【文徒】2015年(平成27)8月24日(第3巻159号・通巻604号)

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1)【記事】「クックパド+佐渡島庸平=マグネット」の挑戦
2)【記事】マツダは何が問題かを理解せず!
3)【記事】KDDIテレビ朝日が戦略的業務提携を結ぶ
4)【記事】「しらべぇ」の記事と藤本政恭のフェイスブック投稿
5)【本日の一行情報】
6)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】「クックパッド佐渡島庸平=マグネット」の挑戦

マグネットはイーブックイニシアティブジャパンのグループ会社であり、イーブックイニシアティブジャパン筆頭株主クックパッドであり、クックパッドはマグネットに資本参加している。クックパッド代表執行役の穐田誉輝を介して、コルクの佐渡島庸平と草野翔は知り合い、マグネットの代表取締役を36歳の佐渡島がつとめ、CTOを23歳の草野がつとめている。
マグネットが提供を開始した「マグネット Publishing」はマンガの公開・販売プラットフォームだ。
佐渡島はデジタルシフトについて本当によく理解している。「TechCrunch」で次のように語っている。
「デジタル化で便利になりましたが、無機質な電子書籍では作家の思いや考えは全然伝わりません。草野さんとであれば、作家のこだわりを紙以上に再現できて、作家の思いを誰にも邪魔されずに、読者に直接届けていくものが作れるのではないかと思いました。ネットではコンテンツが無料でお金にならないからといって、みんなマネタイズの話にすぐ行きがちですが、ぼくらは収益があとからついてくると考えています。なぜなら、商品ではなく作品が求められていると思うから」
「有力なマンガアプリは資金力があるので、まずはいまと地続きのほうがいいんです。つまり、みんな雑誌や漫画本を読んでいるから、それをスマホに置き換えるというのはイメージできるでしょう。でも、マグネットの場合は、資金力がないからこそ、現在の出版ビジネスの仕組みを置き換えるような事業をやるのはむずかしい。だから、変容していく業界の先の姿を見据え、そのときに便利に使えるツールを開発しているのです」
http://jp.techcrunch.com/2015/08/21/magnet/
草野は佐渡島に次のように熱く語ったそうだ。
「印刷工は、作家の原稿をできるだけそのまま読者に見せたいと思って、様々な努力をした。でも、インターネットでは、みんな売り方について話しているだけで、まだ誰もそのような努力をしていない。自分がそれに挑戦したい」
https://magnet.vc/vision
マグネットは、誰でも無料で漫画を配信できるサービスであり、オリジナルのデータから、読む人の画面サイズに合わせて最適な大きさで配信するそうだ。また容量無制限のストレージであるため作品を保存するのに、容量の心配をする必要がないという。また、マグネットのマンガは、Twitterのタイムラインでそのまま読めるし、ホームページやブログへの埋め込みも簡単にできるらしい。
https://magnet.vc/about
インターネットでビジネスを成功させるには「弱者」を見い出し、「弱者」に奉仕するサービスを生み出すことが鉄則であると私は考えている。ただし、「弱者」の暴走をいかに回避するかを考えないと、そのサービスは荒れてしまう。ここら辺りを佐渡島たちがどう考えるのか気になるところである。
「弱者」の暴走とは、例えば匿名可能なSNSを闊歩するネトウヨを見ればわかるというものだ。

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2)【記事】マツダは何が問題かを理解せず!

