【文徒】2018年(平成30)11月15日(第6巻215号・通巻1389号)


今井照容責任編集【】2018年(平成30)11月15日(第6巻215号・通巻1389号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】高須次郎「出版の崩壊とアマゾン」を買うべし!読むべし!
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2018.11.15 Shuppanjin

1)【記事】高須次郎「出版の崩壊とアマゾン」を買うべし!読むべし!

版元であれ、書店であれ、取次であれ、出版で禄を食む者にとって「出版の崩壊とアマゾン 出版再販制度〈四〇年〉の攻防」(論創社)は、少なくとも年度内に読んでおかなければならない必読献であると言って良いだろう。著者は高須次郎である。
大幅なポイントサービスによって再販売価格維持契約に違反しつづけるアマゾンに対して出荷停止をつづけている緑風出版の代表である。出版の再販制度を擁護するために先頭に立って戦いつづけて来た出版人である。恐らく高須を支えているのは情熱と責任感と判断力のトライアングルなのではないだろうか。
高須と私の間には出版の「未来」に関しては(版元や書店、取次が「何をなすべきか」に関しては、と言い換えたほうが良いかもしれない)温度差があるかもしれないが、こうして一冊に纏められた高須による書物の下部構造にかかわる情況分析に私は全面的に同意する。
ともすれば私たちは下部構造を見ないようにして来た。一般の読者からしても書店に並んだ書物の内容からしか版元の良しあしを判断すまい。しかし、高須からすれば下部構造から目を背けることは戦わないことと同義なのである。中小零細版元にとって戦いを放棄することは座して死すことしか意味しない。そんな危機感に充ちた高須の情況分析は、出版の下部構造に容赦なくメスを入れているのだ。こんな具合に。
「もともと寡占取次による書店政策は、ナショナル書店チェーンや大手書店に対しては取引条件をいわゆる一本正味で優遇し、中小零細書店には厳しく低い条件を課してきた。街の零細書店にはベストセラーなど売れ筋本が入手しにくいなど目に見えないハンディがあり、定期購読雑誌や注書籍のお得意読者への配達などの外商やきめの細かいサービスでやりくりしてきたが、深刻化する出版不況と、一方でのナショナル書店チェーンによる大型店の出店に圧され、次々に消えていった。県庁所在地にあった地元老舗書店は、一部全国展開する書店を除いて、二〇一〇年ごろまでにほとんどが大幅な事業縮小を迫られるか、廃業した」
「・・・鈴木書店は老舗版元と大手書店チェーンとの狭間で、逆ざやで自己破産してしまったといえる。岩波書店をはじめとした同社の御三家といわれた版元などの正味はそのことを裏書きしていた。その後の中小取次の倒産廃業には、出版不況とともにこの問題がついて回った」
こうも書く。
「雑誌を軸にした取次流通システムは、ダウンサイジングしながら書籍を軸にした取次流通システムに転換しないと、近々、破綻を免れないであろう」
日販の2017年度決算については「アマゾンのバックオーダー中止と出版社のご都合主義の波をもろに被って赤字に転落したとみるのが、率直な見方であろう」と指摘している。
http://ronso.co.jp/book/%e5%87%ba%e7%89%88%e3%81%ae%e5%b4%a9%e5%a3%8a%e3%81%a8%e3%82%a2%e3%83%9e%e3%82%be%e3%83%b3/

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2)【本日の一行情報】

◎季刊で刊行している「アエラスタイルマガジン」(朝日新聞出版)はvol.40より、田中圭が1年間連続で同誌の表紙を飾ることが決まったそうだ。
http://hon-hikidashi.jp/live/67226/
それよりも本体の「アエラ」がどんどん詰まらなくなっているけれど、この立て直しのほうが重要だと思うのは私だけだろうか。

