【文徒】2017年(平成29)年2月21日(第5巻33号・通巻962号)

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1)【記事】斎藤貴男日本工業新聞時代の提灯記事を告白
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】斎藤貴男日本工業新聞時代の提灯記事を告白(岩本太郎)

創刊特集「買われた記事 電通グループからの『成功報酬』」での『ワセダクロニクル』の“衝撃のデビュー”にメディア界では今なお余韻が冷めやらぬ状況のようだ。新聞各紙は今なお黙殺状態だが、ネット上ではこれまで『東洋経済オンライン』『THE PAGE』などが相次いで『ワセダクロニクル』編集長の渡辺周へのインタビュー記事をプロフィールや顔写真も添えながら大きく掲載した。
http://toyokeizai.net/articles/-/157401
https://thepage.jp/detail/20170215-00000003-wordleaf
『NEWSポストセブン』も医療ガバナンス研究所理事長の上昌広の以下のコメントなども含めつつ紹介していた。
《「私自身、この記事に大きな衝撃を受けましたし、記事を読んだ人の多くは、“これって氷山の一角じゃないの?”と感じたのではないでしょうか。奇異なのは、医薬品という命に関わる問題に関する報道で、しかも大企業と大メディアという錚々たる顔ぶれが登場しているのに、テレビや新聞が見て見ぬふりをしているということでした」》
http://www.news-postseven.com/archives/20170219_494626.html
渡辺と同じ朝日新聞記者出身のジャーナリスト・亀松太郎も、18日に早稲田大学の近くで開かれた同誌創刊記念シンポジウムに出席した渡辺の以下のような発言を引用しながら、同誌への期待を表明している。
《考えてみてほしいのは、たとえば朝日新聞には記者が2000人以上いるわけです。我々、ワセダクロニクルはお金がなくて、10人ぐらいの記者と、学生のリサーチャーたちで調査報道をやろうとしている。
朝日新聞は2000人以上も記者がいるのに「調査報道ができない」というのは、どういうことなのか。なぜできないかといえば「フォロー取材」ばかりしているからなんですよね。(他社が書いた記事を)落とさない。特オチ(他社に特ダネを書かれること)をしない。あるいは、自分が担当しているところはしっかり守るけれど、その陣地から出ていかないという取材をしている。》
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kamematsutaro/20170219-00067858/
もう一人、大きな期待を表明している先輩ジャーナリストが斎藤貴男だ。『ハフィントンポスト』が「『君の記事でそれなりの物は頂いた』上司の言葉に記者クラブで泣いた。斎藤貴男氏が語る」という刺激的なタイトルで掲載した19日付の記事には、斎藤がこんなエピソードを告白している。
記者クラブにいたら、部長から電話があって「今すぐ社に上がってこい」と言われて行ったところ、60歳くらいのおじさんを紹介されて、「今からこの方が言うことを記事にしろ」と言われて書いたんですね。(略)「君が書いたあの記事を持って、彼は銀行に行く。すると融資が下りることになっとる。我が社もそれなりの物はいただいた。おっと、君の言いたいことは分かるが、これは君の給料にもなるんだから、ここは何も言うな」と、言われました。
「俺は一体、何をしているんだろう。記者になりたかったはずなのに、こんな恥ずかしいことをしているのか」と思ったんだけど、そもそもうちの新聞はそんなに信用されてないし、中小企業の役に立てるならいいか……と、そのときは割り切ったんですが、記者クラブに戻って隅っこの方で泣いてたんですね。》
その「業界紙」とは、若き斎藤が所属していた産経新聞傘下の日本工業新聞(現在のフジサンケイビジネスアイ)のことであろう。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/02/19/takao-saito_n_14855526.html

