【文徒】2016年(平成28)年11月22日(第4巻218号・通巻905号)

Index--------------------------------------------------------
1)【記事】『ロッキング・オンの時代』で顧みる独立系出版社の草創期
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.11.22.Shuppanjin

1)【記事】『ロッキング・オンの時代』で顧みる独立系出版社の草創期(岩本太郎)

先週末に都内の書店に並んだ橘川幸夫ロッキング・オンの時代』(晶文社刊)が面白い。新宿の紀伊國屋書店本店で見かけるや否や購入してしまったのだが、本紙発行元の「出版人」も昨今出版に進出し、他ならぬその新宿紀伊國屋の同じフロア(3階)にてフェアをやっているということもあってか、興味津々とばかりに読み始めてからほどなく購入してしまった。私(岩本)は新宿から地下鉄で所用7分の中野区内に在住だが、最近ではこうした本は近隣の書店には置かれない。というか、近隣に書店がないからわざわざ新宿まで行かなければならなくなる。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4094
ロッキング・オン』は今でこそ日本における音楽雑誌の老舗で、『CUT』など音楽以外にもエリアを広げた様々な雑誌の版元になっている。が、1972年の創刊当時は、学生だった渋谷陽一橘川幸夫岩谷宏松村雄策の4人が作る、定価150円のほとんどミニコミ誌だった。今も「ロッキング・オン」を仕切る渋谷と松村は同誌上やラジオでのトークなどで知名度も高いが、本書は上記の創刊4人衆の中でこれまでマスメディアにはあまり露出してこなかった橘川による回顧談だ。そこから少し引用すると、
《初めて会う渋谷は、きさくな男であった。新宿の落合に住んでいて、同じ新宿区の住人である。渋谷は浪人生であり、僕は大学生であった。新しい雑誌をやりたい、という意欲を渋谷は語った。僕の親父が高田馬場小滝橋で小さな印刷屋をやっているので協力してもらえるかもしれない、というと、渋谷のギョロッとした目が一層輝いた》
《創刊準備の会議が終わって、渋谷から声をかけられた。
「きつかわ、暇だろ。これから広告営業に行こうぜ。まだまだ費用が足りないから」
「ああ、いいぜ」
「よし、狙いはロック喫茶だな。本の配本も頼みたいしな。やはり中央線沿線だろう。まずは高円寺かな」》
《かくして、渋谷と僕とでお茶の水の日販に出向いた。今はきれいな高層ビルになっているが、当時は、田舎の中学校のような雰囲気だった(略)。紀伊國屋では200部とってくれているし、大盛堂では100部、書泉でも50部くらいとってくれていて、ほとんど完売だったという実績を示して、交渉を開始した。日販では相手にしてくれず、窓口の人に、雑誌は東販に行くとよいと教えられた》
それから40年以上を経ての今回の出版。彼はロッキング・オンの後、1978年に完全投稿制による雑誌『ポンプ』を創刊しており、そうした体験もベースに《「ロックはミニコミ」早過ぎるインターネット作った橘川幸夫が語る》との表題の下、次のような見解を述べている。
《つまり「こういうメディアを作る、書きたいやつは集まれ」。そういう言い方をするわけだ。「投稿しろ」と。それで連載するやつもいるし、1回しか書かないやつもいる。それでOKなんだ。なぜなら主役はメディアだから。場が主役というのが新しいことに気が付いたわけだ》
《それで日比谷の野音で100円コンサートがあるから、行くわけだ。すると聴いたことあるヤツないヤツ、いろんなヤツがバンドをやっていて、そのロック喫茶の連中も行って、ぎゃーぎゃー騒いでる。ところが次の回に行くと、隣で騒いでいたヤツらが、向こう側にいるわけだよ。ステージの上に。それが日常なんだ、ステージの上と下が入れ替わるのが》
《ロックは、参加できるわけだよ。単に客として聴くだけじゃなくて、一緒に盛り上がることで場を作る。つまりそれが演奏することになるわけだ。客席で騒いで殴り合いするようなことも含めて、その場全体がひとつのメディアだと。これが新しいんだと。だからオレは将来、これに行こうと。作品とか芸術家とか、素晴らしい人を崇め奉るのではなくて、一緒に場を作っていこうと。それがオレにとってのロッキング・オンなんだよ》
http://ascii.jp/elem/000/001/270/1270697/
「ロックはミニコミ」であり、ミニコミは今のソーシャルメディアの世界を40年前に捉えていたという。