◎「M&Aonline」が「【スクロール】M&A によって業容が急変 1000億円の大台突破を目指す」を掲載している。
「1987年に個人通販用のファッションカタログ『ラプティ』を創刊、1997に個人用雑貨カタログ「生活雑貨」を創刊した。1996年には早くもインターネット通販の『ムトウOn‐line(scroll shop)』を開始。2009年にネット通販で使用していた名称であるスクロールに社名を変更した」
スクロールは2010年からM&Aを活発化させている。傘下に入れたのは、化粧品や化粧品関連雑貨を取り扱う「イノベート」、豆乳化粧品や健康食品、豆腐、豆乳などを手がける「ハイマックス (現豆腐の盛田屋)」、海外ブランドファッションやファッション雑貨を取り扱う「AXES」、後払い決済やサービス業決済を提供する「キャッチボール」、健康食品や健康関連商品、化粧品などを取り扱う「エイチエーシー(現北海道アンソロポロジー)」、化粧品や化粧品雑貨の研究、開発、販売、輸入などを手がける「ナチュラピュリファイ研究所」、化粧品や化粧品雑貨の研究・開発、販売や輸入などを手がける「T&M」、化粧品の製造、販売を手がける「キナリ」、アウトドアレジャー用品や釣り具、スポーツ用品などの通信販売業の「ミネルヴァ・ホールディングスナチュラム)」、旅行会社の「トラベックスツアーズ」など。今年に入ってからだけで5社を買収している。
https://maonline.jp/articles/scroll20181113

◎「産経NF庫」が潮書房光人新社から創刊された。「総括せよ! さらば革命的世代ー50年前、キャンパスで何があったか」(産経新聞取材班)はそのなかの一点である。
「総括せよ! さらば革命的世代ー50年前、キャンパスで何があったか」は元日全共闘議長の秋田明大、元赤軍派議長の塩見孝也(故人)、日本赤軍最高幹部の重信房子受刑者、元東大全学連リーダーの西部邁(故人)ら学生運動を内側から見ていた人たちに加え、元内閣安全保障室長の佐々淳行(故人)のような外側から見た人々や教職員の視点、数多くの無名の元全共闘学生たちの声を集めている。
どうせなら、安彦良和の「革命とサブカル」(言視舎)も併せて読みたい。こちらは弘前大学全共闘に結集した人々と総括を繰り広げている。元弘大全共闘の安彦と対話を繰り広げるのは、青砥幹夫(元弘大全共闘連合赤軍)、植垣康博(元弘大全共闘連合赤軍、西田洋(元弘大全共闘)、日角健一(元弘大全共闘)、工藤敏幸(元弘大全共闘)といった顔ぶれだ。
https://ironna.jp/article/11142?p=1
https://s-pn.jp/archives/2809
安彦と吉本隆明(あるいは橋川三)の対談を読みたかった……。私は安彦の描く「王道の狗」の中で、「右翼」の頭山満と「左翼」中江兆民が並んで金玉均の船出を見送るシーンが大好きなのである。よく知られているように中江兆民の墓の字を揮毫しているの頭山満にほかならない。金玉均は朝鮮独立党の指導者である。
安彦は富野由悠季との対談で次のように語ったことがある。
「僕には一つ忘れがたい思い出があるんですよ。吉本ばななさんが富野さんに会いに来たことがあるんだよね。彼女がまだ作家になる全然前の話だけど。そのときに富野さんが僕に、吉本隆明という人の娘が会いたいって来てるんだけど、会ったほうがいいかなって訊いたんですよ。富野さんは、吉本隆明のことを知らなかった。そのときに僕は、富野由悠季って人は僕とは違う世界から来てるなと感じたの」
http://d.hatena.ne.jp/tobofu/20090728/1248776734
「革命とサブカル」は東京堂書店の週間ベストセラーで1位となった。

