【文徒】2018年(平成30)4月24日(第6巻75号・通巻1249号)

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1)【記事】ブロッキング問題緊急シンポジウム開催。その翌日にはNTTが「独自案」を公表
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】ブロッキング問題緊急シンポジウム開催。その翌日にNTTが「独自案」を公表(岩本太郎)

先週も紹介した、一般財団法人情報法制研究所などの主催による「著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言シンポジウム」が22日に一橋講堂で開催された。さっそく『弁護士ドットコムニュース』や『窓の杜』(フリーライターの鷹野凌が寄稿)などのネットメディアが、当日の議論の内容についての詳細なレポートをアップしている。
シンポジウムでは冒頭から「日本のインターネットの父」としても知られる慶應義塾大学教授の村井純も飛び入りで参加。「サイトブロッキングと聞いた途端に、この件ではありえないとすぐに思いました」と、これまでも要請に答える形でのサイトブロックが世界中で多数行われてきたものの決して上手くいかなかった歴史があることを強調。
一方、内閣府知的財産戦略本部「検証・評価・企画委員会」座長を務めてきた中村伊知哉(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)はビデオメッセージを寄せる形で参加。「今回は政府がメッセージを発することが第一目的でした」「私は(政府が)よくここでとどめたとみています」としつつ次のような見解を披露した(以下、『弁護士ドットコム』からの引用)。
《政府の決定と前後して、検索ブロックや広告の停止と動いています。決定が何らか作用した面もあるかもしれません。この次のアクションは、法運用をめぐるタスクフォースの設置と法制度の検討の2点です》
《今回、議論が盛り上がったことは絶好の機会と考えます。より大きな課題もあります。たとえば、漫画界には、『漫画村』のような魅力的なプラットフォームをどうすれば作れるのか。政府はIT対策と知財対策をどのように融合できるのか。ブロッキングの問題に止まらず、ポジティブでクリエイティブな議論に発展させていただきたい》
このシンポジウムには「出版広報センター」から弁護士の村瀬拓男もパネリストとして出席していた。新潮社の編集者を経て弁護士となった現在では他にも書協の知的財産委員会幹事、雑協も著作権委員会・デジタルコンテンツ推進委員会委員、日本電子書籍出版社協会監事などを務めている。このシンポジウムの席では「出版社もある程度は対策をやってきています」と前置きしつつ、まずは次のように述べた。
《今までの議論は、緊急避難に該当するのかなど、抽象論を始めると結論が出ません。一方で、抽象論は避けて通れないところではありますが、海賊版サイトに代表される権利侵害は非常に大きく、対策が必要だという基本的合理があるのであれば、ある種の結論が出ない論争を可能な限り回避、ないしは乗り越える努力を全体で行なっていければ》
https://www.bengo4.com/internet/n_7763/
窓の杜』で鷹野凌は村瀬について「このシンポジウムの登壇者の中では唯一、出版社サイドと言っていい存在」との観点から敢えてレポートの中心に据えつつ、彼の発言要旨の中から以下の部分を紹介している。
《侵害者訴追は、防弾ホスティングサービスの利用などにより侵害サイト運営者の氏名や住所が判別できない場合、実行できないという事情がある。そのため、侵害サイト運営者が不明な場合であっても、訴追が可能な形に司法手続きを変える対策は良い》
《削除請求は、多い出版社は月に4万件ほど行っている。(略)Googleに対するDMCA侵害申告は多い出版社で月に6万件ほど。ただしDMCA侵害申告は成功率が低く、最近は27%ほどだという。また、海外のサーバーに対しても、CDNに対しても削除や開示請求は必ず行っている》
《ただ、出版社の多くは中小企業。「漫画村」以外の海賊版サイトも数百あると言われているが、写真集や専門書などあらゆるジャンルが海賊版として出回り始めている》
《出版業界として必ずしも情報が共有できているとは言えないが、海賊版サイト対策にはコストがかかる。そのコストがあまりに過大であれば、中小企業がその対策をとることは現実的に困難だ》
同じくパネリストとして登壇した壇俊光(弁護士)からは「Cloudflareは日本にデータセンターがあるので裁判が起こせるはずだ」、玉井克哉(東京大学先端科学技術研究センター教授)からは「海外にサーバーがあったとしても日本の裁判所に著作権法侵害で訴えることは可能だ」との指摘があり、村瀬はそれぞれ「もちろん検討はしている」「可能なのは知っているが実務上、送達条約のない国の場合は大変」などと回答していた。
鷹野自身は記事の末尾を次のような「雑感」で締めくくっている。
《もちろん、出版業界が海賊版サイトへの対策をなにもしてこなかった、などということはないと思っている。ただ、出版広報センターの声明文にあるように『私たちは長年、海賊版サイトに対してできうる限りの対策を施してまいりました』と主張するのであれば、取材されて初めてその具体的な内容が公表されるとか、こういったシンポジウムで聞かれないと出てこないという状況ではダメだ、とも思う。(略)ちゃんと対策していたとしても、それをもっとしっかり広報してくれないと、世の中には評価してもらえない。はっきり言って、広報がヘタだ。それはとても、もったいないことだと思う》
https://forest.watch.impress.co.jp/docs/bookwatch/digipub/1118474.html
そうした議論が行われてから一夜を経た23日午後、NTTグループ3社(NTTコミュニケーションズNTTドコモNTTぷらら)は、政府が「悪質」と認めた3サイトを対象に、準備が整い次第ブロッキングを実施すると発表した。
http://www.ntt.co.jp/news2018/1804/180423a.html
『ITMediaNEWS』」によると、NTTコミュニケーションズの広報担当者は日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)などがブロッキングに反対する姿勢を示していることについて「そうした声明を出していることは認識しているが(経緯などについては)コメントは差し控える」と答えたそうだ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/23/news103.html
山本一郎は前日の22日夜の時点で、NTT側が独自のブロッキング案を発表するらしいとの情報を紹介。
《この判断にあたって、大きな役割を果たしたとされているのが、通信業界とコンテンツ業界の事実上の橋渡し役になっている角川グループ・ドワンゴ川上量生さん(略)と見られます。関係者の証言によると、NTT代表取締役社長の鵜浦博夫さんとの間で一連のブロッキング問題について議論を重ねてきていたのは川上量生さんと渉外関係者で、早い時期から帯域制限の名目でのブロッキングや、上記憲法の「通信の秘密」に抵触しないブロッキングの方法について検討してきたとされています。
また、小学館集英社などの一ツ橋グループ講談社など、売上の比重において漫画関連が無視できない出版大手各社が、対政府のロビイングで知財本部との関わりの深い川上量生さんと元議員などの関係者に対自民党・政府工作を要請したとされています》
《手順を踏んだ立法的措置や既存の法体系でできる限りのことが充分になされないうちから、通信事業者の自主的な判断としてのブロッキングを通信最大手NTTグループが実施するとなると、ハレーションが怒る可能性はあります。また、コンテンツ産業・出版業界の雄として、また政策面での理想を高く掲げている川上量生さんのお考えや方針も理解するところではありますが、果たしてこの段階でのブロッキングが本当に正しい選択だったと言えるのかどうか》
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20180422-00084326/

