【文徒】2015年(平成27)2月5日(第3巻23号・通巻468号)

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1)【記事】新潮社の「工芸青花」をご存じですか?
2)【記事】信濃毎日の社説とドラマ「ゴーストライター
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】新潮社の「工芸青花」をご存じですか?

昨年11月20日に新潮社から創刊された「工芸青花」の菅野康晴編集長の発言である。
森岡書店の森岡督行さんが──彼も会員になってくれたのですが──『1,000人という規模は中学校みたいですね。顔は大体知っている。名前もなんとなくわかる。その遠くない感じがいい』と、あるトークイベントでいってくれて、そうだな、それはいいたとえだなと嬉しくなりました。『読者』という言葉には、顔をもたない冷たさを感じてしまうのですが、青花の会員はそうではない。仲間、というには早すぎるかもしれないけれど、知人でありたい」
http://blogos.com/article/104840/
「工芸青花」は年3回刊。この雑誌を手にするには2万円で会員権(有効期限1年間)を買わなければならない。
ただし、ほんの一部の書店やギャラリーなどで8640円で販売されている。東京で売っているのは15店のみだ。ちなみに「工芸青花」は4判、麻布張り上製本、見返し和紙(楮紙)、カラー176頁。ロゴの「青花」は初唐三大家のひとり、欧陽詢筆「九成宮醴泉銘」より採字したもの(タイプデザイン岡澤慶秀)、欧文書体Joannaはイギリスの工芸家エリック・ギル作。表紙は毎号、古美術品から文様をよりぬき、箔で捺すというように凝りに凝ったつくりだ。
会員の定員は1000名。定員に達した時点で受付は終了となり、その後は会員の方が退会されたときに新規会員を募集するという。会員になると3月・7月・11月が「工芸青花」が送られてきて、「青花の会」主催による茶会・花会・茶話会等の各種催事に優先的に参加できるし、会員限定のコンテンツがサイトで閲覧できる。ウェブサイトを使って物販も実施している。雑誌のラグジュアリーメディアとしての新たな可能性を切り拓くかもしれない何という斬新な発想!
http://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=4
菅野は、渡辺京二の「逝きし世の面影」を引用しながら(こういう文章で渡辺を引用するセンスからして菅野はただ者ではないことが理解できる!)、次のように言っている。
「じつは本づくりは、手作業の割合がとても多い仕事です。そしていまは本も、工芸も、時代をおおうファスト化の波にのみこまれつつあります。私たちがはじめようとしていることは、ファスト化の競争からひとまずおりて、工芸と本のあるべき場所をさがすことでもあると思っています。とりもどしたいのは、手ざわりと、時間です。すなわち〈生の実質〉です」
http://www.kogei-seika.jp/about/
こういうラジカルな挑戦には成功してもらいたい。

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2)【記事】信濃毎日の社説とドラマ「ゴーストライター

信濃毎日新聞が社説で出版不況を取り上げている。題して「出版不況 良書出す努力を期待」。次のように結ばれている。
「昨年は『呆韓論』『韓国人による恥韓論』など、隣国をさげすむ本が相次ぎ刊行され、よく売れた。本が近隣関係を損ないかねない現実がある。
一方では、こうした本が幅をきかせることに心を痛める出版人たちによる『NOヘイト!出版の製造者責任を考える』が出た。大きな流れになることを期待する。
いい本に巡り合うことができれば一生の宝になる。子どもにとっては特にそうだ。自信を持って薦められる本を世に送り出すことを、出版人に望みたい」
自信を持って薦められる本を世に送り出せば出版不況から抜け出せるのか?残念ながらNOである。それに隣国をさげすむような本は売れているのだ。「NOヘイト!出版の製造者責任を考える」の売れ行きは嫌韓本の足元にも及ばないのが現状である。
http://www.shinmai.co.jp/news/20150204/KT150203ETI090002000.php
「まだわからないのか。本なんて売れないんだよ」「これも」「これも」「これも、これも、これも」「これも。ぜんぶ赤字だ」「すべての赤字をこの一冊の本で回収している」「これが出版界の現実だ。欲しいのはいい本じゃない。売れる本。確実に金になる本だ」
神崎編集長の発言である。フジテレビで放映中のドラマ「ゴーストライター」の台詞である。編集者が「金になれば何でだっていいんですかッ」と問う。神崎編集長は言い放つ。
「その通りだ。おれやおまえの給料もそこから出ている」
http://www.excite.co.jp/News/reviewmov/20150203/E1422890781049.html
未見の人は、一度、見たほうが良いよ、このドラマ!

