【文徒】2018年(平成30)12月19日(第6巻238号・通巻1412号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】駒井稔の「いま、息をしている言葉で。」(而立書房)について
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.12.19 Shuppanjin

1)【記事】駒井稔の「いま、息をしている言葉で。」(而立書房)について

「光社古典新訳庫」の創刊を編集長として手がけた駒井稔の「いま、息をしている言葉で。」(而立書房)を読んだ。私にとって而立書房は村上一郎の自伝「振りさけ見れば」を刊行した版元である。そんなところから、自らの編集者人生を振り返った「自伝」とも言うべき一冊を刊行するとは駒井の度胸に私はまず感服した。
http://jiritsushobo.co.jp/
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784880594101
著者の駒井稔と私は一歳違いである。駒井が1956年横浜生まれであるのに対し、私は1957年船橋生まれである。同世代であるだけに駒井と私は似たような感性を持っているようである。ただし、横浜と船橋の違い、慶應大学中央大学の違い、光社と業界誌の違いは消し難く存在するようである。
私が似たような感性と書いたのは、例えばまえがきで「まっぷたつの子爵」のイタロ・カルヴィーノを引用していることだ。周知のようにカルヴィーノイタリア共産党の「ウニタ」で編集の仕事をしていたが、ハンガリー動乱で離党している。例えば、チェ・ゲバラの次のような有名な言葉を引用していることだ。
「If it were said of us that we’re almost romantics, that we are incorrigible idealists, that we think the impossible: then a thousand and one times we have to answer ‘yes we are’」
あるいは「古典新訳」の意義を語るに際して、一貫して在野に身を置いている長谷川宏の名前を持ち出しているからだ。吉本隆明埴谷雄高という名前も散見される!
しかも、駒井は光社のキャリアを広告部でスタートさせている。同時期、私は業界誌記者の傍ら、その社が手がけていた広告代理業の仕事で光社の広告部には日参していたのである。だから「不慣れな日々に鬱々としているように見えたのでしょう。あるとき職場のおじさんの一人が酒に誘ってくれました」といった記述を目にすると、それは野萩だったのか、関川だったのか、白井だったのか、五十嵐だったのか、当時、広告部にいた「おじさん」の顔が次々に浮かんできてしまうのである。
「二年目になると外回りの営業職になり、大手の広告代理店に日参する日々が始まりました。夜はほとんど毎晩、上司と一緒に銀座で接待です。クラブのコンバニオンたちもこちらがあまり若いので扱いに困り、子ども扱いされることもしばしばでした」
むろん、私も大手広告代理店にも日参したし、銀座のクラブにも経営者に連れられて出入りはしていた。しかし、銀座のクラブで私は経営者に人間扱いされたことはなかった。あるときなど経営者の逆鱗に触れ、銀座のクラブで二時間ほど立たされたこともあった。明らかに駒井は私などと違って恵まれた人生を送っていたに違いあるまい。ただし私も駒井同様に「そんな日常の中でも読書は続けてい」た。ともかく私は井の中の蛙として井戸を掘りつづけるしかないと書物の宇宙に耽溺していった。ふぅ。
駒井は広告部から「週刊宝石」「翻訳編集部」を経て「光社古典新訳庫」を創刊することになる。当然、本書も「週刊宝石時代のことが面白おかしく回顧されているのだが、「週刊宝石」を回顧するには駒井は最適任者というわけではあるまい。そうしたこともあってか、次のような記述が気になった。
「当時、団さんの横浜の自宅には緊縛部屋とでも言うべき部屋があり、その手の責め道具もそろっていたので撮影で使わせてもらうことになっていました。撮影には平岡正明さんも立ち会います。しかもその日の撮影には映画で活躍する刺青女優・花真衣さんがモデルとして出演してくれるのです。団さんと平岡さんがほとんど全裸の花真衣さんを縛りあげていく様子はなかなかの壮観でした」
団鬼六が横浜の自宅に緊縛部屋を構えていたのは事実である。私の関わっていた雑誌「マージナル」でも、団鬼六と山口憲の対談は、この緊縛部屋で行われたと記憶しているが、確か、団鬼六自身は縛りは得意でなかったはずだ。この記述だと団が自在に縄を扱っているようだけれど…。
いずれにせよ、「いま、息をしている言葉で。」という魅力的なタイトルは「光社古典新訳庫」の創刊に際して冠せられたコピーだが、これは駒井によるものではないという。駒井が明らかにしているように当時、社長をつとめていた並河良社長の案であったのだ。こういう並河の才能は天才の領域にあったというべきだろうか。

