【文徒】2017年(平成29)年1月11日(第5巻4号・通巻933号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】講談社社員「殺人容疑で逮捕」を各新聞はどう報じたか
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】講談社社員「殺人容疑で逮捕」を各新聞はどう報じたか(岩本太郎)

昨年8月に文京区の自宅で女性が死亡しているのが見つかった事件の容疑者として、夫である講談社の男性社員が10日に逮捕されたが、この件については新聞各紙とも同日午後より第一報を流した。今日11日発売の『週刊文春』が容疑者への直撃取材も踏まえたスクープ記事を掲載しており、その発売前日の逮捕劇というタイミングも気になるところだが、報道ではもう一つ、容疑者の身元についてマスメディアが「『進撃の巨人』の担当者」と見出しなどで誤報講談社側はこれを否定)するなどの混乱も目に付いた。(正確には『進撃の巨人』が掲載された「別冊少年マガジン」創刊の編集責任者)
まず朝日新聞は容疑者について《「週刊少年マガジン」の副編集長などを担当し、人気漫画「進撃の巨人」にも関わってきた》と報じたが、容疑者の実名(後述するように「韓国籍」と報道している他紙もあったが、朝日はこれを報道せず)の実名に平仮名でルビをふっている。こうした場合は従来のルビ表記は片仮名を用いるのが通例ではなかったのか。
http://www.asahi.com/articles/ASK1B35KMK1BUTIL00D.html?iref=comtop_8_04
毎日新聞は《捜査関係者によると、/人気漫画「進撃の巨人」が掲載されていた別冊少年マガジンの元編集責任者、現在は青年コミック誌「モーニング」の編集次長》と記事では紹介している。ただし初期の段階では確か「『進撃の巨人』元担当」と見出しで打っていたはずだ。Facebook上でシェアされた、「Yahoo!ニュース」に転載された同記事の表紙画面を見ると今でも確かにそうなっている。
http://mainichi.jp/articles/20170110/k00/00e/040/224000c
読売新聞は《「進撃の巨人」など人気漫画の編集を手がけ、現在は雑誌「モーニング」編集部の編集次長》だが、同紙は容疑者について「韓国籍」と明記したうえで実名に片仮名のルビをふっている。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170110-OYT1T50051.html?from=ytop_top
日経新聞は見出しで《講談社編集次長、妻殺害容疑で逮捕 「進撃の巨人」担当》と報じており、
11日早朝の時点でもそのまま訂正していない。記事中では《青年コミック誌「モーニング」の編集次長/捜査関係者によると、/コミック誌週刊少年マガジン」の副編集長を務めたこともあり、映画化された人気漫画「進撃の巨人」の連載にも関わったという》と紹介。また読売と同様、同紙も容疑者について「韓国籍」だと報道。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG10HAZ_Q7A110C1CC0000/
共同通信は《青年コミック誌「モーニング」の編集次長を務める/かつて、漫画「進撃の巨人」などのヒット作を生み出した「別冊少年マガジン」の創刊と編集を中心的に担っていたこともあった》。
https://this.kiji.is/191402958687553021
時事通信は《講談社編集次長/漫画雑誌「週刊少年マガジン」の副編集長を長年務め、映画化されるなど大ヒット作となった諫山創さんの「進撃の巨人」の連載開始にも携わった》。ただ同紙には《当時家にいた子どもたちの説明や現場の状況と、同容疑者の話に矛盾する点が多かったため、同課が事件とみて調べていた》と、他紙の記事にはなかった情報も報じている。
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017011000429&g=soc
容疑者の国籍について「韓国籍」と書いたのは読売と日経のみだった。被害者の女性については朝日・読売・時事が実名で報じた一方、日経と共同は「妻」。毎日は「無職女性」と表記していた。
そのうえで、一部のメディアが容疑者について当初「『進撃の巨人』の担当編集者だった」と報じたが、これについては『JCASTニュース』が講談社広報室の「『進撃の巨人』の担当編集者だったことはありません」との否定コメントを紹介しつつ打ち消している。
https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0110/jc_170110_9150243783.html
なお、NHKは夕方のニュースで《複数の出版関係者によりますと》《講談社によりますと》としたうえで容疑者のプロフィールについて《社内では優秀な編集者として知られていたということです》《朝日新聞でコラムを月に1度程度掲載していた時期もあり》などとかなり詳しく報じている。朝日新聞は今のところ自らの誌面における容疑者のコラム執筆の件については触れていない。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170110/k10010834131000.html
最後になったが、講談社広報室は公式サイトの「お知らせ」において10日付で「本日、弊社社員が刑事事案で逮捕されました」としたうえで
《このような事態になり大変遺憾です。本人は無実を主張しており、捜査の推移を見守りつつ社として慎重に対処してまいります。》
とのコメントを発表している。
http://www.kodansha.co.jp/news.html#news48489

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎上記の件は『週刊文春web』もさっそく「スクープ速報」と題して報道。さらに今日11日発売号では逮捕直前の容疑者に直撃取材した際の模様を含めた詳報を掲載するそうだ。
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/6968

◎「新元号平成31年元日から」は産経新聞のスクープだった。
http://www.sankei.com/politics/news/170110/plt1701100002-n1.html

