【文徒】2018年(平成30)4月10日(第6巻65号・通巻1239号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】無料海賊版サイトへの「ブロッキング」をめぐる議論
2)【本日の一行情報】
3)【人事】日之出出版 4月1日付人事異動

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1)【記事】無料海賊版サイトへの「ブロッキング」をめぐる議論(岩本太郎)

東浩紀が『AERA』の巻頭エッセイ「eyes」において漫画や雑誌を無料で読める海賊版サイトの問題について「マンガは、消費者の時間の観点から見るとかなり『コスパの悪い』商品」とのタイトルで言及している。
東自身も《海賊版の存在が深刻な権利侵害であり、市場の健全な発展を妨げるものであることは言うまでもない》との立場から《ブロッキングの導入に慎重な意見もあるが、この件に関してはやむをえないのではないか》との意見を述べているのだが、それに続いて表題にもある通りの「マンガの『適正価格』とはいくらなのか」との問題提起を行っている。
《マンガ単行本は数百円で、文庫本や新書に近い。それは作家や出版社からすれば正当な値付けだろう。出版不況下では安すぎるぐらいかもしれない。
ところがマンガは圧倒的に速く読める。1冊15分から30分で読み終わってしまい、シリーズ物も多い。正規料金で半日楽しもうと思えば、5千円や1万円は軽く飛んでしまう。つまりはマンガは、消費者の時間という観点から見ると、かなり「コスパの悪い」商品なのだ。新古書店しかりマンガ喫茶しかり、マンガ消費者と著作権者の争いが繰り返されている背景には、マンガのこの特性がある。今回の騒動もその延長線上にある》
https://dot.asahi.com/aera/2018040500040.html
この東による「マンガの『適正価格』」とはいくらなのか」などの問いに対して、当の漫画家で一家言ありそうな存在が、昨年あたりもアマゾンと熾烈な攻防を展開するなどしてきた佐藤秀峰だろう。と思ったら、佐藤は1月末の時点で既にnoteで「僕が漫画村を批判しない理由」と題し、こんな記事を書いていた。
《漫画で言うと、昔、ブックオフは業界の敵でした。中古本が大量に取引され、その収益が著者にも出版社にも一切入らないということで、業界全体でネガティブキャンペーンを実施しました。(略)さて、漫画家と一緒に戦ったはずの出版社は、今ではブックオフの株主です》
《5年前には紙書籍のデータ化を手助けする「自炊代行業者」を違法業者と断定し、業界全体でネガティブキャンペーンを実施しました。その過程で出版社は「自炊代行業者を著作権侵害で訴えることをできるのは著作権者である漫画家だけだ。今後、違法業者に対抗するには著作隣接権を出版社に与えるべきである」と主張し、その内に「電子出版権」なる珍奇な概念を作り出しました。(略)今では漫画家は出版契約を交わすとき、出版社に対して電子書籍配信の権利も独占的に認めなくてはならなくなりました》
漫画村を糾弾して誰が一番得をするのでしょうか?
まず、漫画家は得をしません。「違法サイトを取り締まれるのは出版社だけだ」ということで、出版社が再び著作隣接権を主張し始めるかもしれないし、電子出版権のような新たな概念を作り出すかもしれません。(略)漫画家の皆さん、問題のあるサイトを叩くことは簡単ですが、その前に権利は自分の手元にあるでしょうか?いつ漫画村の存在に気がつきましたか?報道される前から、編集者から伝え聞く前から漫画村を知っていましたか?》
https://note.mu/shuho_sato/n/na20ddb5fdfdf
東が言うようにブロッキングに対しては慎重な声もあり、佐藤秀峰も上記の末尾で《ネガティブキャンペーンが行われる時、その陰には目的を持った人たちがいます》との懸念を表明している。
政府が先日「緊急避難」としてサイトブロッキングを実施するよう要請する調整に入ったと報じられたことを受けて「それよりも現在の法的な枠組の中でできることがあるはずだ」との主張もここにきて上がってくるようになった。「はてな匿名ダイアリー」には「某画村のブロッキングに意味はない」と題した次のような投稿が6日付で上がった。
