【文徒】2017年(平成29)年2月14日(第5巻28号・通巻957号)

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1)【記事】フリーランスの苦境ははたして「協会」設立で解決されるか?
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】フリーランスの苦境ははたして「協会」設立で解決されるか?(岩本太郎)

『弁護士ドットコム』が「フリーランスの光と影」と題して、会社に属さず個人で仕事をするフリーランス、それももっぱら「フリーランスライター」を取り巻く状況をレポートしている。同記事によれば《経済産業省は昨年11月、フリーランス人材の活用に向けた「雇用関係によらない働き方研究会」を立ち上げた。インターネット上には、時間や場所にとらわれず、仕事内容も自分次第の「自由さ」にあこがれる声が、あふれている。長時間労働で有給休暇も消化できないような従来の「日本企業の働き方」への反発も追い風だ》という。
https://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5696/
雑誌の数は減っている一方でメディアの数はむしろ増えている。ネット上では一般企業によるオウンドメディアなど、新たなサイトが日々登場しているような状況で、そこに記事を書くライターの数が慢性的に不足しているのだ。そこで人材調達の役割を果たしているのが「クラウドワークス」や「ランサーズ」といったクラウドソーシングサイトであり、そのことがもたらす弊害(原稿料が著しく安くなったり、記事の品質管理が疎かになる実態)については私も昨年末の『メディアクリティーク』で触れた。
『弁護士ドットコム』の記事もそのあたりの問題提起へと主眼が置かれている。連載の第2回目《まるで「道具扱い」、買い叩かれるクラウドワーカー》では、クラウドソーシングサイトを通じて仕事を発注するクライアントの側からの証言もまじえながら伝えている。
《「この値段で受けちゃって、いいの?」
東京都内のIT企業に勤務する会社員の女性(37)は、仕事の依頼主と個人をマッチングするクラウドソーシング・サービスのサイトを開いてつぶやいた。(略)雑誌で活動するイラストレーターへの依頼はイラスト1点1万円〜が相場。ところが、そのサイトでは「1点500円より」という破格の申し出がずらりと並んでいたのだ。(略)「想定価格の10分の1程度。発注するのに罪悪感を覚えた」》
《雇用関係にないフリーランスは本来、発注者の指揮命令下にはない。しかし、立場の弱いフリーランサーの場合、発注者の言いなりに働くケースはままある。企業にしてみれば、労働法上で定められる責任は負わなくていいのに、その労働力だけ搾取できることになる。つまり、企業にとっての「都合のいい道具」になってしまう危険と背中合わせなのだ。》
《1文字0.5円で2000字の記事を2時間かけて書けば、時給は500円。発注側とのやりとりや手直しが生じれば、さらに下がる。東京都の最低賃金は932円(2016年10月時点)。全国最安値の沖縄県、宮崎県の714円(同)をも遥かに下回ることになる》
https://www.bengo4.com/c_5/c_1629/n_5697/
こうした実態が例えば『WELQ』騒動の背景にあったことについては『弁護士ドットコム』も言及しており、《「安くフリーランサーを買い叩く風潮が劣悪な記事を量産した。今は淘汰の時代」とフリーランスライターを束ねるウェブ編集者はいう。DeNAは多額の損失が見込まれるとともに、そのブランドに大きな傷を自らつけることになった。》と関係者のコメントを添えつつ結んでいる。
もっとも、『弁護士ドットコム』自体が元榮太一郎(起業家・弁護士・参議院議員・資産14億3594万円)が運営するメディアであり、ウェブビジネスであることを忘れてはならない。
そうした中で先月26日、「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」なる任意団体が都内で設立されたという。同協会の対象とする職種はフリーライターに限らないのだが、記者発表会を取材した毎日新聞の記事によれば、
フリーランスで働く人が昨年1000万人を超え、政府が「働き方改革」を目指しているのに併せ、多様な勤務形態がより幅広く導入されることを求めていく。
フリーランス同士の組織は他にもあるが、フリーランスの個人と企業が連携した団体は日本では初という。企業など23社・団体が賛助・協力する。会員1000人と、今春の一般社団法人化を目指し、会員のネットワークづくりやスキル、キャリアアップ、業務効率化支援などに取り組む》
http://mainichi.jp/articles/20170127/k00/00m/040/127000c
とのこと。協会の公式サイトには、冒頭に紹介したように昨秋フリーランス人材の活用に向けた研究会を立ち上げたという経産省の産業人材政策室・伊藤禎則参事官によるお祝いのメッセージも掲載されている。また、公式サイトには「理事・幹事企業」として、上でも名前が上がった「ランサーズ」などのクラウドソーシング運営業者も名を連ねている。
https://freelance-jp.org/
労働問題に詳しいフリーランスライターに尋ねたところ「善意は疑わないし、互助や相談、スキルアップはもちろんありうる。でも、1万円の会費で融資も保険もローンもって、いったい誰がするのかな?」と、やや懐疑的な答えが返ってきた。
上記の毎日の記事はそのあたりに言及していないので何ともわからないのだが。ともあれ、フリーランスフリーエージェント)のライターが互助を目的に組織を立ち上げたケースというのはこれまでにもあったものの上手く機能したというケースは、あまり聞かない。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎シンガーソングライターの佐藤龍一が、父親の葬儀の席で故人が好きだった「江差追分」を流したいと言ったところ《葬儀屋に著作権の問題が》と言われたとか。作詞・作曲者不明で1908年には成立している「江差追分」に著作権は成立しないはずだが、葬儀場によれば《ある葬儀の席にJASRACの人間が居合わせ、多くの人が集まる場所で無断でCDをかけてはならないと指導され、社の方針になった》とか。これを受けて佐藤曰く、
《自分もJASRAC登録曲が何十曲かあって、それをJASRAC包括契約している店で歌いますが、その演奏によってお金が分配されたことは一度もありませんよ。彼らのいう「サンプリング調査」に引っかからない限りは。そのお金はどこにいくんでしょうかね。》
http://getnews.jp/archives/1626522
https://twitter.com/RyuichiSato/status/827806763722235905