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2)【本日の一行情報】

TSUTAYAは、「TSUTAYA が『本との出会い』を変える。」をコンセプトに、TSUTAYAの書店スタッフが、まだ書籍化されていない投稿小説や企画段階の小説の中から、本当に面白いと自信を持ってオススメできる作品を見つけ出し、書籍化するプロジェクト「新刊プロデュース庫」の第5弾として、小坂流加「生きてさえいれば」(芸社)と佐藤青南「たとえば、君という裏切り」(祥伝社)の2作品の発売を開始した。
「生きてさえいれば」は、大ヒット作「余命10年」を2007年に出版後、惜しまれながらこの世を去った著者 小坂流加のパソコンに残されていた最後の作品である。
「たとえば、君という裏切り」は、昨年10月に新刊プロデュース作品として発表した「たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に」の著者である佐藤青南による恋愛ミステリー第2弾である。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000708.000018760.html

芥川賞の候補作が決まった。
上田岳弘「ニムロッド」(群像十二月号)
鴻池留衣氏「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」(新潮九月号)
砂川次「戦場のレビヤタン」(學界十二月号)
高山羽根子「居た場所』(藝冬季号)
古市憲寿「平成くん、さようなら」(學界九月号)
町屋良平「1R1分34秒」(新潮十一月号)
12月17日放送のフジテレビ「とくダネ!」に出演した社会学古市憲寿は候補になったことについて「いろんな人がムカついてると思うんですよ。なんで古市が候補なんだって」などとコメントしたそうだ。
https://twitter.com/shinko_kai/status/1074393726225534976
https://twitter.com/shinko_kai/status/1074393730692640768
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2018/12/17/kiji/20181217s00041000070000c.html
社会学者で芥川賞の候補も経験している岸政彦のツイート。
「さすが「いろんな人がムカついてると思う」(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)」
https://twitter.com/sociologbook/status/1074464006360858626
古市は社会学者として大した仕事をしていないので芥川賞を受賞したら小説家に転向したほうが良いかもしれない。
直木賞の候補は次の通り。
今村翔吾「童の神」(角川春樹事務所)
垣根涼介「信長の原理」(KADOKAWA
真藤順丈「宝島」(講談社
深緑野分「ベルリンは晴れているか」(筑摩書房
森見登美彦「熱帯」(藝春秋)
私の好みからすれば大本命が「宝島」で、対抗が「ベルリンは晴れているか」となるのだが、「熱帯」あたりが強敵か。客観的に言えば力作が揃っている。今村翔吾の「童の神」もテーマが良いしなあ。
https://twitter.com/shinko_kai/status/1074393729987944448
http://hon-hikidashi.jp/more/70793/

◎オレのほうが優しい。OBの花田紀凱にかかると「一見、スクープだが、よく読むと、実は芸春秋から最近出版された本のパブリティーだった」となる。
https://www.sankei.com/premium/news/181216/prm1812160008-n1.html

双葉社の「comic marginal」は「きらめく人外BLの宝石箱」。オレの関わっていた「マージナル」の版元は現代書館であった。
https://www.futabasha.co.jp/comic_marginal/index.html
http://www.gendaishokan.co.jp/tC1303101.htm
網野善彦にインタビューしたのはオレ。「『顔』のみえる『資本論』」ってタイトルもオレがつけた。
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN4-7684-9969-4.htm

◎ぴあより「大人計画 その全軌跡 1988→2018」が刊行された。2006年に発売された「大人計画 その全軌跡 1988→2006」を再編集し、2006年9月の「大人計画ェスティバル」から今年2018年夏に上演された「ニンゲン御破算(再演)」までを追加掲載した、B5判、494ページに及ぶ大著。定価は6,296円(税別)と高いが、これ欲しいなあ。松尾スズキ宮藤官九郎阿部サダヲを生んだ劇団だ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001063.000011710.html
大人計画が結成される12年前にオンシアター自由劇場を退団した柄本明ベンガル綾田俊樹によって東京乾電池が結成されているんだよね。干支で言うと一回り違う。小沼勝のロマン・ポルノ「Mr.ジレンマン 色情狂い」は柄本が主演し、東京乾電池の面々が脇を固める怪作にして快作であった。
http://www.nikkatsu.com/movie/25669.html

◎「先生と親のためのLGBTガイド ~もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)の遠藤まめたは次のように書いている。
「ところで今、駅前の小さな書店を見渡したとき、LGBTに関するもので置かれているのはせいぜい少しの新書に、あとはコミックエッセイや漫画ではなかろうか。『広辞苑』や新潮社の雑誌に比べたら権威がなく、『おじさん受けしないメディア』である。『おじさんメディア』と、『おじさん受けしないメディア』を比較した場合に、前者の方が後者よりもいつでも信用に足ると考えられていること自体がそもそも間違っているのではないかとも思えてくるが、どうだろう。ちなみに私は玉石混淆ではあるが、やっぱりインターネットが好きだ」
https://wezz-y.com/archives/62121

