【文徒】2016年(平成28)9月13日(第4巻172号・通巻859号)

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1)【記事】「食べログ」”評価疑惑”のネット拡散に学ぶ教訓(岩本太郎)
2)【記事】マンガ配信サービス「GANMA!」二度目リニューアルの手応え(岩本太郎)
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】「食べログ」”評価疑惑”のネット拡散に学ぶ教訓(岩本太郎)

食べログ」を舞台にした「操作評価疑惑」は、ワインバル「ウルトラチョップ」を運営するエッヂの代表取締役高岳史典が9月6日の夕刻にTwitterFacebookで発した以下の”告発”がきっかけだった。
《ウルトラチョップ全店の食べログスコアがいきなり3.0にリセット。そこに担当営業から連絡が来て「食べログのネット予約を使ってもらわないと検索の優先順位を落とします」と。仮にも飲食業界でビジネスするのならばもう少しお客様やお店や業界全体に資する気概はないのかねぇ…(苦笑)》
https://twitter.com/takaokaf/status/773070068758360064
ネット上ではここから一気に「食べログ批判」が拡大していくことになった。『BuzzFeed』の井指啓吾が高岳に取材したうえでまとめたレポートによると、そもそものきっかけは、以前に「食べログ」と代理店経由で契約していたものの「評価(点数)のアルゴリズムが不透明」と感じたことから契約を解除していた高岳のもとに8月下旬、食べログの担当者から「代理店を通さず直接契約」をしたいとのオファーがあったところからだった。
https://www.buzzfeed.com/keigoisashi/tabelog?utm_term=.emDrdZ6AJ#.erZMv2bPl
説明を受けた高岳は再契約に踏み切ったものの、担当者からはその後音信が途絶え(後の「食べログ」側の説明によれば「退職した」とか)、代わりにやってきた新たな担当者からの説明も何やら要領を得ず、数度のやり取りのうちに「食べログ」側からは上記のような説明もなされるに及んで遂に堪忍袋の緒が切れたらしい。無論、ツイートを見た「食べログ」側からは翌日に「営業部長」の肩書きを持つ人物が「たまたまタイミングが悪かっただけで、店舗の評価と営業活動を連携させてはいない」 などと平謝り謝罪の電話をかけてくるも、一方で「食べログ」側は同日付のプレスリリースで高岳氏ツイート内容を否定する以下のようなコメントを出すという迷走ぶりをさらけ出した。
《自然検索で表示される点数及びランキングにおきましては、オンライン予約機能の利用是非に一切関係なく、これまでと同様ユーザーの評価を基礎に算出、表示をしております》
http://corporate.kakaku.com/press/release/20160907
食べログ」がこうしたプレスリリースを出すに至ったのは、既にネット上での炎上が拡大する中で、運営母体のカカクコムの株価に及んでいたからのようだ。7日付の『ITMediaニュース』は以下のように、過去に「食べログ」において生じた問題も併せて紹介している。
ITmedia ニュース編集部は、店舗の点数が突然3.0に下がった場合、どういった理由が考えられるか――などをカカクコムに問い合わせているが、7日午後3時半時点で回答は得られていない。
炎上を受け、7日の株式市場でカカクコム株が急落。一時、前日比10%安の1555円まで下げ、年初来安値を更新した。
食べログでは2012年、業者が口コミ投稿を請け負う「ステマ」行為が明るみに。カカクコムは対策として、飲食店の評価ポイントを算出するアルゴリズムの変更や、レビュアー認証システムの導入を行っている》
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1609/07/news108.html
ITMediaニュース』がさらに「有料プランを契約しないと検索順位が下がるのは事実か」と訊ねたところ、カカクコムは無料会員が検索した際、デフォルトで表示される「標準」検索では、有料プラン利用店が優先表示されると認めたそうだ。
《同社は「標準」の検索結果について「広告枠」と説明しているが、「標準」の検索結果画面には「広告」などとは書かれていない。同社に対し、「標準検索は広告だと分かるような表示を検討しないのか」とたずねたところ、「今すぐに変更する予定はないが、表記などについて検討していく」と答えた》
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1609/08/news116.html
これを受けて山本一郎が11日付の自らの記事で次のように綴っていた。
《これは広告以外の何物でもないから、「ネット予約を使うと優先されるのは広告枠(標準ソートの検索結果)」であるならば、きちんとペイドはペイドとして表記したほうが良いのではないかと思います。
その辺のことはカカクコムも分かっているので、質問に対して「検討していく」と回答をしているということでしょうね。個人的には、ステマまがいで金貰って上位表示している広告をコソコソと「標準」タブなんてやらないで、堂々と「広告です」「プレミアム10という高額プランでご提供している店舗です」ってやったほうが、お客様に対して誠実だと思うのですが》
http://bylines.news.yahoo.co.jp/yamamotoichiro/20160911-00062088/
山本は同記事の中で《「食べログ」が、飲食店に対して営業をしている代理店向けの資料がなぜか私の手元にあります》としつつ、「食べログ」評価方式の問題点をさらに詳しく論述している。そんなわけでどうやらこの騒動、まだしばらく続くことになりそうだ。
一連の”評価疑惑”のネット拡散は、ネットが主戦場になった出版ビジネスにとり学ぶことが多い。

