【文徒】2018年(平成30)7月10日(第6巻127号・通巻1301号)

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1)【記事】アスペクト「未払い問題」訴訟で「影のオーナー」西和彦も出廷?
2)【本日の一行情報】

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1)【記事】アスペクト「未払い問題」訴訟で「影のオーナー」西和彦も出廷?(岩本太郎)

以前から何度か報じているアスペクトの原稿料・印税未払い問題だが、月末を挟んだ先々週あたりから再びライター・著者からのウェブ告発が続けざまに上がって話題となっている。
まず先月29日にはジオラマ職人「情景師アラーキー」こと荒木さとしが、3年前に初の自著としてアスペクトから出した単行本『凄い!ジオラマ 超リアルなミニチュア情景の世界』の印税払いをめぐって同社との間で行われてきた交渉に「ようやく終止符が打たれた」としつつ、本を出すきっかけから今日までの事態の推移を報告している。自身のTwitter投稿に目を付けたフリーの編集者からオファーがあり、そこからとんとん拍子でアスペクトでの出版にこぎつけ、しかも売れ行き上々により次々に重版が決定。その勢いで自身もそれまでの勤め先を辞めてフリーとして独立……したものの、重版以降は肝心の印税がほとんど途絶えてしまったというのだ。
https://twitter.com/arakichi1969/status/1012820760228868096
《結局、支払いは一向に行なわれませんでした。電話で経理担当の方と話を聞くと、とても落ち込んだ声で、現在のアスペクトの経営状態が良くなく、売り上げはつぎの本の出版の為の印刷費や紙代に消える為に支払いが出来ないとの説明を泣きながらされました。(略)この時点で、アスペクトの印税未払いの解決策として、アスペクトのオーナー(具体的には誰とはこの時点では明かされていない)が自社ビルを売却するので7月には分割ではなくまとめて支払いが出来るとの説明でした》(2016年3月)
《ようやく到達したアスペクトの社長との電話交渉では・・・的を射ない言い訳ばかり。
聞くと実権を握っているのは「オーナー」であり、その方の指示がないと資金の話はまったく目処が立たないことを知り、ようやく本当の「未払いになった根源」を知る事になったのでした》
《以前からアスペクトの社長にオーナーは誰なのか?を説いておりましたがなかなか話してくれず、「調べれば解る」を繰り返しておりました。
まさに、ラスボスとしてはそれに相応しい大物でした》
http://arakichi.blog.fc2.com/blog-entry-245.html
そこで荒木はアスペクト側と交わした「債務確認書」を公開しているのだが、末尾には「株式会社アスペクト」さらにその下には線で消されているが「代表取締役 西和彦」の署名が記載されている。結局、上記の「ビル売却で得た資金で未払金を支払う」旨の約束は、ビル売却自体は執行されたものの資金が「謎の不動産投資」へと回される形で反故にされたそうだ。なおも荒木が一連の経緯を「週刊誌や新聞にバラす」と伝えながら粘り強く交渉を重ねた結果、6月29日までにようやく未払金の全額回収に成功したそうだ。
西和彦」が今もアスペクトの実質オーナーであることは私(岩本)も漏れ伝え聞いていたが、ここでやっとその名前が表に出た格好だ。それにしても上記にあったアスペクトのビル売却をしてまでの資金繰りは直も厳しいようだ。ちなみに同社公式サイトの「会社概要」に記載された「資本金」の数字は「1億円(予定)」となっている。
http://www.aspect.jp/company/
これに触発されたのか、過去にアスペクトから本を出していた他の著者たちからもTwitter上で次々に「未払い告発」が上がるようになった。ライターの北條一浩は7月1日付で以下のツイート。
とみさわ昭仁さんが『無限の本棚』についてアスペクトから1円も支払いを受けていない、とブログで書かれていて、皆さん読まれたと思います。私も2015年にアスペクト文庫で『わたしのブックストア』という本を出し、1円ももらってません。いくつかトライしましたがラチがあかず、あきらめてます》
https://twitter.com/akaifusen/status/1013405772800143360