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

猪瀬直樹と女優・画家の蜷川有紀(演出家・蜷川幸雄の姪)が婚約。5月16日に婚約記念の共著『ここから始まる 人生100年時代の男と女』を上梓し、同日に都内で婚約出版パーティーを開催するそうだ。
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-786101-3&mode=1
http://www.hochi.co.jp/entertainment/20180421-OHT1T50045.html
https://www.huffingtonpost.jp/2018/04/20/100yesrlifeangagement_a_23416678/

高崎俊夫『祝祭の日々 私の映画アトランダム』(国書刊行会)の書評が22日付の産経新聞に掲載された。評者は編集者・ライターで、個人冊子『映画酒場』発行人、小雑誌『映画横丁』の編集人でもある月永理絵。
虫明亜呂無のエッセー集から、花田清輝の映画論集、武田泰淳のエッセー集、ジョン・ヒューストン監督の自伝等々。これまでに編集を手がけられた多くの本が制作秘話とともに紹介され、こちらの読書欲をおおいに掻(か)き立てる。また、かつて在籍した映画批評誌やビデオ雑誌での経験譚(たん)も興味深い。当時の映画批評界のリアルな描写は、1980年代以降の映画ジャーナリズムの歴史としても勉強になるはず》
https://www.sankei.com/life/news/180422/lif1804220024-n1.html