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

日経新聞が「電通、2つの事件をつなぐ線」と題して、ネット広告不正事件と過労死問題との間をつなぐ線から垣間見える電通の課題に言及。
《薄利と分かっていても、ネット広告の注文を受けてしまうのはそのためだ。関連会社も使ってこなそうとするが、需要増に追いつかず、給与水準の高い電通の社員まで投入していくことになる。とはいえ、「単価の安い媒体」には変わりがないため重要視されない。ネット専業の広告会社が、現場作業を次々と東南アジアに移し、報告リポートの自動化を進めるのに対して、電通の効率化はなかなか進まなかった。
「デジタル蟹工船」。電通のネット広告の現場は、関係者の間でそうささやかれていた。》
《「100年以上続いた電通ではできないことがある」。電通デジタル社長の丸岡吉人は設立の趣旨をこう説明する。メディアとともに成長してきた電通は、どうしても立ち位置をクライアント企業側に移しきれない。だが、デジタル事業には「広告枠」という概念は存在しない。しかも、ネット広告の市場は2ケタ成長を続け、2兆円を割り込んだテレビ広告を2020年ごろに追い抜くと予想されている。
「テレビのデジタル化が進めば、CM枠もいずれは手売りからオンライン入札に変わっていく」。大手広告代理店幹部だったデジタルインテリジェンス社長の横山隆治は、深夜など視聴率の低い時間帯のCMから、ネット広告のような自動売買のシステムが浸透すると見ている。》
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO12979520W7A210C1000000/

◎2月10日に行われた印刷メディアビジネスの総合イベント「page2017」で、日本印刷技術協会(JAGAT)が開いたカンファレンス「デジタルメディア時代の出版ビジネス最前線」には、出版デジタル機構社長の新名新、文藝春秋電子書籍編集部長の吉永龍太、エブリスタ芹川太郎という、電子取次・出版社・プラットフォームの三者からのパネリストが登壇。
《新名氏も、電子書店から「もっと短い本をたくさん出して欲しい。そのほうが競争力がある」と言われていると明かす。いまの普通の本は、他のコンテンツと時間の奪い合いをするには長すぎるというのだ。紙のレプリカである“電子書籍”はいずれ、「昔はそんなのもあったよね」と言われるようになるのではないか、と新名氏は予想している。》
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/1044708.html

◎6日に発売された白石麻衣の写真集『パスポート』は発売初週で10万部を売り上げる大ヒットとなったが、同書を担当した講談社・第一事業販売部の久保田千尋は《白石が過去に出版した写真集が男性から、フォトブックが女性から支持されたという販売データを持っており、企画段階から「ファン層の広さに可能性を感じていた」》という。10万部という初版部数についても《事前の予約数が過去に例のない伸び方をしていたので、この客観的なデータに加えて『白石さんほどの人気メンバーの写真集だから、この部数で勝負すべき』という社内評価が多かったことを受け、超異例の大部数を決断しました》とのこと。
http://www.asahi.com/and_w/interest/entertainment/CORI2086136.html

◎引退する橋本奈々未の写真集『2017』(20日発売)も、小学館は初版8万部を当初予定していたが発売前に重版・重々版として各1万部を追加。計10万部でのスタートになった。
http://www.news-postseven.com/archives/20170220_494624.html

◎ファッション誌『Soup.(スープ)』が3月23日に発売の5月号をもって紙媒体を休刊し、デジタル版に移行することを決定。出版関連事業で安定した収入を得ることが難しく、利益を計上できなかったことが理由だという。今後は商標「Soup.plus」を使用したライセンスビジネスに経営資源を振り分けることで黒字化を目指すとのこと。
http://www.fashionsnap.com/news/2017-02-17/soup-stop/
ちなみに公式サイトでは休刊はまだ告知されていない。一方でウェブ版のライター募集は継続中。
http://soupplus.jp/

早川書房Twitterに公式アカウントの認証マークの申請を却下されたそうだ。2009年から運用を始めた同社アカウントのフォロワーが5万人を超えたことから今月6日に申請したところ、14日に却下されたとのこと。理由は不明。
https://www.buzzfeed.com/kotahatachi/hayakawa-twitter
https://r25.jp/topic/00055683/

◎のん(能年玲奈)によるムック『創作あーちすと NON』が太田出版より3月16日に刊行の予定。
http://www.ohtabooks.com/publish/2017/03/15154636.html
http://www.cinra.net/news/20170217-non

