【文徒】2016年(平成28)2月16日(第4巻29号・通巻716号)

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1)【記事】noteは出版社にとって「脅威」なのか?
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】noteは出版社にとって「脅威」なのか?(岩本太郎)

「THE STARTUP」代表で、東京カレンダーWEBプロデューサーも務める梅木雄平によると「2016年に入ってから一部クリエイター界隈(といっても私の周りくらいかもしれないが)でnoteがにわかなブームとなっている」のだそうだ。
http://thestartup.jp/?p=16144
自身も「noteで何冊か販売してみましたが、案外売れて驚いている」という梅木は、noteを運営するピースオブケイク代表の加藤貞顕に取材し、いくつかの事例を引き出しつつ上記の記事にレポートとしてまとめている。
例えばnoteで一番売れているジャンルである「マンガ」では、加藤による「漫画家の田中圭一さんの作品は、1作品100円などで販売していますが、数千冊前半単位の売れ行きです」とのコメントを受けた形で、田中の最近作「うつヌケ 〜うつトンネルを抜けた人たち〜」も紹介しつつ次のように論考している。
《あくまで私の予想だが、1作品を100円で2,000冊売ると20万円。手数料20%と仮定しても、手元に16万円残ります。きっと、漫画雑誌に寄稿するより印税条件良いのではないか(あくまで歩合制ですが)。書籍化を前提にnoteで1作品ずつ売っていくこともあるようで、「うつ抜け」もその手の作品。書籍化する漫画自体は白黒の予定とのことですが、noteではカラーで売っています。十分な収益性があるので、カラーにしようと作家のテンションが上がったのかもしれませんね》
そのうえで梅木は、記事の冒頭で自ら発した「一過性ブームで終わるのか、それとも文化として定着するのか?」への答えとして、末尾で次のようにまとめている。
《もちろん、すべてのクリエイターがnoteでの販売が成立するわけではなく、noteで売れるクリエイターの方が少ないと思う。しかし、売れるクリエイターにとっては、今まで無料ですべてのテキストコンテンツを出していたのもアホらしいと思うし、無料読者を相当数保有していれば、C向けサービスの月額課金比率と同様の、無料会員の5-10%程度は課金してくれるのではないかと思う。(略)我々のようなnoteでそれなりに稼ぐことを証明したクリエイターがガンガン事例をつくっていけば、世の中はそういうムードに流れが変わっていく。》
梅木がそうした持論を展開する背景には、既存の紙媒体における旧来型のビジネスモデルに対し、自らの遭遇体験からも疑問を感じているということがあるようだ。上記の『THE STARTUP』の後、『BLOGOS』に寄稿した記事の中でも梅木は、書籍編集者の中から最近「noteが脅威すぎてやばい」との声が上がっているとの前振りから以下のように述べている。
《私自身、最近とある雑誌の寄稿依頼があり、それ単体で稼ごうとは思っておらず、PRの一環ということでお受けしましたが、原稿料は1本2万円程度。同じ内容をnoteで出せば、最低2万円分は売れそうだなと感じました。よって、経済的には雑誌に寄稿することで、収益機会をロスしているという見方ができます》
《その雑誌の発行部数は知りませんが、1-2万部はないのではないかと。(略)雑誌や他媒体へ寄稿するのは、原稿料のみというビジネスモデルでは成り立たず、露出による副次的な効果(講演やコンサル料の高騰)まで見越せないと、ROIが悪い上に、副次的効果は不確実性が高い》
《あえて言わせてもらうと、(特に紙)媒体という存在には傲慢さを感じます。/うちで書けばあなたのブランディングになるでしょ?だから原稿料は安くても我慢してね。/そんな心理が見え見えなのです。実際に(雀の涙程度の)ブランディングにはなるでしょうし、媒体側に予算がなくて高額の原稿料を支払えない構造にあることはわかっています。紙が売れた時代よりも予算はどんどん減っているのでしょう》
http://blogos.com/article/160551/
確かにネットネイティブ世代からすれば、編集者と寄稿者との最初の打ち合わせの席で原稿料の話が全く出なかったり、あるいは双方ともにそれを切り出すのが悪いことであるかのごとき紙媒体での常識はイコール非常識であるに違いない。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎『クウネル(ku:nel)』リニューアルへの賛否をめぐるウェブ上での議論はまだ続いている。おぐらりゅうじと速水健朗も2月11日付の対談記事でこれをテーマとしていて、今後もまだ続くらしい。
https://cakes.mu/posts/12220
ちなみにこの記事、私が13日の13時10分にfacebookでシェアした時点では確かタイトルは「『 ku:nel』の失敗と「SNSは緩慢な自殺なのか」問題」だったような気がするが、後で再び見たら前記の「『 ku:nel』の失敗」の部分は「『 ku:nel』の苦戦」になっていた。
確かに記事中では速水が「売り上げや広告収入のことを考えると、このリニューアルが失敗だったというのは時期尚早だよね」と発言しているから、記事タイトルで「失敗」と断言するのはまずい。もっとも、私のfacebook画面に表示されるサムネイル写真下の表題は、今でもシェアした時点と「『 ku:nel』の失敗」になっているけど。
https://www.facebook.com/taro.iwamoto/posts/949666901754537?pnref=story

