アルジェリア人質犠牲者実名報道について―朝日新聞の社会面「実名公表に賛否」に異議あり!

アルジェリアの人質事件で政府はこれまで伏せてきた日本人犠牲者の氏名を遺体が帰国する25日に公表するという。それ以前に新聞やテレビといったマスメディアは既に犠牲者の実名を明かしながら報道をつづけている。1月25日付の朝日新聞は社会面に「実名公表に賛否」という記事を匿名で発表している。こういう記事が実名ではなく匿名であるという「非対称性」に鈍感なことからして、例えば朝日新聞に実名公表の資格があると私には思えないのである。
朝日新聞はこの記事で実名公表支持派として「報道と人権などに詳しい梓澤和幸弁護士」とメディア法が専門であるらしい「田島泰彦・上智大文学部教授」のコメントを紹介している。
梓澤弁護士は「治安の悪い現場で会社側が十分な安全対策を取っていたか検証するために、報道を通じて被害者や遺族の声が公になることが大切」であり、「海外展開する企業の従業員の現状を国民が知り、政府も含めてどう対応すべきか議論する土台の情報を提供してほしい」と述べているが、では朝日新聞の社会面で掲載されている記事が「海外展開する企業の従業員の現状」を十全に伝え、「治安の悪い現場で会社側が十分な安全対策を取っていたか検証するため」に役立つ記事になっているかというと、私のリテラシー能力では、そのように読めるような記事を朝日新聞が掲載しているとは思えない。
一方、田島教授は「アフリカ開発と企業の関係、利益配分の仕組みや格差問題など、事件の構造的な問題を明らかにするには現地で働いていた人たちの情報が大事。そのためにも氏名の公表が必要だ、と世間を納得させる報道が求められる」としているが、これまた朝日新聞の犠牲者の実名をあげての報道が「アフリカ開発と企業の関係、利益配分の仕組みや格差問題など、事件の構造的な問題を明らかに」しているとは到底思えないのである。
朝日新聞東京本社の山中季広社会部長」に至っては「今回の事件でも実名報道を原則としつつ、現場では遺族や関係者へ配慮して取材を重ねている。読者からの意見や批判にも耳を傾け、『何が起きていたのか』を掘り起こす作業を悩みながら進めている」と語っているが、山中部長様は「ガジェット通信」(https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&sqi=2&ved=0CDIQqQIwAA&url=http%3A%2F%2Fgetnews.jp%2Farchives%2F285782&ei=fxMCUaixK4-EkgXIq4DACA&usg=AFQjCNGBN2Hef4K82AaTUS7qiI21vjHfdw&sig2=itTfvt6k61krm-hcBofjmg)をお読みではないのだろうか。朝日新聞が1月22日に最初に実名をあげて報道した犠牲者について情報を提供した親族が抗議の声をあげているのだ。朝日新聞の社長宛に書いた抗議文にはこうあることがわかる。

今回のアルジェリアの一連の事件に関しての取材に協力するに際に、私は被害者の親族として事実関係を報道することに協力する意をもって取材を受けましたが、前提として私と「人物が特定できるような記事は書かない」「記事にする際には私に許可を取る」と約束しました。

しかし、こうした約束は破られ、1月22日の紙面に記事が掲載されることになったのである。果たして朝日新聞が山中の言うように「現場では遺族や関係者へ配慮して取材を重ねている」のだろうか。もし山中がこうした抗議のあることを知っていて、いけしゃあしゃあと「今回の事件でも実名報道を原則としつつ、現場では遺族や関係者へ配慮して取材を重ねている。読者からの意見や批判にも耳を傾け、『何が起きていたのか』を掘り起こす作業を悩みながら進めている」と言い放っているのだとしたら、実名報道に賛否があるとか何とか言う以前に朝日新聞実名報道する資格はない!朝日新聞にしてもそうだし、テレビの報道に至ってはより一層のことだが、マスメディアはいつものことながら他人の悲劇に発情しているだけなのである。
かつてであれば、そうした報道の被害者は泣き寝入りをしなければならなかったに違いない。悲劇を伝える扇情的な記事が隠蔽を孕んでいることは知られずに済んでいた。しかし、ソーシャルメディアの誕生により、誰もがメディアを駆使できるようになって、その「隠蔽」が告発される事態が生まれ始めているのである。ガジェット通信に登場した犠牲者の親族にしても自らのブログで「昨夜、菅官房長官が被害者の実名は公表しないと明言してくれたので安心していたところ、今朝の朝日新聞を見てガッカリしました。実名を公表しないという約束で答えた取材の内容に実名を加え、さらにフェイスブックの写真を無断で掲載しておりました」(http://livemedia.jp/)と書いたことから、朝日新聞の現場の実態が明らかになったのである。まさに「蟻の一穴天下の破れ」である。千丈の堤も蟻の一穴より崩るる、のだ。マスメディアが「天下」であり、「千丈の堤」であった時代がソーシャルメディアによって終止符が打たれようとしているのかもしれない。