KADOKAWAに15年勤務し、月刊『俳句』の編集長を5年務めたフリー編集者の鈴木忍が自宅を事務所に一人出版社の「朔(さく)出版」を設立。初出版として句集とエッセーを刊行したそうだ。
http://mainichi.jp/articles/20170218/dde/041/070/021000c

◎戦国時代や幕末に比べて今一つ人気がないと言われる「応仁の乱」だが、昨年10月より中公新書で発売された『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(呉座勇一)は既に12刷・13万部のベストセラーになっている。SNSで歴史クラスタ(歴史好きの集団)が本の評判を広げたことも大きく作用したらしい。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/10/102401.html
http://mainichi.jp/articles/20170218/k00/00e/040/273000c

ポルトガル出身で、日本の広告業界では数少ない「外国人女性クリエイティブ」であるクラウディア・クリストヴァオ(AKQA東京のグループクリエイティブディレクター)に『campaign』日本版がインタビューした。
https://t.co/YLfHS1n3mR

◎「楽天市場やヤフーショッピングで購入した商品がアマゾンから届いた」とのネット上での報告が増えているとのこと。転売事業者が商品を仕入れないままアマゾンでの販売価格より高い価格で仮想モールに出店し、代理購入のうえギフト扱いで発送することで利ざやを稼いでいるらしく、楽天もヤフーも対抗措置を目下講じているそうだ。
http://www.tsuhanshinbun.com/archive/2017/02/post-2767.html

京都府立図書館は全国の公立図書館では初めて、蔵書検索にクラウドソーシングを活用して精度向上を図る取り組みを始めた。岐阜県で蔵書検索システムの構築を手がけている民間会社「カーリル」(岐阜県)や同志社大学などと共同で実施しているという。
http://s.kyoto-np.jp/politics/article/20170217000061

秋田県能代市立図書館は、地元の能代山本医師会病院での本を貸し出しを昨年秋から開始。入院患者から好評だそうだ。
http://www.sakigake.jp/news/article/20170219AK0014/

ドイツ国立図書館が昨年11月から始めた「紙書籍閲覧→電子書籍閲覧」優先方針を撤回し、従来通り紙書籍の閲覧リクエストも同等に取り扱うことを明らかにしたと電子書籍ニュースサイト「e-book-news.de」が報じた。「オリジナル蔵書の保存状態の維持」を理由に方針としたものの、一部の来館者やジャーナリストたちから「紙のオリジナルを閲覧させないのは中央図書館としておかしい」との批判が高まったとのこと。
https://hon.jp/news/1.0/0/10853

アメリカでは今や全国各地の小さな書店が《トランプ大統領に抵抗するリベラル勢力の拠点になりつつある》らしい。社会正義をテーマとした読書会などのイベントが盛んに開かれたりしているという。背景には米国内で個人経営の書店が金融危機後の2009年から2015年までの間に27%増加するという大幅な回復ぶりを見せていることがあり、そうした書店が大統領選以降に政治的関心を深めた人々の受け皿になっているようだ。
https://www.businessinsider.jp/post-922

YouTubeはスキップできない30秒広告を2018年に廃止すると発表した。
http://iphone-mania.jp/news-155752/
http://getnews.jp/archives/1633766

◎『VOGUE』に掲載された「芸者」風スタイルの写真を批判されたモデルのカーリー・クロスがTwitter上で謝罪したという。主な批判の理由は「日本の文化を盗用した」というものだったとか。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/02/16/vogue_n_14788604.html?ncid=engmodushpmg00000004

◎「ポストカード(Post Cards)」と名づけたブランデッドコンテンツ広告の新フォーマットを開発した。従来は全てのユーザーに同じネイティブ広告を見せていたのを、動画をたくさん見ているユーザーには動画で始まる広告を配信するという具合に、コンテンツをユーザーごとのサイト上での履歴を踏まえて組み立ててから表示する仕組みだそうだ。
https://shar.es/19wetW

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

電網恢恢疎にして漏らしたところから大事件や大発見や大発明が生まれてくる。