【文徒】2019年(令和元)10月18日(第7巻189号・通巻1609号)


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1)【記事】集英社「2019新刊企画発表会」を16日に開催
2)【記事】「あいトレ」終幕直前の芸術化振興基金助成金綱」変更がTwitter上の指摘で表面化
3)【本日の一行情報】
----------------------------------------2019.10.18 Shuppanjin

1)【記事】集英社「2019新刊企画発表会」を16日に開催(岩本太郎)

今年で6回目となる集英社の「新刊企画発表会」が16日夕刻より東京・一ツ橋の如水会館で行われた。
社内の各部門による発表会に続いて、隣りの懇親会場で参加者の交流会が行われる2部構成は例年通り。まず17時半からの発表会(第一部)では冒頭の挨拶にたった堀内丸恵社長が、先の台風19号の被害により亡くなられた方々への弔意と、被災者の方々へのお見舞いを表明。
そのうえで今回の発表会には下重暁子ほか多彩なゲストの出席を得られたことを喜びつつ「これまで皆様方から『著者の方の発表時間が短い』との声をいただいていましたので今回は長くとらせていただきました。そのため私の挨拶はなるべく短くと言われておりますので」と切り上げていた。確かに同社の新刊企画発表会は他社に比べて時間厳守、テキパキとした進行が以前からの特徴で、今回も発表会では1件につきおそらく平均7~8分、全体ではちょうど1時間という進行スケジュールがかなりきちんと守られている印象だった。
今回は8部門から以下の説明が行われた(行末カッコ内は登壇者)
(1)集英社
安部版「太平記」シリーズ 「婆娑羅太平記 道誉と正成」「士道太平記 義貞の旗」「蝦夷太平記 十三の海鳴り」(安部龍太郎
(2)芸編集部
「地面師たち」(新庄 耕)
(3)第2編集部
「博学王 13 1/2のビックリ大図鑑」(吉添理恵子=児童書副編集長)
(4)ノンフィクション編集部
「悩んでも10秒 考えすぎず、まず動く! 突破型編集者の仕事術」(松田紀子)
(5)エディターズ・ラボ
 新部署説明(内田秀美=エディターズ・ラボ部長)
(6)学芸編集部
「聖なるズー」(濱野ちひろ
(7)第4編集部
「ブラサカブラボー!!」(「パラリンピックジャンプ」)(高橋陽一)
(8)集英社新書
「人生にとって挫折とは何か」(下重暁子
以上8つのうち6部門で著者が登壇。特に(7)は発表会後に別枠で著者の囲み取材の場が設けられていた。(1)では安部龍太郎「全10巻ぐらいのシリーズにしたい」との構想を表明。(2)では新庄耕が「1人につき参加費4万円」という業界向け「地面師対策セミナー」に参加した際の経験や「大物地面師」として知られた内田マイクの人物像などを解説。
「第17回開高健ノンフィクション賞受賞作」である(6)については冒頭で開高健「生誕90年・没後30年」の映像が上映された。続いて著者であり、京都大学大学院生として化人類学におけるセクシュアリティ研究を手掛ける濱野ちひろが本書の取材対象である自称「ズー」(動物を性的対象とする人々)に関する説明や、そうした人々を追うに至った経緯を語った。(8)では今年83歳の下重が「しばらく前に腰を捻った」と壇上で着席したまま、若い担当編集者の渡辺千弘を相手に自身の「挫折体験」などを披露する軽妙なトークで客席を湧かせていた。
(4)では『レタスクラブ』復活の立役者となった敏腕編集長として最近は各メディアのインタビューでもよく登場していた松田紀子(ちなみに『重版出来』著者の漫画家・松田奈緒子は実姉)が、改めて自身のこれまでの足跡についてプレゼン。実はKADOKAWAを先頃退職し、10月から「fan base company」というマーケティング関連の新会社(今年5月7日設立)に転職したとのことで、この後で行われた懇親会で私(岩本)が直接お会いして尋ねたところ、やはり今回の著書(11月26日発売)はそうした自身の転機に合わせた意味合いもあったそうだ。友人である浜田敬子(元朝日新聞『AERA編集長などを経て『Business Insider Japan』統括編集長)の著作『働く女子と罪悪感』にも関わったノンフィクション編集部部次長の今野加寿子編集長が担当している。
全体の中でやや異色だったのは(5)の「エディターズ・ラボ」の説明だ。
同ラボに所属する編集者たちについての「プロモーションビデオ」でもあるという約3分間の動画上映の後、登壇した内田秀美は「もし私たちが動画の制作の依頼を受けたらこんなふうに作れますというサンプルとしての役割も兼ねています」と説明。「私の世代は『編集者は裏方でいろ』と教えられましたが、先ほど松田さんも仰っていたように、もはやそういう時代ではありません。個々の編集者の個性やスキルを様々な場面に活かし、新しいビジネスを作るという発想のもとに活動していきたい」との抱負を語っていた。第二部の交流会場では「新刊企画」とはまた別ということからか特にブースなどは設けられていなかったが、おそらく今後各方面から問い合わせがあることだろう。全編を通じ様々な新しい動きが目を引いた今年の集英社発表会だった。

