【文徒】2016年(平成28)年12月13日(第4巻232号・通巻919号)

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1)【記事】「NAVERまとめ」がパクリ抗議に“驚愕の対応”
2)【記事】安倍首相真珠湾「初」訪問“誤報”へ新聞メディアの誤魔化しと言い訳
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2016.12.13.Shuppanjin

1)【記事】「NAVERまとめ」がパクリ抗議に“驚愕の対応”(岩本太郎)

DeNAパクリ問題の余波は当分収まる気配が見えないどころか、さらにまた似たような新たな事例がネット上で連日指摘されている。12日にはとうとうLINEが運営する「NAVERまとめ」にも火の粉が降りかかることとなった。
もとより「NAVERまとめ」については、今回のDeNAの件が持ち上がるよりもずっと以前から「勝手にパクられた」といった指摘があちこちから挙がっていたから、そうした事例が指摘されること自体には特に目新しさはない。
むしろ以下の『ITmedia ニュース』による12日付「NAVERまとめに無断転載“された”側の訴え……『抗議への対応に驚愕』」という記事では、タイトルの通り、無断利用を訴えてきたコンテンツの制作者に対する「NAVERまとめ」側のとんでもない対応を告発するところに主題が置かれている。
同記事によると、ライターの北本裕子は自らの個人サイトや企業が運営するサイトに載せた画像を、これまでに何度も「NAVERまとめ」に無断で利用されては抗議を繰り返してきたものの、先方からの「驚愕の対応」の前に、今では《泣く泣く削除依頼をあきらめた》というのだ。
《北本さんはLINEに対し、問い合わせフォームから抗議した。LINEから届いた返信メールには、(1)権利を侵害しているNAVERまとめの画像・テキストのURLを指定すること、(2)出典のURLに、「このページ内の画像をNAVERまとめに転載することを禁止します」など、転載禁止の旨を追記すること――を求められたという。転載禁止の文言は、NAVER側の削除作業が終わり次第、消してよい、という。
記事が載っているのは商用サイトであり、外部のニュースサイトにも同じ記事が配信されている。編集部と対応を話し合ったが、商用サイトやニュースサイトに、一時的でも「このページ内の画像をNAVERまとめに転載することを禁止します」と掲載するのはNAVERまとめの宣伝行為にしかならないと考え、削除依頼を出さず、泣き寝入りすることになったという》
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1612/12/news067.html
同記事を執筆した『ITmediaニュース』の岡田有花による《そもそもなぜ、無断転載された側が、自分のサイトに問い合わせ番号を記入するなどの手間をかけなくてはならないのか》という指摘に尽きるだろう。「無断で利用されるのが嫌ならあらかじめそう書いておけ。そもそもそう書かなかったお前が悪い」とでも言わんばかりのこの対応には、おそらく「NAVERまとめ」に限らず他のキュレーションサイト運営事業者にも共通するメンタリティが潜んでいるのではないか。
LINEはDeNAによる会見が行われる2日前の12月5日に「NAVERまとめ」についての新方針を発表。「まとめ作成者を評価ランク付けする仕組みや、引用元のコンテンツ権利者に利益配分する仕組みなどを新設し、2017年度中の運用スタートを目指す」との発表内容を、これも『ITmedia ニュース』が先に報じていた。はたしてこの新方針とやらがどこまで上記のような問題の解決につながるか、何とも心許ないところだ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1612/05/news128.html

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2)【記事】安倍首相真珠湾「初」訪問“誤報”へ新聞メディアの誤魔化しと言い訳(岩本太郎)

