【文徒】2017年(平成29)12月19日(第5巻238号・通巻1167号)

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1)【記事】元電通はあちゅう」がセクハラ・パワハラを告発。相手は謝罪するも大炎上
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】元電通はあちゅう」がセクハラ・パワハラを告発。相手は謝罪するも大炎上(岩本太郎)

電通出身で作家・ブロガーの「はあちゅう」(伊藤春香)が、電通時代に先輩社員から受けたというセクハラ・パワハラの事例を『BuzzFeed Japan』で暴露した。
伊藤は2009年に電通に入社し、2年半後の2011年11月に退社した。その間、先輩社員からは深夜に「今から来い。手ぶらで来るな。かわいい女も一緒に連れて来い。お前みたいな利用価値のない人間には、人の紹介くらいしかやれることはない」といった電話で先輩の自宅などに呼び出されて黙って正座をさせられたり、「俺に気に入られる絶好のチャンスなのに、体も使えないわけ?」「その程度の感覚でうちの会社に入ったの?」といったメールも受けたらしい。
退社時にもその先輩からは「広告業界では生きていけなくなるぞ」と脅されたほか、その後も「はあちゅう」として電通主催のイベントに登壇のオファーがあった際にも、その先輩が会社に「はあちゅうなんか呼ぶな。あいつはどうしようもない女だ」といったメールを送り付けるなどの妨害、嫌がらせがあったと告発している。
https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/hachu-metoo?utm_term=.wmLpWWQo6
“加害者”として記事中で名指しで告発されたその先輩社員は岸勇希。2004年に電通に入社し、14年には電通史上最年少でエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター(ECD)に就任。カンヌでの受賞歴もあるほか、電通選書から著書『コミュニケーションをデザインするための本』という著書を出すなど、花形クリエーター的な存在として知られていた。今年2017年には独立のうえ、コミュニケーション・デザインや事業開発コンサルティングなどを行う新会社「刻キタル」の代表取締役となった。同社には電通も資本業務提携をしており、ECDの古川裕也も現職のまま顧問として派遣されている。
https://markezine.jp/article/detail/26308
岸は今年秋ごろから『BuzzFeed Japan』がこの件で関係者に取材を始めた段階で、はあちゅうあてにMessengerで《当時自分がとても理不尽なことをし、嫌な思いをさせた、とても苦しめたことを、お詫びしたくて連絡しました》といった謝罪メールを送り、記事が出る前日の16日夕刻には「note」で「Buzz Feed様からの取材について」と題した文章を公表。ここでもはあちゅうに謝罪する一方で、彼女の指摘には「事実と、事実ではないものが混在している」として、例えば「インターンの女子大学生を誘ってカンヌライオンズに連れて行った」といった指摘は誤りであると指摘するなどの釈明を行っている。
https://note.mu/kishiyuki/n/n363633a5776e
もっとも、これでもやはり事態は炎上騒ぎに発展。Twitterでは従前までの岸のツイートなども挙げながら批判する声が溢れ返り、しばらくはこの件がリアルタイムワードで1位になっていたほどだ。なお、現在では岸のTwitterアカウントも見られない状態になっている。
http://matomame.jp/user/bohetiku/2dbdbb11b07a76f7448f
《予想以上にクズだった岸勇希。僕が取材した女性もCDCについてなぜか恐れてたが、これ読んでよくわかった。要はインターンで岸が気に入った学生を青田刈りしてCDCに配属し、電通黙認のもと好き勝手に利用してたわけ》(日経記者出身で『MyNewsJapan』編集長の渡邉正裕
https://twitter.com/masa_mynews/status/942221391134302209
ただ一方で、はあちゅうがなぜ今このタイミングでパワハラ告発を行ったかを訝しむ声も上がっているようだ。来たる12月20日には彼女の新刊『自分を仕事にする生き方』が発売され、23日夕刻には青山ブックセンター本店で発売記念のトークイベントが開かれることも、彼女自身がツイートで先月下旬に公表している。
https://twitter.com/ha_chu/status/933924607022702592
https://moneytalk.tokyo/moneytalk/9315
とはいえ、時節柄「電通」絡みの、そしてハリウッドのセクハラ告発から始まった「#MeToo」の流れに乗ったものだということで話題はかなりの拡散ぶりを見せている。駒崎弘樹も《はあちゅうを叩く前に。「あなたの近くにも『電通』はある。声を上げよう」》などと、さっそく言及していた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/komazakihiroki/20171218-00079423/
http://www.huffingtonpost.jp/hiroki-komazaki/metoo-speakout_a_23310148/
ちなみに、コミュニケーション・デザインを自身にとって大きなテーマとする岸の活動範囲は広範囲に及んでおり、例えば私(岩本)が追っている「市民メディア」という地味な領域でも、2005年にメディア研究者の松野良一の編著で中央大学出版部から出た『市民メディア活動 現場からの報告』の中でも沖縄県の「嘉手納町こども放送局」の活動に関する岸の論考が掲載されている。こうした過去の仕事にまで遡ってミソがつけられてしまいそうな情勢だ。
http://www2.chuo-u.ac.jp/up/isbn/ISBN4-8057-6157-1.htm
http://www2.chuo-u.ac.jp/up/isbn/6157-1.pdf
三年前のはあちゅうのツイートを踏まえ「不寛容社会」の谷本 真由美が次のようにツイートしている。
はあちゅう女史のこの発言の「童貞」を「処女」に置き換え、男性が言っていたとしたらどうなるか。はあちゅう女史は、女性ではあるが、心はマッチョイズム満載の男性性に支配されている気がする。私の周囲はこんな発言を冗談でもする女性も男性もいないので驚いている」
https://twitter.com/May_Roma/status/942538125531926528
はあちゅうの「童貞いじり」については「俺は絶対にお前を許さないぞ」の声も上がっている。
http://billword.hatenablog.com/entry/2017/12/18/221659
「夜遊びの経済学 世界が注目するナイトタイムエコノミー」の木曽崇のツイート。
はあちゅう氏にセクハラ&パワハラした岸氏は岸氏で糾弾すれば良いし、一方で童貞男性に対する嘲笑を日常的にネタにしていたはあちゅう氏ははあちゅう氏で糾弾すれば良い。なんで二つの事象をややこしく絡めようとするかね」
https://twitter.com/takashikiso/status/942588657759694848

