【文徒】2014年(平成26)6月11日(第2巻107号・通巻309号)

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1)【記事】「攻め」の宝島社のヒミツ
2)【記事】返品率問題についての私見
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】「攻め」の宝島社のヒミツ

キン肉マン」のゆでたまごが宝島新書から「ゆでたまごのリアル超人伝説」を刊行。宝島社は「攻め」の姿勢を失っていないし、今や大手の部類に数えられるのだろうが、ゲリラ性を相変わらず発揮している。
http://tkj.jp/book/?cd=02257101
宝島社の蓮見清一は学生時代に「早稲田のレーニン」とも呼ばれ、武闘においても、文闘においても卓越した能力の持ち主であったらしい。革マル派においても幹部であった過去を持つ。出版の世界に足を踏み入れたのは「週刊現代」の特派記者(データマン)として、だ。同誌の荒木編集長が若い編集部員を殴打する事件を起こし、やがて荒木は講談社を退職することになる。講談社を去った荒木は小学館で「週刊ポスト」を創刊することになるのだが、その際に「週刊現代」から引き抜いた記者が蓮見清一や日名子暁であった。蓮見は「週刊ポスト」の記者を経て、1971年にJICC出版局を設立する。1993年に現社名となる。という歴史を知らない関係者も多くなったことだろう。
亡くなってしまったが蓮見の腹心であった石井慎二は蓮見の実は先輩であった。「週刊ポスト」創刊に際して石井は「週刊現代」に残るが、JICC出版局で合流する。
石井は蓮見と革マル派でも、「週刊現代」でも同志であったのである。
「ぼくは九段高校時代に新聞部(出版委員会)の先輩だった鈴木慎二(のちに『宝島』をおこした石井慎二)に誘われて、なんと入学以前から早稲田大学新聞会に入っていて、そこが革マル派の巣窟のひとつだということを、ずっとあとから知らされた。時に『日韓闘争』とよばれる闘争の季節の渦中にあったころである」
http://1000ya.isis.ne.jp/0789.html
こう書いているのは松岡正剛である。

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2)【記事】返品率問題についての私見

6月10日付朝日新聞は次のように書いている。
「昨年の書籍と雑誌の総売上額が、前年比3・4%減の1兆7711億円だったことが9日、出版ニュース社の調べで分かった。9年連続の市場縮小で、最盛期(1996年)の65%の水準だ。書店も減り続け、全国の2割近い自治体には新刊を扱う書店が一軒もない」
http://www.asahi.com/articles/DA3S11181067.html
記事は「出版界が苦しむ背景には、書店が売れ残り本を出版社に返す返品の割合(返品率)が、40%近くで高止まりしていることにある」というのだが、本当にそうなのだろうか。そのような考え方で良いのだろうか。
確かに出版業界にとって返品は非常に悩ましい問題であることに間違いはあるまい。返品率をいかに下げるか(=実売率をいかに上げるか)は出版社や取次にとって経営を直撃する課題である。
日本を代表する取次の動向からするに現在、部数を絞ることで解決を図ろうとしていると言って良いだろう。中小零細出版社からは「昔のようにトーハンや日販が(本を)取ってくれない」という話がよくもたらされるが、半ば取次に対する怒気を孕んでいて、「それでいて支払いは遅い!」という結論で終わる。書店にしても隙間だらけの棚は今や珍しくもない風景である。しかし、部数を絞って劇的に返品率は下がったと言えるだろうか。確かに取次からすれば返品にかかわるコストを大幅にカットできたのかもしれないが、出版市場を俯瞰的に見た場合、市場の縮小に拍車をかけているとは言えないだろうか。
実売率を上げる努力は確かに必要だ。それは安易に部数を削ることによって適正部数を模索することではないはずである。部数を増やさずとも、一定の部数を維持しながら、実売率の向上を図る施策と努力がもっともっと必要なのではあるまいか。商売の基本は「攻め」のダイナミズムにあるはずだ。
そうした「攻め」の姿勢が出版業界から失われようとしている。「攻め」を放棄したビジネスは市場から活気を奪い、プレイヤーのモチベーションを衰退させ、モラルも、モラールも低下させる。いや、何よりも言っておかねばならないことは、出版業界が「攻め」を放棄することは読者の顔を見ないで済ますということに他なるまい。

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3)【本日の一行情報】

幻冬舎が9月発売の「大島優子写真集(仮)」の予約を早くも開始した。撮影は「ヘビーローテーション」のPVを担当した蜷川実花。売る気満々である。大島がどこまで露出するかだよね。
http://www.gentosha.jp/articles/-/2093

◎映画「アゲイン 28年目の甲子園」に元プロ野球投手・工藤公康の長男である工藤阿須加と、俳優・中野英雄の次男である太賀が出演することになった。
http://www.cinematopics.com/cinema/news/output.php?news_seq=20457
原作は重松清が「小説すばる」に連載中の「アゲイン」である。
http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/
ハリウッド映画などでは原作が発表される前に映画化が決まるということはあるが、書籍として発売される前に映画化が進んでいるというケースは日本では珍しいというか、そうしたケースを私は知らない。映画の公開は2015年1月というが、これに標準を合わせて書籍も発売されるのだろう。そのシナジー効果がどうなるのかである。書籍がベストセラーになり、映画も大ヒットすれば、こうしたケースも増えるのかもしれない。

◎宝島社は7月3日に発売される「smart特別編集 劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising- スペシャルBOOK」の予約受付をはじめた。映画のBD/DVD発売に合わせての企画だ。
http://www.ota-suke.jp/news/120181

