【文徒】2017年(平成29)年2月10日(第5巻26号・通巻955号)

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1)【記事】KADOKAWA『岐阜信長歴史読本』に不備が約30か所発覚で作り直し
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】KADOKAWA『岐阜信長歴史読本』に不備が約30か所発覚で作り直し(岩本太郎)

KADOKAWAが1月30日に発行したムック『岐阜信長歴史読本 日本遺産で注目された、信長流もてなしの美学』(別冊歴史読本)に、地図の表記や年号の間違い、誤字脱字など約30か所の不備があることが発売後に発覚した。
題名の通り織田信長岐阜市との歴史的な関わりを紹介する同書には岐阜市も作成の段階から協力していた。地元のCBCテレビ(本社・名古屋市)の8日夜のニュースによれば《岐阜市が460万円の広告料を支払い、初版1万部が全国で販売されています》ともいう。
https://hicbc.com/smart/news/detail.asp?cl=c&id=00042D0A
http://www.kadokawa.co.jp/product/321609000031/KADOKAWAサイト上の書籍紹介)
発売から5日後の岐阜新聞2月4日付「信長歴史読本を発行 岐阜市が編集協力」という記事によると、同書には信長の史跡調査を続ける岐阜市教育委員会が構成についての助言や写真・資料提供、校正補助などで協力。戦国史研究の第一人者である小和田哲男静岡大学名誉教授)らへのインタビューや有識者からの寄稿なども収録されており、《2日までの4日間で、すでに千冊近くを売り上げる好評ぶり》《市教委では雑誌を市内の小中高校、特別支援学校計110校に配布するほか、市立図書館でも配架》などと報じられていた。
http://www.gifu-np.co.jp/news/kennai/20170204/201702040842_28949.shtml
その『岐阜信長歴史読本』に誤りがあると発覚したのは、上記CBCの報道によると3日のこと。岐阜新聞が9日に改めて報じた《「信長読本」ミスだらけ 岐阜市三重県?》によれば歴史本にあるまじき以下のような間違いのオンパレードだったとか。
《史跡・観光スポットを紹介する地図で、岐阜市三重県羽島郡岐南町笠松町(引用注意:どちらも岐阜県)が愛知県と記載されていた。ホテル名の間違いや「廃グレードホテル」との記述もあった。「美濃人物伝」では人物名と紹介文が入れ違い、金華山のコーナーでは昭和4年1828年と記してあった。
岐阜市教育委員会は校正補助をしたが、確認時とは違う状態で印刷された箇所もあった。KADOKAWAに対し「十分な確認を怠っており大変残念」とコメント。図書館や学校向けに購入した240冊は「この状態での配布は考えられない」としている。》
http://www.gifu-np.co.jp/news/kennai/20170209/201702090845_28984.shtml
朝日新聞も以下のように伝えた。
《出版後に読んだ市職員がミスを発見し、市教育委員会が6日に同社に連絡した。
地図で、岐阜市の地名が書かれた場所が「三重」にあるように表記されたり、信長ゆかりの人物を紹介する欄で、戦国武将・竹中重治と信長の教育係の僧・沢彦宗恩(たくげんそうおん)の見出しと説明文が逆になったりしていた。
このほか、目次と実際のページ数が合っていない▽俳優高橋英樹さんのインタビューの中で「事実」とすべきところが「事実実」になっている▽電話番号が1桁足りない▽写真と説明文が合っていない――などのミスもあった。「電話番号などをすべて確認したわけではないので、さらに増える可能性もある」という。》
http://www.asahi.com/articles/ASK2934F0K29OHGB001.html
岐阜新聞の記事によると『岐阜信長歴史読本』は既に全国で2000部近くが売られたものの、版元のKADOKAWAの担当者は《連絡いただいた人には正誤表を送る。現段階での回収は考えておらず、重版となれば直すべき所は直したい》と述べたという。
8日夜のNHKニュースも以下のような同社の回答を、問い合わせ先のカスタマーサポートの電話番号も添えつつ伝えている。
《出版元の「KADOKAWA」は「大変申し訳なく読者の皆さまにお詫びします。ただ、掲載している専門家の見解には何の問題もありませんので、そこに本の価値を読み取っていただきたい」と話していて、今後、誤りのある箇所をすべて確認した上で正誤表をつくり、問い合わせのあった読者に配布することにしています》