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2)【記事】「あいトレ」終幕直前の芸術化振興基金助成金綱」変更がTwitter上の指摘で表面化(岩本太郎)

「あいちトリエンナーレ2019」の件で化庁の助成金をめぐる問題が注目された中、部科学省の外郭団体「芸術化振興基金助成金要綱の一部が9月27日付で変更されたそうだ。沖縄県那原町在住の編集者・ライターで舞台芸術の制作者でもある平岡あみが16日午後のツイートで指摘した。
《「交付決定及び通知並びに不正等による交付内定の取り消し(第8条)」に、「その他公益性の観点から助成金の交付内定が不適当と認められる場合」が追加されている……》
https://twitter.com/amyhiraoka/status/1184337420847763457
該当する条項「第8条3-(4)」は以前《その他この要綱又はこの要綱に基づく定めに違反したと認められる場合》だった。
https://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/kikin/gaiyou/k-jigyou/b-youkou30.pdf
これが《その他公益性の観点から不適当と認められる場合又はこの要綱若しくはこの要綱に基づく定めに批判したと認められる場合》に改められた。
https://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/kikin/boshuu/r2/kikin/R2_kikin_butai_boshu-annai_02.pdf
高知新聞記者の村瀬佐保も同日夕刻、日本芸術化振興会基金部による訂正告知書の写真を添えてツイートした。
《公益性の観点から不適当と認められる場合は内定取り消し可能と‥今後はお上に目をつけられる事業は忖度して出せない空気。で、公益性って何?》
化振興基金の方によると「トリエンナーレは関係ない。ピエール滝出演の映画に関して助成取り消し事案が発生したから」だそうです。それもどうなんでしょうね‥》
https://twitter.com/SahoMurase/status/1184384227564875777
https://twitter.com/SahoMurase/status/1184698853498376192
twitter上でも反響。やはり批判が多い。
後出しジャンケンでいくらでもルールが書き換えられる。法学部卒のくせによくわかってないけどこれ、法の不遡及に触れないの?》(元リクルート編集者で旅やアート関連を中心に執筆しているライターの熊山准)
https://twitter.com/kumaya/status/1184533004095504386
《「その他公益性の観点から不適当と認められる場合」って、いったん決定したものを取り消す理由にはならないでしょう。「公益性」が何を指すのか不明で、恣意的な判断が下されるおそれがあるうえに、決定に至る審査はどうなるのかという問題》(全労働大阪基支部
https://twitter.com/zenrododaiki/status/1184596763530809344
《となると、今年度の助成取り消しの正当性が揺らぐことになる…今年度に関しても、公益性が無いことの証明が無い限り取り消しは不当、と化庁自らが言っているに等しい》
https://twitter.com/FobosMkz/status/1184728938687262721
他方で、改正に理解を示す声も見られる。
《今回の件の経緯から見て、こういうものが入らない方が逆におかしいでしょう。好ましくはないものの、落し所を考えずにトリガーを自ら引いちゃった人たちの自業自得と言わざるを得ません。精査を受けていただいて、自らを律することがどれだけ必要であったかをこの際冷静にお考えいただくべきかと》
https://twitter.com/beerdaru/status/1184500583232704512
この件に関し「togetter」には「これはプラスの結果?」と題したまとめが立った。あいトレ終幕に際して同展芸術監督の津田大介が最終日に発したという以下のコメントを皮肉ったものだ。
《一度マイナスになったが、プラスマイナスゼロをめざし、プラスで終われた》
https://togetter.com/li/1418021
https://www.asahi.com/articles/ASMBG6QSLMBGOIPE021.html
化庁長官の宮田亮平は、APAホテルを率いる元谷外志雄と、APA広報誌2019年9月号で対談していることも報告しておこう
http://apa-appletown.com/bigtalk/19949
「歴史戦と思想戦」「沈黙の子どもたち」「戦前回帰」などの著書で知られている山崎雅弘がツイートしている。
《あいちトリエンナーレへの補助金撤回を決めた化庁長官の宮田平氏が、「南京虐殺否定の本を各部屋に置くAPAホテル」を含むAPAグループ代表の元谷外志雄氏と、APA広報誌2019年9月号で対談していた。南京虐殺否定論者の河村たかし氏も含めた「線」が浮かび上がる。》
https://twitter.com/mas__yamazaki/status/1184370855419138048

