【文徒】2016年(平成28)8月19日(第4巻155号・通巻842号)

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1)【記事】 DeNA「マンガボックス チャレンジ枠」の登場が意味するものは?
2)【記事】西日本新聞熊本県代表“甲子園美談”記事にネット民が猛反発
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.8.19.Shuppanjin

1)【記事】DeNA「マンガボックス チャレンジ枠」の登場が意味するものは?

DeNAの週刊マンガ雑誌アプリ『マンガボックス』において「マンガボックスチャレンジ枠」という新たなシステムを8月15日から導入した。既に設けられている「マンガボックス インディーズ」に作品を投稿しているクリエイターを対象に、その作品について「読者の評価」を基準に「原稿料付きの連載権」を与えるというものだ。
https://creator.mangabox.me/page/challenge/announce/
http://otakei.otakuma.net/archives/2016081602.html
上記の「おたくま経済新聞」は、このシステムの概要を次のように説明している(公式サイトよりもこちらのほうが簡潔に紹介しているので引用しておこう)。
《投稿していれば特別な登録は必要なく、全ての作品が「読者の評価」を基準にシステム上で自動審査されます。 なお、審査は全ての投稿作が対象となりますが、審査通過には「直近30日の更新ページ数が60ページ以上である」という条件をクリアする必要があるそうです。
 読者の評価は「累計読者数」「お気に入り登録数」「最新エピソードの読者数」の3つ。それぞれの基準をクリアした作品が『マンガボックス』本体への連載をスタートさせることが可能となります。
  さらに原稿料は、連載開始後の人気に応じてアップしていく仕組み。また、特に人気や注目の高い作品については、プロ漫画家としてのデビューへ向けた打診を行い、新たなプロ漫画家の誕生を支援していきたいとしています》
これはいよいよ「マンガ雑誌に(人間の)編集者はいらない」という時代が近づいてきた、という話ではなかろうか。投稿して掲載された段階から読者による評価を非人称化されたシステムが集計のうえ、そのデータのみで連載の可否からページいくらの原稿料の支払いまで決定される(ちなみに連載の「担当編集者」というものはつかないそうだ)となったら、では従来のいわゆるマンガ編集者という存在はどうなるのか? もちろん、現状では運営事務局がコントロールしている部分もあり、100%全てが人の手を離れた世界で動くということでもないのだろうが、今後の推移が気になるところだ。
(岩本太郎)

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2)【記事】西日本新聞熊本県代表“甲子園美談”記事にネット民が猛反発

どうも甲子園の話になると主催者の朝日新聞毎日新聞に限らず、どこのマスメディアもまともな判断ができなくなるということか。
現在開催中の第98回全国大会に出場し、先にベスト8入りを果たした熊本県代表・秀岳館高校をスタンドから応援する同校の吹奏楽部員たちにおける“美談”を紹介した17日付の西日本新聞の記事がネット上で物議を醸している。
実は同校の吹奏楽部はこの夏、南九州小編成吹奏楽コンテストの県予選に予選して金賞を受賞していたのだが、本来ならこれで出場権を得ていたはずの南九州大会への出場をあらかじめ辞退していた。というのも、県予選が始まる前の週の7月26日に野球部の甲子園出場が決まり、吹奏楽部が南九州大会へ出場すれば甲子園でのスタンドからの応援が不可能になるからというのが、その理由だった。
《コンテストか、甲子園か。7月下旬の職員会議は2日間にわたった。多くの教員が「コンテストに出るべきだ」と主張した。吹奏楽部の3年生6人も話し合いを重ねた。「コンテストに出たい」と涙を流す部員もいた。
しかし演奏がなければチアリーディングもできず、応援が一つにならない。「野球部と一緒に演奏で日本一になります」。顧問の教諭に決断を伝えた部長の樋口和希さん(17)の目は真っ赤だった。8月1日の県予選には「上位入賞しても南九州大会を辞退する」と主催者側に申し入れて出場し、金賞を受賞した。
「県予選で全力を出し切り吹っ切れた」。部員の田畑史也さん(16)は16日、スタンドでドラムを打ち鳴らした。樋口さんは「最高に気持ちが良い。僕たちも全力で戦います」。頂点を目指すナインとともに「熱い夏」を過ごすつもりだ》
http://www.nishinippon.co.jp/nsp/koushien_kumamoto_2016/article/267365
と、記事はいかにもの美談調で末尾をまとめているのだが、今時こんなクサい“美談”をネット民が素直に受け止めるわけもない。さっそく「応援なんかなくたって、野球はできるんだぞ」「野球部にとっての高校野球吹奏楽部にとってのコンクールやし片方を優先して片方を諦めるなんておかしい」「学校側が吹奏楽は野球より下って明言したようなもん」「一聴すると美談に思うが、何か圧力(大人の事情)があったのでは?と勘繰ってしまう」といった、至極まっとうな意見が飛び交うようになった。
http://togetter.com/li/1013169
http://news.biglobe.ne.jp/sports/0817/blnews_160817_4001380056.html
では、その「圧力(大人の事情)」として勘繰る先にあるものは何なのか。おそらくそこは高校野球に少し詳しい人ならすぐに思い至るところだろうが、今回出場した秀岳館高校野球部のレギュラーメンバー18人は全員が熊本県外出身者(これは今大会の出場チームでは高知の明徳義塾高校との2校のみ)で、監督は大阪の少年野球チーム「枚方ボーイズ」の元監督で、現在のレギュラー選手も枚方ボーイズ出身者が大半を占めているというのだ。同校野球部は今年春の選抜大会では甲子園に出場しているが、夏は今回が15年ぶりの出場というから、学校もさぞや力を入れていたであろう。監督も以下の記事で、こんなことを言っている。
《言い方は悪いかもしれませんが、熊本の中では秀岳館に勝たないと甲子園には行けないという雰囲気をつくっていきたい。(略)甲子園でそこそこ勝てるというように力を高め、優勝も夢じゃないというところにもっていきたいですね。理事長の恩で呼んでいただいて、いろんな批判はありますが、負け犬の遠吠えはしたくない》
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/187772
一方の吹奏楽部が九州や全国レベルでどのくらいのレベルにある学校なのか、地元の吹奏楽コンテストの関係者は今回のことをどのように考えているのか、というところまではわからないが、上の記事を書いた西日本新聞こそが、本来ならそこをきちんと掘り下げる報道をすべきだろう。
朝日や毎日の“美談調”に乗っかって、九州の地元ブロック紙が主に関西方面から来た県外出身者ばかりで構成された「地元代表」のヨイショをしていてどうなるのだ? という話だ。
(岩本太郎)