小学館の女性ファッション誌「CanCam」2月号(12月21日発売)の表紙を映画「ニセコイ」(12月21日公開)で初共演した「Sexy Zone」の中島健人と、同誌の専属モデルを務める女優の中条あやみが飾った。
ニセコイ」は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2011年11月~2016年8月に連載された古味直志のラブコメマンガだ。
https://mainichikirei.jp/article/20181217dog00m100001000c.html

◎「読売新聞オンライン」が来年2月にスタートする。読売新聞の定期購読者には、2月以降順次、販売店からIDとパスワードが届き、追加料金なしで読売新聞オンラインの全サービスが利用できるようになるというもの。「紙」+「デジタル」=「読売新聞」ということになる。
https://www.yomiuri.co.jp/topics/ichiran/20181213-OYT8T50029.html

◎ビジネスデザインカンパニー「ADDIX」は、三栄書房のライフスタイル誌「FUDGE」ブランドのマネタイズ化に向けたビジネス開発、実行支援を担当した。その第一フェーズとして11月12日に「FUDGE」のWebメディア「FUDGE.jp」(https://fudge.jp/)をフルリニューアルしたとのことである。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000147.000012846.html

花王「セグレタ」と光社の女性誌「HERS」のコラボキャンペーン「『自分のために』始めます!」企画は3カ月にわたって、期間限定の読者ブログを開設するとともに、プロモーション企画をいくつも同時に展開しているが、今回は「スペシャルイベント第3弾」として「HERS」モデルでセグレタのイメージキャラクターでもある前田典子と、「HERS」読者による「苔玉講座を開催した。
https://hers-web.jp/kao/post_10747/?utm_source=pr_181217&utm_medium=pr&utm_medium=earned&utm_campaign=pr_dsc_181217
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000152.000021468.html

◎日販は、12月14日(金)~16日(日)の3日間、“見て・触れて・買える”日本最大級の具の祭典「具女子博」を東京流通センターで開催したが、来場者数は3日間合計でのべ35,000人となり、昨年の25,000人を大きく上回った。
https://www.nippan.co.jp/news/bungujoshi2018_20181217/

河出書房新社より刊行している直木賞作家・白石一の「火口のふたり」が映画化されることになった。荒井晴彦の脚本、監督と聞いて期待しないわけがない。オレは「身体は買えても、心は買えねえよ」って台詞が印象的な「トルコ110番 悶絶くらげ」や「身も心も」を見て泣いたものである。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000212.000012754.html

イーストプレスから「改訂版 全共闘以後」が早くも刊行された。イーストプレスのプレスリリースによると外山恒一版「日本国紀」だそうだ。こういう惹句、外山らしくて良いよね。しかし、内容は「本格派」だ。
https://twitter.com/saqrako/status/1074581960754774016
https://twitter.com/Cadavre_K/status/1074681364471898113
外山は日本のジジェクじゃないのか…。

◎「弁護士ドットコムNEWS」が「山本一郎氏、カドカワ川上社長を提訴…ブロッキング記事の削除めぐり応酬」を掲載している。
https://www.bengo4.com/internet/n_8998/

トーハンは、読書推進運動の一環として、「企業版ふるさと納税」制度を活用し、秋田県の元気創造事業「読書が広がるホップ・ステップ・ジャンプ事業」に300万円を寄附した。
併せて秋田県書店商業組合との共催で、学校・公共図書館の蔵書充実を支援する「児童図書・優良図書展示会」を県内の3都市で開催した。
http://www.tohan.jp/news/20181217_1327.html

◎元広島カープ新井貴浩が「メンズクラブ」(ハースト婦人画報社)の表紙を飾った。
https://www.daily.co.jp/baseball/carp/2018/12/18/0011913432.shtml

朝日新聞デジタル12月17日付「小6息子が過激な有害サイト、言葉失う親『怖さ知った』」は書いている。
「親の知らない間に、小学生の我が子がスマホで過激な性的描写のあるサイトを見ていた――。そんなトラブルが増えている。法外な料金を請求するケースもあり、国民生活センターは注意を呼びかける」
https://www.asahi.com/articles/ASLCR53QZLCRPTFC008.html

幻冬舎から12月13日(木)に発売された般若の自叙伝「何者でもない」が発売4日で重版決定。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000428.000007254.html

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3)【深夜の誌人語録】

章に毒を盛ることも必要である。