【文徒】2017年(平成29)年3月7日(第5巻43号・通巻972号)

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1)【記事】小学館『News Magvi』も採用したタテ型動画はスマホネイティブ向け(岩本太郎)
2)【記事】"シェアキッチン"が"町の書店"へと発展した和歌山市での事例
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】小学館『News Magvi』も採用したタテ型動画はスマホネイティブ向け(岩本太郎)

映像と言えばこの20〜30年来、主にテレビがHDTVやデジタル化の過程で、かつての横:縦=4:3から16:9の横長サイズへとひたすらシフトしてきた流れがあったが、投稿映像も今やPCより縦長画面のスマホによるものが主流となり、今後ますますスマホネイティブ世代が多数派になっていく中で、どうやらこの流れは少なくともモバイルに関する限り逆転しそうな状況になっている。LINEのCEOを退任した森川亮が2015年春に創業した「C Channel」は当初からスマホネイティブ向けのタテ型フォーマットで動画市場に参入している。その森川は先月21日付の『DIGIDAY』(日本版)のインタビューに応えて、今やスマホネイティブにとってはタテ型動画のほうが普通なのだとする、以下のような見解を述べている。
《「この前もSnapchatの人と話したが、横よりタテの方が効果的だ。タテはスクリーンを覆う。みんな横の動画もスマホをタテのままで見ている」。
近年はタテ型フォーマットを活かした動画クリエイティブが若年層に浸透している。Snapchatは米国のその先駆けだ。若年層が横型(16:9規格)を視聴する際もスマホを横に倒さない傾向があることが指摘されている》
C Channelが中国などアジアで展開している動画ビジネスのメインターゲットはスマホネイティブの若年層であり、《ネイティブアドやインフルエンサーマーケティングを動画と組み合わせて、分散型メディアを展開していきたい》と森川は語る。
http://digiday.jp/publishers/influencer-video-commerce-mix-chanel/
メディアのソーシャルシフトがタテ型動画への移行をも伴いつつ進んでいくのだろう。既報の通り小学館が運営する『News Magvi』がタテ型画面を採用したのは理にかなった判断だといえる。

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2)【記事】"シェアキッチン"が"町の書店"へと発展した和歌山市での事例(岩本太郎)

増加する空き家や空き店舗を活用した"シェアキッチン"が全国各地で広まっている。「食」をめぐる地域住民間のコミュニケーションを軸にコミュニティの活性化を図ろうというものだが、ここに「書店」を絡ませる動きが出てきた。和歌山市万町のシェアキッチンPLUG(プラグ)が明日8日より「本屋プラグ」として拡張オープンするのだそうだ。
http://plug-kitchen.com/
書店としての営業はカフェとともに週5日、水〜日の正午から夜8時までだという。運営するのは地元でWEBサイト制作やアプリ開発を手掛ける会社で、スペースはもともと文具やカフェの店が置かれていたらしい。地元メディアの『ニュース和歌山』によると、2014年にイベント貸し会場としてオープンし、講演会や趣味の交流会など年間に約150のイベントが開かれる地域拠点となっていたが、一昨年秋に店内に500冊ほどの本を置いたところ、通りすがりの人や周辺住民がやってくるようになったのが書店開店のきっかけだったそうだ。
《並べるのは、大量出版されるベストセラー本ではなく、スタッフが旅先の書店などで見つけ、愛情をかけて選んだ新本や古本。凝った装丁のパン職人の本や全国の遊具だけを撮ったマニアックな写真集、地方で自主制作された一般には流通していない冊子と、こだわりの2000冊が並ぶ。もう一人の店主、小泉博史さんは「本のセレクトショップのように、来てくれた人に合う本を紹介します。作り手と買い手の距離を近づけ、読書が苦手な人にも本を身近に感じてもらえれば」と語る》
http://www.nwn.jp/news/17030404_plug/
この通りだとすれば、当『文徒』でもこれまで何度か可能性を言及してきた"兼業書店"の一つの在り方がここにあるのではないかとも思える。即ち地域の交流拠点なりメディアとして機能する施設に「本“も”売る」書店としての機能を併設させるやり方である。この「シェアキッチンPLUG」の周辺地域に既存の書店があるか否かまでは上記では明らかにされていないが、少なくとも「そこに行けば本がある」ことが集客につながる環境ではあるわけだ。これを一つのモデルとして参考にしつつ、他の地域の商店街などと協力しながら同様の兼業書店を設けていくことで、街の書店の減少にも歯止めを掛けつつ地域コミュニティの活性化に役立てていくという試みがもっと行われてもよいだろう。
ちなみに都市部のイベントスペースでも、例えば昨年渋谷にオープンしたトークライブハウスの「LOFT9 Shibuya」には店内に書店の「BOOKS9」も併設されていて、一般の書籍のほかに全国各地で発行されているフリーペーパーや自主流通の出版物なども入手できる。また、映画館「ユーロスペース」「シネマヴェーラ」と同じビルの1階に入った同店では映画や音楽関連はもとより、編集者やライターなどをゲストに出版業界についての話題を語り合うトークイベントもこれまで何度も開催されている。
http://www.loft-prj.co.jp/loft9/

