【文徒】2016年(平成28)4月12日(第4巻68号・通巻755号)

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1)【記事】"雑誌"としてますます拡大する? 『みんなの経済新聞』
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】"雑誌"としてますます拡大する? 『みんなの経済新聞』(岩本太郎)

8日夜に渋谷のヒカリエで開かれた「春の小ネタまつり2016 〜狭くてゴメンね!〜」なるイベントに参加した。インターネット新聞「みんなの経済新聞」グループと、その第1号として2000年に創刊された『シブヤ経済新聞』の主催によるものだ。
昨年、この4月8日が一般社団法人日本記念日協会より昨年「小ネタの日」として認定された(由来は4と8で「ジワジワくる」にちなむ)のを記念して開催されたライブイベントの第2弾で、グループの創始者ともいうべき『シブ経』編集長の西樹(にし・たてき、(株)花形商品研究所代表)による進行のもと、雑誌『宝島』の往年の名物企画として人気を博した「VOW」で活躍した編集者・ライターの渡辺祐も「特別顧問」として参加。そう、まさにかつての「VOW」のコンセプトをそのまま現代に持ってきたような企画だったのだが、定員80名の会場をほぼ埋めた観客たち(入場は無料)の笑い声が終始絶えない2時間のライブとなった。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=984909758230251&set=a.347169725337594.83191.100001337077521&type=3&theater
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=984932621561298&set=a.347169725337594.83191.100001337077521&type=3&theater
また、今回登壇のうえ自身のとっておきの「小ネタ」を披露してくれたプレゼンターたちのサイトも参考までに紹介しておこう。「灯台オタク」を自称する不動まゆう(本職は学芸員)による世界各地の灯台ルポや、ラジオの構成作家・ライターとして活躍するやきそばかおるの「ローカル番組『だけラジオ』の世界」などはなかなか面白かった。「雨漏り」をテーマに、住宅建材メーカーをスポンサーにつけたラジオ番組がFM三重で放送されているなんて、こんな機会でもなければ知ることもなかっただろう。不動は『灯台とうだい?』というフリーペーパーも発行しているそうだ。
http://ameblo.jp/mayuufudo/
http://ww6.enjoy.ne.jp/~are/
それにしても『みん経』の拡大ぶりには目覚ましいものがある。前述の通り16年前に『シブ経』を渋谷で会社を営む西が単独で立ち上げ、4年後の2004年には第2弾の「ヨコハマ経済新聞」が生まれるのだが、その後は各地で「創刊」が相次ぎ、現在では国内で106、そして海外でも11もの『〇〇経済新聞』がネット上に展開するまでになってしまった。
しかも「〇〇」の範囲も例えば横浜だと「ヨコハマ」のほかに「港北」もあるほか、都内でも「シブヤ」のほかほぼ主要駅ごとに存在。「伊勢志摩」や「石垣」など「よくやってるな」と思いたくなる限られた地域にもある。海外では今のところカンナム、香港、マニラ、パリ、シンガポールホーチミンバンコク、ムンバイ、ドバイ、ニューヨーク、バンクーバーを拠点にそれぞれ展開している(全て日本語がベース)。
http://minkei.net/
ジャーナリズム色に特化した市民メディアとして後発で登場した『JanJan』や『オーマイニュース日本版』が撤退して久しい今、『みん経』がここまで拡大し得た大きな理由は「無理をしなかった」ことだろう。いずれの地区でも運営主体は地元の企業やNPOであり、そこのメンバーたちが徒歩や自転車で回れるくらいのエリアの中から情報を拾って発信する(もちろん、基本的にそれらはボランティアベースの作業だ)。それが『みん経』というネットワーク(それぞれの運営主体間には資本的なつながりはなく、信頼関係に基づく「暖簾分け」的な格好で増えてきた)を通じて全国はおろか海外にまで伝えられる(?)"インターローカル"の巨大メディアを形成している。
以前より私(岩本)が何度か話を聞いた『ヨコハマ経済新聞』編集長の杉浦裕樹が「コンセプトは”狭く”することなんです」と説明してくれたことがある。『みん経』で扱う話題は基本的にポジティブ・ニュースであり、スキャンダルなどの社会問題はあまり載らない。このあたりが他の市民メディアから「『みん経』はジャーナリズムではない」などと時に言われたりするところなのだが、ジャーナリズムを標榜して最初から大風呂敷を広げたインターネット新聞が退場していった一方で、あえて"狭さ"に徹した『みん経』の今日の活況は一つのアンチテーゼを投げかけているともいえる。上記の「小ネタまつり」のサブタイトル「狭くてゴメンね!」はむしろ彼らにとって誇るべき褒め言葉だろう。
そして今回、「VOW」のメンバーだった渡辺が関わるライブを会場で見ながら、『みん経』は「経済新聞」と言いつつも、むしろ実は今の時代における「雑誌」ともいうべき性格のメディアではないのかとの感想も覚えた次第だ。かつて「VOW」を掲載した『宝島』はもとより、今ではこうしたストリートカルチャーの担い手たちが自らも積極的に関わることで盛り上がっていた紙の「雑誌」という存在は、今やどんどん死滅しつつある。
ある意味でそれに成り代わるものとして『みん経』のようなメディアが出てきたのだとすれば、出版業界も何故これがここまで伸びてきたのかについて、もっと注目していってもよいのではないかとも思うところだ。こうした雑(多様性)をもって言われる多くの人たちの志を発信してこそ「雑誌」だったのだから。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

