【文徒】2016年(平成28)10月11日(第4巻189号・通巻876号)

Index--------------------------------------------------------
1)【記事】 電通新入社員自殺報道をめぐるネット上での言説
2)【記事】Kindle Unlimitedは「5カ月分の予算が最初の1週間で消えた」!?
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.10.11.Shuppanjin

1)【記事】電通新入社員自殺報道をめぐるネット上での言説(岩本太郎)

電通の24歳女性新入社員が昨年12月25日に投身自殺した件について、遺族側弁護士と母親による7日の会見で、三田労働基準監督署により過労死認定されたことが明らかにされた。先日のインターネット広告問題の余韻が冷めやらぬうちだったこともあってか、大手メディアも一斉に報じ、ネット上でも堰を切ったかのように大量かつ様々な言説が溢れ返っている。
http://www.asahi.com/articles/ASJB767D9JB7ULFA032.html
http://www.yomiuri.co.jp/national/20161007-OYT1T50131.html
http://mainichi.jp/articles/20161008/k00/00m/040/088000c
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG07H9P_X01C16A0CR8000/
http://www.sankei.com/affairs/news/161007/afr1610070012-n1.html
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016100700720&g=soc
http://this.kiji.is/157042800611131399?c=39546741839462401
この件では亡くなった女性が死の直前まで、長時間にわたる勤務の中で精神的に追い詰められていった様子をツイートしていたことが、まさに炎上に油を注ぐ格好となった。彼女のツイッターアカウントは7日の報道が出てからしばらく経った頃に非公開とされてしまったが、今でもツイート内容はウェブ上のまとめサイトなどから見ることができる。
http://menhera.jp/862
http://togetter.com/li/1034228
それらを読んだネット民たちからどんな反響が沸き起こっているかは推して(読んで)知るべしだろう。ただ一つだけ挙げると、元『週刊朝日』編集長の山口一臣が第一報が流れてほどなくより、生前に面識のあった彼女への痛切な思いを込めつつ、ネット上に溢れかえる誤った情報(例えば彼女がクリスマスに自殺したことをもって失恋が原因であるかのように書いたり、彼女の死をきっかけに原因を電通の体質批判へと性急に持っていこうとする言説など)に対して逐一諫めにかかっているのは目を引いた。
彼女は学生時代にネット放送の「週刊朝日UST劇場」に出演しており、当時は山口にも「週刊朝日の記者になりたい」などと語っていたのだそうだ。
《まつりは週刊誌の記者になりたいと言っていた。でも、電通に就職が決まって、みんな喜んだ。職場も近いし、またみんなで飲みに行こうとか言ってたのに。かなわないまま死んでしまった。朝日新聞社から電通までは歩いて5分とかからないのに。こんなに近くにいながら、何もできなかった。ゴメンね。涙。》
https://twitter.com/kazu1961omi/status/784391658896883712
《表沙汰になっただけで大嶋一郎さん事件があり、人事の研修では反面教師としてよく取り上げられています。ただ、問題はこれは電通という会社の固有の事象ではないということです。電通は有名企業なので大きく取り上げられるけど、この背景にはもっと沢山の人が苦しんでいるという実態を見るべきです。》
https://twitter.com/kazu1961omi/status/784403151117889536
彼女が電通の社員であるほかに、そうした形で学生時代からメディアに露出していたこともネット上の騒ぎをここまで拡大した要因になっているのは確かだろう。一方で、武蔵野大学教授の長谷川秀夫が「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない」などと述べたネット上での発言はたちまち炎上。長谷川も当該記事を削除し、謝罪に追い込まれた。
http://matome.naver.jp/odai/2147589075970863601
http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/08/pro-hasegawa-talks-bout-dentsu_n_12411532.html
博報堂出身の中川淳一郎は8日付のブログ記事で、自身が博報堂時代に「月の残業時間が300時間を超えた」という経験(ただし、だからと言って「100時間ぐらいで死ぬのはおかしい」などと言っているわけではないので念のため)を披瀝しつつ、なぜ広告業界においてこうした長時間労働が蔓延する背景に一体何があるのかを論じている。
http://jnakagawa.blog.jp/archives/1061586847.html
いずれにせよ、今の広告ビジネスの在り方、広告会社の現場における労働の実態をきちんと押さえたうえでの検証作業がこれからは求められるところだ。