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

放送倫理・番組向上機構BPO)より「重大な放送倫理違反があった」とされた『ニュース女子』だが、制作したDHCテレビジョン(制作時点ではDHCシアター)は今でも東京MXで1月2日に放送された件の番組動画をアップしたまま。今回のBPOによる意見公表に対してもどこ吹く風の様子で、メディアからの取材にも「動画は削除せず、その予定もない」「今年1月に発表した見解の通り」などと答えているようだ。
https://dhctv.jp/movie/100690/
http://www.asahi.com/articles/ASKDG5WS7KDGUTIL049.html
https://www.buzzfeed.com/jp/takumiharimaya/news-joshi-youtube?utm_term=.mcvgdnd8k
BPO見解の効力が及ぶ「放送」とは結局「放送法」に規定された事業者の範囲に限られ、その外側にいる番組制作会社としての「テレビジョン」に対してはなす術がないのだ。

◎米国でウーバーが、電通子会社の「フェッチ」を「広告詐欺」を働いたとして訴える裁判が9月に立ち上がった。ウーバーからの広告キャンペーンを請け負ったフェッチが、インターネット広告に対するクリックをコンピュータープログラムで機械的に作り出し、そこから虚偽の報告を行って報酬を騙し取る「アドフラウド」を行ったのではないか、という疑惑だ。『東洋経済オンライン』がレポートしている。
http://toyokeizai.net/articles/-/201665

◎神楽坂「かもめブックス」経営のほか、最近では「歌舞伎町ブックセンター」のオープンにも携わるなど活躍が目立つ柳下恭平に『ハフポスト日本版』が《「誰でもどこでも本屋になれるようにする」本を愛する男の小さな声》と題して取材。小規模出版流通システム「ことりつぎ」のコンセプトについての説明を中心に、今後の出版流通が目指すべき方向性についての見解を延べている。
《今、出版業界ってジリ貧なんです。本をつくって、それを売って稼いでいくことが本当にむずかしい。ましてや書店の新規参入なんて、相当の覚悟が必要だと思います。仮に月30万円の稼ぎを目指すなら、初期投資は二千万円を下らないでしょう。それだけのお金を用意できるなら、不動産投資か株式投資、あるいは立ち食い蕎麦屋でもやった方がよっぽど手軽に稼げるんです》
《本に関わる仕事がしたい人はまだたくさんいます。ただ、今の状況で新刊の書店をゼロから始めるのはハードルが高い。そのハードルを下げて、たとえば食い詰めた若者でも本屋が始められるくらいがちょうどいいんじゃないかな》
http://www.huffingtonpost.jp/bamp/bookstore-kamomebooks_a_23306806/

