【文徒】2016年(平成28)年11月8日(第4巻208号・通巻895号)

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1)【記事】 電通厚生労働省強制捜査。過労死問題は刑事事件に発展
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】電通厚生労働省強制捜査。過労死問題は刑事事件に発展(岩本太郎)

7日の厚生労働省による電通(本社および3支社)への強制捜査は、各マスメディアでも大きく報じられた。10月の東京労働局などによる労基法に基づいた立ち入り調査(「臨検」と呼ばれる)に続くものだが、日経新聞によればその臨検の際、違法な長時間労働が全社的に広がっている疑いが強まったことから、刑事訴訟法に基づき労働基準監督官による強制捜査に踏み切ったという。ここに至って同社の過労死問題は刑事事件に発展することとなった。
http://www.nikkei.com/article/DGKKASDG07H3S_X01C16A1MM0000/
朝日新聞によれば、通例では労働局の立ち入り調査から立件までは1年単位の時間をかけるところを、今回の件では《「同時期に本社と支社、子会社を一斉に調査するのは異例」(厚労省関係者)というスピード捜査》。また《7日の強制捜査には全国で88人を動員したが、これも「異例の規模」(同)》とのことだ。
捜査に関わる厚労省の「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」は《過重労働が疑われる企業を集中的に調査する特別チームで、東京・大阪の両労働局だけにある。「ブラック企業」問題の深刻化を受け、悪質な事例の取り締まりを強化する狙いで、昨年4月に発足した》《これまでに、靴チェーン店「ABCマート」や、ディスカウント店を展開する「ドン・キホーテ」などの違法残業の案件を立件してきた実績があり、行政指導にとどまらず、企業や経営陣の刑事責任を追及するケースが目立つ》という。
http://digital.asahi.com/articles/ASJC74FHBJC7ULFA00Z.html?_requesturl=articles%2FASJC74FHBJC7ULFA00Z.html&rm=693
昨日の『文徒』でも紹介していたように、この問題についてはテレビではNHKが比較的に熱心に報道しているようだ。7日の強制捜査を受けての報道でも、電通社員たちに取材して得た《電通では働いた時間の一部を「自己啓発」に当てたなどと社員が申告して、残業時間を少なく見せかけることが行われていたということです》といった証言なども織り交ぜながら報じている。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161107/k10010758871000.html
はたして今後はどうなるか。弁護士の渡辺輝人(京都弁護士会所属)は今回の強制捜査で「潮目が変わった」との見方も織り込みつつ、次のように述べている。
《推測になりますが、これまでの立ち入り調査の結果、かなり悪質な労基法違反の証拠が見つかった可能性があります。電通は、残業時間は申告制になっているところ、1991年の過労自死事件の後、少なくとも本社については、別途、労働者の在社時間を自動的に測定するためのシステムを導入しているはずです。残業の申告が適正にされていなければ、在社時間と労働時間に大きな差が生まれる可能性があります。また、この間、実際の残業時間と申告された残業時間の差がかなりある、という報道がされています》
厚労省の本省が乗り出して、強制捜査に入った以上、犯罪として立件できると考えた可能性が高く、犯罪を証明する証拠とともに各地の検察庁に「送検」される可能性が高いでしょう。
重要なのは、実は、その先です。以前のエントリにも書きましたが、実際に起訴するか否か、と、正式に起訴するのか、略式起訴で罰金刑で終わらせるのかを決めるのは、各地の検察庁です。現状、労働基準法の運用が消極的な理由はいくつかあるのですが、そのうちの一つは、検察庁が、この種の事件について、やる気を出さないためです》
《しかし、ここまで大規模な捜査が行われた以上、潮目は変わった、と見るべきではないでしょうか。東京地検を始め、検察庁が、この件をどこまで本気で取り組むかも、問われます。悪質な実態が証拠で裏付けられた場合には、使用者個人への懲役刑の適用も含め、労基法の積極的な運用が期待されると言えるでしょう》
http://bylines.news.yahoo.co.jp/watanabeteruhito/20161107-00064169/

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎何と『少年ジャンプ』のバックナンバーが初めて重版されることになった! あの「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の最終回を掲載した9月17日号と、8月に発売された『こち亀ジャンプ』の2冊をセットにした『こち亀 爆売れ御礼!! 両さん特別アニバーサリーパック』として12月31日に発売されるそうだ。
http://mainichi.jp/articles/20161105/dyo/00m/200/013000c

◎先に日本雑誌協会が公表した今年7〜9月の印刷部数では『少年マガジン』が100万部の大台を割り込んだことが話題になったが、これについて小林よしのりが『BLOGOS』で論考を書いている。
《わしの子供の頃の少年漫画雑誌は、30万部とか、100万部も発行してなかったはずである》との指摘は既に他でも昔から再三なされてきたことだが、漫画家側からの見方としての以下の意見は目を引く。
《今の漫画の作り方自体に、わしは問題があるのではないかと思っている。
一度人気が出た作品は、十年くらい描き続けなければならなくなることも、画力だけで見せるために、異様にコマがでかくて、話が全然進まないから、週刊誌で読んだら、全然ストーリーが楽しめないということも、問題だろう。
そういう作品の作り方の限界が、いよいよ雑誌の部数減少に繋がってきたということではないか?》
http://blogos.com/article/196488/
まあ、「こち亀」も一話完結型で40年間、何時どこから読んでも入っていけた作品だったしね。

◎路上生活者を販売員に起用するなどの形で自立支援している雑誌『ビッグイシュー日本版』の広報担当者や販売員に『しらべぇ』がインタビュー。考えてみればこの雑誌も創刊から既に13年になる。
http://sirabee.com/2016/11/02/20161022647/
ちなみに私(岩本)は10年程前にこの『ビッグイシュー日本版』にて連載記事を執筆(持ち回りで短期間だったが)したことがある。もとより原稿料は安かったが支払いは早く、ある時には雑誌が発行される前に原稿料が振り込まれたので驚いた。書店や取次などを経由せず、路上の販売員から即座に現金で売り上げを回収できるというシステムゆえの早さだったんだろうか?

