【メディアクリティーク】学研の3社消滅による「学研プラス」誕生について大いなる危惧 広報体制の不備は上場企業としての社会的責任の欠如と経営不安の材料である

学研ホールディングスの広報はどうなっているのか? これが東証一部上場企業のも広報なのか。これが出版を起点にして教育を手がける企業の広報なのか。開いた口が塞がらないとは、このことだ。
 端緒は、8月21日のインタビュー申し込みだった。学研ホールディングスは、昨年11月に修正2カ年計画「Gakken2016」を発表し、「出版事業の不採算分野を段階的に縮小し、経営資源を学習参考書や児童書などの教育分野にシフト」していくという方向を打ち出した。現在、それがどこまで進み、どのような状況にあるのかを取材しようと思ったのだ。以前の広報室長は藤林仁司氏だったが、電話をすると女性の声で「藤林は異動になり、現在は私が室長の小野です」という。
 私たちが取材要旨を伝えると、小野室長は企画書を送って欲しいと言い、「3社が合併してできる新会社、学研プラスの責任者がお答えしたほうがいいでしょう。そこに私が立ち会う形になると思います」と話したが、責任者が休みなので日程は調整してから伝えるという返事だった。
「3社が合併してできる新会社、学研プラス」? この時点で、学研マーケティング学研教育出版学研パブリッシングの3社が合併してできる会社が、「株式会社学研プラス」という社名になることを初めて知った。
 話は遡るが、先の「Gakken2016」の方針でもある「集中と選択」によって、「学研パブリッシングが展開する学研M文庫や一部のムック(歴史関係や一部女性実用)などの事業を廃止するとともに、平成27年10月1日を目処に、学研教育出版学研パブリッシング及び学研マーケティングの3社を統合すること」が、今年の2月25日の取締役会で決議され、発表されていた(ちなみにこの件に関しては、上席執行役員財務戦略室長の川又敏男氏に話を伺った。学研M文庫を廃止するわけではなく厳密に言えば縮小だと訂正したが、上記の決定以降現時点まで、本来の学研M文庫の新刊は出ていない)。
 ただ、この時点では「株式会社学研プラス」という名称は決まっていなかったはずだ。いつ決まったのか? 小野室長との電話の後でネット検索をかけてみたが、そういったニュースは発見できなかった。学研教育出版学研パブリッシング学研マーケティング3社は10月1日をもって消滅してしまう当事者なのだから、そのホームページ(HP)の「ニュース・お知らせ」あたりで、報告していても良さそうなものだが、そうした情報開示は一切報告されていない。親会社である中間持ち株会社学研出版ホールディングスのHPにも記載されていない。何故なのか。インタビューに際しては聞かなければならないことのひとつである。ひとまず、小野室長からの連絡を待つことにした。
 8月21日夕刻、小野室長から返信メールが届いた。
「現状、東証公開している情報以外で、お話できることがないため、大変恐縮ですが、今回は、改めての取材については、見送らせていただきたくお願い申しあげます。」
 ははぁ?! 当初の電話での取材に対する「前向き」な口調、内容からすれば、180度転換してしまっている。まさに朝令暮改とは、このことである。とりあえずメールに添付されているpdfを見てみた。
 それは7月31日付の「完全孫会社間の合併及び合併に伴う商号変更のお知らせ」と題するニュースリリースだった。そこには、「当社の完全孫会社である株式会社学研マーケティングを存続会社として、同じく当社の完全孫会社である株式会社学研教育出版および株式会社学研パブリッシングの2社を吸収合併することを決議いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。
なお存続会社は合併後、『株式会社学研マーケティング』を改め、『株式会社学研プラス』と商号変更を行う予定であります」と書かれていた。
 メールに書いてあった「東証公開している情報」というのがこれなのだろう。合併の当事者たる三社のホームページには一切掲載せず、学研ホールディングスのHPの「株主・投資家の皆様へ」のコーナーで、7月31日付けで、こっそり発表している内容だ。縮小をつづける出版業界にあって、学研ホールディングスが、出版三社を「学研プラス」のもとに統合するというニュースは重要な意味を持つはずだが、あまりにもひっそりと発表したためなのか、日経新聞でさえも取り上げていない。8月1日付けの日経新聞の紙面を飾ったのは河合楽器製作所との業務資本提携の記事であった。学研としては出版三社を「学研プラス」に統合することは知られたくなかったのかしらん。
そもそも学研が出版の市販部門を学研マーケティング学研教育出版学研パブリッシングの三社に分割したのは、雑誌事業の万年赤字体質を脱却するために責任と権限を明確にすべく断行されたはずである。ある意味、市販誌を事業の中核に据える学研パブリッシングにとっては正念場であったはずである。そうしたなかにあって『DVD付き樫木式・カーヴィーダンスで即やせる!』『DVD付き樫木式・カーヴィーダンスで部分やせ!』『寝るだけ!骨盤枕ダイエット』がトリプルミリオンを達成し、三社分割は成功したものと一時は思われていた。しかし、再び出版三社が「学研プラス」に統合されるということは、三社分割に失敗したということを意味するのだろう。トリプルミリオンはフロックに過ぎなかったのだ。結局、学研パブリッシングは独立させて存在させる意味がないという結論に達せざるを得なかったのであろうか。聞きたいことは山ほどある。