https://goo.gl/hGXjBd
ただし私(岩本)が9日午後にカスタマーセンターに直接電話して確認したところ、その後に社内で検討した結果、購入者には「正誤表」ではなく交換という形で応じることにしたという。
上記の朝日の記事もKADOKAWAのビジネス・生活文化局に取材したうえで、《9日に社内で協議し、校閲作業をしたうえで雑誌を作り直すことを決めた。購入者に対しては交換に応じるという。同社の担当者は「間違った情報を出してしまい、岐阜市、読者、地域の方々に深くおわびしたい」と話した。》と伝えている。
歴史読本』はもともと新人物往来社が発行していた歴史専門誌の老舗ブランドだ。新人物往来社は2008年に中経出版の子会社となり、その中経出版が翌2009年に当時の角川グループホールディングスの傘下に入ったことで同誌も現在のKADOKAWA発行に移った経緯がある。現在編集を担当しているのは同社のビジネス・生活文化局。9日16時過ぎに電話で問い合わせたところ、川金正法ビジネス・生活文化局長より次のような回答を得た。
「今後につきましては、やはり誠意ある対応をしなければならないということで、今改めて対応を検討しているところです。今日朝から校正者も入れて、正確にどれくらいの誤植があるのかを調べていまして、もうちょっとすると(正確な数が)判明すると思います」
――編集を担当されているのはどの部署ですか?
「ビジネス・生活文化局の中のビジネス第一編集課の中に『歴史読本』を作ってきたメンバーがいまして、今回の本を作成しました」
――以前からの『歴史読本』のメンバーの方々が作られたという割には極めて初歩的なミスも目立つようで腑に落ちないのですが。
「どこにどういう経緯があったかということも含め、間違いのないように原因を究明して今後の対策を取ろうということで現在進めています」
――外部業者を起用したりする中で、品質管理面で問題が生じたことは?
「その可能性もあるかもしれません。スケジュールがタイトだったのか、外注の選定がよくなかったのか。それともこちらが悪かったのか、途中での差し替え原稿が入ったのか……そのあたりをきっちり見ていきたいと思っています」
――岐阜市教育委員会も協力されていたそうですが。
「そうですね。校正というよりは原稿を確認いただくという作業だったかと思いますが」
――確認時とは違う状態で印刷された箇所もあったそうですが。
「そのあたりも岐阜市のほうと連絡しながら原因を究明したいと思っています」
――今後の対応については? 例えば回収などはお考えではないのでしょうか。
「今日、取次さん書店さんほかとやりとりさせていますので現時点では(再発行などの日程は)未定です。(回収については)そこも含めて打ち合せしています。そうしたことも含めて何らかの形で対応を発表しなければならないということで現在つめています。できるだけ今週中……といってももう明日で終わりですが……には発表したいと思っています」
この私との電話でのやりとりからほどなく、KADOKAWAは『岐阜信長 歴史読本』の回収を決めたようだ。9日夜のNHKニュースは前出の川金局長の《読者や岐阜市の方々に迷惑をかけたことをおわびし、誠意ある対応をとりたい》との談話と共にその旨を伝えた。ただ、そこではさらに同書の校正を担当したという新宿区の出版関連会社「ぷれす」の奥村侑生市社長による以下の談話も付け加えられた。
《去年の年末にKADOKAWAから依頼を受け、ほぼすべてのページに修正すべき箇所を赤字で記して、年明けに納品したが、『廃グレード』など指摘した誤りが修正されていない。印刷の段階で本の内容のデータが入れ替わることがあるため、最終的なチェックが重要だが、そこが十分ではなかったのではないか》
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170209/k10010870781000.html
中経出版は驚異的な低コストでKADOKAWAグループの優等生」(KADOKAWA幹部)といわれていたが、460万円の広告料をもらっていながら無理に無理を積み重ねた末についに破綻したというわけだ。
新人物往来社はオーナー家(「政界黒い霧」で有名な管貞人の一族)が中経出版に売り飛ばした後にそれまでの主要スタッフがほとんど離れている。最初は、正誤表で済まそうというところに、中経出版の体質がよくあらわれている。きっと「ウチは上場会社だぞ」と本社から怒られたのだろう。
ちなみに、空前の誤植本にアマゾンでは4倍近い値段がついている。
http://amzn.to/2k7jsJ4

