【文徒】2014年(平成26)4月10日(第2巻66号・通巻268号)

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1)【記事】2014年「本屋大賞」異聞
2)【記事】博報堂DYメディアパートナーズの派遣社員
3)【記事】ユニリーバとROCKET BOOKS
4)【本日の一行情報】
5)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2014.4.10 Shuppanjin

1)【記事】2014年「本屋大賞」異聞

私は3月24日付文徒に次のように書いた。
「今年の受賞作は和田竜の『村上海賊の娘』(新潮社)で決まり、だよね」
実際、結果は、その通りになった。私からすれば面白くも何ともない結果である。
一方、「本屋大賞」候補作を対象にした「ひとり本屋大賞」はいとうせいこうの「想像ラジオ」に決定!業界とは全く関係ないブログ「琥珀色の戯言」のお遊びだが、選評を読んでいると、このブロガーの本気度を感じる。私にとっては「本屋大賞」よりも新鮮だ。私が「ひとり本屋大賞」を選ぶとすれば、「さようなら、オレンジ」である。
http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20140408
私が「本屋大賞」を今一つ評価する気になれないのは背後に暗躍する広告代理店の「あざとさ」が透けて見えてくるからだ。広告代理店からすれば「本屋大賞」は新聞広告を獲得するための手段にほかならない。広告代理店が顔を向けているのは書店ではなく、出版社の宣伝費である。
私はこう考える。それこそ一軒一軒の「街の書店」が「××書店本屋大賞」を発表すれば良いのだ。その書店がこれだと思う作品を選び、自ら多めに仕入れて売っていく。今ほど書店の主体性が問われているというのに広告代理店に踊らされているから駄目なんですよ。
更に言えば「本の雑誌」は本屋大賞と手を切ったほうが良いのではないだろうか。受賞作のテイストが次第に「本の雑誌」らしくなくなっていることにそろそろ気づき始めているはずである。

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2)【記事】博報堂DYメディアパートナーズの派遣社員

博報堂DYメディアパートナーズは雑誌媒体担当の派遣社員を募集している。最長6ヶ月の派遣期間を終えると契約社員に登用されるという。正社員を減らし、その分をコストカットしようということなのだろう。人件費は最も高いコストである。
「ファッション誌などを中心に大手出版社の雑誌を担当し、クライアントニーズに合致した雑誌広告プラニング、料金交渉、編集タイアップ広告の進行管理などを担っていただきます。社内外で多くの方とコミュニケーションを取って進めていく仕事」ということだから、高給取りの正社員と変わりない仕事をすることになる。応募資格・条件を列挙しておこう。
■四年生大学卒業以上、社会経験2年以上
■営業経験があり、社内外との折衝・調整業務に自信がある
■社交性・協調性があり、チームの一員として動ける
■最後まで責任感を持って仕事を遂行できる
■情報管理意識が高く、守秘義務を守る事ができる
しかし、私なんかからすると大手出版社の雑誌も随分と舐められているように思えてならない。雑誌なんか契約社員任せておけば充分だという発想が私には見え隠れするのである。
裁量労働制で月額32万円という条件は悪くないのだけれど。
http://job.goo.ne.jp/temp/kanto/detail/000321306766/guideline?url=/temp/kanto/freeword/l01cs130001s13101/e01/t_en/0/dd/50/1?q=%B9%BB%C0%B5

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3)【記事】ユニリーバとROCKET BOOKS

世界第3位の売上を誇るユニリーバ・ジャパンは、「クリア」「クリア フォーメン」を日本で発売しているが、そのPR活動の一環として「強さは美しい」というブランドメッセージを表現する雑誌「CLEAR MAGAZINE」を創刊した。
発行部数は5万部、定価は390円で、「クリア」「クリア フォーメン」のサンプルもつく。
編集長は明治大学特任教授の斎藤和弘!「ブルータス」の元編集長であり、コンデナスト・パブリケーションズ・ジャパン元社長の斎藤だ。編集者としてもまだまだ現役だぜ!ということなのだろう。版元はROCKET BOOKS。
ROCKET BOOKSについて簡単に説明しておこう。藤本やすしと大山ゆかりによって1999に設立されたクリエイティブプロダクションである。
藤本は「VOGUE NIPPON」や「BRUTUS」など数々の雑誌デザインを手掛けるデザイン集団Capを主宰するアートディレクターであり、大山はラフォーレ原宿にて広告・販促・イベント等を手掛けていた人物である。編集長の斎藤とは当然、旧知の仲なのだろう。
http://jbpress.ismedia.jp/ud/pressrelease/534288c2b31ac95128000002