 私たちは、折り返し小野室長に電話をかけ、再度、取材を申し込んだが、「メールに書いた以上のことはお話しできない」と繰り返すばかり。おかしな話ではないか。担当者のスケジュールがいっぱいで取材の時間が取れないのではなく、リリースに書かれている以上のことは話せないので取材は受けられないというのが理由とは。「話すことがない」のであれば、最初に取材を申し込んだ時点で、そう答えればいいではないか。だとしても、件のリリースには、「問合せ先 広報室長 小野有紀子」と明記され、電話番号も載っている。問合せの電話にはすべからく、「書かれていること以外は話すことはない」という対応をするのだろうか? であれば、何のための問合せ先であり、広報担当なのか。

 週明けの月曜、24日の10時半ごろ、五反田の学研ホールディングス本社を訪ねた。小野室長に真意を問い質したいと思ったのだ。約束はなかったが「ご挨拶を」と言って受付で案内を請うと、電話で確認を取るので、ロビーのソファーで待つように言われた。案の定、「会議中で席にいない」ということだった。「お昼までには終わるでしょうから、ここで待たせてもらいます」断ってとソファーに陣取って待つことにした。
 20分ほど経った頃、女性がやってきて、「小野は会議中なので、代わりにご用件を伺います」という。もらった名刺には「学研グループ広報部 加藤みのり」とあったが、社名は「株式会社 学研プロダクツサポート」となっている。先週末に小野室長に新会社学研プラスのことを聞き、ご挨拶方々、少しお話ができればと思って伺った旨を伝え、午後に改めて出直しますと告げた。しかし、この広報担当者は、会議が終わる時間も定かではないし、室長の午後のスケジュールも把握していない、来ていただいても無駄足になるかもしれないと言う。室長のほうから電話なりメールなりで連絡するというので、その場を辞した。
 結局、連絡は待てども、待てども来なかった。「連絡する」という約束すら、学研の広報は守れないらしい。私たちから午後3時ごろ電話をすると、小野室長は在籍していた。もっともまた出かけなければならないというので、取り敢えず電話で質問をぶつけてみた。
――そもそも2009年の分社化は、各社で損益管理をするためだったはずですが、何故また統合するのですか?
小野室長「リリースに書いてあるとおりです。経営統合して事業構造を変えることでニーズに即した営業展開ができ、業務効率の向上が図れると判断したからです」
――学研出版ホールディングスの下に学研マーケティング学研教育出版学研パブリッシング、そして子会社化した文理があって、そのうち3社が統合されますが、学参などを出版している文理は、事業内容からすると学研教育出版と重なる部分が多いようですが、統合はしないのですね。
小野室長「学研プラスと文理を学研出版ホールディングスの下に置くというリリースの図で示したとおりです」
――不採算分野でいえば、雑誌がいちばん採算が合わないと思いますが、雑誌はどうなるとか、方向性は決まっていないのですか?
小野室長「先のメールに書いたとおり、『経営資源の集中化により児童書・教育書・実用書にシフトしていく』ということだけで、何かをやめるとか続けるとか、今の段階では何も決まっていません」
――「児童書・教育書・実用書にシフト」ということは、例えば『ムー』のような雑誌はなくす方向ですか?
小野室長「そんなこと、書いてありましたか? 先ほどお話ししたとおり、何かをやめるという話はないですし、児童書・教育書・実用書を中心にするといっても、だからと言ってそれ以外は出さないということではありません」
――予定では学研教育出版の碇秀行社長が学研プラスの社長に就くようですが、碇社長にお話しをお伺いすることはできませんか?
小野室長「発表されていること以外でお話しすることはありませんので。今、東証にて公にしている内容はそれだけですので、新たな展開があればリリース等でお知らせします」
学研の広報について、前室長の藤林仁司氏が昨年の2月に「PR TIMES」に語っている文章を見つけた。その時点で「学研ホールディングスの広報は私ひとり」と語っていたが、今もこの体制は変わっていないのだろう。実質的な広報担当は、小野広報室長ひとりなのだろうか。上場を果たしてはいなくとも、大手出版社は学研などよりも充実した広報部門を擁しているのは言うまでもないことである。
 ペーパー一枚で事足れりとする小野室長。そうであれば「広報室長」などという役職は早急にリストラされてしかるべきだろう。
「完全孫会社間の合併及び合併に伴う商号変更のお知らせ」なるリリースにもこう記されている。「本合併は、当社の完全孫会社同士によるグループ内の組織再編であり、当社の連結業績に与える影響は軽微であります」。
大切なのは読者ではなく、「株主・投資家」ということか。いや株主や投資家にしても、この程度の内容で満足などしないだろう。学研の株は「売り」だ。(田辺英彦)