《大量の漫画データをあれだけのユーザに配信するというのは、かなりのコストがかかる。そこで、運営が利用しているのが、CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)というファイルの代理配信サービスである。(略)Cloudflareはアメリカの大手CDN業者である。某画村はここを利用している。今まで、Cloudflareは自分たちはただのキャッシュであると主張し法的責任から逃げていた。が、この前Sci-Hubという海賊版サービスの訴訟で逃げ切れなくなり、Sci-Hubのファイル配信を停止した》
ブロッキングは無意味な上に悪用されるのでやめろ。 潰したいならCloudflareを訴える方がはやい》
https://anond.hatelabo.jp/20180406153029
同じ6日付で同様の指摘を行っていたのが国際大学Glocom客員研究員の楠正憲。各種調査データの結果も例証として挙げながら次のように主張している。
《遮断が噂されている主な海賊版サイトは海外に拠点を持つと主張しているが、実際には海賊版コンテンツの配信を日本国内の設備から行っている。サイバー攻撃に耐えて漫画や映像のように大きな画像データに対する大量のアクセスを効率的に捌くには、日本を含む各国に配信拠点を持つ代行業者に配信を委託する必要があるからだ》
《何をどこまでブロッキングするかは、国会で民主主義の手続きを経て立法し、司法の正当な手続きを通じて執行されるべきだ。通信の秘密は戦後憲法で定められた重要な権利であり、先の戦争での反省に基づく重要な教訓だ。どれほど権利者にとって緊急性があったとしても、法の支配のための正当な手続きに要する時間は、自由と民主主義を守るために払うべきコストではないか》
https://news.yahoo.co.jp/byline/kusunokimasanori/20180408-00083736/
藤井太洋facebookでこう述べていた。
《改正著作権法で認められた電子出版権は、出版社が海賊版と戦うために導入された。
それでなにが変わったか。電子出版権を手に入れた出版社は、戦うと言った作品の0.01パーセントほどに対してGoogleDMCA Takedownを申し立てている、というのが現状だ。相手がわからないからと言い訳して、差し止め訴訟も行なっていない。漫画村には広告の出稿主、広告プロバイダ、インターネット接続プロバイダのような日本のステークホルダーがいくらでもいるのにアクションを起こさず、検閲を望む。
戦前の新聞社からなにも変わってない》
https://www.facebook.com/taiyo.fujii/posts/10156267190719803
日本インターネット協会は政府の知的財産戦略本部に提出した「知的財産推進計画2018」の策定に向けた意見の中で「著作権保護期間の延長」「リーチサイト規制」と共に「著作権侵害を理由としたサイトブロッキング」についても反対する姿勢を以下のように表明している。
《サイトブロッキングは通信全般を監視し、なんらかのアルゴリズムで不適当と判断された通信を遮断するというもので、憲法で保障されている「通信の秘密」を侵す事実上の検閲行為にあたる。そしてこの件は2010年の児童ポルノサイトブロッキングに関する議論において通信の秘密と違法性阻却事由の観点から大きく議論され、著作権侵害についてのサイトブロッキングは不適当であるという結論がすでに出されている。ついては著作権侵害を理由としたサイトブロッキング憲法で保障された人権を侵害するものであるから、決して導入されるべきではない。(略)ISPに負担をかけるだけで、「表現の自由」を侵害するにもかかわらず効果の少ないサイトブロッキングを行うよりも、おおもとの海賊版サイトを摘発・削除するための取り組みに力を注ぐべきだ》
https://miau.jp/ja/842
なお、NPOの日本独立作家同盟が「海賊サイトによりマンガ文化が壊される!作家が生き残る方法とは?」と題したトークセッションを4月23日夜にトークライブハウス「阿佐ヶ谷loftA」で開催するそうだ。ブロッキングの問題についても議論されることになるのだろう。
https://www.facebook.com/events/1925102897502524/

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎上にも出てきた東浩紀による4日付のツイート。日本文藝家協会から『文藝年鑑2018』の編纂にあたり、掲載確認の問い合わせに返事のなかった作家あてに「2018年版は、お返事のない方も掲載させていただくことになりました」との通知ハガキが来たんだとか。
《文藝年艦さん、これは強引すぎませんかね。。》
https://twitter.com/hazuma/status/981716032308969473