                                                                                                                        • -

2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎『月刊糖尿病』という雑誌があって、しかも昨今では完売続出なのだそうですよ。おそらく糖尿病をお抱えの方々が多いであろう本紙読者にも是非、といっても既にご存知かな。
http://www.news-postseven.com/archives/20161116_465931.html

◎「ひきこもり新聞」が今月創刊された。編集者や書き手を務めるのは自らも「ひきこもり」体験を持つ人々、あるいは現役の「ひきこもり」だ。
http://diamond.jp/articles/-/108291

◎雑誌付録といえば最も突出しているのが宝島社だが、最近では「リュック」もつけるようになった。インスタグラムで拡散されるなどして、それなりに好評らしい。
http://ddnavi.com/news/334607/

◎現役の“皇室記者”たちが『サイゾーウーマン』の取材に応えて証言。
http://www.cyzowoman.com/2016/11/post_22619.html

◎バイクツーリング情報の専門雑誌『バイクブロス・ツーリング部』が11月16日に創刊。同社発行の『ロードライダー』『ガルル』『モト・メンテナンス』『絶版バイクス』の名物編集長がツーリングに関するこだわりについてコラムを執筆するとのこと。
https://www.value-press.com/pressrelease/173716

◎電車の「ドア横広告」に本の広告が多いワケに「乗りものニュース」が言及。ドアにステッカー広告が貼られるようになったのはここ10〜15年くらいのことだ。
http://trafficnews.jp/post/59692/

津田大介が読売新聞の取材に答えて「ネット時代に求められる新聞社の役割」を語っている。
http://www.yomiuri.co.jp/yolon/ichiran/20161104-OYT8T50047.html?from=tw
http://www.yomiuri.co.jp/yolon/ichiran/20161110-OYT8T50062.html?from=tw

◎「ボーイズラブ」市場が拡大、既に150万部を超えるコミック作品も出てきたそうだ。
http://www.asahi.com/articles/ASJCH6VXYJCHUCVL02B.html

◎英経済誌の『The Economistエコノミスト)』は低迷するPinterestピンタレスト)やTumblr(タンブラー)のアカウントを閉鎖し、LinkedIn(リンクトイン)にリソースを集中するという。
https://shar.es/1IF8t8

重要文化財への指定が決まり、今年度末で廃止される奈良少年刑務所奈良市般若寺町)は重要文化財に指定されることが決まったが、明治政府が威信をかけて建造したというその内部を、同刑務所で講師として詩の授業を行ってきた奈良市の作家・寮美千子が呼びかけてまとめた、『写真集 美しい刑務所 明治の名煉瓦建築 奈良少年刑務所』が西日本出版社より発売された。
http://www.jimotonohon.com/annai/a1015_keimusyo.html
http://www.yomiuri.co.jp/local/nara/news/20161119-OYTNT50238.html?from=tw

広告業界においてアメリカではほぼ死にかけた存在と見なされてきた「メディア・エージェンシー」や「メディア・バイヤー」がどうして今なお生きながらえているのかについて「DIGIDAY」が報告。
https://shar.es/1IThDZ
https://shar.es/1IVNgx

モーリー・ロバートソンが、『週刊プレイボーイ』で米大統領選におけるトランプの勝因を分析している。主犯は「アンチ・エスタブリッシュメント」と「SNSで拡散されるデマ」ではないかと。
http://wpb.shueisha.co.jp/2016/11/18/75400/
http://business.newsln.jp/news/201611180531410000.html
http://news.mynavi.jp/column/svalley/684/

                                                                                                                        • -

3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「迷った時には動くな!」と言う者は、永遠にその場で迷い続ける。