◎日本の地域をテーマにライフスタイルなど様々な情報を発信しているマガジンハウスのウェブ雑誌『コロカル』が「地域ライター」を募集している。応募締切は5月13日。
https://twitter.com/colocal_jp/status/985792880890425345
http://top.tsite.jp/news/lifetrend/o/39517571/?sc_cid=tcore_a99_n_adot_share_tw_39517571

米山隆一新潟県知事の女性問題を扱った『週刊文春』4月26日号(19日発売)は、新潟県内では20日に発売されるや即日完売の書店も出る売れ行きだったそうだ。
http://www.niigata-nippo.co.jp/sp/news/national/20180421388316.html

◎金融情報のウェブメディア『ZUU online』と産経新聞出版が金融情報分野で連携を開始。昨年11月号限りで休刊した産経新聞出版の月刊誌『ネットマネー』で過去に掲載された記事をピックアップのうえ「ネットマネー特集 Powered By ZUU online」としてウェブ上に掲載することになった。
https://zuuonline.com/features/netmoney
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000031688.html

◎SFマンガ『AIの遺電子』で話題を呼んだ山田胡瓜(現在は『月刊少年マガジン』でその続編を連載中)は元デジタル系媒体記者。そんなキャリアからの知見を下に、目下の海賊版サイト問題など様々なテーマにも言及しつつ、マンガの将来について『ねとらぼ』の連載インタビューで語っている。3回目となる20日付では「セルフ出版は簡単 じゃあ編集者はいらない?」と題し、こんな見解も語っていた。
《僕もWeb連載した漫画をKDPで販売した経験がありますが、けっこう売れて、こういう方法で漫画を届けるのもありだなと思っています。発売して2年半ぐらい経ちますが今でも月100冊とか売れますし、なんかの拍子にどかっと売れたりして、Amazonの「読者への到達力」みたいなものを感じています》
《昔は編集者しかいなかったんだけど、今はAmazonのレコメンドとか、ネット上のシステム自体がその能力を多少ながらも持ち始めていて、しょぼい編集者や出版社よりもそっちのほうが信頼できるんじゃないか、というのが最近の個人的な印象です。
ただ、大きな出版社の展開力や能力のある編集者の手腕は今も昔も変わらずあると思います。漫画家には色んなアプローチが用意されていて、良い時代だと思いますよ》
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/06/news009.html
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/13/news013.html
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/20/news017.html
なお『AIの遺電子』は上記『ねとらぼ』連載からも試し読み版が読める。

◎3月の「宣伝会議賞」における「眞木準賞」受賞作の取り消し(贈賞式後に類似のコピーが他で既にあったことが表面化)に続き、毎日新聞社主催の「第85回毎日広告デザイン賞」でも一般公募・広告主課題の部の最高賞受賞作に他の作品との類似が指摘されたことから「該当作なし」へと変更されたことが明らかになった。17日に毎日新聞社が同賞の公式サイトで「おわび」と合わせて公表した。
https://macs.mainichi.co.jp/design/ad-m/
http://www.yomiuri.co.jp/culture/20180417-OYT1T50083.html?from=tw

尼崎市の健康情報サイトがサイバー攻撃を受けて個人情報が外部に流出。同市は18日にこの件を公表。サイトの運営・管理を委託している電通西日本への損害賠償請求を検討しているという。セキュリティープログラムの不備が理由だったらしい。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29624190Q8A420C1000000/

博報堂プロダクツのフォトクリエイティブ事業本部専用のスタジオとして同社も自ら企画・設計に参画した「EN studio」が20日より正式に運用開始。
http://www.h-products.co.jp/pdf/info20180420.pdf
https://markezine.jp/article/detail/28306