◎3月末にNHKを退職し、以後は「ジャーナリストとしてNHKの番組に参加できるよう精進してまいります」と表明した有働由美子に対して、先輩格にあたる池上彰が「そんなに簡単に“ジャーナリスト”を名乗ってほしくないな」と表明。
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2018/04/07/kiji/20180406s00041000355000c.html
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180406-00000313-oric-ent
これについて、英国在住でメディア問題を中心に執筆活動を行っている小林恭子が、Yahoo!ニュースのコメント欄で以下の反応。
《この「ジャーナリスト」という言葉、日本ではかなり重みのある特殊な意味で語られているようです。(略)現在、英国ではエッセ―などを書く人も含めて広い意味で「ジャーナリスト」という言葉が使われます。日常の様々な現象を自分なりの観察や取材で切り取り、これを文章や映像などで形にしていく人=ジャーナリストという解釈です。もっと気軽に考えてもいいのではと思います》
https://twitter.com/ginkokobayashi/status/982170523030269952
https://news.yahoo.co.jp/profile/author/kobayashiginko/comments/posts/15230025546965.bbea.06809/
池上も「ジャーナリスト」であろう。ちなみに私(岩本)は自分の肩書きとしては「フリーライター」「フリーランスライター」を用い、「ジャーナリスト」を自称したことはないが、ネット上で「お前のような自称ジャーナリストが」と罵られたことが一度や二度ではない。池田信夫にも以前にTwitterを通じて取材を申し込んだ際、そう言われて拒否&ブロックされた。

◎その有働由美子の退社報道をめぐってメディア各社間でひと悶着あったらしい。
当初、退社の発表はNHKからの情報提供により「4月4日朝解禁」との申し合わせがあったところを『デイリー新潮』が3日夜に「フライング」。すぐに引っ込められたものの、SNSを通じて削除されたページのURLがその後も拡散され続けたという。
http://www.cyzowoman.com/2018/04/post_179232.html

◎米国で最近新たに登場した「Knowhere」は自ら取材しないニュースサイトだが、例えば一つの政治記事に関して《「左翼」「中立」「右翼」的観点から書かれた3つのバージョンを用意する》のだとか。フェイクニュースの拡散に加担しないよう、あるトピックについて《少なくとも5つの信頼できるサイトが記事を出すまでは公表しないという方法》も取っているそうだ。ブログでこれを紹介している島田範正(元読売新聞記者。国際大学グローコムフェロー。早稲田大学IT教育研究所客員研究員)は記事の末尾でこんな感想を漏らしている。
《あ、そういえば日本には、この3社による「あらたにす」というニュースサイトがありましたね。2008年スタートで4年後に終了しました。考えてみれば、時代を先取りしてたのかも》
https://rp.kddi-research.jp/blog/srf/2018/04/08/ai/
https://knowherenews.com/

◎『ヤングジャンプ』での連載が12年目を迎えた原泰久『キングダム』が、コミックス50巻の発売を記念して実写映画化されることになった。
http://news.nicovideo.jp/watch/nw3418288

◎“埼玉ディス”漫画として2015年の復刊以降大きな話題を呼んだ魔夜峰央の『翔んで埼玉』も、二階堂ふみGACKTのダブル主演で来年実写映画化されるそうだ。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/09/news033.html#utm_term=share_p

講談社『Kiss』『BE LOVE』編集部が手がけるデジタルマンガ誌『comic tint』が6日に創刊。《「恋に染まる、あなたに染まる」甘く刺激的なデジタルコミック誌》を謳いつつ、女子の欲望や気持ちを描いた恋愛作品を中心に掲載していくという。
http://comictint.com/
https://mainichi.jp/articles/20180406/dyo/00m/200/019000c