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4)【本日の一行情報】

不正アクセスにより閉鎖していたKADOKAWAの公式ホームページが再開した。
http://www.47news.jp/CN/201404/CN2014040701002103.html

◎アマゾンが「お酒ストア」をオープンさせた。クルマのない私には、これは有り難いサービスである。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ070G0_X00C14A4MM8000/

◎おいおい「美は乱調にあり」(瀬戸内寂聴)がマンガ化されるのかよ。柴門ふみが描く!!版元は文藝春秋。「オール讀物」の連載が単行本として纏められるのだ。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900698
一日も早く読みたいマンガだ。週末は吉田喜重の「エロス+虐殺」をDVDで見ておくことにしよう。竹中労の「断影 大杉栄」(ちくま文庫)も読み返さなければならないし、竹中+かわぐちかいじの「黒旗水滸伝」も読み返さなければ!

著作権法改正案が今国会で成立するようだ。これにより「電子書籍をインターネットで頒布することを『公衆送信行為』と名づけ、『公衆送信を行うことを引き受ける者』に『第二号出版権』名づけた電子書籍の出版権を設定することができる」ようになる。日本出版者協議会に属する晩成書房の水野久は次のように書いている。
電子書籍について『公衆送信を行うこと』というのは、紙の書籍について言えば「印刷・製本すること」にあたり、それでは『出版すること』にならないではないか。つまり、この改正案の条文を見るかぎり、本のデジタルデータを集めただけの、企画・編集等、これまでの概念の『出版』を行わない配信業者(例えばアマゾンとか、グーグルとか)が、(著者との契約さえ結べば)『第二号出版権者』として参入できるということだ。グーグルやアマゾンが、既存の書籍の膨大なデジタルデータを既に持っていることはご存知の通りで、ここは基本にかかわる問題だ」
水野は次のような部分では著作権法改正を評価している。
「今回の改正案では、これまで出版権者に認められていなかった『再許諾』が、紙・電子とも(著作権者の承諾があれば)可能とされている。これまで、自社の単行本が文庫化される際など、元の単行本の版元は文庫出版社に再許諾をすることができない、という第八十条第三項の規定により、文庫出版社ときちんとした交渉ができなかった。これが改正されることは歓迎したい」
http://shuppankyo.cocolog-nifty.com/

電子書籍アプリで知られるビューンの調査によれば平日1日当たりの平均閲覧時間で雑誌は18.3分に過ぎないが、コミックは何と92.7分であることがわかった。雑誌閲覧時間は「15分未満」が58.7%と最も多く、コミック閲覧時間は「2時間以上」が25.7%と最も多く、「1時間以上」(20.9%)と合わせると46.6%を占めるそうだ。
http://www.asahi.com/tech_science/cnet/CCNET35046198.html

◎ウエブの原稿料は安いとは聞いていたが、1文字0.1円とか、0.2円ということも今や珍しくないらしい。400字で40円とか70円ということになるらしい。
http://blogos.com/article/83991/
小社の原稿料よりも遙かに安い!

◎滅多に読まない「世界」だけれど5月号で「VERY」(光文社)が話題になっていた。「内閣広報室はなぜ人気女性ファッション誌に電話をかけたのか」と。
https://www.iwanami.co.jp/sekai/index.html

◎「麻薬追放国土浄化同盟」のホームページは海外でも話題になっているようだ。
http://tocana.jp/2014/04/post_3923_entry.html
一月には釜が崎の三角公園で炊き出しを行っているのか。知らなかった。
http://zenkokumayakubokumetsudoumei.com/index.html

◎女性用デニムブランド「SOMETHING」と女性ファッション誌「DRESS」がコラボ。「Something Dress」は、エドウインから発売されている。
http://kirei.mainichi.jp/kireinews/news/20140407dog00m100016000c.html

◎大阪に進出を果たしたロフトだが、出版事業を強化するという。6月頃から音楽やカルチャー関連の書籍を刊行開始するようだ。
http://www.cinra.net/news/20140407-loftbooks
松岡正剛がロフトにやって来る。