◎2016年の「キネマ旬報ベスト・テン」、日本映画部門の第1位は『この世界の片隅に』。第2位は『シン・ゴジラ』だった。『君の名は。』はベストテンに入らず。
http://www.kinenote.com/main/kinejun_best10/

東京地裁から販売差し止めを命じる仮処分を受けた『日本会議の研究』だが、報道を受けてさっそくアマゾンのランキング1位に輝いたらしい。著者の菅野完が報告ツイートしている。
https://twitter.com/noiehoie/status/817477190778372097?ref_src=twsrc%5Etfw
蛇足ながら菅野は塩崎厚生労働大臣電通過労死問題についての「社長1人の引責辞任ですむ話ではない」という発言についても以下のようにツイートしている。良い勘をしているようだ。
《異例の表現だな。おそらくこれ長時間労働云々って話ではなく、電通がなんらかのパワーゲームの対象になっとるんだろうなぁ》
https://twitter.com/noiehoie/status/817242691100516352

◎AOLオンライン・ジャパンが運営するデジタル技術情報サイト『Engadget日本版』の新編集長に、元『週刊アスキー』で副編集長や編集長代理を務めた矢崎飛鳥が就任した。『話の特集』編集長の息子じゃなかったかな……と思いながら矢崎泰久に電話で確認したら、やはりそうだった。
http://japanese.engadget.com/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000022405.html?utm_content=bufferd6f68&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer
なお、矢崎泰久自身の近況を聞いたら「目下『話の特集』の全巻デジタル化を昔の社員が進めている」とのこと。

TOKYO MXで1月2日に放送された番組『ニュース女子』が、沖縄・高江のヘリパッド移設問題についての報道の中で「反対派には日当が支払われている可能性がある」などと紹介したことについて、反対運動への参加者や支援者らが猛反発。番組中で名指しされた支援団体「のりこえねっと」も抗議声明を発表したほか、ネット上でも炎上状態に発展。
http://www.goo.gl/eDhSDO
https://twitter.com/norikoenet/status/817007842460717058
ちなみにこの『ニュース女子』という番組はスポンサーのDHCによる持ち込み番組だそうで、制作は同社系列の制作会社であるDHCシアターとボーイズの2社。そんなわけでネット上ではDHC商品の不買を呼び掛ける動きも広がっているようだ。無論、MXに対する批判も広がっており、同局の元報道局員だったジャーナリストの白石草(OurPlenet-TV代表理事)は以下の記事で次のように述べている。
《放送局である東京メトロポリタンテレビジョンが自社で制作している番組は少なく、アニメも含めてほとんどが持ち込み。貸しビル業者のように、電波を貸して儲けている。東京都、中日新聞社エフエム東京など公共性の高い事業者が筆頭株主なので、公共の電波がどうあるべきかもっと考えるべきだ》
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170109-00010000-alterna-soci

◎反原発運動から一転、左翼批判に回った女優・実業家の千葉麗子による新刊『くたばれパヨク』(青林堂刊)の発売を記念して12日に神田神保町東京堂書店開催予定だったサイン会が、「わかってやっているのか?」など開催に抗議する電話やFAXが店に殺到したことから、東京堂書店が中止を決定した。青林堂や千葉は「言論弾圧」「民主主義の否定」とこれに反発。
http://www.sankei.com/life/news/170109/lif1701090009-n1.html
https://twitter.com/seirindo_book/status/816964083593322496
https://www.facebook.com/reiko.chiba.353/posts/845439262262602
一方で、反ヘイト運動の急先鋒である参議院議員有田芳生東京堂書店の中止決定について《賢明というより、常識的な判断が行われた》と評価。なおもネット上では賛成・反対の双方によるバトルが展開中だ。
https://twitter.com/aritayoshifu/status/817001083146899456

◎ジャーナリストの田中龍作が、1月8日昼に新宿駅東口のアルタ前広場で行われた国会議員らによる街頭討論会を取材。その中で、元民主党代表の海江田万里が来場したもののすぐに帰っていった件について《「ここはライブをやってはいけない場所だ。約束が違う」などと怒り始めた》後に《プイッと会場を後にした》と自身のサイトやSNSで報道。
http://tanakaryusaku.jp/2017/01/00015126
これに対して、討論会の現場まで海江田に同行して一部始終を見ていたという支援者らが《田中さん、どうか、そんな嘘は書かないでください》など抗議や事実誤認の指摘を田中のfacebookページのコメント欄に書き込むなどして炎上。
これに対して田中は《公党の元代表が現場で発したコメントは重い。不参加の言い分も載せている》《「田中龍作が無断撮影した」と咎められた。これが公党なのだろうか?》などと寄稿するも、批判コメントには一切回答せず。一方の海江田自身もこの件については今のところ沈黙したままの状態が続いている。
https://www.facebook.com/ryusaku.tanaka/posts/1254894554591553
https://www.facebook.com/ryusaku.tanaka/posts/1254890434591965

村上春樹の新作長編のタイトルは『騎士団長殺し』。「第1部 顕れるイデア編」「第2部 遷ろうメタファー編」が2月24日に新潮社から発売される。
http://www.shinchosha.co.jp/harukimurakami/

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

腹八分目の残り二分は、一番美味いもののためにとっておくものである。