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎先週も触れた「食べログ」問題について『ITMediaビジネスオンライン』が「食べログはなぜ何年も炎上し続けるのか?」と題し2回に分けて論考。前篇では、例えば「食べログ」急成長の原動力である「口コミ評価」が孕む危うさについて以下のように指摘する。
《口コミサイトと宣伝サイトという、本質がまったく異なる姿をユーザーと飲食店を相手に都合よく使い分ける矛盾したビジネスモデルだ》
《口コミサイトを名乗りながら不利なレビューを削除してお店側に立っているように見えたり、一方でレビューの星を人質のように使って広告料の支払いを迫る悪質なビジネスを行ったりしているようにも見えるなど、立ち位置や軸足がいったいどちらを向いているのか、まったく分からない仕組みで運営されているのが食べログだ》
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1910/17/news037.html
筆者の中嶋よしふみ(ファイナンシャルプランナー)はそのうえで、運営元のカカクコム自体がそうした「悪質なビジネス」を《やっていない可能性のほうが高い》との見方をとる。だが後編で広告代理店の存在にも言及しつつ次のように指摘する。
食べログのあずかり知らないところで代理店がおかしな営業をかけている実態はないのか? そしてこれだけ多数の苦情が来ている時点で、代理店の状況やオーナーの苦情を、食べログは精査しなくていいのか?》
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1910/17/news053.html
この点については『日刊SPA!』が13日付「食べログの点数操作はある?『間接操作はできます』と広告マンが明かす」で迫っていた。Web広告会社の社員という人物による、こんなコメントも紹介されている。
食べログは代理店を通じて飲食店から広告を出稿してもらうので、営業は代理店任せなんです。その契約内容、方法はさまざまで、代理店によって飲食店への営業方法が異なります。要は、何をやってもいいと思っている代理店が存在するということ》
《直接ではないが、間接的な点数操作を許してしまっている食べログも甘いですし、無理やり食べログ経済圏で稼ごうとしている業者も悪だと思いますね》
https://nikkan-spa.jp/1612292

