【文徒】2018年(平成30)10月16日(第6巻193号・通巻1367号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】ブロッキングの法制化について「異論」が止まらない
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.10.16 Shuppanjin

1)【記事】ブロッキングの法制化について「異論」が止まらない

東京新聞の10月14日付「海賊版サイト運営者 弁護士が特定 政府の遮断法、根拠揺らぐ」は、こう書いている。
「漫画などをインターネットに無料公開している海賊版サイトの著作権侵害で、国内の弁護士が、海賊版サイトで有名だった『漫画村』の運営者とみられる人物を特定した。政府は海賊版の運営者の特定が難しいことを理由に、特定のサイトを閲覧できないようにする『接続遮断(ブロッキング)』の法制化を進めてきた。だが、弁護士による特定で、憲法が保障する通信の秘密を侵害しかねないブロッキングの立法根拠は揺らいでいる」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201810/CK2018101402000130.html
日経は10月12日付で「『漫画村』の運営者側情報、米社が開示 米司法手続き」を書いている。
海賊版サイト『漫画村』を巡り、サイトが利用していた米国企業が運営者側の氏名などの情報開示に応じていたことが12日、分かった。IT(情報技術)に関する政策提言などを行う一般財団法人『情報法制研究所』(東京・千代田)が明らかにした。従来困難とされた海賊版サイトの運営者特定や被害防止につながる事例で海賊版対策の議論に影響しそうだ」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36422540S8A011C1CC1000/
ブロッキング以外に選択肢がないのであればブロッキングも致し方ないのであろうが、他の有効な方法があればブロッキングの法制化は避けたいところだ。
弁護士の山口貴士が「意見書」を「知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」に提出した。
「第1 意見の趣旨
1 米国内の CDNコンテンツ配信ネットワーク)サービスを利用している海賊版サイトについては、ディスカバリー制度を利用することにより、運営者の特定は可能である。
2 立法を経ないブロッキングを正当化する緊急避難の補充性の要件は満たされず,ブロッキングを立法する根拠となる立法事実は存在しない。
第2 意見の理由
1 特定のためのスキーム
(1)米国の連邦地方裁判所において、任意の漫画家(著作権者)を原告として、被告は氏名不詳者(海賊版サイト運営者)として著作権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟を提起する。
(2)訴訟提起後、被告を特定するためのディスカバリーの一環として、CDN(米国内の CDN であれば CloudFlare に限らない)に対し、発信者情報開示を求めるサピーナ(Subpoena)を発し、違法アップロードサイトの運営者に関する情報の開示を求める。具体的には、「サイト名 xxxx.com に対する課金のために作成保存されている一切の書類」の開示を求める。
(3)違法アップロードサイトの運営者に関する情報の開示が開示された後、訴訟を取り下げる。
(4)なお、海賊版サイトが「生きて」おり、著作権侵害が継続中の場合には、裁判を起こすまでもなく、DMCA サピーナを発する方法により、より簡易な方法による特定が可能である」
https://www.jilis.org/proposal/data/2018-10-11yamaguchi.pdf
こうした動きのなかでカドカワ川上量生社長と山本一郎のあいだSNSを介してバトルが始まったことは岩本太郎が10月12日付ので報告した通りだが、インターネット番組「AbemaPrime」で川上は国際大学GLOCOM客員研究員の楠正憲とも議論している。「ITmedia NEWS」が上手にまとめてくれている。
「楠さんは『海賊版サイトの運営者は技術力はそこまで高くない。警察だけに頼るのは難しいが、みんなで協力すれば運営者を特定できることが分かった。犯人を捕まえるのが本筋で、出版社に打撃を与えるほどの大規模な違法サイトなら止められるはず』とし、ブロッキング以外の手段を総合的に検討すべきと指摘した。
川上社長は『今回の件は良いニュースだと思うし、漫画村の運営者は捕まってほしいと思う。だが、今回は漫画村の運営者のミスによるもので、次に違法サイトを作る人は違う抜け道を探すはず』とし、『海外にサーバがあり、他の対策が通じない違法サイトにはブロッキングをしてほしい』と語った」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1810/12/news137.html
こんな「意見」もある。
「これ相手から見たら、正門から入ってきて言えばいくらでも情報提供するに、それをまったくしないで、政治家を動かしてサイトブロッキングすると脅してきたりする意味不明の変な奴らに見えるんだろうか」
http://b.hatena.ne.jp/entry/372426596/comment/rti7743
三崎尚人のツイート。
「引くに引けないとはいえ、この状況下でまだブロッキングの必要性を解く理由とはなんだろう?
勿論
・今回のクラウドフレアは僥倖にすぎない。
という理屈なんだろうけど、
ブロッキング教に入信している
海賊版対策は関係なく、ブロッキングそのものに対する欲望があ
とも正直思えてしまう」
https://twitter.com/nmisaki/status/1049857612693438464
自身で「マンガonウェブ」を運営するマンガ家の佐藤秀峰は、こんな発言をツイッターに投稿している。
「なぜ出版社が運営者特定に努力しなかったかというと、特定したところで彼らの利益にならないから。
被害額が明らかになって、それが著者に分配されても彼らは1円にもならない。
それよりブロッキングするほうが実利がある」
https://twitter.com/shuho_sato/status/1050172520463126530
このツイートは情報セキュリティーの専門家である鈴木裕信によるものなのかな?
川上量生が主張する『だが、今回は漫画村の運営者のミスによるもので、次に違法サイトを作る人は違う抜け道を探すはず』という存在しない仮定を作って結論を導くって、それいつか宇宙人が攻めてくるので地球防衛軍が必要とかいうのと同じレベルにしか聞こえない」
https://twitter.com/HironobuSUZUKI/status/1051336633688018944
共同通信の「海賊版サイト対策、報告見送り」は次のように伝えている。
海賊版対策を検討する政府の有識者会議は15日、事務局から示された中間報告書修正案について、反対論が根強いためとりまとめを見送った。会議は無期限で延期となった。政府の会議で最後まで意見がまとまらないのは異例。政府はことし4月に強制的に閲覧を止める「接続遮断(ブロッキング)」の法制化方針を打ち出しているが、今後の行方は不透明となった」
https://this.kiji.is/424479136794149985
「ITmediaNEWS」は「『ブロッキング法制化』結論出ず 3時間半の激論、政府検討会は無期限延期に」を掲載した。
「2時間の会議でサイトブロッキングの法制化の是非をとりまとめる予定だったが、賛成派と反対派の意見が平行線をたどり、会議は紛糾。予定を1時間半超過した3時間半の議論の末、ブロッキング法制化はおろか、本会議の報告書を作成するかすら結論が出ないまま、次回の予定を立てずに会議は終了した」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1810/15/news131.html