◎「アインシュタインが予言した重力波を世界で初めて観測!」で新聞各紙が大々的に一面トップを飾った2月12日付朝刊トップだが、その中で唯一「重力」に逆らい、「県内のかけうどんの値上げ」をトップ記事に持ってきたのは、讃岐うどんの本場である香川県をエリアとする四国新聞。ネット民たちはこの「快挙」に沸き返った。うどんが「主食」である当地におけるメディアの「場」をなす「重力」は、そんな全国レベルでヨソからやってくる「重力波」をも押しのけるのだ。
http://netgeek.biz/archives/66119

◎先の『週刊文春』での報道で一躍時の人になってしまった宮崎謙介と、少し前に同じく『週刊文春』での報道で一躍時の人になってしまった武藤貴也が2014年初夏、自民党が放送するトーク番組『Cafesta(カフェスタ)』で対談。「日本の宝」をテーマに、全国各地の食や土地の魅力を語り合っていた。
http://logmi.jp/95337
ほどなく削除されてしまうかもしれないが(動画は既に削除された模様)、一つの資料としては貴重だ。

山田健太が『琉球新報』に「<メディア時評・政府言論とメディア>問われる基本姿勢 プロパガンダ加担するな」を寄稿。
《一般市民の貴重な表現活動であり憲法上の権利である請願権の実効的手段でもある国会や米軍基地前で行われているデモや集会について、その価値を否定するかのような記事や番組内の発言も続いている。こうしたマスメディアの姿勢は、自らの社会的役割の否定につながりかねない》
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-220884.html

◎これすごいよね! 「新婚さんいらっしゃい」「プロポーズ大作戦」「熱闘甲子園」「探偵! ナイトスクープ」など数々の人気テレビ番組の画面タイトル文字を約60年にわたって手書きしてきた職人・竹内志朗の著作『テレビと芝居の手書き文字』が、PDFデータとして無償配布されているそうだ。
http://www.spur.co.jp/bookDL/
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1602/12/news143.html
『テレビと芝居の手書き文字』は2010年に発刊されたものの、現在は再版分も完売し在庫がない。そこで著者本人が「竹内志朗の行ってきた仕事、テレビ・舞台の裏方職業を皆様に周知していただく」という当初の目的を果たすべく無償配布に踏み切ったという。

◎福岡県の筑後市立図書館が2014年から雑誌の付録を利用者にプレゼントする企画を実施している。税金で雑誌を購入している以上、捨てるわけにもいかず書庫にたまる一方だった付録を活かして、利用が減少しがちな冬場用者対策として始めたところ、昨年は1930件もの応募が寄せられるほどの好評企画となった。今年も2月10日より開催しているとのことだ。
http://www.asahi.com/articles/ASJ2254KNJ22TGPB00R.html
確かにブランド物のバッグやらポーチから、一時は鍋までつけてきたこともあるからな。図書館としてはこれだけを単体で貸し出すわけにもいかないだろうが、でも図書館で本を借りるついでに鍋も借りてくるようなことができたらいいかもしれない。

