【文徒】2016年(平成28)5月25日(第4巻95号・通巻782号)

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1)【記事】朝日新聞社会学者・西田亮介の「紙面批評」に修正を要求していた
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】朝日新聞社会学者・西田亮介の「紙面批評」に修正を要求していた

朝日新聞は「紙面批評」まで検閲しているということだ。事の発端となったのは社会学者の西田亮介の次のようなツイートである。
「わたしの紙面批評でたのか。やってみてわかったのは、やっぱり朝日新聞には、今でも『載せられない内容』があるということだ。『現政権の非立憲性については、学界でも異論がある』というニュアンスの一行はどうやってもいれられなかった。井上達夫先生や九大井上先生の論を挙げながら説明した」
https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/733795778984960000
問題となったのは5月21日付朝日新聞に掲載された西田による「(わたしの紙面批評)憲法改正巡る報道 生活者が是非判断できる素材提供を」だ。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12368171.html
西田の原稿にあった「現政権の非立憲性については、学界でも異論がある」というニュアンスの一行があるかないかでは、相当印象の違う文章になるだろう。「立憲主義の捉え方は一様ではない」とあるが、これでは「原型」をとどめていないとさえ言えるだろう。そもそも「紙面批評」を依頼しておいて、筆者の「自由な言論」を抑圧してしまうという、朝日新聞のヤリクチは独裁国家のそれだ。何故、この一行が掲載不可になったのか。西田は次のように説明している。
「昨日相当やりとりしたのだが、『社内で強い反対がある』の一点張りで、校閲マターではなかったようだ。ぼくも授業や講演があり、最後は時間切れ。『立憲主義の捉え方は一様ではない』になった。誰が反対してるなのか、なぜこちらは具体的に例を挙げてるのに入れられないかは説明されないまま」
https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/733796951305527296
「社内に強い反対がある」ということは、西田の「紙面批評」は、「紙面批評」の役割を果たしたということではないのか。そもそも朝日新聞の論調に同調を求めるのであれば、「紙面批評」にはなるまい。少なくとも朝日新聞に「言論の自由」を振りかざす資格はないのではないか。
「確かにすわりがよい表現ではあり、担当Y室長にもだいぶ負担をかけたのだけど、少なくとも当該『わたしの批評』欄について、当初うけた、朝日新聞の紙面について自由に論評してもよい、という説明からは遠く離れたものだったことはやっぱり書いておかざるをえない」
https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/733798074821181441
次のような西田の認識を私は持たない。
言論の自由報道の自由の擁護について、朝日新聞はかなり積極的だと思うけど、今回の件でちょっとダブルスタンダードなのではという印象をもった。だからキャンペーンをやめろという話ではない。説得力に欠くから改善すべきということ。表現や校閲マターなら、きちんと説明してくれれば良かった」
https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/733799451488342017
「少し捕捉しておくと、朝日が言論の自由報道の自由に関するキャンペーンに積極的なのはよいが、たぶんその点には一定以上の共感をしてるぼくと、自社の紙面に自由な論評を加える欄を書くにあたって、『社内で強い反対がある』の一点張りで修正要求というのではさすがに整合性が取れないという話」
https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/733803917675372544
私には朝日新聞言論の自由報道の自由の擁護について、積極的だとは思えないのである。むしろ「自論」なり「自説」を強調し、正当化するために「紙面批評」のコーナーにおいて、不当な検閲すら辞さない朝日新聞は、言論の自由報道の自由の敵対者にほかならないはずだ。
思想の科学」の鶴見俊輔が何故に葦津珍彦に原稿を依頼しつづけたかを西田の最初の原稿に強く反対した朝日の連中には決して理解できないに違いない。そもそも池上彰従軍慰安婦問題について「朝日は謝罪すべきだ」と述べた記事を寄稿したところ、掲載を拒否し、すったもんだした一件は朝日新聞にとって他所の国の出来事だったのだろうか。
ちなみに南野森は次のようにツイートしている。
「西田亮介さんの紙面批評が朝日新聞から修正要求を受けたという話。だとすると朝日は池上さんの件からヨリましな対応方法を何も学んでいないのかなという気になる。自由に書いてと依頼しておきながらこの部分は社内で反対意見が大きいから変えてくれ、では筋が通らない。『批評』を依頼してるんだから」
https://twitter.com/sspmi/status/733858923334111232
西田は「わたしの紙面批評」の原稿依頼がこの一連のツイートを投稿したことで、来なくなるかもしれないと書いているが、西田にしても「現政権の非立憲性については、学界でも異論がある」というニュアンスの一行を「立憲主義の捉え方は一様ではない」に変えるくらいであれば、今回の「わたしの紙面批評」に掲載することを断固として拒否すれば良かったのである。本来、次の依頼があるかどうかを詮索している場合ではなかったはずである。
「『わたしの紙面批評』担当、年度の後半にももう一回具体的に予定されてたのだけど、今回の件でなくなるかもしれないけど、給料を貰ってるタイプの大学教員の強みは、それならそれでまったく問題ない点。昔は特定の文系知識人と朝日新聞担当者は同級生だったり密だったのだろうけど、ぼくはそれもない」
https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/733805859386490880
「昔はこういうので泣き寝入りするしかなかったのだろうけど、いまはこうやって説明できる。それは良くなったというほかない」
https://twitter.com/Ryosuke_Nishida/status/733806885271277568
朝日新聞の圧力で修正した原稿を公にすることは、西田にとって、学者として「泣き寝入り」にしか過ぎなかったのだろうか。学者としての恥であるとは考えもしなかった?あるいは西田にとって学者としての良心は、朝日新聞の圧力に屈することで痛まなかったのか。西田は朝日新聞に不掲載になった原稿を、ソーシャルメディアを介して、発表すれば良かったのである。
日本のリベラリズム脆弱性朝日新聞も、西田亮介も象徴しているということだ。
木村幹がこの件で次のような連続ツイートをしている。
朝日新聞、またやっちゃったのか。社内の意見を書き、正当化したいなら外部のライター使うなよ。外部ライターの書いた事に、『納得出来ない』とか言って突き返すのは、主要紙じゃ、朝日新聞だけなんだよ」
https://twitter.com/kankimura/status/733800285819174913
「自分も各紙/誌に書いているけど、事実の勘違いや字句以外の『主張』の部分でライターの文章に注文つけられたのは、朝日さんしかない。注文つけている方は自覚なさそうだけど、あれは多くのライターの顰蹙を買っていると思う」
https://twitter.com/kankimura/status/733801484630917120
朝日新聞さんがこういう部分に極端に鈍感なのは、他方で依然として『朝日新聞というブランドで書きたくて仕方がない人たち』が一定数いて、彼らが積極的に社からの注文を受け入れてくれるからなのだろう。でもそれじゃあ、自らの主張を客観的に見つめる事は出来ないだろう」
https://twitter.com/kankimura/status/733802308119592960