◎メガ・エージェンシーWPPで長らく君臨した最高経営責任者経営トップの座を追われたマーティン・ソレルの「功罪」について海外メディアが相次いで論評。『Campaign』のDavid Bleckenは冒頭で《ある種の人々にとって朗報だろう》としつつ以下のように書いている。
《その他の人々にとっては、彼の辞任は不吉な変化の始まりを意味する。すなわち持ち株会社が分裂し、広告ビジネスが内向きかつ非グローバル化していく予兆であり、ビジネスリーダーたちに業界の価値をアピールできる、信用ある代弁者を失うことだ》
《毎年恒例のダボス会議の常連だったソレル卿は、広告界にとどまらず世界経済の動向を的確に予測できる希少な存在だった。広告界の他のリーダーたちがビジネスと経済への洞察を欠くなか、彼の見解は広く信望を醸成。またWPPの体制を整え、広告を投資対象のビジネスに変えた。(略)1つの国や都市に根差していなかった彼は、世界中に同じ尺度の「WPPモデル」を適用しようとした。簡単に言えば、広告界で彼ほどグローバルな視野を持った者はいなかったし、世界の出来事への卓見で業界を超えて評価を受けた者はいなかった。広告代理店がかつてないほどの難局に直面している今、業界に直言できる人物がいなくなったのだ》
http://www.campaignjapan.com/article/%e3%82%bd%e3%83%ac%e3%83%ab%ef%bc%9a%e5%ba%83%e5%91%8a%e7%95%8c%e3%81%ab%e6%ae%8b%e3%81%97%e3%81%9f%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%aa%e8%b6%b3%e8%b7%a1%e3%81%a8-%e3%81%9d%e3%81%ae%e5%b0%86%e6%9d%a5/444068
『DIGIDAY』では長田真が「売上不振と株価暴落が、今回の辞任に繋がった」「日本市場は、WPPにとって切り捨てられたようなもの」などのWPP幹部の声を紹介しつつ、ソレルの経営戦略が時代に合わなくなったと論評。
https://digiday.jp/agencies/sorels-retirement-is-caused-by-a-management-strategy-that-does-not-fit-the-times/
他方、『DIGDAY』は編集部記事においてソレルの辞任が「テック系大手によるデジタルメディア進出拡大を抑制したい広告およびメディア業界にとっても、大きな痛手」だったとし、ソレルがGoogleFacebookのデュオポリー(二社独占状態)との戦いにおける重要な人物だったと評価。ただし現在のWPPGoogleFacebookの大手クライアントになっている現状も指摘した。
https://digiday.jp/agencies/sorrells-exit-wpp-leaves-void-fight-duopoly/

◎「日雇礼子」というVtuber(バーチャルユーチューバー)がウェブ上で注目を集めているらしい。大阪市西成「あいりん地区」の様子を、やむなき事情により簡易宿泊所を泊まり歩く生活を続けている女性が動画で紹介するというもので、23日夕刻までに4本の動画を投稿。チャンネル登録者数は約8800人にまで及んでいる。
https://www.youtube.com/channel/UCc5BawFmb7aNHck7HFtSKvw
http://news.nicovideo.jp/watch/nw3450342

◎「ピンク四天王」の1人とも呼ばれた映画監督・俳優の瀬々敬久が大正時代に農村などで人気を博していた「女相撲興行」の力士たちとアナキスト集団「ギロチン社」の若者たちの関わりを描いた監督作品『菊とギロチン』が7月7日より東京のテアトル新宿ほかで公開。それに際して、宣伝や自主上映などでの上演支援を目的としたクラウドファンディング企画をMotionGalleryにて「やるなら今しかない!」と謳いつつ立ち上げた。
https://motion-gallery.net/projects/kiku-guillo

◎「第3回メディアと表現について考えるシンポジウム・炎上の影に『働き方』あり! メディアの働き方改革と表現を考える」が5月12日に日本橋サイボウズ東京オフィスで開催される。東京大学情報学環教授の林香里ほかが昨年5月に立ち上げた産学共同研究グループ「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会」(MeDi)が主催。パネリストには林のほか古田大輔(BuzzFeedJapan編集長)、山本恵子NHK国際放送局WorldNews部記者)などが参加。MeDiメンバーでエッセイストの小島慶子がモデレータを務める。
http://medi3rd.peatix.com

◎東京都内で21日に開催された日本新聞労働組合連合主催の全国女性集会では性被害をテーマとした分科会も行われ、先の財務省福田淳一事務次官によるセクハラ疑惑に関連し、女性記者4人が自身の体験を報告。「気が付いたら手を握られていた」「マスク越しにキスをするように言われた」など同様の事例が各所で起こっている現状について議論が交わされたそうだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018042202000126.html