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎そのKADOKAWA会長の角川歴彦朝日新聞が「電子書籍のプラットフォーマー、変革を語る」と題して9日付でインタビュー(収録は昨年12月13日)を掲載している。記事中、KADOKAWAがプラットフォーマーとしての道を歩むことになった理由や、アマゾンの進出について問われた角川は以下のように答えている。
講談社小学館集英社に『お互いに連携してプラットフォーマーになって、それで黒船の対抗馬をつくりましょう』と話した。だが、結局決断をしたのはKADOKAWAだけ》
《出版界はすでに制度疲労が言われていた。統計を見れば17年間、売り上げ減が続いている。そこに電子書籍が一石を投じられるのではないかと思った。業界の一部は、電子書籍も(出版社が価格を決め、書店が定価で売る再販売価格を維持する)再販制度を認めろ、という運動をしようと言っていたが、せっかく電子書籍によって紙の業界の慣行がただされるチャンスを放棄するのに反対だった》
http://digital.asahi.com/articles/ASK1P02R8K1NUHBI06C.html?rm=496
「打倒!アマゾン」の旗振り役だったKADOKAWAが一転、抜け駆けのごとくアマゾンに尻尾を振って直取引を始めた2年前のことを私たちは忘れてはなるまい。
http://d.hatena.ne.jp/teru0702/20150423/1429746097

◎創刊と同時にスクープ記事「シリーズ『買われた記事』第1回 電通グループからの『成功報酬』」で話題を呼んだ『ワセダクロニクル』だが、同シリーズの第2回目となる「『国の看板』でビジネス」が9日に公開された。1回目の内容に対して共同通信が送りつけてきた抗議文について、次のように答えている。
共同通信は、特集・調査報道ジャーナリズム「買われた記事」の1回目が掲載された2017年2月1日、ワセダクロニクルに対し、「ご指摘の記事は社団共同(共同通信)編集局が『報ずるに値する』と判断し、執筆して配信したものです」とする抗議文を送ってきた[注17]。
しかし実態は「報ずるに値すると判断し」たとはとてもいえない。
まず、筆者の編集委員は、報道用資料の医師のコメントを本人に取材もせずそのまま使った。「〜と話している」という書き方で、まるで本人に取材したかのような表現だ。
さらに編集委員は、フォーラムの事務局を電通PRが担当していたことさえ知らなかった。インターネットを検索すれば、出てくるはずのものであるにもかかわらず。
これだけでなく、共同通信の抗議文やこれまでの回答には、私たちが把握している事実と大きく食い違う内容が含まれている》
http://www.wasedachronicle.org/articles/buying-articles/2/
http://www.wasedachronicle.org/articles/buying-articles/2/#annotation17(注17)。
ルポはさらに「健康日本21推進フォーラム」の事務局長をしている電通PRの社員や、問題の共同通信による配信記事でコメントを使われた医師への直撃インタビューへと続いている。

◎その『ワセダクロニクル』編集長の渡辺周が『東洋経済オンライン』編集長・山田俊浩のインタビューに応えた。
http://toyokeizai.net/articles/-/157401

DeNAは2月8日に開催されたDeNAの第3四半期決算説明会で、社長兼CEOの守安功はあらためて一連の騒動について謝罪。サイト再開の可能性については「検討しているが決まっていることはない」と語ったそうだ。キュレーション事業については現状で事業再開のめどが見えないとして、約38億5900万円の減損損失を計上している。
http://jp.techcrunch.com/2017/02/08/dena-3q/

日本雑誌協会が昨年10〜12月の印刷部数を公表した。コミック誌では『少年ジャンプ』が200万部すれすれのところまで部数を落としてきている。
http://www.j-magazine.or.jp/magadata/?module=list&action=list

