【文徒】2018年(平成30)6月13日(第6巻108号・通巻1282号)

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1)【記事】森田童子が亡くなっていた・・・
2)【本日の一行情報】
3)【深夜の誌人語録】

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1)【記事】森田童子が亡くなっていた・・・

シンガーソングライターの森田童子が4月24日に亡くなっていた。
歌集「風の吹く日にベランダにいる」(河出書房新社)で知られる早坂類は次のようにツイートしている。
森田童子、一部の人たちは晩年の生きている彼女を(勿論)知っていて、私もその中のひとりだけど、亡くなったことは今日、ツイッターで知りました。
時々海外から綺麗なカードが本名で舞い込んで来て、あぁお元気なのだなと思っていた。でもここ暫く音沙汰がなかった。人は死ぬんだな。勿論だけど」
https://twitter.com/Hayasakarui/status/1006227081577955328
「でも若い頃の生身の彼女を私は全く知らないわけなので、目前の彼女が本当に童子なのか、実は影武者ではないのかという疑いは消えない…と言ったら、耳元で歌ってくれた。童子だった。…多分。
猛烈に激しくて秘密主義で、世話好きで可愛い、彼女の伝記を彼女を近くで見てきた人が、そろそろ書くべき」
https://twitter.com/Hayasakarui/status/1006245894348423168
日本音楽著作権協会JASRAC)の会報に森田の訃報が掲載され、マスコミの知るところになったようである。どうせマミコミはTBSドラマ「高校教師」で森田の「ぼくたちの失敗」が主題歌になったということぐらいしか報じないのだけれど。
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/201806120000007.html
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2018/06/12/kiji/20180612s00041000094000c.html
私は森田童子の訃報を接し「球根栽培の唄」を思い出している。この歌の主人公は既に赤ヘルメットとは決別し、モデルガン改造に熱中しているという今から思えば物騒な歌である。周知のように歌のタイトルは当然「球根栽培法」を踏まえている。「球根栽培法」とは1950年代、日本共産党が火炎瓶闘争など武装闘争を具体的に示した秘密出版物である。
「孤立無援の唄」においては「君」は「僕」の自転車の後ろで高橋和巳の「孤立無援の思想」を読んでいるし、「僕」の机の上に高橋和巳の書物が積まれているのである。
いつの間にか私は森田の歌を聞いていた。そして久しぶりに自問している。果たして私は私でありつづけているのかと。
あれは10代の頃であったが、私は森田の歌を聞きながら次のように詠ったことがある。
「放課後に吉本隆明詩集読む杏タルトもひとつの転位」
岩波書店河出書房新社も高橋の「孤立無援の思想」を品切れにしているのか!これがわが国の「商業出版」の現実でもある。
https://www.iwanami.co.jp/book/b269996.html
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309001135/
森田は歌の内容からして阿佐ヶ谷に住んでいたんだよね。おっと「森田童子研究所」なるウェブサイトがあるんだな。
http://www.gogorocket.jp/doji/h/m-goroku.html
1980年11月20日〜24日に、池袋・三越裏空地の500人収容の黒色テントで行ったコンサート「夜行」のドキュメンタリーが「YouTube」で見られる。
https://www.youtube.com/watch?v=tyS0CkPMPxo&list=PL6iAlbc2wCPhC_h3AGOjv4oYvB9iEnfoQ
https://www.youtube.com/watch?v=bTyra-hhNlc&index=2&list=PL6iAlbc2wCPhC_h3AGOjv4oYvB9iEnfoQ
https://www.youtube.com/watch?v=nAjfMfrCkLs&index=3&list=PL6iAlbc2wCPhC_h3AGOjv4oYvB9iEnfoQ
小説家の盛田隆二がこんなツイートをしている。
「1976年、ぼくは22歳。交際していた女性が森田童子のファンだったので、狭いアパートの一室でふたりでよく彼女の歌を口ずさんだものだ。
その女性に今、訃報を知らせた。えっほんとに? と彼女は息を呑み、それからリビングのテーブルで頭を垂れ、ずっと赤ワインを飲んでいる」
https://twitter.com/product1954/status/1006207478420234241
「一九六〇年代後半の学園闘争のころのセンチメントを、彼女ほど純良にうたった者はいない」
これ誰の文章だかわかりますか? 驚くなかれ、渡辺京二である。渡辺の「日本詩歌思出草」(平凡社)からの引用だ。渡辺は、こうまで書いている。
「私は六〇歳をすぎたころ、つまり童子が歌い終わって一〇年ばかりして彼女の歌を知って、病みつきになった 。CD も八枚持っている。もう久しく聴かないが、死ぬ前にもう一度聴くつもりだ。」
http://www.heibonsha.co.jp/book/b281734.html
今夜はチャーリー・パーカーでも聞くことにしよう。蛇足ながらチャーリー・パーカーの伝記映画「バード」を撮ったのはクリント・イーストウッドである。

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2)【本日の一行情報】

◎全日本動物専門教育協会は、小学館集英社プロダクションと提携し、2007年4月に開庁した国内初の官民協働のPFI刑務所「美祢社会復帰促進センター」において、家庭犬訓練士初級ライセンス取得対策講座を6月12日より開始する。刑務所において、ペット系の職業訓練は日本初となる。
http://www.dreamnews.jp/press/0000175383/

◎新書大賞2017を受賞した「言ってはいけない」の橘玲朝日新聞出版から「朝日ぎらい よりよい世界のためのリベラル進化論」を朝日新書として刊行した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000454.000004702.html