◎『ドラゴンボール』の20作目となる劇場版新作映画が来年12月に公開されることが、開催中の「ジャンプフェスタ」で16日に公表された。
http://www.asahi.com/and_M/interest/entertainment/Cfettp11712168315.html

◎5月に休刊した高校野球雑誌『輝け甲子園の星』の復刊支援プロジェクトが、朝日新聞社クラウドファンディングサイト「A-port」で始まっている。目標金額は「100万円」とのことだが、高額支援者向けには復刊記念パーティや編集会議への「ご招待」があるとか。
https://a-port.asahi.com/projects/koshiennohoshi
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1712/08/news084.html
行っているのは2011年に設立された出版社「ミライカナイ」(東京のほか台湾にも拠点あり)で、同誌の版元だった日刊スポーツ新聞社より権利の委譲を受け、来年2月上旬発売の3月号からの復刊を予定。同じく休刊していた『プロ野球ai』もその翌月には復刊させるという。
http://miraikanai.com/news/20171110ai.html

◎都内高田馬場の出版社・ガイドワークスの発行で、2004年より刊行されてきた『フットサルナビ』が15日発売の1月号限りで休刊。
http://futsal-navi.jp/post-4167/
競合誌の『フットサルマガジン ピヴォ!』が2011年に休刊(現在は『デジタルピヴォ!』に移行)して以降は唯一のフットサル情報誌だった。『キャプテン翼』の高橋陽一によるイラストを使うなどして奮闘していたものの力尽きたらしい。フットサル応援サイトには休刊を惜しむ投稿も上がっている。
https://www.pivo.co.jp/news/4941/

岐阜県恵那市図書館が、購入した雑誌や児童書の付録を、貸し出し回数に応じて利用者にプレゼントする取り組みを始めたそうだ。期間限定の「えなとカード」を17日から発行し、年明けの1月から溜まったポイントに併せて交換に応じるという。市の広報紙や館内の案内で告知したところ問い合わせが多数に及んだそうだ。混乱を避けるために交換時には抽選を行ったうえで当選者に選んでもらう仕組みを予定しているとのこと。
http://www.chunichi.co.jp/article/gifu/20171215/CK2017121502000027.html
あるいはこれは少々議論を呼ぶケースになるのではないだろうか。“ツタヤ図書館”あたりでこういう施策が始まったらどうなるんだろう。

◎さる17日は『ウルトラセブン』の第12話「遊星より愛をこめて」が放送されてから50年だったそうだ。同作で「アンヌ隊員」を演じたひし美ゆり子が、長らく封印されて欠番扱いとなり、再放送もメディア収録もされていない同作の「解禁」を祈るメッセージをツイートしたそうだ。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/12/17/ultraseven_a_23309749/
記事中にもある通り、実相寺昭雄が監督した同作は放射能による健康被害に悩んだ宇宙人「スペル星人」が登場。放映時には特に問題にならなかったが、放送から3年後に小学館の『小学二年生』がウルトラセブンを扱った付録で「ひばくせい人」などと表現したことがきっかけで被爆者団体などから「被爆者を怪獣扱いするもの」と抗議が殺到。円谷プロが”封印”した。現在でもウルトラセブンを扱った出版物の全話リストでは第11話の次が第13話に飛び、欄外に「第12話は現在欠番です」などと小さく表記されるのみだ。
脚本を書いた佐々木守大島渚の創造社に属し、大島映画を支えた脚本家。大島渚佐々木守実相寺昭雄に紹介する。
「アンヌ今昔物語: ウルトラセブンよ永遠に・・・」が今年、小学館から刊行されている。