TBSラジオ荒川強啓デイ・キャッチ」の3月31日放送分で山田五郎が「出版取次ぎの大洋社破産の波紋」をテーマに、永江明に電話でインタビューしながらニュース解説していた(18分頃からの約9分間)。主に芳林堂書店との件を叩き台に問題の本質に迫る一方、「書店も営業努力が必要だ」と頑張っている書店の名前を挙げつつ述べたり「出版社の責任が大きい」との発言も(ただし具体的な出版社名は出ず。無理ないか)。
しかしこれ、いわゆる「マス四媒体」と言われてきたメディアがこの問題について取り上げた中では、もしかしたら今のところこれまでで一番ボリュームがあったものなんではないか?
https://youtu.be/GXar2UEaS2U

◎その芳林堂が太洋社と「共倒れ」に至った舞台裏を、東京商工リサーチ常務取締役の友田信男が「フジサンケイビジネスアイ」紙上で簡潔にうまくまとめている。
《芳林堂が破産した後の3月15日、太洋社が破産を申請した。両社の破産申立書には芳林堂は「太洋社が突然、不足分の支払いを要求してきた」と、太洋社は「突然、芳林堂が破産した」と、お互いが元凶のような記載があった。
多店舗の書店を取引先にして売り上げを拡大したい太洋社と、資金繰りを支援してくれる取次業者を求めた芳林堂。外部からは両社は蜜月関係に映ったが、蓋(ふた)を開けてみるとお互いの思惑しか見えてこない。
相互補完を求めた2社は、それぞれじり貧から脱却できないまま、お互いの首を真綿で絞めるように共倒れした》
http://www.sankeibiz.jp/smp/business/news/160407/bsg1604070500003-s1.htm

自民党の総裁ネット戦略アドバイザーで元科学技術担当大臣の山本一太が、党の公式ネット番組で海外メディアで日本に関する報道をした記者に対してツイッターなどのソーシャルメディアで反論するコーナーを開始。これについて上智大学教授の田島泰彦は「権力者や政治家はなぜ異論が出るのかを受けとめるべき立場だ。権力を見張るメディアを、権力が見張っているようで本末転倒だ」。一方で駒沢大専任講師の逢坂巌は「オープンな場であれば議論は悪いことではなく、記者クラブに加盟しない海外メディアは圧力に感じることはないだろう」と、記者クラブに加盟する日本メディアの代表格である朝日新聞の取材にきっちり皮肉を盛り込みつつコメント。
http://digital.asahi.com/articles/ASJ485GQSJ48UTFK00P.html?rm=397
http://ch.nicovideo.jp/ch1023