マツダは、もっと早くにお詫びをすべきなのではないのか。「西伊豆スカイラインにおいて新型ロードスターを使用したマツダ本社による走行撮影に 問題がある」とツイートされたのが、7月31日である。企業はソーシャルメディア時代の「広報」を早急に確立する必要があろう。
〈このたびの販売会社(静岡マツダ株式会社(以下、静岡マツダ))のテレビコマーシャル制作時における一般車両等の安全走行を妨げる撮影にともない、関係各位に多大なるご迷惑とご心配 をお掛けいたしましたことを心よりお詫び申し上げます。
マツダ株式会社(以下、マツダ)は、お寄せいただいた数々のご指摘を真摯に受け止め、今後の対応に努めてまいります。
※本件の経緯・概要につきましては文末をご参照ください。
1.ご指摘いただいたお客様へのお詫び
5月25日の西伊豆スカイラインにおける走行撮影が安全走行を妨げた旨Twitterにおいてご指摘いただいたお客様には、 大変なご迷惑を おかけいたしましたことを心よりお詫び申し上げます。
また、8月3日におけるマツダ公式Twitterの投稿によって、上記のご指摘をいただいたご本人様に さらなるご迷惑をおかけしてしまったことについても、誠に申し訳なく重ねてお詫び申し上げますとともに、 当該投稿を削除しましたことをご報告申し上げます。
2.今後の対応
マツダは、あらためて販売会社共々法令順守の徹底に努めてまいります。 また、マツダから発信する情報においては適時適切な情報発信の手段を選択し、 ステークホルダーの皆様との誠実なコミュニケーションに努めてまいります。
以上
※本件の経緯・概要
7月31日、Twitterを通じて「西伊豆スカイラインにおいて新型ロードスターを使用したマツダ本社による走行撮影に 問題がある」とのお客様のご指摘を受け、マツダは8 月1日からマツダ本社とその所有車両を調査しました。 そして、8月3日に「マツダ本社での撮影事実はない」旨をマツダ公式Twitterにおいてコメントしました。 同時に、ご指摘いただいた方に、感謝をお伝えする返信をしました。 しかし、その後の追加調査により、8月5日に静岡マツダの発注先による撮影事実が判明し、 8月7日にその旨をマツダ公式Twitterにおいてコメントしました。 (なお、静岡マツダでは同日付で本件に関するリリースを発表しています)〉
http://www2.mazda.co.jp/info/20150820/
見過ごしてはならないのは「※本件の経緯・概要」に書かれている「8月3日に『マツダ本社での撮影事実はない』旨をマツダ公式Twitterにおいてコメントしました。 同時に、ご指摘いただいた方に、感謝をお伝えする返信をしました」という一文だ。
マツダ広報部のツイートは、事実を指摘したユーザーのアカウントを晒したためにこのユーザーはアカウントを削除するまでに追いつめられたことをお忘れか!
私は8月11日付「文徒」で「マツダ広報部の撮影事実はないというツイートにより、このアカウントに罵詈雑言が浴びせかけられたことは容易に想像できるというものだ」と指摘したが、こうした書き方では「ご指摘いただいたお客様へのお詫び」になっていないということだ。
「さらなるご迷惑」の内実を回避してしまっているのだ。結局、マツダは「広報」が「公聴」であることを忘れてしまっているのである。

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3)【記事】KDDIテレビ朝日が戦略的業務提携を結ぶ

テレビ朝日KDDIは、スマホ向け動画配信事業において戦略的業務提携を結んだ。これにより地上波番組と連動したオリジナルコンテンツの共同制作を手がけ、テレビとネットの融合を試みることになる。共同制作にあたっては国内で初めて 通信キャリアのビッグデータ を活用する。また放送中の番組の最新話配信など、両社の持つ強みを最大限に活かすという。
共同制作の第1弾として10月より、秋元康の企画で、AKB48メンバー主演のドラマを、auスマホ向けの動画配信サービス「ビデオパス」で配信する。地上波放送番組に加えて、同クオリティの「ビデオパス」オリジナルエピソードを提供する。
更にテレビ朝日で放送中の金曜ナイトドラマ「民王」を定額制動画配信サービスとしては唯一、「ビデオパス」で見放題独占配信するほか、バラエティ番組など地上波放送番組の見放題独占配信に加え、番組本編をさらに楽しめるインターネットオリジナル動画を「ビデオパス」見放題独占配信で提供するそうだ。
http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2015/08/20/1317.html
テレビとネットの融合は様々なパートナーシップによって今後、加速度的に進むことになるだろう。こうした動向を踏まえるならば、雑誌とネットの融合、私たち流儀の言葉でいえば、雑誌のデジタルシフトは、ユーザー参加型の水平軸のコミュニケーションに立脚しつつ、アメリカの雑誌が既に試みているように「動画」の積極的な導入を前提に考えていかねばなるまい。

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4)【記事】「しらべぇ」の記事と藤本政恭のフェイスブック投稿