◎オレは映画「ボヘミアン・ラプソディ」を見て何度も何度も泣いた。
http://bunshun.jp/articles/-/9615

◎「ヤングマガジンのスズキさん」のツイート。
「コミックDAYS のツイッターアカウントがなんらかの原因でドナルド・トランプ統領になってしまってます。皆さんからご連絡いただき感謝です。ただいま運営が調査対応中です、ご心配おかけします」
https://twitter.com/ym_suzuki/status/1061983351005794310
「コミックDAYS」(講談社)の公式Twitter(@comicdays_team)が一時的に乗っ取られてしまったのだ。幸いにして11月13日午後7時30分に無事アカウントは復旧した。
https://comic-days.com/blog/entry/2018/11/12/232637
「ねとらぼ」が「講談社『コミックDAYS』公式Twitterが突如トランプ大統領に 認証済みアカウント狙った乗っ取り詐欺か」を掲載している。
「11月12日夜から乗っ取られているとみられ、アイコンやアカウント名、ヘッダ画像などがトランプ大統領のものに差し替えられていたほか、直近のトランプ大統領の投稿を連続でリツイートするなど、トランプ大統領本人であるかのように見せかけていました。また、トップには『1万ビットコインをプレゼントします。誰でも参加できます』といったツイートが固定されており、恐らく詐欺サイトへの誘導が目的ではないかとみられています(1万ビットコインは現在のレートで約70億円)」
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1811/13/news075.html
乗っ取りの狙いはビットコイン詐欺にあったのかもしれない。復旧した「コミックDAYS」公式は次のようにツイートしている。
「今後のTwitter運用については、よりセキュリティ面に注意を払い、かかることなきよう努めてまいります。重ね重ねになりますが、ご迷惑ご心配をかけ誠に申し訳ありませんでした」
https://twitter.com/comicdays_team/status/1062289772155027456
乗っ取りは決して他人事ではあるまい。時事通信の「講談社ツイッター乗っ取り被害=米大統領名乗る投稿も」は次のように書いている。
ツイッターをめぐっては、朝日新聞新潟総局のアカウントでも5日、乗っ取り被害があり、ビットコインの送金に関する書き込みがあった」
https://www.jiji.com/jc/article?k=2018111301053&g=soc

◎「news HACK」の「朝日新聞の『デジタルファースト』戦略ーー報道の現場はどう変わったのか?」によれば、朝日新聞は「デスクや記者、エンジニアを同じユニット内に配置した統合編集局を編成し、これまでの紙を基点とした体制から、ウェブも主軸に加えた体制にシフト」しているそうだ。また「デジタルファーストへの取り組みに合わせて、編集局があるフロアのレイアウトも変更。現在は、編集長を中心に、紙のデスク、ウェブのデスクがすぐ横を固める布陣」を敷いているという。
https://news.yahoo.co.jp/newshack/media_watch/asahi.html

◎LINEは、FC東京と、スポーツ事業およびファン・サポーターとチーム・選手のコミュニケーションの活性を目的に、コミュニケーションパートナーとして取り組むことになった。当然、「LINEチケット」とも連携することになる。そもそも「『LINEチケット』を軸にした契約」(「サッカーキング」)であるようだ。
https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2018/2469
https://www.soccer-king.jp/news/japan/jl/20181112/862260.html

毎日新聞が大学生50人に雑誌事情について聞いてみたそうだ。
「5日は雑誌広告の日。実際に雑誌で掲載された広告をみて商品を購入したことがあると答えたのは、たったの2割。『特に魅力を感じない』(学習院女子(2)女)との声が多数」
https://mainichi.jp/articles/20181113/dde/018/070/021000c
私が驚いたのは2割もいたことだ。これが60代以上となれば8~9割ぐらいにはなるのではないか。

小学館が「蒼い空へ 夫・西城秀樹との18年」を刊行し、集英社が十朱幸代の「愛し続ける私」を刊行した。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09388643
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-333155-8
相米の「魚影の群れ」でも久しぶりに見るか。十朱幸代は雨が似合う女優である。

◎全国の地方新聞社厳選お取り寄せサイト47CLUBに加盟する地方新聞社45社46紙が、都道府県ごとに「こんなのあるんだ!」と唸る“スター商品“を選出し、その中から世の中の皆に“知ってほしい・手に取ってほしいストーリーのある商品”No.1を決める「こんなのあるんだ!大賞2018」が開催され、商品部門では6つのブロック代表商品から「結の香 ホワイトセラム」(岡山県)が大賞に、ショップ部門では5つの優秀賞受賞事業者の中から「かねきち」(滋賀県が最優秀賞に選ばれた。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000239.000014886.html

◎「週プレNEWS」が「現代社会を描くため『情報』を背負い込む! 社会派ミステリー作家・塩田武士が書き上げた渾身の衝撃作」で塩田武士の「歪んだ波紋」(講談社)を取り上げている。塩田は神戸新聞の記者出身だが、次のように語っている。
「大学1年の頃からずっと作家になりたくて、でも当時の筆力ではなれないからっていうことで、社会勉強と章修業、もっと言うと小説のネタ探しのために新聞社に入ったんです」
https://wpb.shueisha.co.jp/news/society/2018/11/13/107524/

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3)【深夜の誌人語録】

時間を創り出すには時間に振り回されていては駄目だ。