◎『クローズアップ現代』を降板したばかりの国谷裕子が、岩波『世界』5月号に寄稿。「インタビューという仕事 『クローズアップ現代』の23年」というタイトルで、話題になった2014年7月3日に出演した菅義偉官房長官との一件についても言及している。
《日本では、政治家、企業経営者など説明責任のある人たちに対してでさえ、インタビューでは、深追いはしない、相手があまり話したがらないことは、しつこく追及しないのが礼儀といった雰囲気がまだ残っている。(中略)批判的な内容を挙げてのインタビューは、その批判そのものが聞き手の自身の意見だとみなされてしまい、番組は公平性を欠いているとの指摘もたびたび受ける》
《聞くべきことはきちんと角度を変えて繰り返し聞く、とりわけ批判的な側面からインタビューをし、そのことによって事実を浮かび上がらせる、それがフェアなインタビューではないだろうか》
http://www.buzzfeed.com/satoruishido/yuko-kuniya

矢口真里ビートたけしらが共演したカップヌードルのCMが放送中止になった一件について、デジタルハリウッド大学大学院専任教授で(株)ヒマナイヌ代表の川井拓也が「カップヌードルがまたやった!矢口真里新垣隆ビートたけし共演のCMが放送中止に!」と自身のブログに怒りの投稿。
川井はくだんのCMが始まった直後の3月30日には「カップヌードルがまたやった!矢口真里新垣隆ビートたけし共演の痛快CM!」と絶賛する記事を掲載し、これに対して「またたくまに1.4万いいね!を獲得。のべ13万人以上の人が記事経由でCMに触れた手前、今回のことについては書かねばなるまい!!」ということで、以下のように述べている。
《1つめは、炎上することがわかって風刺の効いたCM企画を通しておきながら実際にクレームが殺到するとひっこめるという腰砕けっぷり。だったら最初からやるな!ということになる。記事で絶賛したのもこんなギリギリの表現を企画として絵コンテとしてCMとしてよく通したな!という点だった。クレームが来てみなさんを不快にさせてすいませんでしたなんてもう本当にがっかりとしかいいようがない》
《2つめは、オンエアーを中止しただけではなくWebにある動画まで引っ込めたこと。テレビは見たくもない人にCMが触れるメディアだがWebは違う。クリックなりタップなり意図的なアクションがないとそこに到達できないメディアだ。そのまま置いておけばいいじゃないか!放送中止で話題になりアクセスも殺到するだろうになかったことにしようという腰砕けっぷり。オンエアーだけでなくCM自体をお蔵入りにされたらあれを絶賛した俺たちの気持ちの行きどころがない!!議論にもならないじゃないか!》
http://himag.blog.jp/48312401.html
http://himag.blog.jp/48231242.html

KADOKAWA電撃文庫」編集長の職を辞して独立し、新会社「ストレートエッジ」を設立した三木一馬メディアワークスの出身。その三木に、アスキー出身の加藤貞顕がインタビューしている。
https://cakes.mu/posts/12731

◎『全国遊郭案内』『全国女性街ガイド』など、往年の遊郭や売春関連の書籍を次々に復刊している版元「カストリ出版」は、30代後半の代表・渡辺豪がほとんど一人で運営。復刊に際しては元本を一から手作業でテキストデータに打ち込むところからやっているそうだ。
http://kastoripub.blogspot.jp/
http://www.cyzo.com/2016/04/post_27476_entry.html

大川隆法が4月5日に幸福の科学出版から上梓した「手塚治虫の霊言」に、当然ながら手塚治虫の遺族は困惑しているとか。娘の手塚るみ子は《手塚はこんな言いぶりするわけないのオンパレードなのだ。当初は無断で写真や画像を使用してたので違法だとしてそれは外して貰った。しかし内容まではそうもいかないのだ》《手塚本人の言葉だと言われると腹立たしさしかないが、むしろ壮大なパロディ本として出版されたなら笑って済ませられたかもしれない。表紙を田中圭一にでも描かせて》《法的に訴えるのは何かと面倒くさいので、どうやってこれをギャグとユーモアで対応するか考え中》などとツイート。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/04/05/ghost-of-osamu-tezuka_n_9621602.html
https://twitter.com/musicrobita/status/717478742306598912?ref_src=twsrc%5Etfw
https://twitter.com/musicrobita/status/717481111052365825?ref_src=twsrc%5Etfw
https://twitter.com/musicrobita/status/717483196628074496?ref_src=twsrc%5Etfw