この「『アートディレクター』って何?佐野研二郎氏の釈明は『責任逃れ』なのか?」は「しらべぇ」がリリースした記事である。
http://sirabee.com/2015/08/20/46615/
横尾忠則のツイートを紹介するとともに記事は、こう結ばれている。
「燃え続けるトラブルを収束させるためにも、責任者や審査委員の代表者から、なんらかのコメントが出されるべきではないだろうか」
私もそう思う。至極真っ当な見解である。ちなみに「しらべぇ」を運営しているのはNEWSYである。
http://newsy-inc.jp/about/
言うまでもなくNEWSYは博報堂DYホールディングス傘下の出資目的子会社AD plus VENTURE 株式会社が、ゲインと共同で設立した会社だ。
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/17038
一方、博報堂の藤本政恭によるフェイスブックへの投稿が「まとめサイト」に晒され大炎上してしまっている。
http://mona-news.com/archives/40659502.html
http://alfalfalfa.com/articles/128642.html
http://gahalog.2chblog.jp/archives/52343787.html
現在、このページは削除されてしまっている。藤本がそこに書き込んだ次のような文章がネット民を強く刺激し、大炎上に至らしめていることはツイッターを検索してみるならば一目瞭然となる。藤本が投稿を削除したことはネット民からすれば「逃亡」となり、火に油を注ぐ結果となっていることがわかるだろう。
「ネットで面白半分に茶化してるやつら そこまで人の過ちを追い込んで 自殺にまで追い込みたいのかよ!???
万、万が一、そんなことになったら 俺は、絶対に許さない」
藤本は大炎上に直面して投稿を削除してしまうならば、最初からフェイスブックに投稿しなければ良いのである。博報堂出身の中川淳一郎が次のようにツイートしている。
広告業界の実名の上品な連中は今後、佐野研二郎氏をネットで擁護するんじゃねぇ!お前らの一言一句は、彼にとっても邪魔なだけだ。お前らはネットの人々の機微も知らなければ、庶民の生活も知らねぇ連中どもだ。今日の博報堂の藤本も含め、頼むから余計なこと言うな。お前らはネットで受け入れられねぇ」
https://twitter.com/unkotaberuno/status/634704266553257986
中川は、こうもツイートしている。
「おい、いちいちエンブレム騒動及びパクリ騒動で保守速報筆頭のネトウヨまとめサイトををソースにするヤツはバカだと良識的なお前らは思っとけ。森チャック氏が保守速報をソースにした時はオレもギョーテンしたけどな。あのよ、広告業界のお前らはもっとネットのこと学べ。博報堂の藤本政恭もそうだバカ」
https://twitter.com/unkotaberuno/status/634669958480269316
中川の提言はキツイけれど正鵠を射ている。
「これから佐野研二郎氏をネットで擁護しようとする業界関係者へ→1.ポエム的文体書くな 2.感情込めるな 3.殊更、同氏のことを知っているぞアピールをするな 4.ネットの意見を『勝手なこと言いやがって』的に扱うな 5.消すんだったら書くな 6.ハイソ感出すな→【結論】お前らは黙っとけ」
https://twitter.com/unkotaberuno/status/634967637903085569
藤本の投稿が「しらべぇ」の記事を無化してしまったようである。藤本の責任は重い。

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5)【本日の一行情報】

◎ビデオリサーチインタラクティブの調査によればテレビCM出稿量が多い企業ほど、動画広告を出稿する割合が高いことがわかった。まあ、予想できる結果だ。また、この調査を踏まえ「マーケジン」は次のように書いている。
「動画広告を出稿している企業の業種別シェアをバナー広告出稿社のシェアと比較したところ、動画広告の方が『製造業』と『メディア』の広告主のシェアが高く、『専門店(小売)』のシェアが低い傾向になった」
http://markezine.jp/article/detail/22960

ドワンゴは来年の1月30日(土)、31日(日)に幕張メッセで開催するゲームの祭典「闘会議2016」に先駆けて、ゲーム大会「闘会議GP(グランプリ)」を全国各地で開催し、No.1ゲームプレイヤーを決める。ニコニコ生放送でゲームの最新情報やゲーム実況番組を毎日放送する「闘会議TV」もスタートする。
http://news.dwango.jp/index.php?itemid=24742
KADOKAWA・DWANGOに限らず、出版社は「ライブ」にもっと真剣に向き合う必要があるだろう。

