レバ刺し禁止令は牛は×(バツ)で豚は○(マル)だったのか!

昨晩、私は東京の東の果て小岩駅に降り立った。目的はレバ刺し。週刊誌を稼業とする若い友人とともに「生肉」を売りにする居酒屋の暖簾をくぐった。まずはビールという野暮な注文はしなかった。ワインで乾杯してから、さあ本番だ。私は店員を呼んで叫んだ。
「レバ刺し二人前ね」
「あいよ!」
「6月からレバ刺しが食べられなくなるんだろ。今日は飽きるほど喰おうと思ってさ」
「ウチは大丈夫です」
わが耳を疑った。それとも、この店員は余程の世間知らずか。私は若干語気を荒げた。
「ウチは大丈夫ですってと言ったって法律で禁じられるんだぞ」
「知ってますよ」
知ってますよって、あんた、違反すれば2年以下の懲役か、200万円以下の罰金なんだぞ。なるほど、好事家に限って、コッソリと提供しようというんだな。
「裏メニューにするのか」
「そんな非合法的なことしませんよ。堂々とやります」
堂々とな。国家権力に弾圧されるのを覚悟でレバ刺しを提供し続けるというのか。天晴れ!
「お縄になるのは怖くないのか」
「だって法律で禁じらないんですよ、ウチのレバ刺しは」
えっ!えっ?えっ!?
「そんな治外法権が小岩だけに許されるはずないだろ」
「お客さん、ウチのレバ刺しは豚なんですよ」
「豚…」
「そう豚のレバ刺しは大丈夫なんです。法律で禁じられるのは牛のレバ刺しですから」
そうだったのか!国家に狙われたのは牛であり、豚は許されたのか。共同通信社の『47NEWS』(http://www.47news.jp/)は昨日、「レバ刺し禁止は『妥当』食品安全委員会」と題して次のように報じているが、タイトルには「牛」と限定していないものの、記事では「牛」と特定されている。

内閣府食品安全委員会は12日、食中毒を防止するため飲食店が生のレバー(肝臓)を提供することを法的に禁止するとした厚生労働省の方針を妥当とする見解をまとめた。
厚労省は6月にも施行する予定で、食品衛生法の規格基準に提供・販売を禁止する項目を盛り込む。違反すれば「2年以下の懲役か200万円以下の罰金」が科される。
厚労省の審議会の部会が3月30日、提供を禁止すべきだとする見解をまとめ、同省が食品安全委員会に諮問していた。

私などレバ刺しは健康に良いと頭に刷り込まれてきた者の一人だが、今回、牛のレバ刺しがご法度になるのは、昨年の「焼肉酒家えびす」が起こした集団食中毒事件で5人が死亡したことに端を発する。これにより生食用牛肉の提供基準が厳しくなり、まずはユッケの提供が禁止される。加えて牛のレバーからもO157が検出されたことを踏まえ、お国の官僚様が私のような下々の者の健康にもご配慮して下さり、予防的な見地から今度は牛レバーが標的となったのであろう。とすればご法度を逃れた豚レバーはO157の心配がないということなのだろうか。牛レバーは危険だが、豚レバーは安全という判断なのであろう。
しかし、「食の安全」に神経質なほどこだわる私の知人によれば、馬以外の肉の生食は食中毒の危険が高いといっていた。その知人の説によれば豚レバーが牛レバーよりも安全であるとは断言ではないということになるのだが、食品安全委員会はこの点についてどう考えているのだろうか。権力の監視機関を「自称」する新聞は、一切報じていない。レバ刺し禁止問題を社説にまで掲げた日本経済新聞にしても然り。要するに新聞は厚生労働省が発表した情報だけを記事にしたに過ぎなかったということである。たぶんレバ刺しの現場には足を運んでいないのだろう。こういうところから、新聞の「国家のイデオロギー装置」という本質が透けて見えてくると考えるのは私だけであろうか。
そうそう、くだんの居酒屋で私たちはレバ刺し、ハツ刺し、タン刺し、コブクロ刺しを平らげつつワインを堪能したことも最後に報告しておこう。