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3)【本日の一行情報】

◎やはり気になる「村上さんのところ」。日本のメディアの取材に応じない理由について村上春樹は次のように答えている。
「僕は小説を書くのが商売ですが、それについて語ることは、正直言ってあまり好きではありません。ただそれだけのことです。全部の取材申し込みに応じていると、ものを書く時間がなくなってしまいます。年に一度か二度はインタビューにこたえるようにしていますが、それくらいがちょうど良いような気がします」
http://www.welluneednt.com/entry/2015/02/02/173300

PR TIMESの調査によれば、マーケティング予算をほぼ100%デジタルに投下するブランドが約7%にも及んでいるそうだ。「デジタル施策への予算配分が増加している」は61.2%。マス広告(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)がターゲットに届いていると実感しているかの問いには、「届きにくくなったと強く感じている」が28.4%、「やや届きにくくなったと感じている」が41.4%、か。こうした調査からも、雑誌はもっと積極的に情報発信に取り組むべきだと思う。
http://markezine.jp/article/detail/21856

◎私が本多勝一の「日本語の作文技術」(朝日文庫)を単行本で手にしたのは、この稼業を始めた年であった。銀座の福家書店で買った記憶がある。「現在、同書は46刷、63万部」のロングセラーだそうだ。私の場合、あまり役に立たなかった。ビラの類を書いていた経験のほうが、この稼業においては役立ったのである。
http://news.mynavi.jp/news/2015/02/02/480/

◎高野雀のマンガ「さよならガールフレンド」(祥伝社)が素晴らしい。祥伝社のマンガ出版があなどれないのは、こういう作家を発見する能力においてである。
http://www.shodensha.co.jp/sayonaragirlfriend/#special

◎ぴあから刊行された「ぐでたま女子。」の出足が好調だ。「ぐでたま」は今の時代を象徴するキャラクターだ。発売前に二刷が決定していた。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000011710.html
http://piabook.com/shop/g/gC9784835628196/

汐文社後藤健二の追悼文を同社のサイトにアップしている。汐文社は後藤の著書である「ダイヤモンドより平和がほしい 子ども兵士・ムリアの告白」「もしも学校に行けたら アフガニスタンの少女・マリアムの物語」「ルワンダの祈り 内戦を生きのびた家族の物語」「エイズの村に生まれて 命をつなぐ16歳の母・ナターシャ」の版元である。
「私たちにできることは、ジャーナリスト・後藤健二の足跡を永遠に語り継いでいくことです。後藤さんが本当に伝えたかったことを、子どもたちに読み継いでいただけるように出版し続けることが、出版社としての使命だと考えます。
後藤健二さんの志を、私たちはずっと胸にとどめておきます」
http://www.choubunsha.com/news/2015/news001249.html
はだしのゲン」の版元として知られている汐文社KADOKAWAの子会社である。後藤の著書には注文が殺到し、アマゾンでは品切れ状態である。
http://www.amazon.co.jp/%E5%BE%8C%E8%97%A4-%E5%81%A5%E4%BA%8C/e/B004LUO3E4/ref=sr_ntt_srch_lnk_1?qid=1423014711&sr=8-1

◎TPP交渉で、出版物や映画、音楽などの著作権保護期間を、公開や作者の死後から70年で調整を進めるという。
http://www.huffingtonpost.jp/2015/02/03/copyright-tpp-70years_n_6601342.html

◎米アマゾンは、紙の書籍をKindleのフォーマットでデジタル化できるWindows向けソフト「Kindle Convert」をキャンペーン価格の19ドルでリリースした。当面、アメリカのみでの販売となる。日本に上陸するのだろうか?
http://jp.techcrunch.com/2015/02/04/20150203amazon-kindle-convert/

◎ニュース閲覧アプリ「SmartNews」が日米で1000万ダウンロードを突破した。米国版をリリースしたのは昨年10月のことだが、米国での月間アクティブユーザーはすでに100万を突破している。
http://about.smartnews.com/ja/2015/02/04/20150204/

開沼博の「はじめての福島学」(イースト・プレス)が刊行するのを記念して、リブロ池袋本店で3月10日(火)に関沼と上野千鶴子トークショーが開催される。
http://www.libro.jp/blog/ikebukuro/event/310.php

◎自称「イスラム国」に捕えられていたヨルダンの空軍パイロットが焼き殺された。
(焼殺の写真があるので見たくない方はクリックしないでください)
http://syria-breaking.com/syrianews/11000
ヨルダンはサジダ・リシャウィ死刑囚ら計2人の死刑を執行。
http://www.yomiuri.co.jp/world/20150204-OYT1T50061.html?from=tw
ヨルダンが崩壊したら、大変なことになる。