安倍首相が今月ハワイの真珠湾を訪問することについては日米の複数メディアが「日本の現職首相が真珠湾を訪れるのは初めて」と報じたが、これについて「かつて吉田茂が立ち寄っているのではないか」といった指摘がネットメディアなどから浮上。読売新聞などが当時報じていたようだ。
https://www.buzzfeed.com/kotahatachi/first-time-ever?utm_term=.nmzdrLrB2#.lnae3M3or
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20161210-00065306/
当の読売新聞は6日に「51年9月に吉田茂首相(当時)が立ち寄ったとの記録が一部に残る」と報道。一方で朝日新聞は9日付の記事「(Re:お答えします)吉田首相も真珠湾訪問?」で、本社お客さまオフィスに寄せられた指摘に応える形で次のように回答。
《事実確認のため、当時の朝日新聞記事などを調べました。吉田氏がホノルルに立ち寄ったという記事はありましたが、真珠湾に行ったかは確認できませんでした。吉田氏の著作「回想十年」の講和会議前後の記述も調べましたが、ハワイ訪問への言及はありませんでした。
読売新聞の報道を受け、外務省は改めて事実関係を確認。7日、「51年に吉田首相がホノルルを訪問している」としたうえで、「真珠湾での公式行事については確認されていません」と説明しました。
菅義偉官房長官は8日の記者会見で「真珠湾は範囲が広大なこともあって、吉田首相が訪問したかどうか、何らかの行事を行ったかどうかについては確認できない」と述べました。そのうえで、51年当時、真珠湾攻撃の追悼施設「アリゾナ記念館」は建設されていなかったことから、「アリゾナ記念館において現職の首相が慰霊を行うことは今回が初めて。また、米大統領とともに真珠湾を訪問することも初めて」と説明しました。
新しい事実関係がわかれば、改めて報じます。》
http://www.asahi.com/articles/ASJD8520WJD8UTFK012.html
ようするに「現時点では政府にも確認できていないし、誤報だと確定したわけでもない。だからまだ『お詫び』も『訂正』もしないぞ」と言いたいらしい。一方で上記の『BuzzFeed News』は記事中で《これまで記事中で「現職首相として初めて」としていた部分を訂正します》と表明。ロイター通信も《「安倍首相はおそらく初めて真珠湾を訪れた現職首相ではない」と報道している》そうだ。

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎昨日も紹介した『マガジン航』の8日付記事「1円ライターから見た、キュレーションサイト『炎上』の現場」 に対しては、クラウドソーシングによるライティング仕事の受発注の実態を告発したことで反響が寄せられる一方、批判する声も意見も上がっているようだ。例えば「はてな匿名ダイアリー」に寄せられた、こんな意見だ。
《1円ライターの記事を読んでいて、ライターという職業への根本的な勘違いがあるな、と思いました。そして、その勘違いがキュレーションサイトを支える土台になっているな、とも。
件の記事の方は「筆力」があるから自分は高級ライターになれるんだ、と書いていましたが、これが勘違いなんですね。ライターに「筆力」は関係ありません。そもそもライターの仕事で、書くことは全体の工程の一割ほどしかありません。そのほかの9割は調べものをしたり、人に話を聞いたり、関係者の調整をしたりです。書くことは最後の最後だけです。
ライター志望の人が使いものにならない、という場合、書く以外のことが苦手な場合なケースが多いです。そして、キュレーションサイトを支えているのはそういう人なんじゃないか、と思いました。(略)そもそも内職じゃできない仕事なんですね、ライターは。でも、そういうイメージを持つ人がいて、エッセイストみたいなことができるんじゃないか、とキュレーションサイトに応募してくるのでしょう》
http://anond.hatelabo.jp/20161210001409
ブログの主は末尾に《「書く仕事」っていう言い方は罪なのかもしれませんねぇ……》と綴って締めている。蛇足ながら、同じくライターの私はワードで「書く仕事」と書こうとして「隠し事」や「隠し子と」と変換されるたびに、何やら含蓄のある誤変換だなと思ったりしている。

◎人気猫マンガ家・うだまの作品の一部に盗用疑惑が発生して炎上。うだまは自らのブログで著作権侵害を認めて謝罪した。本当に今はあちこちで日常的にこういう問題が起こっている。
http://news.biglobe.ne.jp/trend/1122/blnews_161122_6349999445.html
http://blog.livedoor.jp/marujiji-011/archives/9456141.html

◎「ポケモンGO」の開発の舞台裏や、ユーザーたちが熱狂する様子を描いたドキュメンタリー番組『ポケモンGOが変えた世界』をフジテレビが制作。12月19日の深夜に放送するそうだ。
http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2016/161208-493.html
http://japan.cnet.com/entertainment/35093517/

◎新国立競技場の起工式が11日に安倍晋三首相も出席のうえ行われたが、これは公開されたのは報道陣に対してのみで、周辺住民には開催することも秘密だったという。同競技場の建設に伴い沸き起こった近隣の都営アパート住民や公園野宿者の立ち退き問題をこれまで取材してきたOurPlanet-TVスタッフの平野隆章が着工式を取材し、映像をまじえてレポートしている。
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node%2F2078
https://www.facebook.com/takaaki.hirano.9/videos/vb.100000472584068/1627470407278696/?type=2&theater