トーハン早川書房は、世界的人気を博す猫のキャラクター「プシーン(Pusheen)」の書籍などの共同展開を実施する。まずはキャラクターブック「ねこのプシーン バイリンガル・キャラブック」をトーハン独占販売のMVPブランド商品として全国の書店を通して販売する。
http://www.dreamnews.jp/press/0000117959/
このキャラクター、オレの好みじゃない。
https://www.facebook.com/Pusheen

イネドやマーリエ パー エフデ、ルフトローブなどのブランドを展開する「フランドル」は、アシェット婦人画報社とタッグを組み、「JAPAN COUTURE-ジャパンクチュール-」をテーマに、ものづくりへの想いとこだわりをもっと伝えるため「FLANDRE CONCEPT MAGAZINE」を創刊するとともにニューサイト「SUPERIOR CLOSET.jp」もオープンした。
http://www.afpbb.com/articles/-/3057764
http://www.flandre.ne.jp/topics/2015/08/000114.html
http://www.flandre.ne.jp/topics/2015/08/000115.html

◎中目黒ブックセンターは「ホラーまつり2015夏」フェアを実施している。今年で3回目となるそうだ。出版社がフェアを企画するよりも、書店がフェアを企画し、これに出版社が協力するという形のフェアがもっともっと増えて欲しい。
http://meguro.keizai.biz/headline/106/

安倍晋三首相の事務所は「週刊文春」の記事「安倍首相『吐血』証言の衝撃」に対して記事の撤回と訂正を求める文書を送った。文書には「全く事実無根の内容が含まれており、個人を中傷し、読者に著しい誤解を与える、悪質極まりないものだ」とあるようだ。総てが事実無根だとはしていないんだよね。
http://mainichi.jp/select/news/20150821k0000m040102000c.html

◎宝島社は、ビームスとの共同企画第二弾として、「BEAMS AT HOME 2」を8月26日に発売する。
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000197.000005069.html

講談社は50代を読者ターゲットとした季刊女性誌「おとなスタイル」を8月25日に創刊する。「おとなスタイルWeb」も同日にオープンさせる。
http://www.wwdjapan.com/life/2015/08/21/00017691.html

KADOKAWAは、出版・ 映像・デジタルを軸としたコンテンツ、インフラ及びグローバルチャネルを地域に提供し、地域振興に貢献し、相互発展に資する事業を行っているそうだが、京都市との間で「連携と協力に関する協定」を締結した。次のようなコンテンツプロジェクトが予定されている。
1.「RIMP-A NIMATION 琳派 400 周年×『NEWTYPE』30 周年記念琳派オマージュ展」
2.京都国際マンガミュージアムでの定期的な企画展の実施(第1弾は 2016 年 3 月〜予定)
3.京都近在者に向けた生活・観光情報の発信強化
4.KADOKAWA Contents Academy と連携した京まふ漫画賞の海外展開を推進
http://ir.kadokawa.co.jp/topics/20150821_f5cz8.pdf
「地方創生」に出版社がどう関わるかは重要なテーマである。

紀伊國屋書店は、スイッチ・パブリッシングが刊行する村上春樹「職業としての小説家」の初版10万部のうち、9万部を買切り、自社店舗および取次店を介して全国の各書店において、9月10日から販売を開始する。この試みは、紀伊國屋書店が今年4月に大日本印刷株式会社と設立した合弁会社「出版流通イノベーションジャパン」が検討を進めている買切り・直仕入というビジネスモデルの一つのパターンだそうだ。
http://prw.kyodonews.jp/opn/release/201508202859/
8月21日付日経の記事によれば9万のうち3万〜4万を自社店舗で、残りを他社の書店に供給する意向であり、ネット書店の販売量は5千冊にとどまることになる。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ21I1N_R20C15A8EA2000/
買切りをもってアマゾンに対抗しようという発想なのだろうが、こんな企画が月に1〜2点あったとしても、アマゾンには痛くも痒くもあるまい。紀伊國屋書店はラッダイトなのかしらん。

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6)【深夜の誌人語録】

やりたいことでも、やりたくないことでも手抜きをせずに最後までやり遂げるのがプロの仕事である。