◎2016年1月〜12月期の「紀伊國屋書店ベストセラー大賞」を同書店が発表。著者部門は『君の名は。』の新海誠が、出版社部門はKADOKAWAがそれぞれ受賞した。
https://www.kinokuniya.co.jp/c/company/pressrelease/20170208130947.html

◎読書会や本の交換会、ブックカフェなど、本についての様々な催しを盛り込んだ複合型のイベントとして昨年春に初めて開催された「本のフェス」(主催は「本のフェス実行委員会」と読売新聞社)が今年も3月12日に都内・新宿区袋町の日本出版クラブ会館で開催されることになった。
https://honnofes.com/
http://ddnavi.com/news/352319/

◎都内・下北沢駅南口に古書店「古書明日(こしょあした)」が1月26日にオープンした。店主の田中大士は美術書の専門書店で働いていたことがあり、同地で約70年間にわたって営業してきた古書店「白樺書院」の閉店の片付けを手伝った際に声をかけられ,跡を継ぐことになったという。
http://shimokita.keizai.biz/headline/2530/

中野ブロードウェイで「ナニワ金融道 原画展」が開催中だ
http://pixiv-zingaro.jp/exhibition/nanikin
https://r25.jp/off/00055316/

テレビ朝日ホールディングスは系列の3社(静岡朝日テレビ東日本放送福島放送)の株式を追加取得のうえ3月より持ち分法適用会社にすると発表した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ07HNU_X00C17A2TJC000/

◎一方で大阪の朝日放送(ABC)は来年4月1日より認定放送持株会社朝日放送グループホールディングス」に移行すると発表。テレビとラジオの放送事業をそれぞれ子会社の「朝日放送テレビ」と「朝日放送ラジオ」に分割することになった。在阪の準キー局持株会社移行は今年4月に予定されている毎日放送MBS)に次いで2例目。
http://www.asahi.com/articles/ASK285GYPK28PTFC00S.html

講談社で『少女クラブ』編集長などを務めた丸山昭が昨年12月15日に大腸がんのため死去。享年86。葬儀は近親者で営んだという。石ノ森章太郎赤塚不二夫ら多くの漫画家を育成し、2001年には手塚治虫文化賞特別賞を受賞した。
http://www.asahi.com/articles/ASK277GZCK27UZVL001.html
http://mainichi.jp/articles/20170209/ddm/041/060/164000c
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/obituaries/CK2017020802000245.html

FacebookTwitterがかつて設けていた「Buy(購入)」ボタンを廃止するなど、SNS運営者がこの分野で苦戦を強いられている背景について『DIGIDAY』がレポートしている。
https://shar.es/19ggAT

◎『ル・モンド』はオンライン上のフェイクニュース(偽ニュース)を抑制するべく、情報の疑わしい600サイトを登録したデータベースを近々公開する予定だという。
https://shar.es/192mg0

◎昨年末に米国下院の法務委員長が、今後の著作権法改正議論の中に「著作権局の独立化の推進」も盛り込むと明らかにした件で、米国内の複数の図書館業界団体により構成されるThe Library Copyright Allianceが「米国著作権局を米国議会図書館から独立させるべきではない」との声明を発表した。遡れば昨年10月に当時の著作権局長が更迭人事で飛ばされたことをきっかけに持ち上がった動きだ。
https://hon.jp/news/1.0/0/10780
そもそも米国において著作権局が米国議会図書館の管轄下に置かれているという、日本では想像しにくい実態がある。このあたりは弊社発行『メディアクリティーク』の昨年12月15日号で塩崎泰三(hon.jp)が詳細にレポートしている。

TOKYO MXニュース女子』の沖縄ヘイト番組で司会していたと批判された東京新聞中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋が、『現代ビジネス』で「東京新聞の論説主幹と私が話し合ったこと」を発表。「いったい、なにが「不始末」だったのか」と東京新聞謝罪記事と"処分"の内情を暴露して批判。『ニュース女子』では沖縄取材を継続しているともいう。展開が面白くなってきた。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50947

◎本誌主幹・今井照容は本日(2月10日)10時に退院し、自宅療養に移行します。約1週間後から出社予定です。

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