                                                                                                                        • -

2)【記事】Kindle Unlimitedは「5カ月分の予算が最初の1週間で消えた」!?(岩本太郎)

「ニコ生」特番で現役出版社社員がKindle Unlimitedで「5カ月分の予算が最初の1週間で消えた」と証言した。
舞台となったのは、ジャーナリストの津田大介、西田宗千佳、弁護士の福井健策、そして匿名の現役出版社社員の4人が出演し、10月6日夜に配信された「ニコニコ生放送」のニュース特番「【Amazon vs 出版社!?】Kindleアンリミテッドに限界はくるのか?」。
現役出版社社員の平田(仮名)氏は覆面姿で出演した。番組は終了したものの、その模様は「ねとらぼ」でまとめられている。
《この「読み違え」がAmazonにとって想定外だったのは間違いありませんが、西田氏によれば「想定外のレベルが違った」とのこと。現役出版社社員の平田氏(仮名)は、あくまで伝聞だとしつつも、「最初の1週間でAmazonが用意していた1年分(8月スタートなので実質5カ月分)の予算が消えた」とコメント。単純に考えれば、5カ月(23週間)分の予算が1週間で消えたわけですから、想定の20倍以上のスピードで予算が吹っ飛んだ、という計算になります。また当初の契約には“契約延長”についての項目も盛り込まれており「もっとかかる見積もりだったのでは」と平田氏》
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1610/06/news161.html
http://live.nicovideo.jp/watch/lv277941096
福井健策はさらに「弁護士ドットコム」において、今回のKindle Unlimitedをめぐる問題の背景にあるサブスクリプション・モデルの定額読み放題サービルが抱える本質的な問題点を次のように指摘する。
《今回の個別ケースを離れていえば、アマゾンやアップルのようなプラットフォームは、コンテンツ提供者との契約で、提供されたコンテンツをいつ、どのように販売するかの自由裁量を求めがちです。
これは、むしろ通常の条件といえますが、その他の点でも、コンテンツ販売契約はプラットフォーム側に一方的に有利である場合が多いです。
その象徴といえるのが、『他の電子書店に提供するのと同等以上の条件で必ずアマゾンにも電子書籍を提供すること』を義務づける、いわゆる<最恵国条項>です》
《一方、コンテンツを提供している企業からすれば、コンテンツの売上低下・価格低下(フリー化)が続くなかで、苦渋の選択として参加してきた部分もあります》
《こうした軋轢の解決は容易ではなく、ユーザーからは中で何が起こっているか見えにくいのも問題です。一つには、巨大プラットフォームと社会が幸福に共存するため、公正な契約慣行やオープンな運営を求めていくことでしょう。
もう一つは、同時に、日本独自のプラットフォームやビジネス発信を育てていくことです。いずれも、EUも探っている道筋です。オーソドックスですが、この二つだろうと思っています》
https://www.bengo4.com/internet/n_5189/
『DIGDAY』では編集者の中島未知代が、上記のほか講談社が3日にアマゾンに対して行った抗議を引き合いにしつつ、電子書籍のビジネスモデルを確立するうえで今回の問題は「避けて通れない道」だとして以下のような見解を述べている。
Amazonには多くのアカウント会員がすでにいることもあり、会員にサービス利用してもらうことには成功している。ところが、そのサービスの維持に耐えかねたようにみえる今回の事態は、読者が読みたい作品を購入できないという影響も及ぼしている。電子書籍の欠点のひとつは、サービス側がタイトルの配信を停止してしまうと作品を読めなくなる点だ。作品数が限られるプラットフォームにユーザーは魅力を見出さないだろう》
《しかし、長期的に見れば、定額制読み放題サービスは、プラットフォームがデジタル世界においてより巨大なパワーを得るための土台作りといえる。事実、予算設定に誤算があったにせよ、今回の一件で電子書籍には大きな需要がまだあることが判明した。
会員制なためリッチなデモグラフィックデータをすでにもっているプラットフォームが、定額制読み放題サービスでさらなるユーザーデータを手に入れば、新しいビジネスモデルが花開く可能性もある。デバイス電子書籍のページを捲っているときに、高度にターゲティングされた広告を目にする日がくるかもしれない》
https://shar.es/1EfyqT
一方で米国のアマゾンはKindle Unlimitedとは別に、有料会員サービス「Amazon Prime」に、約1,000作品以上の電子書籍・雑誌などを読み放題になる特典をこのほど追加した。
http://internetcom.jp/201631/amazon-prime-reading
現在は米国のみであり、日本にやってくるまでにはまだ時間がかかりそうだが、その頃にはたしてKindle Unlimitedがどうなっていることか。両社の兼ね合いも含めて、電子書籍のビジネスモデルをめぐり再び議論を呼ぶことになるかもしれない。