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2)【本日の一行情報】

◎5月23日付毎日新聞の「風知草」(山田孝男)は田崎健太の「電通とFIFA」(光文社新書)を踏まえながら、東京五輪招致で「電通に聞きたい」。
「自らは手を汚さず、腐敗の慣行に便乗するのか。知らぬ存ぜぬで押し通せると思うか。『電通』に聞いてみたい」
http://mainichi.jp/articles/20160523/ddm/002/070/065000c

◎今でもカラオケに行けば必ず歌う歌がある。石川セリの「八月の濡れた砂」だ。むろん、カラオケ店に緑魔子の「やさしいにっぽん人」がないことに今でも心の底から怒りを覚える。好きな女優は「反逆のメロディー」を経て「野良猫ロック」シリーズに至る梶芽衣子。日活ロマンポルノ、荒木一郎原田芳雄も好きだった。こうした私の趣味嗜好は、実のところ深夜放送「パックインミュージック」のDJであった林美雄の「アジテーション」の影響を受けてのことだったのかもしれない。このことを柳澤健の「1974年のサマークリスマス」(集英社)を読んで痛感した。
http://gakugei.shueisha.co.jp/kikan/978-4-08-781610-5.html

20日、インターネット上の「Yahoo!知恵袋」の掲示板に、「5月23日午後3時34分、集英社に爆弾を仕掛けさせていただきます。本気ナリよ」と書き込まれていたそうだ。TBSの報道によれば、「23日午後、集英社の社員と警視庁の捜査員が社内や周辺に不審物がないか点検を行いましたが、爆発物などは見つからなかった」そうだ。悪質なイタズラだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20160524-00000005-jnn-soci

ポプラ社の「コミック版日本の歴史シリーズ」から橋本佐内のマンガを出すには200万円かかるということなのだろう。ポプラ社は大儲け。福井新聞の記事「橋本左内の漫画出版へ募金開始 ポプラ社から、シナリオは制作中」である。
「自らを律する「啓発録」を15歳で書いた幕末の福井藩士、橋本左内の功績を後世に伝えようと、藤島高と旧福井中、旧福井高等女学校の卒業生でつくる「明新会」は21日、今秋に左内を主人公にした歴史漫画を出版するための募金活動をスタートさせた。目標金額は200万円」
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/95960.html