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2)【記事】マンガ配信サービス「GANMA!」二度目リニューアルの手応え(岩本太郎)

マンガ配信サービス「GANMA!」を運営するコミックスマートが2013年に始めたマンガ家支援プログラム「Route M」が、この7月に二度目のリニューアル。同社取締役の上河原圭二と「GAMNA!」編集部副編集長の瀧口さとみが『ダ・ヴィンチニュース』の取材に答え、「Route M」のそもそもの狙い、そして今回のリニューアルの概要について語っている。
《上河原:インターネット業界では、起業家に対してベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が資金援助をするというのは割と一般的になっていますが、「同じような仕組みをマンガ家向けに作れないか」という発想が始まりでした。
 マンガ家さんには、アルバイトや作家のアシスタントをしていて、限られた時間の中で創作活動をしている方が多くいらっしゃいます。しかし、それではなかなか成長速度が上がらない。早い段階で作品を発表し、人の目に触れるようにすることで感想や評価を得て、ブラッシュアップのサイクルを加速させていく。そうした成長を促進する支援プログラムを作ろうということになったんです》
《今回のリニューアルでは、“カネ”と “モノ”の部分をバージョンアップしています。
1つは広告収益の一部を専属作家に還元すること、もう1つは液晶タブレットの無償貸し出しというものです。
今まではステージに応じて一律の支援金をお支払いしていたのですが、それだけでなくGANMA! が得ている広告収益の一部をマンガ家さんの貢献度に応じて還元いたします。これにより更に成長を促していきたいと考えています。
また、以前は弊社のオフィス内にマンガ家さんたちが画材を自由に使える制作スタジオを設けていたのですが、首都圏在住の作家さんは6割程度で、それ以外は地方に住まれている。その人たちの創作環境も整えたいという思いから、スタジオを廃止し、液晶タブレットを無償で貸し出すことにしました》
《瀧口:インターネット関連のアプリケーションサービスであれば、広告での収益と還元は一般的なことと考えるものですが、マンガ家さんたちにしてみれば、「GANMA!は無料で提供されているのに、どうやってマネタイズしているのか」と気になっている方も少なくありません。そんな心配をよそに、広告を中心に収益化するビジネスモデルとしても順調に成長し続けています。
一方で、マンガ家さんにとって、それが実感できる体制になっているか? と考えたときに、今までの仕組みでは十分ではありませんでした。
今回のリニューアルによって、「Webコミックって儲からないんでしょ?」と思われているマンガ家さんにも「儲かる仕組みが構築されています!」と胸を張って言うことができるものになりました。
これにより、これからプロになりたい人だけでなく、すでに作品を発表しているプロの作家さんでも「挑戦してみようかな」と思っていただける方が出てくるのではと期待しています。
実際、数名のマンガ家さんは月収が100万円を超えており、また、「以前は生活が大変だったのに、今では実家に仕送りできるほどに余裕が出てきた」と話す方もいらっしゃいます》
http://ddnavi.com/news/320882/a/

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

大日本印刷は12日、傘下の文教堂ホールディングスの株式の一部を日販に売却すると発表した。株式譲渡は10月末付で、これにより大日本印刷(および傘下の丸善ジュンク堂)が保有する文教堂の株式は合計51.86%から23.74%に低下。代わって日販が文教堂株式の28.12%を取得した筆頭株主となる。大日本印刷は売却の理由を「文教堂と日販との関係を強化することが、これまで進めてきた出版流通市場における一層の協業関係の推進と市場の活性化のために効果的と判断し」たと説明している。
http://www.dnp.co.jp/topic/__icsFiles/afieldfile/2016/09/12/info_1600912_2.pdf
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1609/12/news115.html
結局、書店の大株主は取次という方向へじわじわと進んでいくんだろうか。

産経新聞大津支局(滋賀県)の記者が、大津市を提訴した住民団体(競走馬育成施設を建設する民間企業の計画の市の認可取り消しを求めた)が開いた記者会見に出席した際の録音データや配布資料(訴状など)を大津市の職員に渡していた。
産経新聞社広報部は「取材過程で軽率な行動があったことは遺憾。厳正に対処し、改めて記者教育を徹底する」との旨を他社の取材に回答。もっとも朝日新聞の取材によれば、記者が「市の担当者から『取材でコメントを求められており、提訴の詳細を知りたい』と依頼された」から渡したとする産経に対し、大津市の担当者は「記者にコメントを求められ、内容を尋ねたら、渡しましょうかと言われた」と話したとのこと。
http://www.asahi.com/articles/ASJ987RJBJ98PTJB017.html
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160908/k10010676651000.html