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

クックパッドのお家騒動は、創業者の佐野陽光(現在は取締役)と対立していた前社長の穐田誉輝が来たる23日の定時株主総会で取締役から退任することで一つの節目を迎える模様。穐田は今後は結婚式場についての口コミサイト「みんなのウェディング」などの経営に集中するらしい。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO13669000T00C17A3TJ1000/
もっとも、代わって社外取締役に就任するキャリア形成コンサルタントの伊賀泰代について、ネット上では"おちゃらけ社会派ブロガー"として人気を博する一方で発言が物議を醸すことも多い「ちきりん」と同一人物ではないかとの指摘が広まっている。
http://kabumatome.doorblog.jp/archives/65883743.html
http://getnews.jp/archives/1647771
https://twitter.com/insidechikirin

◎その「ちきりん」が『BLOGOS』で「実は面倒な電子書籍」と題して、電子書籍の作成にかかるコストやギャラ支払いのシステム、経理処理の具体的な仕組みなどについてかなり詳細かつ具体的に紹介している。
http://blogos.com/outline/212598/

日本経済新聞が1月から導入した、決算短信人工知能(AI)に書かせる「決算サマリー」について『ITMediaNEWS』が担当者に取材。今のところ日経ではAIによる決算速報は「決算サマリー」と呼び、記者が書く「記事」とは完全に区別しているとのことだが、担当者らによる以下のコメントは興味深い。
《決算記事は数字のミスは絶対に許されず、神経を使う仕事だが、AIには数字の間違いはほとんどない。決算速報をAIに任せることができれば、決算解説記事や企画記事、取材などによりマンパワーを振り分けられる》
《今後2〜3年で、『広く浅く早く』が適した分野にAIが適用され、深掘りは人間の記者が担当するという棲み分けが進んでいくのではないか》
《広告モデルの無料ニュースサイトもクオリティが上がってきている。『NewsPicks』(月額1500円)や『dマガジン』(月額432円)など低価格な有料メディアも支持を集めており、日経電子版の相対的な優位性はこのままでは下がってしまう。『これなら4200円払える』と納得してもらえるサービスを出さなくてはならない》
《新技術を取り入れて進化しないと生き残っていけないという危機感は強い。デジタル編成局に所属する約100人のうち、半分ぐらいがエンジニア。どんどん中途採用しており、ボトムアップで新しいサービスが出ている》
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1703/03/news082.html

◎3月16日に東証への「ほぼ日」新規上場を控えた糸井重里が日経のインタビューに登場。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO13539210R00C17A3000000/

茨城県南部の地方紙「常陽新聞」の休刊を『Abema TIMES』は「電子版も効果なし?」と報じているが、実態はむしろ「紙にこだわったから」というほうが正解かもしれない。2014年の経営移行=復刊に際して印刷を他社への委託に切り替えて判型もタブロイドに縮小するなどの経費節減策に努めたものの、部数は3000部から伸び悩み。しかし一方で《関心のあるニュースが出た場合にひとつのニュースの閲覧者数が1万人に達することもあった》というのだ。47都道府県で唯一地上波のテレビ局がない茨城県の、つくば市土浦市など東京への通勤圏をエリアとする地域メディアとして、むしろネットに特化した形で小回りの利く展開を図ることで生き残りを模索していくこともできたのではないか、とも思わせる。
https://abematimes.com/posts/2093044