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2)【本日の一行情報】

朝日新聞の神奈川版に「講談社、7万6千件の人物資料を専修大に寄贈」が掲載された。
「昭和から平成にかけて、出版大手の講談社(東京都京区)が新聞や雑誌などの記事を切り抜き、人物ごとに整理して蓄積し続けていた社内用の資料が、専修大に寄贈された。政治、芸能、スポーツなど幅広い分野の人々に関する約7万6千件ものアナログ資料だ」
「この資料は、1978年から2012年11月にかけて講談社収集、整理を続けていたもの。計12の一般紙、スポーツ紙、夕刊紙のほか、25の雑誌の記事を切り抜いて台紙に貼り、媒体名や掲載日を記載。人物ごとにまとめられている」
https://www.asahi.com/articles/ASLB152K3LB1ULOB02G.html
資料が最も多いのは松田聖子だ。

◎and factoryは、複数のマンガアプリを束ねた独自のアドネットワークサービス「COMIAD(コミアド)」を10月10日よりサービス開始した。集英社の少女マンガアプリ「マンガMee」にも導入するそうだ。
https://andfactory.co.jp/news/post-1792/

◎仙台学館で「ガラスの仮面」の企画展が開催されている。
https://sendai.keizai.biz/headline/2695/

聖教新聞社の通販サイト「SOKAオンラインストア」が不正アクセスを受け、個人情報を不正に取得されたことがわかった。不正取得された可能性があるのは、2481人分のクレジットカード番号・セキュリティコードなどと、約18万人分の氏名・住所・生年月日・電話番号・メールアドレス・注履歴など。
https://www.trans-cosmos.co.jp/company/news/pdf/2018/181009.pdf
https://www.seikyoonline.com/intro/information/oshirase.html

