【文徒】2016年(平成28)3月29日(第4巻58号・通巻745号)

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1)【記事】あえて放送免許を返上してネット媒体に移行するラジオ局(岩本太郎)
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】あえて放送免許を返上してネット媒体に移行するラジオ局(岩本太郎)

神戸市長田区のコミュニティラジオ局「FMわぃわぃ」が3月31日をもって地上波放送を終了(放送免許も返上)し、インターネットラジオ局に移行する。1995年1月の阪神・淡路大震災後に被災地で苦境に立たされた外国人向けの海賊放送(無免許)として発足し、行政と交渉しながら震災1年後の96年1月17日に正式なコミュニティFMとして認められた免許を、開局20周年の今春に自ら手離す決断をした理由について、代表理事の1人である日比野純一が28日付の自身のfacebookページで次のように述べている。
FMわぃわぃが、コミュニティ放送の免許を総務省に返すに至った大きな原因の一つは、東日本大震災の後に放送法/電波法が改訂され、コミュニティ放送局が基幹放送局に位置づけられたことにある。》
阪神・淡路大震災時に海賊放送として始まった元祖災害ラジオ局のFMわぃわぃは。震災の一年後に当時の郵政省にお願いをされる形で、異例の早さですっとコミュニティ放送局になれ、長い復旧、復興期にラジオ放送を活用したコミュニティ再生に大きく貢献することができた。しかし、いまの制度では、もうFMわぃわぃのような放送局が産まれる余地はなく、地方自治体の大きな支援なくして、臨時災害放送局コミュニティ放送に移行することが難しくなってしまった。
基幹放送に位置づけられると、どんな災害が起こっても放送が停まらずに災害情報を流すことが求められ、例えば放送が二時間以上なんらかの事故で停まると、「重大事故」扱いとなり、山のような原因追求書類と同様の事故が二度と発生しない仕組みづくり(インフラ整備やシステム構築)と国の立ち入り検査が求められ、一昨年の8月にFMわぃわぃはそれを経験した。
例えば津波のような災害時に行政職員でもないコミュニティ放送を運営するNPO法人や株式会社のスタッフが、命の危険を感じながらも放送を続けなければならないコミュニティ放送とは、なんなのであろうか? FMわぃわぃは、行政からそのための補助金を受けているわけでもない。》
《仮に津波が発生しても、放送事故を起こさずに、長田港から近いカトリックたかとり教会内にあるスタジオで放送を続けなさい、とはFMわぃわぃの仲間達には、私は言えない。それよりは、まずは逃げなさい、と言いたい。消防団の団員が水門を見に行って津波にさらわれた事例は、東北ではたくさんある。もし、同じようなことが起こったら、その責任を総務省はとれるのだろうか?》
FMわぃわぃコミュニティ放送の免許を総務大臣に返すに当たり、総務省の本省と近畿の窓口(近畿総合通信局)に、まずモノ申すところから始める。小さな一歩から大きなうねりに変えてみせる。》
https://www.facebook.com/junichi.hibino/posts/10207522989785929
ラジオを単純な営利メディアとしてではなく、災害時にも有効な社会インフラと位置付けた形での法整備が求められているのだ。また、一方では今後こうした事業運営に必要な免許やインフラなどを敢えて投げ打ったうえで体質転換を図りながら存続するというケースが、コミュニティFMに限らず正規のラジオ局やテレビ局でも増えてくる可能性についても、やはり思いを寄せたくなる。
FMわぃわぃ」にしても、当初は震災後の地域復興に不可欠の道具として苦心惨憺の末に獲得した「道具」としての地上波ラジオが、今や自分たちのミッション遂行のためにはかえって重荷になっていることからそうした判断に至ったわけだ。実際に紙媒体の世界では昨今、新聞や雑誌が紙の発行をやめてウェブ媒体に移行するとのニュースを国内外からよく耳にするようになっている。「自分たちは何を伝えるか」「何が自分たちの使命なのか」に重きを置くのであれば、「手段」としての「道具」がいつしか「目的」化してしまい、それに振り回されるという本末転倒な事態は避けるべきなのだろう。
なお、FMわぃわぃは3月31日に総務大臣コミュニティ放送局の免許を返上するに際し、その前日の明日3月30日(水)16時半より、総務省内の記者クラブ室でメディア向けレクチャーを行うことになった。記者クラブ会員でないネットメディアやフリーランスのジャーナリストも参加できるという。問い合わせは総務省内の記者クラブ室(総務省の代表番号03-5253-5111より内線で呼び出し)まで。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎さる24日に岸井成格田原総一朗鳥越俊太郎大谷昭宏青木理のジャーナリスト5名が外国特派員協会主催の記者会見に出席し、高市早苗総務相の「電波停止」発言など昨今の安倍政権による一連の「メディア潰し」とも囁かれる姿勢に抗議を意を表明したことは大きく報じられたが、この会見や、2月の高市発言の際に上記と同じ出席者らで行った記者会見にもNHKからは記者やカメラマンが1人も取材に来なかったそうだ。席上で大谷昭宏は「国民の受信料で成り立つ公共放送が、海外メディアですら高い関心を持っているにもかかわらず、何ら見向きもしない。この姿を(特派員に)見てもらえるだけで、日本のメディアの状況を分かってもらえる」と皮肉ったとか。
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/178034/2
大谷の言ったことは正しいし、会見に来なかったNHKは批判されて然るべしだと私も思う。が、一方で「今さらここでこういう会見をやってもな……」との思いもなしとしない。
そもそもこうした著名なジャーナリストたちが横並びで、時の政権に対する異議申し立てを記者会見を開いて行うスタイルの端緒は2001年1月15日、上記の田原総一朗も含めた地上波民放テレビ各キー局のキャスターが集まって行った「『青少年社会環境基本法』に断固反対するテレビ・キャスターの声明発表」の記者会見以来のものだ。
当時は「とかく硬い話になりがちなこの種の話題でも、普段から視聴者がテレビで毎日のように接しているテレビキャスターたちが勢ぞろいして声明を読み上げるとなれば、スポーツ新聞や夕刊紙でも大きく報じられるだろう」といった狙いで始められ、実際にそれは成功した。しかしそれから15年も経ち、メディア環境がすっかり激変してしまった今になって、現在50歳で「最年少」の青木を除けば残りの4名が全員70歳以上(田原は81歳)という面々を同じスタイルで集めて行う記者会見に「全く効果はない」とまでは言わないまでも「それそろ少し他のやり方を考えてみたらどう?」とは、おそらく取材に来なかったNHKも含めて各メディアの記者たちも思っていたはずだ。
ましてやテレビも新聞も見ない若いネット民の多くにとっては前記の2世代ぐらい上のジャーナリストたちこそがむしろ「マスゴミ」という名の「権威」であり、それを「改革」せんとする安倍政権こそが「改革」の担い手のように見えている、というぐらいに考えたほうがいいだろう。

