【文徒】2015年(平成27)3月6日(第3巻43号・通巻488号)

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1)【記事】ズンズン運動と出版について考える
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】ズンズン運動と出版について考える

3月4日付朝日新聞は、こう伝えている。
「生後4カ月の男児に自らが提唱する独自の施術をして死亡させたとして、大阪府警は4日、新潟県上越市NPO法人子育て支援ひろばキッズスタディオン』の理事長、姫川尚美(なおみ)容疑者(57)を業務上過失致死容疑で逮捕した」
http://www.asahi.com/articles/ASH3432KRH34PTIL004.html
子育て支援ひろばキッズスタディオン」の姫川尚美理事長というよりも、ズンズン運動の姫川裕里と言ったほうが良いだろうし、彼女が提唱する独自の施術が「ズンズン運動」であった。「ズンズン運動」が社会的に認められ、ここまで広がるにあたって「出版」の果たした役割は大きい。
逆に赤ん坊を死に至らしめるにあたって、「出版」の責任も問われてしかるべきだろう。姫川裕里は得体の知れない出版社から著書を出しているわけではないのである。何と姫川は文芸出版の老舗であり、堅い本を多く出している河出書房新社から「子育ての免疫学」を2004年に上梓しているのだ。しかも新潟大学大学院教授で免疫学の権威でもある安保徹との共著である。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309251820/
確かに「子育ての免疫学」以前の1999年に刊行されている「子育て現在進行形」や2010年の「どんな育児トラブルもこわくない!奇跡の対面(ついめん)抱っこ」は自費出版にかかわるトラブルも起こしている文芸社から刊行されていて、それなりに臭覚の働く読者からすれば、姫川に胡散臭さを感じるかもしれない。
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-08624-8.jsp
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/4-88737-601-4.jsp
しかし、河出書房新社の「子育ての免疫学」といったアカデミックな臭いをプンプンさせる本を手にした読者からすれば、ズンズン運動を何の疑いもなく信じてしまうことだろう。アマゾンには次のようなレビューが掲載されているくらいだ。
「先生に出会い、この本を読んでとても衝撃を受けました。赤ちゃんにあたり前にやってきたことが、赤ちゃんの身体をゆがめていたと気づいたときには唖然としました。今では、対面だっこで上手に身体の力を抜くことが出来ます。機嫌もよく、必要な時以外は泣かず床に寝せておいても一人で遊んでいられます。(現在、六ヶ月にみたないですが・・・)一人でも多くの方が、この本を読んで対面だっこを実践していただければと思います」
もちろん、版元も姫川裕里に騙されていたのかもしれない。しかし、例えば姫川がスピリチュアル系のたま出版から「イルカと人間のマインド・シンフォニー - 水の中から生まれたメルヘン日記」を1995年に刊行していることを踏まえるのであれば、編集者は「子育ての免疫学」なるタイトルでの出版に慎重になっても良かったのではないだろうか。

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2)【本日の一行情報】

集英社は「週刊少年ジャンプ」で連載作品「暗殺教室」のコミックス13巻発売を記念して、 「暗殺教室」1巻〜13巻の表紙にスマホをかざすと、表紙に描かれているキャラクター“殺せんせー”がしゃべりだすARアプリ「殺せんせーの抜き打ちテスト」(Android版)を配信開始した。
http://www.rbbtoday.com/article/2015/03/04/129050.html

北陸新幹線金沢開業を控え、石川県内の書店で時刻表が売れている。北國新聞によれば例年の3倍も売れた書店もあったそうだ。メモリアルはデジタルではなく、やはり紙という「物質性」があることが重要だ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150303-00223499-hokkoku-l17

集英社新書WEBコラムには頭が下がる。「在日二世の記憶」は、とても良い仕事だ。新書ではなく、ハードカバーで出版してもらいたいなあ。
http://shinsho.shueisha.co.jp/column/zainichi2/