◎電子チケットサービス「LINEチケット」がオープン。「LINEチケット」は、音楽ライブやコンサート、スポーツなど様々なジャンルのチケットを、LINEから手軽に検索・購入・発券できる電子チケットサービスだ。購入したチケットは「LINE」で送られてくるので、コンビニエンスストアなど、店舗での購入手続きは不要となっており、当日の入場まで「LINE」ひとつで完結することができる。
取り扱いチケットは100%電子チケットとなっており、「急用が入ってしまった」「体調が悪くなってしまった」などの理由で行けなくなってしまったライブやイベントのチケットを安全に販売・購入できる「公式リセール機能(二次販売)」も展開する。
https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2018/2408

◎第61回「日本雑誌広告賞」が発表された。経済産業大臣賞はバレンシアガジャパン、総合賞はパナソニックがそれぞれ受賞した。また、広告賞運営委員会特別賞はプリモ・ジャパンが受賞した。
https://www.advertimes.com/20181011/article278729/

トーハンは、本を「デザイン」にして商品化する新ブランド「book grafix」(ブック グラフィックス)を立ち上げ、トーハンのMVPブランドとして、9月下旬より書店と一部ネットでの販売を開始している。第1弾は「おいしそうなしろくま」(柴田ケイコ作・絵/PHP研究所)、「しんごうきピコリ」(ザ・キャビンカンパニー作・絵/あかね書房)、「まるまるぽぽぽん」(かしわらあきお作・絵/学研プラス)といった絵本をテーマにしたTシャツ3作品全12種類。展開書店はジュンク堂池袋店、くまざわ書店昭島店、紀伊國屋書店武蔵小杉店、三省堂書店名古屋本店、紀伊國屋書店梅田本店、旭屋書店イオンモール奈良登美ヶ丘店、大垣書店イオンモール京都桂川店、大垣書店神戸ハーバーランド店、丸善博多店、紀伊國屋店天神イムズ店、三省堂書店楽天市場店、セブンネットショッピング、e-hon
http://www.tohan.jp/news/20181012_1283.html

◎「デイリー新潮」が「創価学会」(毎日新聞出版)を上梓した田原総一朗にインタビューしている。私は次のような田原の発言に深く同意する。
「『報道は中立』とかなんとか言うけど、そんなものはあり得ないんだよ。ジャーナリズムに中立はないんだ。まだ若い頃、ボクは日米安保に反対する全共闘と機動隊の闘いを取材に行った。全共闘側から撮ると、警棒と盾を持って学生を叩こうとする機動隊の画になる。機動隊の側から撮れば、ヘルメット被ってゲバ棒持った左翼運動家たちの画になる。真ん中にカメラマンを行かせたらケガしちゃった。君はどっち側から撮る?」
https://www.dailyshincho.jp/article/2018/10120700/?all=1
「圧殺の森 高崎経済大学闘争の記録」は傑作だが、「現認報告書 羽田闘争の記録」はそうではないということである。

電通は、海外本社「電通イージス・ネットワーク」を通じて、英国のBtoB領域専門の市場調査会社「B2B International Limited」を買収することで合意した。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018101-1011.pdf

電通Dentsu Lab Tokyoは、NTTの研究所と、クリエーティブとテクノロジーの融合で、新たな感動体験を創造する共同プロジェクトを始動した
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2018102-1011.pdf

新潟日報によれば、新潟市秋葉区新津本町3の「新津二福商店街」に、金、土曜日の週末の夜8時から10時までという夜間限定で、新刊を扱う書店が開店した。「英進堂」が運営する「こんやのほんや」、そう「今夜の本屋」である。
http://www.niigata-nippo.co.jp/news/local/20181012425118.html
「こんやのほんや」はツイッターで呟いている。
「本の店英進堂は9月25日プレオープンいたします。その英進堂の本屋が、当店『こんやのほんや』です。9月28日オープンします。本嫁(読め)の会は当店にて継続開催いたします。参加費は無料、飛び入り大歓迎」
https://twitter.com/konyanohonya/status/1040219944531591168
「ゆうべはたくさんのお客様にご来店いただきました。ありがとうございました。別段とんがっていなくて普段使いの近所の本屋になりたいのですが、営業形態がお客様を選んでしまっていることが課題です。そして昨夜売れたのは古本のみ。当店は、古本もある新刊書店です。です」
https://twitter.com/konyanohonya/status/1045898424741027840