◎かつて70〜80年代のニッポン放送における人気番組だった『笑福亭鶴光オールナイトニッポン』が、来年1月14日よりCATVのJ:COMが毎週土曜夜に放送するテレビ番組として、32年ぶりにレギュラー復活することになった。
http://www.sanspo.com/geino/news/20161211/geo16121105050002-n1.html

主婦の友社から2015年7月に刊行されて話題を呼んだノンフィクション『8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら』(中原尚志・麻衣著)が、佐藤健と土屋太鳳の両主演により映画化。2017年冬に公開されることが決定した。結婚式直前に原因不明の病に倒れた女性が、相手の男性の支えのもとに8年間のリハビリ生活を経て結婚式を迎えるまでの実話を、今は夫婦となったその2人が自らまとめた作品だ。
http://corporate.shufunotomo.co.jp/newsrelease/10612/

◎浅草にある、“2種類しか作らない”という老舗パン屋「ペリカン」を描いたドキュメンタリー『74歳のペリカンはパンを売る。』が、2017年春の公開を目指し、資金調達のためGREEN FUNDINGにてクラウドファンディングを実施中。リターンには「ペリカン」の食パン1斤が入るオリジナルトートバッグなどが用意されているそうだ。
https://greenfunding.jp/lab/projects/1738
http://goo.gl/95NqNV

NPO法人「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」 の創立者かつ理事であり、伝説的なゲイ雑誌『バディ』が1993年に創刊された際に編集者として関わった長谷川博史が、『ヨミドクター』での連載インタビューに応えている。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161130-OYTET50019/
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20161206-OYTET50018/

◎この10月以降にスタートしたテレビアニメ番組の中から、制作が放送に追い付かずに“落ちる”ケースが続発している背後事情について、現役のアニメーターや制作進行担当者たちが『ねとらぼ』で証言。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1611/14/news066.html

◎派手なコスチュームに身を包みながら新聞配達を行っていることで新宿の名物となっている通称“新宿タイガー”は今も健在。先週末の夜に新宿の武蔵野通りを自転車で駆け抜けていったところを目撃した私が撮った一枚。
https://twitter.com/iwamototaro/status/807180730765701120
既に約半世紀に渡り新聞配達員の仕事を続けていると言われ、年齢も70歳近くまで達しているはずだ。新聞販売店の実態にも詳しいだろうし、いずれ引退したら“押し紙”問題についても語ってくれないかな。
勤務先である地元の朝日新聞売店(ASA)の公式サイトには彼の特設コーナーもある。
http://www.asa-okubo.com/index.html

◎私が連載記事を執筆している『週刊金曜日』から「マイナンバーご連絡のお願い」と題した依頼状が届いた。ちなみに送り主は(株)金曜日の代表取締役で、かつて『サンデー毎日』編集長などを務めた元毎日新聞の北村肇である。同誌はマイナンバー法には制定前から反対してきたが、法律が施行された以上、寄稿者たちに「提出してください」とは言えないまでも、法律に則って「ご連絡のお願い」として提出する意思の有無を確認せざるを得なくなったということらしい。
なお、依頼状の文面には《ご連絡をいただきますよう、お願いを申し上げる次第です》と述べた後に、こんな下りも書かれてあった。
《ただ、弊社は社員が20数名の零細企業であり、長期にわたる活字不況や消費税の税率アップなどで、すべてにおいて遺漏なきセキュリティにかける費用を捻出するのは困難な状況にあります。度重なる情報漏洩事件やハッキング事件を報道するにつけ、社員のみならず執筆者の皆様全員のマイナンバーを厳重に管理し、未来永劫にわたって一切の漏洩事故・事件(被害を含め)を起こさないという揺るぎない自信は現時点においてないことを、正直に申し上げておかなければなりません。》
https://www.instagram.com/p/BN6sfa7g2Vm/
もっとも、昨年にも同誌で編集委員を務める雨宮処凛が、自身の執筆コラムの中で「某出版社」から同様の「マイナンバー提供お願い」の文書が送られてきたことを明かしていた。リベラルとか左寄りとか言われる出版社とその執筆者との間では、既にあちこちで同様のやり取りが行われてきたのかもしれない。
http://air.ap.teacup.com/taroimo/1803.html

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「注意一秒、怪我一生」とは「自分に限らず他者の何生ぶんまで背負うことになるぞ」との意味だと捉えるべし。