【文徒】2015年(平成27)9月25日(第3巻180号・通巻625号)

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1)【記事】「ネーミングライツ」が渋谷の街から隠蔽した「物語」
2)【記事】朝日新聞記事「ラジオの『宗教の時間』どこへ」が見落とした豊穣なる今どきのラジオ
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

                                                                            • 2015.9.25 Shuppanjin

1)【記事】「ネーミングライツ」が渋谷の街から隠蔽した「物語」(岩本太郎)

渋谷区が2009年から進めてきた公衆トイレの美化事業が、政府のによる「日本トイレ大賞」の女性活躍担当大臣賞を受賞。竹下通りの「神宮前1丁目スシニンジャトイレ」(ウェブのアニメキャラクターの名称による)や、恵比寿駅西口の「恵比寿KANSEIトイレ」(クライアントは管清工業)など、企業からのネーミングライツにより得た費用で、これまでとかく汚いとの悪評が高かった渋谷区の公衆トイレのイメージ払拭に努めたことが評価されたという。
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1420150924hmad.html
ただ、この渋谷区のネーミングライツによる公共スペース整備事業を、私は手放しで評価するわけにはいかない。
2010年前後に区内の宮下公園からの野宿者追い出し問題が紛糾したのは、渋谷区がナイキとネーミングライツ契約のうえ公園整備事業にあわせて、園内に住んでいた大勢の野宿者の追い出しを図ったことがきっかけだったからだ。
この問題については、公園追い出しをめぐる渋谷区側と野宿者・支援者との攻防が最終局面を迎えつつあった頃から新聞や週刊誌でもいくつか報じられるようにはなったが、マスメディアにおける報道量はやはり多くはなかった。
野宿者問題という、マスメディアにとってはあまり取りあげないテーマゆえに、またナイキというナショナルクライアントが絡む一件だったがゆえに扱いにくいということもあっただろう。それを尻目に、この問題を野宿者側と渋谷区側に再三取材するなどして最も精力的に報じていたのはNPOのインターネット放送局OurPlanet-TVだった。
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/639
同事業では結果的に野宿者を追い出した後の公園整備は実現したものの、費用を負担したナイキの社名を冠して付けられるはずだった「渋谷ナイキパーク」の公園名は採用されず終いに。また、その際に公園内に新設されたクライミングウォールの裏面の、おそらく屋外広告用に使うことを想定していたであろうスペースは、今も巨大な黒い壁面を、明治通りを行く歩行者や車に向かって晒し続ける負のモニュメントと化している。
騒動から4年を経た昨年末に私が同公園周辺での野宿者や支援者による「越冬闘争」を取材した際にも、まだそのまま残っていた(以下に写真あり)。
http://air.ap.teacup.com/taroimo/1613.html
もともと渋谷区のネーミングライツ事業の第一弾は、2006年に渋谷公会堂の改修工事が終了すると同時に始まった「C.C.Lemonホール」(2011年に契約期間終了し、元の名前に戻った)だった。音楽ライブの会場としても長年親しまれてきた同公会堂へのこうしたネーミングライツの導入については当時も賛否両論があったと記憶する。
そもそも、野宿者への共感は一般的ではないだろう。確かに野宿者は行政が用意する"支援"を拒否した人々である。しかし、行政の用意したメニューに応じられない事情がある、集団生活ができない、勝手気ままに生きたい、などの理由で野宿を選択した人々が、都会の隙間のような空間でサバイバルすることを私は断固支持する。
そして、行政が公共空間である公園から一方的に追い出すのは不道徳であると考える。最弱者である野宿者の生存権は公園の秩序や清潔を求める権利に優先する。彼らの占拠を強制的に排除するなら居場所を保証する代替案を用意すべきである。サンデルでなくとも功利主義はこの場面では非倫理的だ。
そして、こうしたポジションからの発信に場所が与えられることは少ない。東京の町で目を見開けばどこでも目に入る彼らの姿が、みんな見えていない。私を含め我々は認知的不協和の捕らわれ人なのだ。

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2)【記事】朝日新聞記事「ラジオの『宗教の時間』どこへ」が見落とした豊穣なる今どきのラジオ(岩本太郎)

真宗大谷派が「布教の一環」として1951年から朝日放送KBS京都などで64年間にわたり提供してきたラジオ番組「東本願寺の時間」が9月限りで終了。ラジオ離れによる聴取率の低下や、制作費負担の重さが理由で、今後はポータルサイトでの法話の動画配信などインターネットでの展開にシフトするという。
朝日新聞はこうした「全国で少なくとも数十の放送がある」ラジオの宗教番組が撤退したり番組スタイルを変えたりするなど曲がり角に来ている様子を伝えている。
http://www.asahi.com/articles/ASH9866DPH98PLZB01D.html
この記事に、「それにしても朝日新聞、手抜きせず、番組数くらいは数えてみたらいかがか? プレスリリースがないと、数字も出せないの?」と知人がつぶやいていたが、実は大変な作業になるはずだ。
ラジオ局も昔といまでは大違い。局数からして朝日のいう数十ではなく、コミュニティFM局だけでも200局を超えている。それらのひとつひとつで宗教番組を探しカウントしていくのは不可能ではないが、恐ろしいほどの労力がいる。
たとえば上記の東本願寺がある京都のコミュニティFM局「京都三条ラジオカフェ」では、最近でも「舌願坊普天のシタバタラキ」(制作者:嵯峨野阿弥陀時住職・長澤普天)がある。このように土地柄から僧侶などの仏教関係者が提供スポンサーになるだけでなく自ら出演してパーソナリティも務めていたりするミニ番組がいくつもある。
http://radiocafe.jp/201303007/
ちなみに「京都三条ラジオカフェ」は2003年に、市民出資のNPOが運営する放送局としては日本で初めて放送免許を得たうえで開局した市民参加型のラジオ局だ。当初から「市民が番組制作者でありスポンサーでもある」というシステムをとっており、たとえば3分間の番組なら単発で1500円(税抜)、週一回のレギュラー番組なら月5000円(同)を払うことで一般市民が自分の番組を作って放送できる。いわば受信料ならぬ発信料だ(以下に料金表あり)。
http://radiocafe.jp/production/
こうした「市民発の放送」が産み出す豊穣な世界はもちろん何も宗教番組に限ったことではない。
新聞を含めたマスメディア関係者はまだまだそうした広大な沃野の存在にセンサーが働かないようだ。マイクロメディア革命はすでに成就し、マスコミに弔鐘を打っているのに。