柏木ハルコが「週刊スピリッツ」に連載している「健康で文化的な最低限度の生活」の第2巻が刊行された。
http://www.shogakukan.co.jp/comics/detail/_isbn_9784091867469
自立生活サポートセンター・もやいの稲葉剛との対談で柏木は次のように語っている。
「人権って、普通に生きていると空気みたいに当然あるものだって気がしちゃうので、それが奪われたらどんな大切だったか分かると思うんですよね。空気なかったら生きていけないので。日頃、普通の家庭で普通に育ってきたら気付かないで済んでしまうと思うんですよ」
http://inabatsuyoshi.net/2014/10/27/1147
http://inabatsuyoshi.net/2014/10/27/1150

◎1月3日付朝日新聞の社説「忘れてはならないこと」は、井上ひさしの「初日への手紙 『東京裁判三部作』のできるまで」(2013年9月刊)から引用しているが、その文章は井上のものではないことが発覚。白水社のミスであった。同書は井上の没後に刊行された。
「著者不在の事情の下、編集には一層万全を期しましたが、社説に引用された一文が大沼氏の公刊論文の一部であることを発見するに至らぬままの刊行となりました。その結果、大沼氏、朝日新聞社をはじめ関係者・読者の皆様にご迷惑をおかけする次第になりましたことは誠に遺憾であり、ここに弊社を代表して心よりお詫びを申し上げるとともに、今後このような事態が起こらぬよう努めることをお約束致します。
なお、『初日への手紙』重版の際には、該当頁に次のような注を付し、在庫分については同内容の訂正表を挟み込むことに致します」
http://www.hakusuisha.co.jp/topics/08296.php
http://www.sankei.com/affairs/news/150203/afr1502030051-n1.html

「WiLL」(ワック出版)の花田紀凱編集長と「NOヘイト! 出版の製造者責任を考える」を刊行した「ころから」の木瀬貴吉代表が2月9日、ロフトプラスワンで「対論」を交わすそうだ。
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/30605

サンケイスポーツの電子版アプリ「サンスポ電子新聞」がリリースされた。紙版は月額3105円(税別)だが、電子版は月額1389円(税別)。
http://dmm-news.com/article/914618/

◎日販が主催する「全国書店員が選んだおすすめコミック2015」が発表された。
1位 ヤマザキコレ魔法使いの嫁」(マッグガーデン
2位 堀越耕平僕のヒーローアカデミア」(集英社
3位 松駒原作、ハシモト作画「ニ−チェ先生〜コンビニに、さとり世代の新人が舞い降りた〜」(KADOKAWA メディアファクトリー
4位 ウダノゾミ田中くんはいつもけだるげ」(スクウェア・エニックス
5位 高野苺「orange」(双葉社
6位 夜宵草ReLIFE」(アース・スター エンターテイメント
7位 ヨシノサツキはんだくん」(スクウェア・エニックス
8位 田中芳樹原作、荒川弘作画「アルスラーン戦記」(講談社
9位 松浦だるま「累〜かさね〜」(講談社
10位 雨隠ギド甘々と稲妻」(講談社
11位 森本梢子高台家の人々」(集英社
12位 吉田覚「働かないふたり」(新潮社)
13位 ぢゅん子「私がモテてどうすんだ」(講談社
14位 川田「火ノ丸相撲」(集英社
15位 コトヤマ「だがしかし」(小学館
ベスト10に講談社の作品が3本も入っている。逆に小学館はゼロだ。
http://natalie.mu/comic/news/137750
第1位となったヤマザキコレ魔法使いの嫁」の版元はマッグガーデンエニックスの出版事業部長であった保坂嘉弘が創業した出版社である。
http://www.mag-garden.co.jp/

◎hantoの調査によれば、一日の平均読書時間が最も長かったのは、「20代の男性」で「39.1分」、男女ともに40代の平均読書時間は30分以下。
http://honto.jp/article/reading-time

文藝春秋は「NumberDo」2月2日発売号から電子化し、紙の雑誌と同時発売することになった。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/150204/prl1502041338066-n1.htm

◎「週刊少年マガジン」(講談社)連載の「山田くんと7人の魔女」がアニメ化され、4月よりTOKYO MX読売テレビテレビ愛知TVQ 九州放送テレビ北海道西日本放送で放映される。
http://animeanime.jp/article/2015/02/04/21850.html

藤田和日郎のマンガ「うしおととら」(小学館)がテレビアニメ化される。
http://animeanime.jp/article/2015/02/04/21843.html

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4)【深夜の誌人語録】

理想も希望も邪念がその第一歩なのである。