【文徒】2018年(平成30)10月24日(第6巻199号・通巻1373号)

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1)【記事】「セゾン 堤清二が見た未来」(鈴木哲也)の周辺
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.10.24 Shuppanjin

1)【記事】「セゾン 堤清二が見た未来」(鈴木哲也)の周辺

大塚英志の指摘するようにZOZOの前澤友作にしても、カドカワ川上量生にしても、堀江貴にしても、日本におけるIT界隈の起業家たちは「一様に学的、社会科学的な想像力が脆弱すぎる」のだ。大塚がここで取り上げている堤清二にしても、中内功にしても、マルクスの思想がそうであったように彼らの経営は「ユートピアニズム」を本気で目指していた。
実はアメリカのIT起業家も堤や中内のような青臭い「ユートピアニズム」が濃厚であるように思えてならない。「日経ビジネスONLINE」が「大塚英志氏が語るセゾングループ堤清二を掲載しているが、大塚はこうも語っている。
「今は企業の『価値』は時価総額ただ一つでしょう。その結果、『知識』とは短期的な応用やコスト回収などといった『役に立つこと』を学ぶこと、という考え方が正しいことになってしまいました。
無論、あらゆる学問も学も『役に立つ』ものであるべきですが、それは費用対効果などで換算できるものではありません」        
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/16/100100031/102200010/?P=1
日経BP社から刊行された「セゾン 堤清二が見た未来」(鈴木哲也)の外伝として大塚英志吉野家ールティングスの安部修仁会長、コピーライターの仲畑貴志セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏名誉顧問にインタビューをしているのだが、これがなかなか面白いのである。私は堤と中内にそれほどの違いはないと思っている。しかし、堤、中内と鈴木の間には埋め難い溝があると思う。鈴木には「ユートピアニズム」が希薄なのである。そういう意味で鈴木のほうが今風なのかもしれない。コピーライターの仲畑貴志は次のように語っている。
「堤さんは常にクリエーターに対して、何かを発信していました。難しい本を送ってもらったこともありました。当時、脚光を浴びていたフランスの思想家、(ジャック・)デリダの本です。クライアント企業の経営者で、そんな人は堤さんだけでした」
ジャック・デリダの本をクリエイターにプレゼントする経営者が日本にいたことに驚きを禁じ得ない。脱構築ディコンストラクション)とかエクリチュール差延化という言葉がバブル期の「学業界」に流行(?)したが、みんなデリダの用語である。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/16/100100031/
鈴木哲也の「セゾン 堤清二が見た未来」を読み終えたならば、中公庫となった「叙情と闘争 - 辻井喬堤清二回顧録」もオススメしたい。
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/18/268140/
http://www.chuko.co.jp/bunko/2012/05/205641.html

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2)【本日の一行情報】

栗原裕一郎高橋源一郎の「『藝評論家』小川榮太郎氏の全著作を読んでおれは泣いた」を読んだうえでツイートしている。
「これを読んでおれは小川榮太郎が気の毒になった。『新潮45編集長はバックレ、いきなり出てきた社長に『あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足』と暗に責任をなすりつけられ、あげく『新潮』のこの仕打ちだ。新潮社はどれだけおれをコケにする気だと憤慨して当然である」
https://twitter.com/y_kurihara/status/1054029081736429568
新潮社は寄稿者を守らない版元であることを天下に知らしめさせた新潮45」騒動だという側面は確かにあるだろう。新潮ジャーナリズムは寄稿者を簡単に売ってしまう体質だったのである。
毎日新聞紙面審査委員の山田道子が毎日新聞の経済プレミアで「自滅した新潮45と“まっとうな便乗商法”の芸誌」を発表している。
「『新潮45』は炎上商法のあげく休刊となってしまったが、これに乗じたまっとうな“商法”で注目なのが、日ごろは目立たない芸誌だ」
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20181012/biz/00m/010/012000c
春オンライン」の「池上彰氏『新潮45』が廃刊ではなく休刊と発表した理由」。池上は次のように指摘している。
「雑誌に掲載された論考に批判が集まったからといって安易に休刊に踏み切ったことも、メディアのあり方として再考の余地があります。掲載した論考や編集方針に批判・非難が集まったのなら、それを考える場を提供し、編集部の考えを明らかにして休刊に踏み切るという方法があったのではないかと思います」
http://bunshun.jp/articles/-/9413

東京新聞の「<ひと ゆめ みらい>誰か一人のための本を 一人で出版社『小鳥書房』を経営・落合加依子さん」。
「小鳥書房の事務所は、市内のダイヤ街商店街の古民家を改装したシェアハウス『コトナハウス』にある。コトナハウスと、その一階のコミュニティースペース『チャノマ』も運営している落合さんは、『出会ったときに二年生だった子が五年生になっていたり、いろんな人と出会うことで価値観が変わり、自分の道に踏み出す人を見たりするのが幸せ』と言う」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201810/CK2018102202000129.html
落合は確かセブン&アイ出版の出身である。「ハフポスト日本版」が2017年08月5日付で発表した「〝おじいちゃんの方眼ノート〟量産化 作るのは『ジャポニカ』の会社」に「セブン&アイ出版の落合加依子さん」が登場している。
https://www.huffingtonpost.jp/withnews/grandfathers-note_b_11329382.html