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎子宮頸がんワクチン問題での厚生労働省研究班代表で、信州大教授(医学部長)池田修一が、自らの研究をねつ造と決めつけた『Wedge』の記事で名誉を傷つけられたとして1000万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて17日に東京地裁に提訴。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016081701002091.html
これに対し、該当記事を書いた医師・ジャーナリストの村中璃子もサイト上で見解を公表しているが、「法的に捏造と認めさせることは難しいかもしれません」などと筆者本人がさっそく書いているところがどうもなあ。
https://archive.is/cUvnl

◎元電通社員で、現在は自ら創設したSONARでアカウントプランナーとして活躍する岡崎孝太郎が、今回のSMAP解散に際してFACEBOOK(公開設定)で思い出話を書いている。25年前にSMAPがデビューした当時はTBSのテコ入れ(ちょうどフジテレビ全盛期だった)に加わっていたという岡崎は、テレビ局内における主導権が「制作」から「編成」へと移り変わる転換点を象徴する存在としてSMAPが出てきたと述べている。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10208346965650653&set=a.2095399423477.2110892.1200062919&type=3&theater

◎9月は日本電子出版協会の30周年を記念したイベントが行われる。9日(金)15時からは、『EPUB戦記 電子書籍の国際標準化バトル』著者の小林龍生のほか、鎌田博樹(eBook2.0Magazine発行人)、村田真(JEPA CTO)、木田泰夫(元Appleシニアマネージャー)、村上真雄(Vivliostyle会長/CTO)、石井宏治(Google)をパネリストとしたセッション「本当の EPUB戦記」を飯田橋の研究社英語センターで、14日(水)は16時から「30周年記念講演会」(講師は元会長の長谷川秀記と 出版デジタル機構社長の新名新)を教育会館平安の間(立食パーティ)で、それぞれ開催する予定だ。
http://kokucheese.com/event/index/411205/

◎7月1日より新会社「ハースト・デジタル・ジャパン」を稼働させたハースト婦人画報社 CEOの イヴ・ブゴンに『DIGIDAY』がインタビュー。デジタル変革の時代においては「経営マネジメントの観点からは、今後は新しいコンテンツやイノベーションを創出するためのフラットな組織が必要」との認識のもと、次のように述べる。
《グローバルでひとつのプラットフォーム(CMS)でコンテンツを共有、オーディエンスを作り、広告主に新しい価値を提供するようなチャレンジを始めています。これが、ハーストが独自に開発し、アメリカをはじめ、世界的に導入を進めているCMS「メディアOS(MediaOS)」です。
2つ目は、プラットフォームと連携してコンテンツをマネタイズする新しい仕組みです。たとえば、ドコモの「dマガジン」のような読み放題のサービスが好調です。これについては「パブリッシャーがプラットフォームの下請けになってしまうのではないか」と危惧する向きもありますが、私はそうは思いません。
プラットフォームとの新しい関係、コンテンツのマネタイズの新しい仕組みとして検討の価値があると思います。たとえば、コンテンツの有料課金サービスを、パブリッシャーが展開することだってあり得ます。
そして、3つ目はECです。弊社の場合は、2007年あたりから議論を開始し、2009年からスタートしました。欧米では、メディアがリテーラーになることに対して読者の抵抗がありますが、アジア、とくに日本では、既存メディアのブランドや読者との関係性をいかし、ECを展開していくことは、ニッチではあるものの有望です》
http://digiday.jp/publishers/heast-yves-bougon/#sth