◎劇場版アニメ「進撃の巨人」は前後編で公開される。前編は11月22日より公開だ。
http://shingeki.tv/movie/

◎「ドラえもん」、「ポケットモンスター」、「プリキュア」といったアニメや動画コンテンツを、30タイトル1500本以上配信するアプリ「LINE KIDS動画」がサービス開始2ヶ月で100万ダウンロードを突破した。
http://linecorp.com/press/2014/0609750

ツイッターから生まれた田中光の一コマ漫画「サラリーマン山崎シゲル」(ポニーキャニオン)が最高だ!サラリーマンの疲れを一気に解放してくれる。
田中はお笑い芸人でもある。
https://www.youtube.com/watch?list=UUk0IUODXaAFr5gEFlZDbzmw&v=R0GBVkk419Q

◎バニラエアは公式“たびトモ”(=たびのオトモダチ)に「JJ」専属モデルの岩崎名美を起用した。
http://ameblo.jp/nami-iwasaki/entry-11870503998.html
http://jj-jj.net/models/iwasaki-nami/#
私は「名美」という名前に弱い。

◎行ってみようかな。日本電子出版協会が6月27日に渋谷のTKP渋谷カンファレンスセンターで主催するセミナー。テーマは「なぜ電子書籍は嫌われるか?」。講師は朝日新聞社デジタル本部ビジネス企画開発部の林智彦だ。
http://kokucheese.com/event/index/183658/

◎「週刊ポスト」が掲載した「朝日新聞の『吉田調書』スクープは『従軍慰安婦虚報』と同じだ」(門田隆将)について元木昌彦が次のように指摘している。その通りだと私も思っている。
「韓国のセウォル号事故が世界中から非難を受けているときに、福島第一原発事故当時も、所長の命令を聞かず『現場を逃げ出したのが9割もいた』と読者に思い込ませる記事の書き方は、『東電お前もか』と思わせるほうへ“誘導”した記事だと指摘されても致し方ないかもしれない。
大混乱した現場で、吉田氏自身も事故処理をどうしていいかわからなかった状態で命令がうまく伝わらなかったのだ。しかも、結果的には吉田氏も『正しい判断だった』と認めている。平時のときなら『吉田氏の待機命令に違反』という書き方はあり得るかもしれないが、この場合は当てはまらないのではないか。
新聞の影響力はまだまだ強い。福島第一原発事故当時、東電の職員は9割が所長の言ことを聞かず逃げ出したというフレーズが一人歩きしてしまうことの“怖さ”を、朝日新聞はどう考えているのだろうか」
http://www.cyzo.com/2014/06/post_17445.html
東電社員の等身大の「現在」を追ったルポを読みたいものである。相当な数のベテラン社員が福島に行くんでしょ。

◎これは買っておこう。「西加奈子と地元の本屋」は「書店員と販売会社(取次)が企画・編集・執筆を行い、出版社を動かして本を出版したという例」なんだそうだ。
http://www.google.co.jp/url?q=http://140b.jp/blog3/2014/06/%25E3%2580%2590%25E6%2596%25B0%25E5%2588%258A%25E6%2583%2585%25E5%25A0%25B1%25E3%2580%2591%25E3%2580%258E%25E8%25A5%25BF%25E5%258A%25A0%25E5%25A5%2588%25E5%25AD%2590%25E3%2581%25A8%25E5%259C%25B0%25E5%2585%2583%25E3%2581%25AE%25E6%259C%25AC%25E5%25B1%258B%25E3%2580%258F%25E7%2599%25BA%25E5%25A3%25B2%25EF%25BC%2581/&sa=U&ei=qn2WU6HWN87m8AWAzIDYBQ&ved=0CB8QFjAB&sig2=7j3PzDQgBY2UqVt1eFq-lg&usg=AFQjCNEMjGEKaxVmzqNM547IV4CxcUBXzw

◎アマゾンの2014年上半期ランキングで書籍部門の1位に立ったのはダイヤモンド社の「嫌われる勇気」。2位の講談社文庫「永遠の0」を抑えての1位だ。3位「まんがでわかる7つの習慣」(宝島社)、4位も宝島社で、「TRFイージー・ドゥ・ダンササイズ」。5位「小嶋陽菜1stフォトブック こじはる」(講談社)。
http://www.amazon.co.jp/b/ref=amb_link_70654429_2?ie=UTF8&node=3189581051&pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=center-3&pf_rd_r=1YJAKY9F7XH4V055DVJF&pf_rd_t=101&pf_rd_p=176483869&pf_rd_i=3173464051
キンドル本は1位「進撃の巨人13」、2位「僕だけがいない街3」(KADOKAWA )、3位「天地明察」(KADOKAWA )、4位「地獄恋LOVE in the HELL3」(双葉社)、5位「新世紀エヴァンゲリオン13」(KADOKAWA )。ベスト10のうち6タイトルがmade in KADOKAWAである。
http://www.amazon.co.jp/b/ref=amb_link_70654429_9?ie=UTF8&node=3188681051&plgroup=1&pf_rd_m=AN1VRQENFRJN5&pf_rd_s=center-3&pf_rd_r=14MVQ9VBY48MMY8H75QC&pf_rd_t=101&pf_rd_p=176483869&pf_rd_i=3173464051

◎日本の出版用紙の約4割が日本製紙で作られ、日本製紙石巻工場はその基幹工場として、1日あたり約2500トンもの紙を生産しているという。そんな工場が東日本大震災で被災してしまう。佐々涼子の「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」(早川書房)は奇跡の復興を果たした日本製紙石巻工場の職人たちの知られざる闘いを描いたノンフィクションだそうだ。出版関係者であれば読んでおきたい一冊である。
http://www.hayakawa-online.co.jp/news/detail_news.php?news_id=00000783

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4)【深夜の誌人語録】

私にとって最大の暇つぶしは、残念ながら仕事である。