東京五輪エンブレムに絡んだ「盗用」問題で袋叩きにあった佐野研二郎の「葬儀」と称するパフォーマンスが、佐野が教授を務める多摩美術大学の八王子キャンパスで開催された学園祭で行われていた。佐野が亡くなったという情報はないため、あくまでもパフォーマンスの一環らしいがネット上では批判が続出。それを報じた『ハフィントンポスト』も「多摩美術大学のパフォーマンスは無許可だった」などといった見出しで報道。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/11/06/kenjiro-sano_n_12824604.html?ncid=engmodushpmg00000004
まあ「学園祭開催中の構内だから」ということなんだろうが、死者(実際に死んでいるかどうかはともかく)を悼む屋外でのパフォーマンスに許可もへったくれもあるかという気もするけどね。

日本新聞協会出身、現在は専修大学教授としてメディア界の動向についての論考を発信し続けている山田健太の新著『放送法と権力』『見張塔からずっと』が11月2日に田畑書店から同時刊行された。ちなみに後者はボブ・ディランが作詞・作曲してジミ・ヘンドリックスがカバーした曲の題名にあやかっている。田畑書店も本書の刊行と同時に公式サイトを開設したそうだ。
http://tabatashoten.co.jp/2016/10/21/%e6%96%b0%e5%88%8a%e3%81%ae%e3%81%8a%e7%9f%a5%e3%82%89%e3%81%9b-3%e5%86%8a-2016%e5%b9%b410%e6%9c%8831%e6%97%a5-2/

◎その山田の2冊同時刊行本や、当『文徒』発行元の「出版人」による『知られざる出版「裏面」史』の動向が気になり、11月4日に新宿の紀伊國屋書店本店3階のメディア本コーナーに行ってみたら、山田の新刊2冊の隣にディープな放送業界「裏面」史本というべき『まぼろし大阪テレビ』が平積みされているのを発見。
https://twitter.com/iwamototaro/status/794493146398756865
大阪テレビ」は1956(昭和31)年に、関西地区を含めた西日本で一番最初に開局した民放テレビ局で、同地区で街頭テレビを設置するなどしてテレビ放送の普及に努めたパイオニア的存在だ。その草創期には満州帰りの森繁久彌大村崑(本書にも登場する)も関わっていたという曰くつきの局なのだが、開局からわずか3年で朝日放送(ABC)に吸収される形で消滅した。ちなみに、その朝日放送は開局時にはTBSとネットしており、そうした東阪のテレビ局間における系列関係の“超捻転”(放送業界ではこう呼ぶ)を強引に解消しにかかった70年代の物語も、もはや「今のうちに残しておかないと」という領域に差し掛かっている。
http://www.tohoshuppan.co.jp/2016h/09/s16-271-5.html
https://www.facebook.com/%E3%81%BE%E3%81%BC%E3%82%8D%E3%81%97%E3%81%AE%E5%A4%A7%E9%98%AA%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93-689406384466604/

◎1980年代半ばに人気を博したアメリカのSF映画バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドキュメンタリーDVD付ファンブックが11月5日に発売された。
http://natalie.mu/eiga/news/207859
ちなみにそのDVD収録のドキュメンタリーは、既に昨2015年にはアメリカで公開されていたドキュメンタリー映画『バック・イン・タイム』。30年前の作品で主人公が30年後(2015年)までタイムスリップしていたという設定を活かした記念企画で、日本でも熱心なファンたちが劇場公開を心待ちにしていたようだが、叶わなかったようだ。以下の「予告編」で、老いマイケル・J・フォックスらスタッフの姿は(日本語字幕はないけど)拝めるけどね。
http://kirakiraperry.com/movie/backintime/

◎独立系ドキュメンタリー映画の上映で知られるアップリンクが、このほどネット上での映像配信サービスを開始した。手始めは赤塚不二夫に迫った限定特典映像付き『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』など。
http://natalie.mu/eiga/news/207777

◎フリージャーナリストで、イラク国内での取材中にクルド自治政府に拘束されていた常岡浩介が解放されたようだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161107-00000172-sph-soci
イスラム教徒である彼はこれまでも体当たりな現地取材を繰り返している。2010年にアフガニスタンでの取材中に捉えられて人質になった時のことは、同居人らによる『常岡さん、人質になる』(エンターブレイン刊・2010年)にも収録された。彼は日本では普段「ギャルハウス」と呼ばれる一軒家を何人かの女性たち(単なる同居人らしい)とシェアしながら生活している。
https://www.enterbrain.co.jp/pickup/2011/hitojiti/index.html
ちなみに6月初めにもトルコ・イスタンブールの国際空港で入国拒否にあった時の模様を、空港内の留置場から即座に写真入りで報告していた。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=10153647088786662&set=a.10150263728206662.322256.646176661&type=3&theater
ちなみに同じタイミングでイスラム学者の中田考の自宅などにガサ入れが入ったことに結び付けて報じたマスメディアはなかったようだ。
http://this.kiji.is/165677699059779066

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

決断の先送りは、悲劇的結末への到達時間を早める。