アメリカのアマゾンのエレクトロニクス製品ベストセラーのトップにアマゾンの「FireTV」が躍り出た。このベスト10のうちアマゾン製品が5点を占める。結局、アマゾンはアマゾンのために存在するということなのだろうか。またメディアストリーミング機器が過半を占めているが、この流れは日本にもやって来るのだろうか。
http://www.life-gp.net/2014/04/amazonfire-tvchromecast.html

サントリーはインド国内第4位のRadico Khaitan社に出資しようとしているようだ。
http://www.india-bizportal.com/jacomp/p14067/

木皿泉の「昨夜のカレー 明日のパン」が木皿自身の脚本で連続ドラマ化され、10月からNHK BSプレミアムで放送される。木皿はもともと脚本家出身である。和田竜も「のぼうの城」でデビューしたわけだが、最初は脚本として書き城戸賞を獲得し、これをベースに小説を書き、これがベストセラーとなって映画化されたという経緯がある。
http://www.cinra.net/news/20140408-kizaraizumi

◎「怪人」康芳夫についてまとめられている。「血と薔薇」の編集長に立花隆が内定していたとは知らなかった。
http://matome.naver.jp/odai/2139607948858563601?&page=1

集英社新書WEBコラムに「在日二世の記憶」(在日コリアンの声を記録する会)をスタートさせた。第一回は張本勲である。張本の被爆体験が生々しい。
「原爆の投下された八月六日のことは鮮明に覚えています。五歳でした。近所の子たちと遊ぼうと思って、三畳一間が連なる長屋の戸をガラッと開けて表に出た途端、ピカーっと光ってドーンと物凄い音がしたんです。気がついた時は真っ赤な色が目の前にありました。よく見るとそれはお袋の血でした。ガラスの破片で胸を切りながらも私と姉(下)を庇って覆い被さってくれていたんです。私たちの家は裏に比治山という海抜七二メートルの山があってそれで助かったんです。爆心地から直線距離にしたら一キロもないんですが、家が山の真裏だったから、光と熱が遮られて私たちの長屋だけが助かった。振動はあったし、バラックだから倒れましたが、死の灰は吸わずに済んだのです」
それにしても浪商野球部も高野連は酷い。
「下級生を部室で制裁するという事件が起こって、それが高野連の知るところになったんです。そうしたら野球部の部長というのが悪い男で、下級生への暴力は張本一人がふるったことでチームは悪くありません、という報告書を提出したんです。そんな事実は全くないのですが、高野連は調べもしないで私一人に責任を取らせました。部長の行状については当時のコーチが後になって教えてくれたんです。部長がはっきり、チームを守る、俺は朝鮮人が嫌いなんやからと言ったそうです。その事件の三、四年前にも陸上部の韓国籍の選手にも同じことをして悪者にしたそうです。私は自分に対する大きな差別をここで経験しました」
http://shinsho.shueisha.co.jp/column/zainichi2/001/

三省堂書店は「クラブ三省堂」会員向けに、店内に在庫がなくても、トーハンが提供するWeb倉庫の約80万点に在庫がある場合、店内検索機から簡単に取寄せ注文ができるサービスを開始した。
http://www.books-sanseido.co.jp/event/pdf/nr_20140408_01.pdf

カルチュア・コンビニエンス・クラブは「TSUTAYA すみや静岡本店」を静岡市葵区の呉服町タワーに移転し、4月5日にグランドオープンした。「TSUTAYA すみや静岡本店」は静岡で約80年営業してきた「すみや」を継承する「TSUTAYA すみや」ブランド10店舗の中の旗艦店である。
http://news.mynavi.jp/news/2014/04/09/122/

◎ファッションアプリ「WEAR」のバーコードスキャン機能が廃止されることになった。
「アプリは200万ダウンロードを超えるヒットになっており、今後は人気のコーディネート共有機能をメインに据える」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1404/08/news116.html

iOS向け辞書アプリ「大辞泉」が、4月7日にリリースされたバージョン2.0から有料に方向転換。2000円となった。フリーミアムモデルは失敗に終わった。
「ダウンロード数は11カ月弱で約15万件、直近7日間のユニークユーザー数も5000人と、『辞書アプリとしては、充分に大きい』数字を獲得したが、最も重要と位置づけていた課金率は0.5%にとどまった」
採算ベースは5%だったそうだ。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1404/08/news120.html

5)【深夜の誌人語録】

惰性は禁物だ。惰性は必ず頽廃を招き寄せるのだから。