シネマヴェーラ渋谷で去る2月13日から「フィクションとドキュメンタリーのボーダーを超えて」と題された特集上映が3月4日にかけて開催中。筑摩書房から対話集『ドキュメンタリーは格闘技である 原一男 vs 深作欣二 今村昌平 大島渚 新藤兼人』が刊行されたことを記念して行われる特集上映。原の『ゆきゆきて、神軍』など過去作に加えて約22年ぶりの単独監督作となる新作ドキュメンタリー『ニッポン国泉南石綿村〜劇場版 命て なんぼなん?〜』のほか、新藤兼人『裸の島』、今村昌平『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』、大島渚『キョート・マイ・マザーズ・プレイス』など20作品を上映。トークショーも行われる。
http://natalie.mu/eiga/news/176023
http://www.cinemavera.com/schedule.php
しかし「ドキュメンタリーは格闘技である」って題名はまさにその通りだと思うけど、一方で「ジャーナリズムは格闘技だ」って言葉は今まであまり聞いた覚えがないな。「公正中立」がどうたらこうたらって話はこのところ盛んだけど、そんな状況下では格闘技などにはおよそなりえないのかもしれない。

◎『いきいき』が社名・雑誌名ともに「ハルメク」に名称変更する。
https://www.tsuhannews.jp/%E3%81%84%E3%81%8D%E3%81%84%E3%81%8D%E3%80%81%E7%A4%BE%E5%90%8D%E3%83%BB%E9%9B%91%E8%AA%8C%E5%90%8D%E3%82%92%E3%80%8C%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%82%AF%E3%80%8D%E3%81%AB%E5%90%8D%E7%A7%B0%E5%A4%89/

伊藤園セブンイレブン限定で始めた「春歌(はるうた)プレゼントキャンペーン お好きな春歌(はるうた)を1曲、期間中ストリーミングでフルで聴ける!」が早速炎上。
http://togetter.com/li/937392

滋賀県議会が、県側からまだ説明を受ける前だった2016年の県の当初予算案の概要をNHK大津放送局が先に報道したことを「見逃せない」として、NHKの担当者からの説明を求め全員協議会への招致をいったん決定。ところが、これについて報道各社が「報道の自由への介入ではないか」などと報じるうち、後に県議会は「県から事情を聴き、呼ぶ必要はなくなった」として決定を撤回したという。
招致を提案した最大会派・自民党県議団は「報道への介入という意識はなかった」。一方で他会派は「突然の自民側の提案で、いいも悪いも判断できなかった」(民主系を含むチームしが県議団)、「報道への圧力には反対だ。だが事情が分からず反対しなかった」(公明県議団)、「県民の代表が知る前に報じられるのはおかしい。議会にって大きな問題と思い賛成した」(共産党県議団)と、それぞれ弁明。
http://www.asahi.com/articles/ASJ2B5VM3J2BPTIL01P.html

法務省が複数のサイト管理者にヘイトスピーチの動画の削除を要請し、一部が応じていたとか。報じた東京新聞によれば「初ケース」だという。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2016021301001962.html?utm_source=twitterfeed

◎アフリカ・ウガンダのテレビ局NTVで2014年から放送されている番組『ニューズビート(Newz Beat)』は、ニュースキャスターが政治情勢などについてのニュースをラップに乗せて伝える番組なのだという。理由は政権からの「報道機関に対する検閲の圧力が非常に厳しい」からだとか。ラッパーからジャーナリストに転身した「ラポーター(rap-orter)」なる人々もいるらしい。
http://youpouch.com/2016/02/13/335682/

フリーランスのジャーナリストら数十名による「秘密保護法違憲訴訟」原告団は、昨年11月の東京地裁における敗訴を受けて上告。控訴審の第1回口頭弁論が2月29日(月)15時から東京高裁101号法廷で行われる。当日は原告側からの意見陳述を豊田直巳、早川由美子、明石昇二郎、私(岩本太郎)の4名が行う予定。
https://www.facebook.com/himitsuhogohou.saiban/?pnref=story
ちなみに原告代理人を務める弁護士の山下幸夫によれば「民事の高裁は大抵1回目で結審」とのことなので、少しは座を荒せるようにできればと思う。

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

顰蹙は金のなる樹にして売れ!