◎5日に都内のホテルで行われた乙武洋匡の「誕生日を祝う会」(謝罪の会)に出席した駒崎弘樹社会起業家鳩山内閣内閣府非常勤国家公務員)が、ホテルの外で待ち構えて「乙武さん、どうでしたか?」とコメントを求めてきた報道陣に「そんなことはどうでも良いから、待機児童問題の深刻さを……」と、その場でフリップを掲げて説明したものの1秒も使われなかったという話を自らfacebookで公表。まあ、仕方ない気もするけどね。
https://www.facebook.com/Hiroki.Komazaki/posts/1072460316160921?pnref=story

自動車雑誌バイク雑誌の老舗・三栄書房が、1934年創刊の『モーターファン』など各雑誌の創刊号を電子化し、ウェブ上で無料公開する記念企画を実施中。
http://www.mfy2016.com/3962
http://www.mfy2016.com/issue

◎『小説 新聞社販売局』で「押し紙」など新聞業界の闇の部分を描いた幸田泉が、朝日新聞における発行部数水増しの実態へと切り込んだ。いよいよノンフィクションの世界でもデビューするのか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48396

◎「AbemaTV」が11日より本開局。開局記念イベント中継を部分的に見ていたが、どうも途切れがちなのが気になった。
https://abema.tv/
http://techwave.jp/archives/abematv-start-broadcasting.html

◎PC設定なしでインターネットラジオを聴けるラジオ受信機というものが発売された。インターネットでサイマル放送をしている全国100局以上のFM局の放送も聴くことができるという。見た目はごく普通のラジオで、価格は約5000円。聴く場合は周囲にWi-Fiが必要というところがまだイマイチだが、こうしたアイテムが普及していくと、機械操作が苦手なお年寄りでも全国のFMラジオ局の放送を気軽に楽しめる状況になっていくのかもしれない。
http://www.shin-shouhin.com/2016/03/04/internetradio/
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/1604/08/news148_2.html

◎そのインターネットラジオには「ハッキング」にあう危険性もある。アメリカの地方ラジオ局がインターネットで流していた放送がハッキング被害に遭い、90分間にわたって全く関係のないポッドキャストの番組が放送される事件が起こったそうだ。
http://gigazine.net/news/20160408-radio-station-hack/

◎その一方でインターネットラジオの世界ではより専門性に特化したラジオ局が数多く生まれる可能性もある。ここで紹介されているクラシック専門インターネットラジオ「OTTAVIA」などは、「これを待っていた!」というリスナーも多いのではなかろうか。
http://goo.gl/8FQ9yw

小学館ノンフィクション大賞の選考委員になった社会学者の古市憲寿が、ツイッターで受けた批判にさっそく反論。
《早速「なんでおまえが審査員なんだ」と一部で叩かれてますが、ワクワクするノンフィクションは大好きなので、どんな作品が読めるのか楽しみです!》
《まあ、立派なおじいちゃんに評価されるノンフィクション系の賞はすでにたくさんあると思うので、そういう賞がとりたい人は、普通に本格派の分厚い本を出して下さい…》
https://twitter.com/poe1985/status/718760129944915968
https://twitter.com/poe1985/status/718760460632199168
http://www.daily.co.jp/newsflash/gossip/2016/04/10/0008975674.shtml

◎ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ社長の前沢友作は実はメールアドレスも持たず、出社するのも会議に出るための週3日だけなのだそうだ。
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO99043180Q6A330C1000000?channel=DF180320167075

プロ野球オリックスの外野応援席にこんなボードが掲げられていたそうだ。ファンもしたたかにこのシーズン初めの状況を楽しんでいる。
「今日は勝てる! 賭けてもいい いや、賭けてはいけない」
https://twitter.com/mitsumune/status/716474426179497985

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

何もやらないためには何でもやるような人生に陥ることなかれ。