◎扶桑社が12日に朝日新聞に掲載した、話題作『夫のちんぽが入らない』(こだま)の全5段広告が反響を呼んでいる。同作についてはこれまでも「店頭で書名を言わなくても済む注文票」が作成されるなど何かと話題に事欠かなかったが、今回は全5段のスペースに「衝撃の実話。好きなのに、入らない!」「発売即13万部突破!」とあるだけで、肝心の書名は「書店でお確かめください」となっている。ここでも書名の言いにくさを上手く逆手に取ったアイデアが盛り込まれた。同書のTwitter公式アカウントも4日前の8日に「すみからすみまで見てもどこにも書名が記載されていないという、書籍としては前代未聞の愉快な広告となっております」とツイートするなどして盛り上げていた。
http://withne.ws/2lxfZc2
https://twitter.com/kodama_och/status/829291051840045056

◎南青山のブックカフェ「brisa libreria」で“ブックセラピスト”の元木忍が、今年で創刊101年目を迎えた『婦人公論』の編集長・横山恵子にロングインタビュー。横山は同誌の歴史上4人目の女性編集長なのだそうだ。
http://getnavi.jp/entertainment/107840/

◎「視聴熱」という言葉があるのだそうだ。松本人志らの出演で12日にフジテレビ系で放送された『ワイドナショー』では、タレントたちが「視聴率はとれないが面白い番組」をどう評価するかをめぐってトークを繰り広げた。ちなみに「視聴熱」は、既にウェブサイトの『ザテレビジョン』がSNSでの番組への反応や独自調査したデータをもとに「デイリー」「ウィークリー」「リアルタイム」の3本立てで紹介のうえ日夜解説している。
https://thetv.jp/news/detail/100528/
https://thetv.jp/shichonetsu/daily/

又吉直樹の第2作は『劇場』。3月7日発売の『新潮』4月号に掲載される。今月26日にはNHKが執筆中の又吉を追ったNHKスペシャル又吉直樹 第二作への苦闘」(仮題)を総合テレビで放送するそうだ。
http://news.livedoor.com/article/detail/12664613/

◎1月28日に日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の主催で法政大学にて行われた「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2017」の模様が『ハフィントンポスト』で紹介されている。
http://www.huffingtonpost.jp/kazuko-kotaki/jounalism-innovation-award2017_b_14650990.html?ncid=engmodushpmg00000004

角川ドワンゴ学園N高校が、ネットで課外授業を受けられる双方向アプリ「N予備校」で大塚英志による公開授業「ものがたり創作授業」を2月21日から3週連続で火曜日の20時から1時間半にわたり行うそうだ。
http://ict-enews.net/2017/02/10nnn/

◎愛知県小牧市に開設を計画中の市立図書館について、同市の「市立図書館建設審議会」は8日、「市直営の運営が望ましい」などとする答申を教育長に提出した。当初「ツタヤ方式」を導入する計画だった小牧市の方針が一昨年10月に行われた住民投票で“否決”された後、審議会による答申内容が注目されていた。
http://mainichi.jp/articles/20170209/ddl/k23/010/214000c

◎都内・五反田にある活版印刷店「紙成屋」ではこのほど「活版印刷機レンタル」を始めたそうだ。かつてはがきや封筒などの印刷に使われてきた手動の「手フート印刷機」を一般の人が使えるというサービスで、昨年に行われた活版印刷の専門イベントなどで人気を博したことから開始したという。
https://p-prom.com/company/?p=14720

米大統領選の前後の時期、辞書・辞典を製作する「メリアム-ウェブスター(Merriam-Webster)」のTwitterアカウントに注目が集まったらしい。例えば「alternative facts(オルタナティブファクト:代替的真実)」が話題になると《「fact(事実)」というのは、実際に存在するものを指すと理解されている》など。ただし同アカウントの背後にいるマネジャーのローレン・ナチュラーレ氏は《私たちは政治的ではないので、周りに集まった人たちが後々がっかりしないことを祈っている》とコメント。
https://shar.es/19cXGB

◎アマゾンが米国でリアル店舗開設の動きを加速中。昨年はシカゴやボストン郊外、今年に入ってからはニューヨーク・マンハッタンのタイムワーナーセンターなど3か所に新たに開設することを発表したとのこと。
http://forbesjapan.com/articles/detail/15154

◎“トランプ特需”で「N Yタイムズ」のデジタルニュースの有料購読者数は昨年10〜12月の3カ月間で27万6000人も純増したそうだ。にも拘わらず同紙が長期低迷傾向から抜け出せずに苦戦しているのは《売上の大半を未だに落ち目のプリント(新聞紙)に頼らざる得ない状況がある》からだと『media pub』が伝えている。
http://zen.seesaa.net/s/article/446581344.html

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3)【深夜の誌人語録】(岩本太郎)

「癒し」は適度に必要だし効果があるが、「慰め」は得てして癖になるだけで始末が悪いものだ。