
https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201804120400
Twitter上では相変わらず、この問題について書き込みが多いのではないだろうか。
《戦中の検閲の影響を最も受けた出版メディアが、国家による恣意的なブロッキングに賛同するっていうのがいったいどういう意味か、本当にわかった上で声明なんてもの出してるんですか?この10年何してたんですか?もっと他にやることが、やらないといけなかったことがあるんじゃないんですか?》
https://twitter.com/Eu_oxide/status/984777027562520576
《安易なブロッキングにkawangoが乗ってるのにはテクノロジーと文化を組み合わせて解決することに見事に失敗している点で失望を感じざるを得ず、まずは角川文庫巻末にある角川源義の言葉を読み返してほしいというもの。》
https://twitter.com/yugui/status/984941066573963264
《しかしこのブロッキング騒動の最中に、あっさりリーチサイト規制も抱き合わせで入ってるんですね。》(経産省、日銀、内閣官房、ヤフーを経てメルカリへ転じた吉川徳明)
https://twitter.com/yoshikawanori/status/984589334069239808
《金融機関が反社に金貸したらアウトなのに、違法サイトで大量にアクセスを稼いでその資金的な後ろ盾になっている広告主どもが罪に問われないのはどう考えてもおかしいし、なんで「有識者会議」で広告主の責任が全く議論されないまま問題だらけのブロッキングにいったのか正直疑念を抱きますよね。》
https://twitter.com/Conscript1942/status/985721333794324482
ブロッキングと声高に規制派は求めていますが、知的財産戦略本部のコンテンツ分野、検証・評価・企画委員会の第3回会合は【非公開】なんですけど。基本的人権である表現の自由、通信の秘密にかかわる重要な議事録を出さないなんて、責任回避とやましいことがあるのではないかと勘繰ってしまいますよ。》(「表現の自由を守る会」サポーターの平景清
https://twitter.com/t_kagekiyo/status/983728118375505920
前日も紹介した「身を引き裂かれるような思いを味わっているところです」と述べたちばてつやによるブログ記事に対しては、同業の漫画家である森川ジョージが、その思いに理解を述べながらこう呟いていた。
《ちばさんの声明。規制反対と声をあげている業界がブロッキングという手段にとりあえず賛同せざるを得ない矛盾。「守るべき自由の理念と綺麗事では済まないかもしれない醜い現実のはざまで、身を引き裂かれる思いを味わっている」…辛い。》
《戦中戦後の検閲、焚書を体感したちばてつやさんの規制反対の歴史は長い。だからこそ今回の規制(ブロッキング)へ賛同せざるを得ない状況に「身を引き裂かれる思い」と言っている。業界にとって我田引水のこの措置は最終手段だが最善手ではない》
https://twitter.com/WANPOWANWAN/status/985000287566938112
https://twitter.com/WANPOWANWAN/status/985040346416492544

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎そうした中で来たる22日には一般財団法人情報法制研究所などが主催し、日本インターネットプロバイダ協会や全国地域婦人団体連絡協議会が後援する「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム」が一橋講堂で開催される。
http://20180422jilis.peatix.com
また、先週も紹介したが23日にはNPO法人日本独立作家同盟による「海賊サイトによりマンガ文化が壊される!作家が生き残る方法とは?(仮称)」も杉並区の阿佐ヶ谷ロフトAで開催される。鷹野凌、鈴木みそのほか、上の記事に出てきた楠正憲も登壇するそうだ。
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/85981
https://pirated-manga-2018.peatix.com/

◎12日発売の『週刊新潮』(4月19日号)が報じた財務省福田淳一事務次官による女性記者へのセクハラ発言問題に関し、同省は16日付で同次官からの聴取結果を発表。それによると同次官は「週刊誌報道で記載されているようなやりとりをしたことはなく、心当たりを問われても答えようがない」などと事実関係を否定。新潮社に対して名誉毀損での提訴を準備していることを明らかにした。財務省は「一方の当事者だけでは事実関係の解明は困難」とし、セクハラ発言を受けた女性記者がいないかを尋ねる「福田次官に関する報道に係る調査への協力のお願い」を大臣官房長名で財政研究会加盟各社に要請した。
https://mainichi.jp/articles/20180416/k00/00e/010/241000c
毎日新聞財務省提供の上記「福田次官に関する報道に係る調査について」および「福田次官に関する報道に係る調査への協力のお願い」を写真(計5ページ)で全文公開した。
https://mainichi.jp/graphs/20180416/hpj/00m/010/003000g/1