◎北田博充の「これからの本屋」(書肆汽水域)の重版が決定した。6月4日にネイキッドロフトトークイベントが開催される。
http://www.ikabunko.com/news/detail.php?no=1463846261

◎味の素は、東日本大震災の被災地の仮設住宅の住民にあたたかな「食」の機会を届ける「味の素グループ 東北応援 ふれあいの赤いエプロンプロジェクト」を展開しているが、復興の原動力となった「食のチカラ」を紹介する書籍「復興ごはん」を小学館より今日発売する。
http://www.ajinomoto.com/jp/presscenter/press/detail/2016_05_20.html

大日本印刷が製造しサンゲツが販売した「クロス」(壁紙)を欠陥だと告発するブログサイト(5月22日付)を発見した!・・・と思ったら、ヤバイと思ったのか削除されていた。とはいえグーグルにキャッシュが残っていた。
http://goo.gl/c2Vknf

◎CEホールディングスで、電子カルテシステムの開発・販売を行うシーエスアイ(CSI)は、朝日サービス(本社:札幌中央区)の地域密着見守り・生活サポートサービス「ふれあい」に、高齢者向け安否連絡システム「安タッチ」を提供する。朝日サービスは、5月20日より「ふれあい」の販売を開始している。
朝日サービスは、「ふれあい」の取扱を札幌市西区朝日新聞売店から開始し、北海道内及び全国へと取扱販売店を増やしていく予定だそうだ。
http://www.csiinc.co.jp/pr/20160520_fureai.html
新聞販売店の兼業化も進む。

講談社は、新作「シン・ゴジラ」(総監督:庵野秀明)の公開に合わせ、東宝ゴジラ」全作とゴジラと戦った怪獣の出演作を完全収録したDVDマガジンを全51巻予定で7月12日に創刊する。
http://ent.kodansha.co.jp/godzilla

◎代官山蔦屋書店で、「POPEYE」(マガジンハウス)の創刊40周年を記念し、6月13日(月)に創刊メンバーで元編集長の石川次郎と現編集長の木下孝浩による"僕とポパイ"をテーマとしたトークイベントを開催する。
http://top.tsite.jp/lifestyle/lifetrend/campaign/28955103/
「ポパイ」の誕生をもって、「カウンターカルチャー」は政治性を脱色して、ライフスタイルに足場を築き上げていく。最初の「ハワイ」特集号が室謙二によって作られたことを想起したい。「ポパイ」に室を紹介するのは片岡義男である。というよりも「ポパイ」は片岡に最初に声をかけたのである。
室はベ平連で、米軍脱走兵援助活動に関わった人物だが、シールズと同じ明治学院大なんだよね、室は中退だけれど。いずれにせよ、創刊当時の「ポパイ」の素晴らしさは、無主義・無規則・無方針が貫徹されていたことだと私は思っている。面白ければそれで良い、楽しければそれで良い、気持ち良ければそれで良い…そんな雑誌として「ポパイ」は創刊されたのである。当時、私はそこにアナキズムの匂いを嗅ぎ取ってしまったのである。

◎7月23日に公開される劇場アニメ「ONE PIECE FILM GOLD」の前日譚となる、完全新作アニメ「ワンピース 〜ハートオブ ゴールド〜」が、7月16日午後9時から土曜プレミアム枠で放映される。
http://anime.eiga.com/news/102618/

◎「週刊少年マガジン」(講談社)の連載が原作のアニメ「七つの大罪」が、ガンホースマホアプリ「ケリ姫スイーツ」とコラボすることになった。
http://app.famitsu.com/20160523_727092/

◎学研プラスは、音楽総合エンタテイメント事業を展開する「スペースシャワーネットワーク」との協業による、月額見放題のiOS用動画配信アプリ「学研こどもシアター」を、5月23日にリリースした。1週間は無料で、その後は月額480円。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000670.000002535.html
https://itunes.apple.com/us/app/xue-yankodomoshiata/id1097003378?l=ja&ls=1&mt=8

◎「hinata」は光文社のファッション誌「VERY」とのコラボにより、「VERYママ旅 国内ツアー第7弾」として、北軽井沢スウィートグラスで体験する「VERY的“身軽な”キャンプツアー」の開催を決定し、募集を開始した。
http://meet.veryweb.jp/mamatrip/camp/

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3)【深夜の誌人語録】

敗北が決まったならば、敗北から逃げては駄目だ。敗北が決まったならば徹底的に敗北を味わうことだ。人の器量は敗北を糧にできるかどうかで決まるのだ。