◎本当に回収することになった!イーストプレス外山恒一の「全共闘以後」の回収を決めた。
「平成30年9月刊行の弊社書籍『全共闘以後』につきまして、多くの誤植と事実誤認があることが判明いたしました。
すでにご購入いただきました読者の皆様には多大なご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
つきましては、お買い求めの『全共闘以後』を回収させていただきます。
お手数ではございますが、お手元の書籍を着払いにて弊社宛にお送りください。
現金書留にて本の代金を返金させていただきます」
「なお、当該書籍につきましては、内容について修正等を行い、2018年内を目処に『改訂版』の発行を予定しております。
『改訂版』につきましては、詳細が決まり次第改めてホームページにてお知らせいたします」
http://www.eastpress.co.jp/topics/topics20181009.php
何か他に選択肢はなかったのだろうか。こうした場合、「書物」の概念を思い切って拡張して考えてみてはどうかということだ。「誤植摘発大会」すら、この「書物」の一部にしてしまうような出版のあり方の模索である。

◎介護現場のアイドル、通称”カイドル”こと「ごぼう先生」簗瀬寛の「介護予防に役立つ ごぼう先生の大吉体操 DVD付き」が世界化社から発売された。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000504.000009728.html

◎マガジンハウス「カーサ ブルータス」は創刊20周年を記念して、11月3日(土)4日(日)の2日間、草月会館のロビーに設えられたイサム・ノグチの石庭「天国」で、猫村さんのモバイル茶室プロジェクト「夢のネコムーランド」をお披露目することになった。
https://casabrutus.com/design/87482

小学館が運営する漫画アプリ「サンデーうぇぶり」のテレビCMに80~90年代の懐かしのアイドル風衣装に身を包んだ脳みそ夫が出演している。脳みそ夫にとって初のCM出演だ。
https://www.oricon.co.jp/news/2121294/full/
https://www.youtube.com/watch?v=fg6iok7syw8

テレビ東京で放映されているドラマ25「このマンガがすごい!」の第2回は東出昌大の「龍-RON-」。監督は「あんにょんキムチ」の松江哲明だ!
http://rollingstonejapan.com/articles/detail/29179

ダイエー中内功毛沢東であり、セゾングループ堤清二はトロツキーであり、IYグループの鈴木敏スターリンというのがオレの見立てなんだけど。鈴木哲也の「セゾン 堤清二が見た未来」(日経BP社)は買って読むつもりだ。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO36337540Q8A011C1000000?n_cid=LMNST020

◎「ルーベンス展―バロックの誕生」が国立西洋美術館で開催となったが、これを記念してMOOK「ルーベンスぴあ」が発売された。
http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2018rubens.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001002.000011710.html

琉球新報山田健太専修大学教授)による「<メディア時評・出版界のヘイトビジネス>問われる編集倫理 『新潮45』騒動から学ぶこと」を掲載した。
「今回の廃刊が、ノンフィクションライターの職域を狭めたことは残念至極だ。しかしそれ以上に、破壊した社会の雰囲気を正常化させる役割を、壊した本人が負うべきであって、それを放棄するとすればその責任は極めて大きい。休刊を一つのけじめというならば、それは了としたい。しかしそうであれば、当然ながら『新潮45』以上の投資を、健全な言論公共空間の再構築のために投じるべきであろう。それが日本を代表する表現の自由の担い手である出版社の社会的責務である」
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-818110.html
私は小川榮太郎の、ある意味で衒学的な言い回しも嫌いだが、「健全な言論公共空間」みたいな晴れやかな言い方も実のところ嫌いというか苦手である。
箕輪厚介が「新潮45」について言いたい放題。
https://www.youtube.com/watch?v=dLvUb8hkpIg
「新潮」編集長の矢野優もコレ見てんだろうね。こんなツイートを発見してしまった。
幻冬舎の『天才編集者』箕輪厚介氏より、『新潮45』問題に絡め『新潮』批判を受けた。
氏は時代に要請され登場した凄腕編集者だし(彼の著作も読んだ)、彼のボス見城徹氏も大編集者。小川榮太郎氏のメイン出版社が幻冬舎であることは箕輪氏個人の発言と無関係だとは思う」
https://twitter.com/ynytk/status/1051259426676436992
新潮社関連で言うと「la kagu」が来年1月31日をもって営業終了となる。改装の上、来春「AKOMEYA TOKYO in la kagu」としてリニューアルオープンされるという。
https://qetic.jp/life-fashion/lakagu-181015/298154/

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3)【深夜の誌人語録】

沈思が不倒を鍛え熟考が不屈を支える。