◎『WEBRONZA』で片岡裕(ヤフー)、藤村厚夫(スマートニュース)、亀松太郎(ネット・ジャーナリスト)が「ニュースメディアの黄金時代到来か」とのテーマで座談会。以下、藤村の弁より、上記の「マンガボックスチャレンジ枠」の話とも符合しそうな部分を引用。
《スマートニュースの場合は、編集や編成という部門はなく、それに専従的に携わっているチームもありません。基本はテクノロジーで、プログラムにより自動的にニュースを選別して配信しています。的確なニュースを配信するために、人手はプログラムの動きをチューニングするなど、精度を向上させることに用いています。
 このプログラムは、記事に対するソーシャルメディア上などでの評価を複数束ねて、解析したデータを使って自動的にスコアを付けていくものです。そしてその変化をリアルタイムに追いかけ、これからの読者の興味やニュースに対する需要などの予測値を計算して、それに沿って編成をしていくわけです。
 また一方では、人間が教えたことも学習します。例えばこの記事は政治、この記事はエンタメ、こちらはスポーツと、人間が教え込むことを続けていくと、おおむね人が編成したのに近い状態を違和感なく再現できるようになります。ヤフーさんが8本の記事を人間が選んでいるのと同じようなことを、プログラムで自動的に行っているのです》
http://webronza.asahi.com/journalism/articles/2016080200002.html

◎作家の村松友視中央公論社の編集者だった時代を回顧する連載の3回目は、唐十郎らを発掘した文芸誌『海』時代。
《初めて「海」に唐さんの戯曲「愛の乞食(こじき)」(45年)を掲載したとき、僕はこれは大勝負だぞと思いました。編集長からは「これは大丈夫ですか」という言い方をされたので、僕は「もちろん大丈夫です」と答えると、「じゃあ村松君を信用します」って冷ややかに念を押された。言い換えれば、自分は責任は取らないよ、ということだと思うんです。
 その号が出たあと、江藤淳さん(文芸評論家)が新聞の文芸時評で「愛の乞食」をとても褒めてくれた。面白くもない小説をいくつも掲載しているより、戯曲の掲載もいいんじゃないかと。僕と唐さんは首の皮一枚でつながったわけです。編集長も「江藤淳が褒めたならしようがない」となったわけで、あのときは本当に危ない橋を渡る気分だった。ところが、その後も僕は文壇外の人の作品を次々と手がけたので、「海」は「ヘドロの海」なんて言われたりもしました。あのとき、江藤さんが褒めてくれなかったらヘドロの海すらも成り立たなかったでしょうね》
http://www.sankei.com/life/news/160817/lif1608170006-n1.html
ちなみに我々は同じ中央公論の編集者だった水口義朗に『週刊コウロン』の末期や「風流夢譚」「思想の科学」事件当時の同社社内の雰囲気についての話を先日聞いた。近々『出版人・広告人』に掲載するのでこちらもお読みいただきたい。

こうの史代の『この世界の片隅に』がアニメ映画化され、11月12日より各地で公開。被爆前の広島の街並みが、取材や集めた資料をもとにアニメで忠実に再現されるという。制作資金集めには苦労したそうだが、最終的にはクラウドファンディングで、目標の2000万円を超える3600万円が集まったそうだ。
《資金難で制作が遅れ、証言者のうち数人は完成を待たずに亡くなった。「なんとか中島本町の映像だけでも」と片渕監督は昨年7月、冒頭5分を市内で上映した。「あの街で家族を亡くした方もいましたが、子供の頃ここで遊んだ、こんなものを食べた、と懐かしそうに話して下さった」》
http://www.asahi.com/articles/DA3S12514857.html

◎ウェブ上を見ていても連日ますます書き込みが熱くなるなど大ヒット中の『シン ゴジラ』だが、映画の中で京急京浜急行)線が真っ先に破壊される(ほぼ並行して走るJRはなぜかゴジラがスルー)ことについて、鉄道業界関係者あるいは鉄道オタクか?と思われる人物が「列車破壊とか路線破壊とかを映像で許諾出してくれるのが京急しかないって事情もあるんです」とツイートして話題に(真相は不明)。
https://twitter.com/Hirasawa_n1k2/status/764279841914966016
http://togetter.com/li/1011926
かつて高倉健が主演した『新幹線大爆破』に国鉄が協力を拒んだことにより、列車の走行場面に使われる車両のミニチュアや車内のセットのクオリティが著しく落ちてしまったのは有名な話だ。
http://getnews.jp/archives/749788

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

いまの時代、時には「友だちが少ない人」のほうが信用できるかも。SNSでの「友だち」の多さを誇示する「友だち」は要警戒だ。