◎海女の里として知られる三重県志摩市が、地域おこし目的で採用・公認した萌え系キャラクターの「碧志摩メグ」が地元内外からの「女性蔑視」との批判を受けて公認を撤回するに至った一件は、実はまだ決着していなかったらしい。同市の観光協会が「碧志摩メグ」の新しいポスターを28日から配布し、市長も記者会見で「静観する」と述べたことから、公認撤回運動を展開した地元住民からは「公認撤回時から、再登場の筋書きができていたと疑ってしまう」といった反発の声が上がっているとか。
http://mainichi.jp/articles/20160326/k00/00m/040/163000c

◎今年8月に開幕するリオ五輪についてブラジル政府が行っているキャンペーンについて、ブラジルの連邦検察が「大統領や政府への好意的な感情を抱かせる」「五輪さえ開けば、すべての不幸が消え去るかのような印象を与える」と批判のうえキャンペーンの「停止勧告」をしたそうだ。こういうニュースは多くの日本人にとっては少し読んだだけだと「何でそうなるのか」が凡そ理解不能なものだろう。
http://www.asahi.com/articles/ASJ1N2394J1NUHBI002.html

ジャストシステムが実施している「モバイル&ソーシャルメディア月次定点調査」の「2015年度総集編【トレンドトピック版】」がこのほど発表された。回答者の4割が「雑誌」の接触頻度が減ったと答えたとのこと。
http://markezine.jp/article/detail/24161

◎1995年にオウム真理教による地下鉄サリン事件が引き起こされた3月20日は、オウム裁判がほぼ終結した今となっては、もはや関心のなくなったマスメディアがオウム問題をお決まりのごとくに振り返る数少ないアニバーサリー・デー。当日は地下鉄車内でサリンが撒かれた朝8時から都心の霞ヶ関駅構内に大勢の(事件当時にはまだ幼児で記憶にないような若手スタッフを含む)マスメディア関係者がおしかけ、高橋シズヱさんのインタビューを拾うといったお決まりの「儀式」が今も展開される。
しかし当のオウム教団は、あの上祐史浩氏が今では分派して率いる「ひかりの輪」がアニバーサリー・デーに教団ぐるみで永平寺など福井県に旅行に繰り出していた。事前に報じたのは『週刊新潮』とウェブサイト「やや日刊カルト新聞」だけだったが、後者の「総裁」を名乗る藤倉善郎はわざわざ福井県まで追いかけ「ひかりの輪」副代表の広末晃敏に車に同乗する「ハコ乗り」をしてまで密着取材をしていた。
http://dailycult.blogspot.jp/2016/03/blog-post_25.html?m=1
3月20日にマスメディアが「オウム問題を風化させてはならない」と御高説をたれるなら、せめてこのくらいのことをやったうえで言うべきだろう。
ちなみに上祐は2月17日に鈴木邦男と代官山で、以下のような対談をしている。
http://tocana.jp/2016/03/post_8921.html