◎『週刊少年チャンピオン』に連載されて話題を呼んだSF漫画『AIの遺電子』作者の山田胡瓜はもともとデジタル系媒体の記者で、モバイル系の記事を長く担当する中でAIやAR(拡張現実)などが世の中を変える可能性について考えるようになったことが同作のきっかけだったという。
《だから、チャンスなんですよ、AIの登場って。歴史が塗り変わるチャンスですから。職がなくなる、つらい、みたいな考え方もありますが、むしろ世の中が引っかき回されるチャンスだから新しいことをしたいと考えている人にとっては、いい時代だと思います。漫画だって、今はアシスタントさんを使っているけれども、もしかしたら絵を描けなくてもそれなりのものをつくれるようになるかもしれない。アニメだって、原画をある程度用意すれば中継ぎは全部勝手にやってくれるみたいな時代になるかも(笑)。
中継ぎしかできない人にとっては、無職になるかもしれないという話ですが、「才能はあるけれどもつくれない」「アニメーションの世界に属してないから無理」だという人にとっては、チャンスなんですよ》
http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/013100070/032300002/?n_cid=nbptrn_twbn

中央競馬の予想専門紙として1932(昭和7)年年の創刊以来86年の歴史を持つ『競馬ニホン』が「諸般の事情により」15日付発行号をもって休刊することをTwitter上の公式アカウントで6日に表明(公式サイトは8日を最後にサービスを休止)
https://twitter.com/nihon_calendar/status/982185909075329024
http://keibanihon.co.jp/
https://www.sponichi.co.jp/gamble/news/2018/04/08/kiji/20180408s00004000242000c.html

五木寛之が『日刊ゲンダイ』の創刊以来の連載「流されゆく日々」4月2〜6日付で、竹内和芳(VIZ Mediaヨーロッパ社長・祥伝社前社長)が『出版ニュース』に連載中の海外出版レポートで紹介した欧州出版界の事情を引用しつつ5回連続で紹介していた。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/226334
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/226409
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/226502
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/226548
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/226671

◎栃木県の那須高原地域では初の書店として昨年10月、出版・書店関係者らによる「書店と本の文化を拡める会」がオープンした「那須ブックセンター」について、近隣の住民有志らがこのほど、新刊情報やイベント開催の告知や手伝いなどを行う「那須ブックセンターを応援する仲間たちの会」を発足させた。
http://mainichi.jp/articles/20180405/ddl/k09/040/069000c
https://www.facebook.com/nasubookcenter/
同店店長の谷邦弘が先月下旬、ネットメディアで「書店の完成形を目指しながら、“町の本屋さん”が増える未来に挑戦したい」と題されたインタビューに登場し、抱負を語っていた。
http://www.compass-point.jp/interview/5013/

名古屋市が地元の同人誌に対して、印刷製本費の2分の1以上を補助するなどの助成事業を行うと広報誌で発表。対象は次の要件を満たす団体だそうだ。
名古屋市内を基盤として概ね3年以上組織的・継続的に活動し、次の1または2に当てはまる団体で、対象となる出版物の年間の平均発行部数が200部以上の団体です。
1 小説、評論、詩、短歌、俳句または川柳等の文芸創造団体
2 名古屋の文化(郷土史、芸術文化、文化財、生活文化等)に関する文化研究団体》
https://news.yahoo.co.jp/byline/dragoner/20180405-00083613/
名古屋市」を「千代田区」に変えたら「出版人」も適用対象になってしまいそうだ。

東急エージェンシーは2019年新卒採用の一環として、留年した人(29歳以下)を対象にした「留年採用」を始めた。
http://www.tokyu-agc.co.jp/recruit/2019/ryunen-saiyo/
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/04/news058.html#utm_term=share_sp

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3)【人事】日之出出版 4月1日付人事異動

藤原 晃
新:Safari Online 編集部 編集長(部長)兼 Urban Safari 編集長 兼 Safari 編集部 副編集長
旧:Safari 編集部 副編集長(部長待遇)兼 Safari Online 編集長 兼 Safari 別冊 編集長代理

須田 智子
新:Safari Online 編集部 副編集長(副部長待遇)兼 WOMAN Celebrity SNAP 編集長
旧:Safari 編集部 (副部長待遇)兼 WOMAN Celebrity SNAP 編集長 兼 Safari Online 副編集長

千葉 栄
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旧:書籍編集部 キャップ