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

小学館日本国憲法』がベストセラーになったのは1982年。当時、改憲を志向する中曽根康弘らの動きに、きな臭さを感じた世間の感性をキャッチしたものだった。そして、安保法制に関連して再び憲法への関心が高まっている中、美大出身の会社員女性が出版社に持ち込んだ”少女漫画風”版や、大阪の憲法学者による”大阪おばちゃん語訳”版といった一風変わった憲法本が刊行され、いずれも好評を博しているという。
http://jp.wsj.com/articles/JJ11633479723831563288917956154121463761156

東日本大震災の発生から4年半を経た今も、被災地周辺では多くの人々が仮設住宅暮らしを余儀なくされている。そうした中、震災発生直後にIT企業を退職し、被害が甚大だった宮城県石巻市にボランティアでやってきた女性が編集長となり、仮設住宅の住民向けにプレハブでのカビ対策やうつ病にならないためのアドバイスといった生活情報を伝え続けてきた月2回刊の無料紙「仮設きずな新聞」がこのほど創刊100号を迎え、記念式典が催された。
http://news.tbs.co.jp/sp/newseye/tbs_newseye2596601.html

◎業界団体の日本ケーブルテレビ連盟が12月1日から、現行のハイビジョンよりも高画質な4K放送の専門チャンネル「ケーブル4K」を、全国の加盟CATV局でスタート。全国のCATV加入世帯約2600万のうちの約5割をまずは対象とし、放送開始から1年程度で100万世帯での視聴を目指すとのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/economy/20150923-OYT1T50105.html?from=ycont_navr_os
「テレビ屋さん」たちの高画質化への夢は尽きるところがないが、しかし次世代高画質テレビがおそらく視聴者の増加につながらないことは、既にBSや地上波のデジタル化の際においてハイビジョンが普及拡大のための切り札としてさほど効果を発揮しなかったことからもはっきりしている。現に民放業界からは新機材の導入によるコスト増が逆に番組制作費などへのしわ寄せにならないかといった危惧の声が聞かれる。
http://matome.naver.jp/odai/2135960034554026601

◎『ボウリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』『シッコ』など、アメリカ社会に巣くう様々な問題に切り込む、ドキュメンタリー映画を撮ってきたマイケル・ムーアの新作は軍産複合体にスポットをあてた『Where To Invade Next』、つまり「次はどこに侵略しにいくか」だそうだ。
http://cinefil.tokyo/_ct/16871155

◎これは私などのライターや編集者にとっては本当に耳が痛いというか目を背けてはならないアイテムかもしれない。「フリーライター・編集者のための『〆切を絶対にやぶらない』スケジュール管理法」。
http://nao-sakaguchi.com/googlecalender/?utm_content=bufferbb5c6&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer

◎『噂の真相岡留安則元編集長が沖縄に移住してからの11年間をまとめた企画が、藤井誠二・仲村清司の両氏が聴き手を務める形で進められているとのこと。
https://twitter.com/seijifujii1965/status/645216095092150276

◎東京・神田神保町で10月17・24日に「第1回神保町映画祭」が開催される。「協賛」には書泉グランデと楽器cafe、「協力」には神田古書店連盟、神保町応援隊、時々gallery Sonia、㈱ワイドアーティストギルド、㈲ハタナカプロダクション、Office小春が名を連ねている。会場は書泉グランデ(7F)と東京古書会館、楽器cafe。
http://jimbocho-moviefes.jimdo.com/

日系ブラジル人の若者の実情に迫ろうと考え、静岡県浜松市周辺で「ブラジル人暴走族」に的を絞った取材をはじめたライター・岸田浩和が、のっけから取材相手につきつけられたのが次のひと言。
「はっきり言うけど、あなたのやろうとしていることは、ヘイトスピーチみたいなもんですよ」。
この言葉に打ちのめされつつも、今や日本生まれの二世も多数を占めるようになった日系ブラジル人社会の懐深くに入っていくまでを描いたルポがTHE PAGEに掲載されている。キツい一言だが、それくらいに言われてこその、この仕事だろうとも思う。
http://thepage.jp/detail/20150918-00000008-wordleaf

◎9月15日号『メディアクリティーク』でも裁判の推移を含めたその動きをレポートした「秘密保護法違憲訴訟原告団」(フリーライターら約40人が原告。私もその1人)が、来たる9月29日(火)の18時から東京・JR新橋駅前で「秘密保護法廃止リレー演説会」を開催。孫崎享(元外交官・評論家)、安田浩一(ジャーナリスト)、制服向上委員会(アイドルタレント)などがスピーカーとして登場する予定である。
http://no-secrets.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-a6ea.html
なお、当日この演説の「司会」を務めるのは私である。原告団の会合を欠席していたら、原告団による「欠席裁判」で役割が振られてしまった。

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

敵を作れない奴には味方も作れない。最大の敵こそが、かけがえなき私の味方だ。