白泉社は電子オンリーのコミック誌「花ゆめAi」を10月20日に創刊し、主要電子書店で配信している。
http://www.dreamnews.jp/press/0000183145/

◎「BusinessJournal」の「なぜ『下町ロケットの視聴率は意外に低かったのか…内容以上に称えられるべきTBSの試み」で木村隆志は次のように書いている。
「今シリーズも7月に発売された小説『下町ロケット ゴースト』(小学館)のドラマ化であり、9月に発売されたばかりの小説『下町ロケット ヤタガラス』(同)をアシストするかたちになっている。PR面で原作者の池井戸潤、発行元の小学館を喜ばせながら、自らも視聴率という結果を獲得。そのほかでも中小企業庁とコラボするなど、TBSのプランニングと交渉・実現力は、内容以上に称えられるべきものではないか」
https://biz-journal.jp/2018/10/post_25199.html
小説とテレビドラマ(あるいは小説と映画)においてテレビ局(や映画会社)と出版社の緻密な連携は今後、増えていくことになるだろう。

ダイヤモンド社は10月22日より、ビジネス週刊誌「週刊ダイヤモンド」とビジネスサイト「ダイヤモンド・オンライン」上において、米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」のオンラインコンテンツの一部配信を始めた。
ダイヤモンド社とWSJを発行するダウ・ジョーンズ社は2018年10月にデジタル分野での提携を結んでおり、この記事配信はその最初の取り組みとなる。
https://diamond.jp/articles/-/182908

明星食品は「ラーメンぴあ」で2019年度新店部門No1となった「蝋燭屋」の人気メニューを「ラーメンぴあ」とコラボして、カップめん化した「明星 ラーメンぴあ 蝋燭屋 監修 麻婆麺」 を10月29日(月)に全国で新発売する。
https://www.myojofoods.co.jp/news/7306.html

朝日新聞デジタルが10月22日付で「慶大生容疑者の写真、取り違え 日テレが謝罪」を掲載している。
日本テレビは22日、夕方の報道番組『news every.』で、慶応大の男子学生が準強制性交の疑いで逮捕された事件を17日に報じた際、容疑者の顔写真の1枚を別の男性と取り違えたとして、謝罪した。アナウンサーが『関係者の皆様に深くおわびいたします』と述べた」
https://www.asahi.com/articles/ASLBQ5HP2LBQUCLV01C.html
テレビは報道番組であっても下請け制作会社による分業化が進んでいるため、責任の所在が曖昧になってしまい、こうした単純ミスを防ぐことができず、実際の放送で流れてしまうということなのだろう。
朝日新聞デジタルはやはり10月22日付で「青森テレビ誤報め謝罪 4人死亡事故の酒気帯び報道」を掲載している。
青森テレビ(ATV)は22日夕のニュースで『最初に衝突したとみられる2台の軽乗用車のどちらかの運転手が、酒気帯びだった可能性がある』と報じた9月25日の放送が誤報だったと認め、番組内で『おわびして訂正します。失礼いたしました』とアナウンサーが謝罪した」
https://www.asahi.com/articles/ASLBQ63J0LBQUBNB012.html
誤報は人権という観点からすれば「報道犯罪」である。

◎宝島社の美容誌「& ROSY」12月号の付録は「ジョルジオ アルマーニ ビューティ」のミニリップと、「&ROSY」オリジナルのリップブラシ。このミニリップの容量は4400円する市販品の約半分。約2200円のリップが980円で買えるという計算になる。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000756.000005069.html

小学館ポータルサイト「小説丸」は、KDDIウェブコミュニケーションズが運営するビジュアルブログ「g.o.a.t(ゴート)と連携し、発売前の小説を一部先行公開することになった。公開第一弾として、10月25日発売のミステリー小説「無事に返してほしければ」(白河三兎)の第1章(全16話)を、1日1話のペースで毎日更新する。
https://www.shosetsu-maru.com/goat/864
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000146.000013640.html

幻冬舎百田尚樹の約500ページに及ぶ日本通史「日本国紀」の発売前重版を決定した。初版10万部を予定していたが、2刷5万部を決定して15万部で売り出すことになった。
https://www.sankei.com/life/news/181022/lif1810220058-n1.html
発売前からアマゾンでベストセラーランキング総合一位というから凄い。おいおい3刷5万部も決定し、20万部でスタートかよ。有本香が編集者。
「【御礼】
幻冬舎社長・見城徹さんの今日午前の投稿。来月発売の百田尚樹ん著『日本国紀』、ご注多数につき、発売前2度目の重版です。これで3刷り20万部スタートとなります。皆様、ありがとうございます。
編集者としては頑張り甲斐がありますが、まだ作業完了はしていません(笑)」
https://twitter.com/arimoto_kaori/status/1054609641869471744

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3)【深夜の誌人語録】

断る勇気を鍛えなければならない。