                                                                                                                        • -

3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎「コルク」代表の佐渡島庸平がブログ開設以来3カ月にして初めて自ら執筆。創業から5年目を迎えるに際しての思いを語り、改めてコルクのミッションを確認しつつ、これまでは社内に置いていなかったCTO(最高技術責任者)として、ナビタイムでの経路検索エンジン開発やリクルートでの新規事業開発を担当したエンジニアの萬田大作を招き入れたことを発表。萬田も自身のツイッターアカウントにてその旨を公表した。
http://blog.corkagency.com/about-column/941/
https://twitter.com/daisakku/status/783866115453652992

KADOKAWAが今年7月、著作権の保護期間が終了したとして翻訳、出版したアメリカ人作家デール・カーネギーの「人を動かす」(1936年にアメリカで最初に出版)が、実はその後に遺族によって加筆された改訂版を底本にしており、しかも日本では別の出版社が独占翻訳権を持っていることが判明。KADOKAWAは先月中旬にこの本を絶版にし、目下回収を進めているとのこと。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161007/k10010721491000.html

資生堂は化粧品ブランド「インテグレート」のテレビCMに対して「差別的」「セクハラ」「不快」などの苦情が殺到したことを受けて、同CMの放送を中止のうえネット上で公開されていた動画も10月7日に削除。25歳の誕生日を迎えた主人公の女性に対し、友人たちが誕生祝の席で「今日からあんたは女の子じゃない」「もうチヤホヤされないしほめてもくれない」と、ふざけながらも厳しい言葉を投げかけた場面などが問題視され、炎上したことが理由らしい。
http://www.shiseido.co.jp/ie/ie/
http://netgeek.biz/archives/84809
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1610/08/news017.html

電通の9月度単体売上高。雑誌は前年同月比86.1%。インタラクティブメディアは115.5%。全社では103.5%
http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2016122-1007.pdf

◎ビデオリサーチはこの10月3日より関東地区におけるテレビ視聴率の調査方法を変更。調査世帯のサンプル数を600世帯から900世帯へと(人数では約1500人から約2300人へと)19年ぶりに拡大したほか、これまでリアルタイム視聴とは別立てで行ってきたタイムシフト視聴のデータも同じ900世帯で行う形に改めている。
http://mainichi.jp/articles/20161007/k00/00e/040/253000c