◎お笑い芸人で絵本作家でもあるキングコング西野が自著の『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』をめぐって、版元の主婦と生活社の担当者に対して怒りをぶちまけた。同書が売れ行き好調により品薄となり入手困難な状況が続いていることについて、担当者が主婦と生活社販売部がTwitter上に設けている公式アカウントで「うれしい悲鳴!」と綴ったのに対し、西野がブログで「『魔法のコンパス』を出版した【主婦と生活社】がアホすぎる」と題し、「品薄状況が続いて嬉しい悲鳴を上げているのは、あなた方だけで、そのことで本が買えなかった人達…」「つまり、あなた方が一番大切にしなきゃいけない人達は悲しい悲鳴を上げてるんです」などと批判する記事を掲載したのだ。
http://blogos.com/article/190036/
https://twitter.com/shufusei_hanbai/status/774222964506046464
http://lineblog.me/nishino/archives/6979925.html
ちなみに上記ブログにもあるように、西野は11月に開催する個展『えんとつ町のプペル展』の開催費用をクラウドファンディングで募集しており、既に約1700人のパトロンから、目標の180万円の3倍にあたる約560万円を既に獲得している。

◎かつてプロ野球オリックスなどで投手として活躍し、巨人在籍時代には清原和博とも同僚だった野村貴仁が自らの半生をつづった著書『再生』が28日にKADOKAWAより発売される。先に覚醒剤取締法違反で有罪判決を受けた清原との薬物をめぐるやり取りも出てくるという”暴露本”でもあるらしい。
http://www.daily.co.jp/gossip/2016/09/12/0009479957.shtml
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geinox/189703

◎大ヒット中の映画『君の名は。』の作品舞台は岐阜県の美濃地方だが、公開中の『ルドルフとイッパイアッテナ』は岐阜市、9月に公開される『聲の形』も大垣市が舞台となっており、一躍岐阜県がアニメの「聖地」として注目を集めているらしい。
http://www.sankei.com/premium/news/160904/prm1609040023-n1.html
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1609/06/news033.html

◎その『君の名は。』で同じく作品の舞台となった岐阜県飛騨市の飛騨図書館にも「聖地巡礼」の人々が押しかけており、それに対して同図書館の司書が「聖地巡礼者の皆様へ」と題した文章を掲出したことが話題になっている。
http://withnews.jp/article/f0160911000qq000000000000000W00o10101qq000013980A
この飛騨市図書館は先月末にも同館の館長や司書が読み手を務める「官能小説ライブ」を開催して話題を呼んだ。なかなか元気で茶目っ気もある素敵な図書館のようだ。
http://www.asahi.com/articles/ASJ8T3TW0J8TOHGB00S.html

◎大正末期、農村を中心に活況を呈していた「女相撲興行」の力士たちと、理想とする世界を目指して活躍していた若きアナキストたちの出会いを、ロマンスあり活劇あり社会風刺ありのエンターテインメントとして描き出す自主企画映画『菊とギロチン』(瀬々敬久監督)が、目下公式サイトにて出演者や出資者を募集中だ。
http://kiku-guillo.com/

◎4月の熊本地震によって甚大な被害を受けた被災地の復興はたった数ヵ月で達成されるわけもない。激甚被災地となった同県益城町の保健センター内に急遽スタジオが設けられた災害臨時FM局「ましきさいがいエフエム」は今もなお活動中。支援の一環として助成を認めた日本財団のブログで現在の活動が紹介されている。
http://blog.canpan.info/nfkouhou/archive/784
もっとも、震災直後の混乱状況の中では、関係者個々の思惑も絡んで何かと「美談」にはならない話も現場では展開されるものだ。「ましきさいがいエフエム」でも然りで、地震発生から半月後に現場で起こっていた、下記に見られる事態ははたして現在ではどうなっているのだろうか。
https://www.facebook.com/djmurakami/posts/1120262598038146

◎1970年にサンディエゴで開催されたのを発端に、コミック、映画、アニメ、コミック、トイ、コスプレイヤーなどポップカルチャーの祭典として全米やヨーロッパ、アジアで開催されるようになった「コミックコンベンション(コミコン)」が、日本でも「東京コミックコンベンション」として、来たる12月2〜4日に幕張メッセを会場に開催される。
https://news.nifty.com/article/item/999/12125-289810/

◎高円寺「素人の乱」店主の松本哉による著書が『世界マヌケ反乱の手引書〜ふざけた場所の作り方』が、9月7日に筑摩書房より発売された。9月11日からは松本が仕掛け人となった「NO LIMIT 東京自治区」というイベントが17日まで「素人の乱」本拠地の都内・高円寺を中心に開催されている。
http://amba.to/2c9CVYz
http://nolimit.tokyonantoka.xyz/
2000年代中盤以降の「食えない若者たち」による世間への異議申し立てムーブメントを掻き立て、2011年の原発事故後からは都内で盛んに反原発デモを展開していた松本だが、それ以降に国会前での反原発その他の市民運動が盛り上がった流れには加わらず、台湾や香港で活躍する若者たちとの連帯による「アジアマヌケ革命」などのイベントに尽力していた。確かに彼のような若者(既に40代だが)から見れば、今の日本における「運動」の状況は窮屈極まりなく見えるだろう。

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4)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

集中力は突破する原動力だが、一点を見つめすぎるあまり周囲へ目配りを欠けば真の集中力とはいえない。