テレビ朝日「スーパーJチャンネル」の今年3月15日放送回に置いてやらせ行為があったとして、同局は16日に謝罪会見。「業務用スーパーの意外な利用法」と題した企画の中で、同店を訪れた5人の客がいずれも番組の男性ディレクター(子会社のテレビ朝日映像所属)の知人で、事前に取材日程を教えられたうえでの来訪だったことが匿名の情報提供があり発覚したという。5人のうち4名はディレクターが講師を務める俳優養成教室の生だった。
https://digital.asahi.com/articles/ASMBJ65H8MBJUCVL02P.html
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51055450W9A011C1CR8000/
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019101601212&
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019101601212&g=soc
テレビ朝日は会見で「極めて不適切な演出があった」として謝罪。やらせかどうかについては「そのような指摘を受けても仕方ない演出だった」と説明したそうだ。NHKなどはテレ朝側の説明をもとに「不適切演出」との見出しで報じている。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191016/k10012135221000.html
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201910160000895.html
NHK堀潤は、16日の会見終了直後にAbemaTVで放送された『AbemaPrime』に出演し、「僕も類似したケースを経験した」として次のように語った。
《新人に近いディレクターが街頭インタビューのVTRを観ていると、あまりにスラスラと欲しい意見が出てくる。気になったので尋ねてみると、“友達に集まってもらった”と言うので、“こっちから声をかけているなら、やらせになっちゃうよね”と指摘すると、“じゃあもう使えないですか?”と泣きそうな顔で言った。“番組の呼びかけに集まってもらった人たちは、一体どんな感想を述べるのか、というこのナレーションを入れれば大丈夫だよ”とアドバイスして、未然に防ぐことができた》
https://times.abema.tv/posts/7024276

◎ジャーナリストの奥村信幸(武蔵大学教授・元「ニュースステーション」ディレクター)が「台風19号の報道から『ニュースメディアのこれから』を考えた」と題して『Yahoo!ニュース』に13日付で寄稿。ソーシャルメディアの活用例など具体的なケースに触れつつ、末尾では新聞へのこんな指摘も。
東京新聞の1面に「新聞配達遅れ おわびします」という、12日夕刊と13日朝刊の配達遅れを詫びるお知らせがありました。朝日新聞(13日東京朝刊)にも、「台風で配達遅れ おわびします」とやはり書いてありました。(その横にはデジタル版の案内とQRコードも表示されています。) しかし、一部の宅配便業者も配達を休止し、台風の速度や進路によっては、この朝刊を配達する人を危険にさらしかねない状況でもあった中、一定の期間は完全にウェブで対応するなどの対応は考えられなかったのでしょうか。(他紙は検証できていません。)》
https://news.yahoo.co.jp/byline/okumuranobuyuki/20191013-00146728/
東北地方のブロック紙である河北新報は台風の接近に際し、新聞の配達が大幅に遅れることが予想されたことから、当初は時間限定でデジタル紙面無料公開に踏み切ることを決定。ただしこれは後に期限を決めず、被害が収まるまで行う形に変更したそうだ。
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/typhoon-19-kahoku

台風19号では雑誌の遅配も発生。例えば紀伊国屋書店の札幌本店では台風通過から2日後の15日時点でも、同日発売予定だった雑誌の発売日のめどがつかない状況だったと日経新聞が報じていた
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51001180V11C19A0L41000/

台風19号で書店や図書館が受けた被害について、日本出版取次協会が15日17時現在のデータを公表している。河川の氾濫などによる浸水のほか、雨漏りによる商品被害のケースも目立つ。
http://www.torikyo.jp/disaster/r01typhoon19/index.html

ハースト婦人画報社ウェブマガジンの『ELLEgirl』において、いわゆるミレニアル世代(2000年前後生まれの世代)を対象にした新コミュニティの「ELLEgirl UNI」を立ち上げた。メンバーにはモデルや料理家、学研究者などのクリエイター26名が参加。今後はメンバー自らがクリエイターとして媒体に参加する「外付け編集部」とも言える機能を有する組織として活動を展開していくという。
https://sp.ellegirl.jp/ellegirluni/
https://media-innovation.jp/2019/10/16/ellegirl-uni-is-launched/

エフエム東京が業績不振を理由に撤退を決めたV-Lowマルチメディア放送「i-dio」のチャンネル「TS ONE」(9月30日にサービスを終了)を運営していた「TOKYO SMARTCAST」が解散。
https://gamebiz.jp/?p=250803

島根県内の研究者やジャーナリストらのグループ「中国山地編集舎」が、過疎をテーマにした雑誌『みんなでつくる中国山地を来年創刊(準備号は今年12月中旬に出版)すると発表した。
https://www.asahi.com/articles/ASMBD6JFFMBDPTIB00F.html