◎3月22日にNHK総合テレビで「放送記念日特集」として放送されて話題を呼んだ『フェイクニュースとどう向き合うか〜“事実”をめぐる闘い〜』の担当ディレクター・佐野広記がマケドニア(旧ユーゴスラビア)国内にある「フェイクニュース村」取材記を『現代ビジネス』に寄稿。貧しい国の若者たちが「ネットで記事を書くと金になる」との誘惑の下、フェイクニュース量産に手を出し、周囲の社会もそれを止めるどころか推奨すらしている実態をレポートしている。当地で若者たちにネット上で広告収入を得るノウハウを伝授している人物は、アメリカで出回った「歯磨き粉のチューブ」のニセ記事を見せながらこう言ったそうだ。
《この1本だけで、1000万円稼ぎ出しました。世界で1億回も読まれたんですよ。実はこの記事を作ったのは、私の妻なんですけどね》
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55222
上の記事で触れた海賊版サイトの問題とフェイクニュースの問題には根底において通じるものがあるような気がしてならない。

NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」の設立を記念したシンポジウム「『ポスト真実』時代におけるファクトチェックの可能性」は22日に早稲田大学の国際会議場(井深大記念ホール)で開催。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfDF2muToqmS3wJo_scw9ZYWoM1f1CbQom0mcN5BhAXV_HrJg/viewform
この週末から来週にかけてはこうしたシンポジウムやイベントが目白押しとなりそうだ。

◎昨年末で『WIRED』日本版編集長を退任した若林恵が著書『さよなら未来――エディターズ・クロニクル2010−2017』を19日に岩波書店より刊行する(公式Twitterアカウントも開設)。音楽ジャーナリストとしての仕事や個人ブログ、『WIRED』日本版の巻頭言など7年間に渡って書いてきた文章をほぼ網羅した内容だという。同書の刊行を記念したトークイベントが26日に銀座蔦屋書店、5月31日に大阪・ロフトプラスワンエストで開催される。
https://twitter.com/k_sayonaramirai
https://tanemaki.iwanami.co.jp/categories/74
http://kai-you.net/article/51224
https://www.cinra.net/news/20180415-wakabayashikei

◎一昨年夏に101歳で死去したジャーナリスト・むのたけじが晩年を過ごした埼玉県の有志が、地域に根差した報道に取り組む個人や団体を表彰する「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」の創設に向けて準備中。呼びかけたのはルポライター鎌田慧元朝日新聞論説委員の轡田隆史らが発起人、呼び掛け人は鎌田慧佐高信らで、6月には正式な実行委員会を発足させるという。14日にはさいたま市内で同賞について語り合う講座が開催された。
http://www.sakigake.jp/news/article/20180412AK0002/
https://mainichi.jp/articles/20180415/ddl/k11/040/071000c
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201804/CK2018041202000163.html

◎昨年までに約4億円もの赤字を抱え、一時は開催継続を危ぶむ声も聞かれた徳島県阿波踊り」について、徳島新聞社は今後も安定的に運営するための基金の創設を徳島市に提案。原資として3億円を寄付する旨を同日付の朝刊紙面で発表した。昨年夏以降、『週刊現代』などが主催団体である徳島新聞社と徳島市観光協会の間で内紛が生じていることを報じていた
http://www.topics.or.jp/articles/-/33700
https://www.asahi.com/articles/ASL4D36DPL4DPUTB004.html
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51853
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52364