◎話題を呼んだ『夫のちんぽが入らない』(扶桑社刊)が「文学フリマ」で発掘されてから刊行されるまでの舞台裏、発売後の反響などについて、『Abema TIMES』が著者の「こだま」と担当編集者の高石智一に2回にわたってインタビュー。
https://abematimes.com/posts/2072521
https://abematimes.com/posts/2073581

◎『週刊プレイボーイ』の50周年記念企画で、『俺の空』以来の同誌愛読者だという水道橋博士が前後編2回にわたるインタビューで登場し、同誌を中心に雑誌全般への思いを吐露。伝説のAV女優・林由実香(平野勝之ドキュメンタリー映画『由美香』のヒロインでもある)と恋人関係だったという“衝撃のエピソード”も披露している。
http://wpb.shueisha.co.jp/2017/03/04/80902/
http://wpb.shueisha.co.jp/2017/03/05/80905/

◎都内・下北沢の「本屋B&B」で、『NewsPicks』編集長の佐々木紀彦による新刊『日本3.0』発刊を記念したトークイベント「2020年のニッポンサバイバル」が8日に開催される。社会学者の西田亮介も登壇の予定。
http://bookandbeer.com/2017/03/08/
http://shimokita.keizai.biz/headline/2538/

◎ジャドマ通販研究所の調査によると「本をネットで買う人が多い都道府県」の第1位は京都府。一方で本をリアル店舗で買う人がもっとも多かったのは隣の滋賀県だったそうだ。
http://www.jadma.org/tsuhan-kenkyujo/kenmin/vol3/q1.html

テレビ東京系のBSジャパンが4月3日から毎週月曜夜に放送を開始する旅番組『バカリズムの30分ワンカット紀行』の売りは「編集の放棄」。スポーツ中継などで使われる巨大なステディカム(映画ではキューブリックの『シャイニング』などで使われたことでおなじみ)で人気スポットを表題通り30分ワンカット撮影のうえ、編集もせずナレーションもつけない映像にバカリズムがコメントしていくという内容らしい。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170303-01786994-nksports-ent

◎グリーと讀賣テレビが共同で、テレビ番組とソーシャルメディアを活用しつつ中小企業やベンチャーを支援するプロジェクト「100億上ル(ひゃくおくあがる)」を開始する。応募企業の中から限定50社を対象に、読売テレビのスタジオで自社商品などについてのプレゼン(3月15日)をしてもらったうえで、その模様を番組(3月下旬〜4月上旬の深夜帯で放送予定)やSNSにて展開していくという企画。大阪イノベーションパブ(大阪市)・京都市・神戸市も後援している。
http://gamebiz.jp/?p=179623

◎「ネット炎上」を補償する国内初の保険を損保ジャパンが6日から発売した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC02H0K_S7A300C1EE8000/

ヘイトスピーチをテーマにした演劇『ツレがウヨになりまして』などの時事ネタコメディを数多く手がけている劇団「笑の内閣」の脚本家・演出家である高間響が、さる5日に行われた森友学園瑞穂の国記念小学院の入学説明会に、実際に小学校入学前の子供がいる親の立場で参加してきた際の模様を詳しくレポート。ただし今回は「前編」のみであり、「後編」については『ツレがウヨになりまして』のソウル公演を実現すべく現在実施中のクラウドファンディングに支援をしてくれた人にのみ「モーションギャラリー」のページで公開するそうだ。
https://note.mu/takamahibiki/n/n9c316f833eb0
https://motion-gallery.net/projects/warainonaikakukorea

朝日新聞IT専門記者の平和博が「フェイクニュース」の蔓延に対抗して行っている「スローニュース」なる取り組みについて語っている。
http://synodos.jp/society/19214

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

できないことを「できます」と思わず嘘を言って後悔するより、嘘を本当に変える取り組みをさっさと始めたほうが得てして面白いことになる。