アサツー ディ・ケイADK)は9月5日にマーケティングコンサルティングの新会社、アブソルートワンを設立した。代表取締役社長の本松慎二郎は、銀行やコンサルティング会社を経て2006年にADKに入社、ダイレクトマーケティング案件で大手クライアントを数社担当しつつ、グロースハック・プランニング室長、2016年からは第5デジタルプランニング局長を務めてきた。『Markezine』のインタビューに応えて、会社設立に際しての思いを以下のように述べている。
《今後はこうしたデジタルソリューションが常に提案できるような体制を、ADKとして持つべきではないか。組織として対策を講じておかないと、これからの時代に立ち行かないと思ったのです
広告会社の利益の源泉は媒体手数料ですが、当時は特にマス媒体が主流です。入社時の2006年は、マスと比べるとデジタル広告費は約10分の1、通販系でも最大に見積もって5分の1くらい。そうなると、メディアとの取り引き総量ばかりが判断材料になりがちで、テレビをやっていないクライアントは、敬遠されるような傾向がありました。
一方で、デジタルがもたらす価値や可能性は明らかで、メディアバイイング以外の作業に、もっと自覚的に目を向けないと、時代に置いていかれる。私の中で、こうした危機感がずっとくすぶっていました。広告という側面以上に運用面で、デジタルに求められることは計りしれないからです》
http://markezine.jp/article/detail/25296
https://www.adk.jp/11822.html

◎「ネカフェ」「漫喫」にも電子書籍化の波が押し寄せてきている。インターネットカフェ「グランサイバーカフェ バグース、コミックカフェBネット」を運営するバグースは、この10月から全17店舗において電子書籍システム「ビューン読み放題スポット」のサービスを開始。雑誌は70冊以上が発売日の当日に閲覧でき、コミックも約10,000冊も読み放題。店内Wifiに接続することで持参のスマホタブレットでも自由に閲覧できるという。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000419.000007303.html

◎5日から日本テレビ系列で放送が始まった石原さとみ主演の連続テレビドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(原作は宮木あや子KADOKAWAから出している小説シリーズ)は出版社、中でも校閲部門を舞台にしたという珍しい作品だが、そこで描かれている校閲を中心とした出版社の仕事についての描写について「あまりに現実離れしすぎていて、放送事故レベルにも思えます」(50代の校閲者)などとさっそく出版業界関係者などから批判が続出しているらしい。
http://biz-journal.jp/2016/10/post_16860.html
もっとも、出版業界でもその校閲のクオリティの高さがかねてより指摘されている新潮社は、ドラマの放映をきっかけに校閲の仕事への関心が集まり、様々な媒体から自社の校閲部に取材が来ていることにご満悦らしい。ドラマの内容への批判はそっちのけで自社の公式サイトに「ドラマ放送で大注目!『「新潮社校閲部』“棟梁”に聞く凄さのヒミツ」と題した記事を載せて自画自賛している。
http://www.shinchosha.co.jp/news/article/222/

◎その新潮社が、かつて昭和天皇がいわゆる「御召列車」(専用列車)に乗車して全国各地を回った記録をまとめた『昭和天皇御召列車全記録』を刊行。監修は原武史で、編者は日本鉄道旅行地図帳編集部。
http://www.shinchosha.co.jp/book/320523/
ちなみに新宿コクーンタワーのブックファーストに先日足を運んだら、鉄道書のコーナーにうやうやしく(?)ビニール掛けで立ち読み不能な形で置かれていた。鉄道好きの私(岩本)もあまりこういうケースは見たことがない。
https://twitter.com/iwamototaro/status/784741097771630592

◎新宿を中心に音楽やトークのライブハウス「ロフト」を展開するロフトプロジェクトの創始者・平野悠が「幻冬舎plus」にて連載「ロフトプラスワン事件簿」を開始した。
http://www.gentosha.jp/category/LoftPlusOne

◎「ネット上の争いでは、リベラルは99%負ける」と津田大介
http://www.huffingtonpost.jp/2016/10/07/daisuke-tsuda-interview_n_12383414.html

                                                                                                                        • -

4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

他所の人たちに「お隣りでしょ」「同じ県内でしょ」などと自分中心目線で物を言ってはいけない。札幌と根室は、東京と岐阜の間よりも離れているのだ。