◎「少年ジャンプ+」で連載されている「シンマイ新田イズム」と「剥き出しの白鳥」の二作品が6月11日発売の「週刊少年ジャンプ」28号に出張掲載された。集英社としてはデジタルから紙へという流れを生み出したいのだろう。
https://natalie.mu/comic/news/286159

◎日販が発表した5月の雑誌・書籍・コミック売上動向によると、雑誌は前年同月比4.6%減、書籍は同6.4%減、コミックは同6.8%減、開発品は同25.7%増。雑誌・書籍・コミック合計売上は同5.4%減。
https://www.ryutsuu.biz/sales/k061116.html

スタジオジブリ鈴木敏文が「文春オンライン」に登場。「とにかく過去をふりかえらない。すべて忘れる」としたうえで、「常に、『いま、ここで何をすべきか』を考える。これがうまくいく秘訣だと本能的に感じているのでしょう」と語っている。
http://bunshun.jp/articles/-/7506

◎6月11日付の日経「Xboxに『ジャンプ』キャラ勢ぞろい、バンダイナムコのゲーム」は次のように書いている。
「米マイクロソフトは10日開いた家庭用ゲーム機「Xbox」の発表会で、バンダイナムコエンターテインメントが『週刊少年ジャンプ』のキャラクターたちが登場するゲームを開発していると明らかにした。『ワンピース』の主人公ルフィや『ドラゴンボール』の孫悟空がニューヨークを舞台に対決するゲームで、2019年にXbox向けに発売する」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO3159189011062018000000/
「JUMP FORCE」という。「週刊少年ジャンプ」の創刊50周年を記念してのリリースとなるが、全世界で展開するため現時点で13言語に対応し、今後も対応言語の追加を予定しているほか、登場作品・キャラクターについても順次発表していくそうだ。
https://bne-official-asset-prd.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/pdfs/FIX%E7%89%88HP%E7%94%A8_20180611.pdf
マンガを擁する出版社にとってゲーム市場はフロンティアとなるだろう。

毎日新聞は「元毎日新聞大阪本社制作技術局長でフリーライター、藤原規洋被告」(産経)とは書かず、「元毎日新聞幹部社員でフリーライターの藤原規洋被告」と書いている。新聞は書かなくて良いことまでも書くのに自分のところの話になると「幹部社員」とお茶を濁す書き方を平気でするようだ。
https://www.sankei.com/west/news/180611/wst1806110024-n1.html
https://mainichi.jp/articles/20180611/k00/00e/040/138000c

◎LINEは「トーク占い」で培ったノウハウを活かし、LINEで女子の悩みを恋愛・美容・ダイエットなど様々な分野の専門家に相談できる「トークCARE」をスタートさせた。専門家が約200名在籍し、チャットとLINE電話の2つの方法で、24時間いつでも好きな時間に相談できる。
https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2018/2217
デジタルサービスはこれまで出版が担ってきた「実用」の領域にどんどん乗り込んで来るのだろう。

◎アマゾンは、国内2 拠点目となる「Amazon Robotics」を導入した新たな物流拠点「アマゾン茨木FC(フルフィルメントセンター)」を開業した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000824.000004612.html

楽天は意思決定の迅速化を目指し、5つのカンパニー体制に再編強化することになった。
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2018/0611_03.html

渡辺京二の「原発とジャングル」(晶文社)の冒頭に収められた本のタイトルと同じ文章は吉本隆明の「原発肯定論」を踏まえながら、これを批判すべく書かれている。渡辺によれば、吉本もマルクス同様に「物質文明=科学技術の進展は不可避な自然過程」と考えているが、こうした考え方に対して渡辺は「自然過程という『物神』を素直に承認したくない」と批判する。しかも、渡辺は「これが最後の一句だ」とまで書いている。そんな渡辺の頭の中には恐らく「あまりに隅々まで行き渡った国家の強大な影から脱出したい根深い願望」(「原初的正義と国家」)があり、この願望がそう書かせているのではあるまいか。しかし、だとすれば、吉本と渡辺の距離は、そう遠いものではないはずである。
何故なら渡辺がカルロ・レーヴィを論じながら書き記すことになった「あまりに隅々まで行き渡った国家の強大な影から脱出したい根深い願望」は間違いなく吉本隆明の「アフリカ的段階について―史観の拡張」に逢着するはずであるからである。吉本は同書で「物質文明=科学技術の進展は不可避な自然過程」だと捉えるだけでは駄目だと主張しているように私には思えてならないのだ。
ちなみに渡辺は本書に収められた「橋川文三さんの思い出」で「省みて、私がものを書けるようになったのは、中野重治橋川文三吉本隆明の三人の先達のお蔭なのだ」と書いていることも報告しておこう。
ところで、あとがきにおいて渡辺に次のように書かれる編集者は、編集者冥利に尽きよう。
「編集担当の足立恵美さんは何と、私の引用文を全部原典に当って下さった。おどろくべき労力である。たとえばプラトン『国家論』から私の引用箇所を探すなら、二冊の岩波文庫の最初のページからずっと目を通さねばならない。参った、参った。今後はこの人には足を向けて寝られない」
https://www.shobunsha.co.jp/?p=4730

是枝裕和の小説版「万引き家族」(宝島社)が3刷り10万部を突破した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000692.000005069.html

◎CCCメディアハウスからインテリアムック「フィガロジャポン デコ」が発売された。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000173.000011369.html

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3)【深夜の誌人語録】

たとえ考えることが罪だとしても、考えない限り問題は解決されないのである。