高野山真言宗の本山布教師でもある落語家の桂米裕と画家の天野こうゆうの2人がパーソナリティとなり、2001年より岡山県の「FMくらしき」で放送されていたトーク番組「拝、ボーズ?」が、昨年9月25日の放送終了以来半年間の「充電」期間を経てこのほど復活。コミュニティFM局での放送ながら、ポッドキャストを通じて全国にファンを持ち、東京や大阪でもトークイベントが開催されるという人気番組だ。ラジオに関しては既に首都圏や全国をカバーする大手局と地域に拠点を置くコミュニティFM局とがほぼ同じ土俵で競い合う時代になっている。
http://goo.gl/UaLC9Z

◎小学6年生の男の子が夏休みの自由研究でお気に入りの文房具160店以上を開設した「図鑑」を作成。行きつけの近所の文具屋に開店10周年記念のプレゼントとして進呈したところ、気に入った店主がフェイスブックで紹介。それを見た編集者が声をかけ、『文房具図鑑』としていろは出版(京都)から書籍化された。文房具メーカーからも注目を集めているという。
https://iroha-shop.jp/blog/2016/01/28.aspx
http://www.asahi.com/articles/ASJ3J3SLPJ3JUCVL001.html

◎「あの」ミック・ジャガーのプロデュースで、「あの」ジェームス・ブラウンの未公開映像や全盛期のライブ映像、関係者へのインタビューなどを収録したドキュメンタリー映画『ミスター・ダイナマイト ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』が6月18日より渋谷のアップリンク他で公開予定。「ジェームス・ブラウンエステートが所蔵する資料を自由に見られるという前例のない権利を得て制作された」のだそうだ。
http://uplink.co.jp/mrdynamite/

SMAP公式ファンクラブの新規会員の会員証や会報が届かないといったトラブルが発生し、ネット上で騒ぎが勃発。ジャニーズ事務所側が会員あてのハガキやメールで「会員証・会報の作成が遅れているため、郵送物の発送ができておりません」「会員登録は完了しております。ご安心ください」といったメッセージを送るなどして対応に務めたという。なおも9月解散説や中居正広の脱退説が噂されているだけに憶測を呼んでいるようだ。
https://gunosy.com/articles/Rifgt

◎「日本の新聞記事や放送映像で「死体」の掲載をしなくなったのはいつごろからか知りたい。参考になる資料を紹介してほしい」という質問に、神奈川県立図書館のスタッフが詳細な資料を列挙して行った回答に、ネット上では「調査能力がスゴイ」「さすがプロ」「レファレンスって初めて知った」など称賛の声が飛び交っているという。
https://twitter.com/crd_tweet/status/712087506678734848
http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000189685
http://togetter.com/li/953766

◎1975年に初放映されて人気を博し、その後も『ヤッターマン』などの続編が8年間に渡って制作されたアニメシリーズの第一作『タイムボカン』が、『妖怪ウォッチ』などで知られるレベルファイブの企画協力のもとリメイクのうえ『タイムボカン24(トゥエンティーフォー)』として放送されることになった。ちなみに放送局についてはまだ発表されていない模様。
http://mantan-web.jp/2016/03/26/20160325dog00m200037000c.html

川内原発(鹿児島県)の放射線量計の「不備」について報じた朝日新聞に対し、原子力規制委員会は無期限の「取材制限」を通告して“徹底抗戦”中。これについて産経新聞が、先に同じく規制庁から取材拒否をつきつけられてほどなく訂正・謝罪するなど白旗をあげてしまった『報道ステーション』や毎日新聞の例も引き合いに出しながら「“反原発ジャーナリズム”はこんな調子で生き残れるのか?」「誤報などによって権力側が出入り禁止や取材拒否のような強権の発動を伴うことは、行き過ぎである」と、何やら妙なエールを送るような記事を書いている。
末尾部分の「この点、規制委には記者クラブがないことによる弊害が生じている」「かといって、記者クラブを早急に作れと言っているわけではない。クラブの閉鎖性は全国的にも課題となっており」といったダッチロール気味の論旨も興味深い。
http://www.sankei.com/premium/news/160327/prm1603270027-n1.html

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「自分は何もわかっていないんだ」とわかっただけでも、実は大きな進歩である。