静岡新聞社静岡市内の販売店が、大規模災害時の新聞の受け渡し方法を確認する訓練を同市駿河区静岡新聞社制作センターで12・13日に実施。
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/bosai/478432.html
同社の販売方針は「何が何でも朝夕刊セット割れを認めず」で知られる。同市内の北の外れ、小集落のある井川地区では朝刊を前日の夕刊とのセットで販売しに来るそうだ。

◎3月にリニューアルオープンしたブックオフの世田谷区上野毛店は「漫画を置かないブックオフ」。コミックの買い取りは行うもの店内には一冊も置いていないそうだ。中目黒や、4月下旬にオープン予定の代々木上原の店舗でもコミックの販売をしないらしい。FNNの取材に対しブックオフ本社は「地域のニーズ」が理由であり「旗艦事業のコミック販売をやめるようなことは考えていない」と回答。
https://www.fnn.jp/posts/00292290HDK

◎昨年限りでADKとの提携を解消したメガエージェンシーWPP(本社英国)の最高経営責任者として長らく君臨したマーティン・ソレルが14日付で辞任。会社の資産を私的流用した疑惑が浮上し、取締役会が調査を進めていたが、同日付でソレル自身が「辞めることが会社に最善だ」と辞意を表明。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29414870V10C18A4TJC000/
ADKの前身で、創業者の故・稲垣正夫が君臨していた旧旭通信社との間で提携を実現させたのも彼だった。ちなみに記事中にもある通りWPPとは「ワイヤー&プラスチック・プロダクツ」の略。

博報堂DYグループの3月度売上高。前年同月比で博報堂と大広は微増。読売広告社は微減。博報堂は雑誌が同15%減。
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1571359

経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によると、今年2月の国内の広告売上高は全体で前年同月比0.7%減。媒体別ではインターネット広告が同7.5%増、テレビ広告が1.9%増だったが、ラジオ・新聞・雑誌はいずれも10%前後の減少だった。インターネット広告と新聞広告との金額差は今や約2.41倍にまで広がっている。
https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20180414-00083960/

熊本県民テレビ(日本テレビ系列)社長の梅原幹が複数のセクハラ・パワハラ行為を理由に解任。日テレ時代にはチーフ・プロデューサーとして『火曜サスペンス劇場』など人気番組を手掛け、一昨年6月に熊本県民テレビ専務取締役編成局長、昨年6月に社長に就任していた。
https://this.kiji.is/358462009186042977?c=92619697908483575
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/980395/

名古屋市在住という映像制作者が去る9日、YouTubeにアップした2分弱の短い映像。学校の教室を舞台にしたものだが、マイクロドローン(重さは30gほど)にHDカメラを載せてのワンカット撮影で、カメラが教室の床すれすれに椅子のパイプの間をかなりの速さで潜り抜けていったりする場面に思わず息を呑む。今やこういう映像がいきなり作られてはネット上にポンと載る時代になった。
https://www.youtube.com/watch?v=MI2tgUKK3Ds
https://www.facebook.com/katsuhiko.masuda/videos/1675884305831878/

◎ちょうど1年前に彗星のごとく現れ大ムーブメントを巻き起こしたSNSの「マストドン」について「ニコニコ動画」と連動する「ニコニコ大百科」がこのほど共有ボタンを実装。画面上ではTwitterFacebookはてなブックマークGoogle+の右隣に設けられた「トゥート!」ボタンを押し、そこからインスタンスを選んで共有する形だ。
http://dic.nicovideo.jp/
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/13/news063.html
“分散型”で中心となる運営者を持たないマストドンは、他のSNSに比べるとこのように共有の仕方が複雑にならざるを得ない。

◎非営利の調査報道ネットメディア『ワセダクロニクル』が5日に都内江東区で開いたトークイベント「人権問題の闇『強制不妊』を解き明かす」の模様が『Japan In-depth』で紹介された。「強制不妊」シリーズのクラウドファンディングを行っているMotionGalleryとの共催だった。
http://japan-indepth.jp/?p=39406
https://www.facebook.com/events/174622919844311/
https://motion-gallery.net/projects/kyoseihunin
昨日発行の『メディアクリティーク』でも私(岩本)が参加レポートを書いているので、併せてお読みいただきたい。