◎第49回「吉川英治文学賞」は逢坂剛「平蔵狩り」(文藝春秋)に決定。第36回「吉川英治文学新人賞」は西條奈加「まるまるの毬」(講談社)に決定。来年からシリーズものの大衆文学を顕彰する「吉川英治文庫賞」が新設されるそうだ。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1503/04/news080.html
吉川英治文化賞」の受賞者に日吉フミコの名前を発見。「水俣病患者とともに―日吉フミコ闘いの記録」は読んでおきたい。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784883231218

◎「講談社夏のこどもまつり」が、今年も7月18日(土)東京、7月25日(土)大阪で開催される。
http://kodomo.kodansha.co.jp/news/fes.html

電通は、「ベトナムの総合デジタルエージェンシー『エメラルド社』の株式40%の取得と、今後段階的にシェアを拡大してマジョリティを取得するオプションを当社グループが有することにつき、同社株主と合意」したと発表。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2015/0303-003980.html

宣伝会議が実施したネットユーザー500人と企業110社広報部へアンケートした「ネット告発」についての調査によれば、約38.8%のユーザーが「最近ネット上で企業や商品に対するネガティブな投稿を見たことがある」と回答。何と11.6%が「実際にネガティブな投稿を発信したことがある」と回答している。
http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1503/03/news108.html

◎第5回Twitter文学賞(海外編)で第1位を獲得したのは、閻連科の「愉楽」(河出書房新社)であった。河出書房新社は冒頭103頁を2015年3月31日まで無料公開する。
http://matome.naver.jp/odai/2142516209073327001
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309206608/

◎ヤフーとドワンゴカップル向けのスマホアプリをそれぞれリリースした。
http://japan.cnet.com/news/service/35061235/

◎LINEの上級執行役員田端信太郎が次のように語っている。とても重要な発言であると私は思っている。
(LINEスタンプは)「今ナショナルブランドのキャンペーンの中で非常に定番となりつつありまして、テレビCMは私ども全否定するわけではないです。ただその中の予算の2、3割くらいはLINEにまわしていただいて、見ておしまいだけだったテレビCMを、自分も参加できるようにと」
http://logmi.jp/38694
雑誌は読者を受け身の存在としてしか認識しないのであれば、読者から見捨てられるはずだ。読者が参加できる回路をインターネットで実現するなり、読者が参加できる場を、イベントなどを通じて設定しなければならないはずだ。読者が編集者であり、カメラマンであり、モデルであり、スタイリストであり、ライターである体験をどのようにして提供できるかが問われているのである。
編集力を解放することに躊躇する編集は、大衆が主体的に参加できる回路を閉ざしたメディアは、もはや反動として時代に切り捨てられる運命にあるはずだ。

富士山マガジンサービスが勝手に制定した「雑誌の日」を記念しての「カバーガール大賞」が石原さとみに決定。どうでも良い話だ。「志」の欠片も感じられない。
http://news.mynavi.jp/news/2015/03/04/357/

◎BookLiveによる紙の本と電子書籍の併売サービスに関する実態調査。「紙の本を買うと電子書籍がもらえるサービス」の認知度は43.2%。このサービスを一度でも利用したことがある人の割合は9.9%。サービス未利用者の8.7%が「ぜひ利用したい」、29.8%が「たぶん利用する」。サービス利用者の68%が「対象作品だと気づかずに作品を購入していた」。
http://booklive.co.jp/release/2015/03/051100.html

増田寛也の「地方消滅」(中公新書)は、東北で売れた。
http://honz.jp/articles/-/41230?utm_content=buffercba1c&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer

川崎市の中学1年生殺害事件で、逮捕された少年の自宅前から、ニコニコ生放送のユーザーが、ネット中継をしたという。誰でも「週刊新潮」ができる時代になってしまった。
http://www.bengo4.com/topics/2765/

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3)【深夜の誌人語録】

厳しさを避けてはならないし、優しさに甘えてはならないし、同情を受けてはならない。