小説家の深町秋生も同日に怒りのツイート。
《払うもんを払わない出版社なんぞ、物書きにとって敵でしかない。とみさわさんの「無限の本棚」の印税も未払いだったアスペクト。目障りだから早く潰れてほしい。これまで何人のライターを食いつぶしてきたのだろう》
https://twitter.com/ash0966/status/1013095773100126208
アスペクトとはブックライター(編集者兼ゴーストライター)という形で、何冊も仕事をしてきたという松井克明も同3日付の『Business Journal』で「驚かなかった」として同社で自身が遭った印税未払い体験を綴っている。ちなみに松井は元『噂の眞相』編集者(それ以前に『創』にも在籍)。2004年の同誌休刊後はフリーランスのライター兼編集者として活躍している。
《もともとアスペクトは、学生時代にお世話になったこともある水道橋博士の本も出している出版社であることから、喜びもひとしおだった。前出の『アメリカの高校生が読んでいる経済の教科書』は、山岡道男早稲田大学教授らのアメリカでの経済教育を紹介する内容で、当時のリーマンショック直後の経済不安もあってベストセラーになり、その後、文庫化もされている(略)しかし、ある時点で担当編集者から説明があり、印税の一部が未払いになっていると明かされた》
アスペクト神田小川町から上野に移籍をした(2015年6月)頃から事態は深刻になる。担当編集者からも悲鳴のような声しか聞こえてこなくなったのだ。「社内でどんどん人が辞めていく。給料の未払いが続いている。信販会社からの借金で首が回らなくなりつつある」といった内容だ。(略)担当編集者からは「実は、ここだけの話だが、アスペクトのオーナーは西和彦氏で、同氏は不動産を所有しているので、いざとなれば、すべての社の債務は整理できる」と説明があった。
西和彦氏といえば、起業家であり、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツの友人でもあることから、筆者もその部分は安心していた。そして毎年のように、未払いの債権額だけは確認するという行為を繰り返すことになる》
http://biz-journal.jp/2018/07/post_23927.html
さらに松井は「note」でも「総額100万円超 アスペクトギャラ未払い事件のケーススタディ」と題した手記を公表した。「その1」とあるので、以後もさらに続くようだ。
https://note.mu/mkatsu84/n/n43117df4c120
既にアスペクトの元社員と経営者との間では賃金未払いなどをめぐる裁判が進んでおり、去る5日に東京地裁で行われた弁論(松井は都合により出席できなかったそうだ)では、アスペクト側からは現代表と思われる高比良公成と上で名前が挙がった西和彦も出廷すると予告されていた。
https://twitter.com/ykaise/status/1014295519542181893

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎6日朝の"大量処刑"以降久々に報道がヒートアップしているオウム問題。松本智津夫麻原彰晃)三女とも付き合いのある元NHK堀潤は、執行が公表された直後から「死刑囚の家族」の反応をこんなふうにツイートしていた。
《死刑執行。家族はその事実を報道で知るより術がなかった。次は誰か?と、生中継で死刑執行が報じられている。あなたはここに違和感を感じるか否か。執行の一報を受け死刑囚の家族に連絡をした。かける言葉が見つからない中、「できることをやっていきます」と気丈だ。これでいいのか。問いを続けたい。》
https://twitter.com/8bit_HORIJUN/status/1015048094264655872
在京テレビ各局は6日朝から予定を変更して緊急特番などを放送。テレビ東京だけは通常放送だったようだが。
https://www.sankei.com/entertainments/news/180706/ent1807060015-n1.html
ネット上ではテレビの報道姿勢に対する批判が相次いだが「過去にお前らは何をやっていたんだ」とばかりに、90年代初頭のビートたけしとんねるずなどのバラエティ番組に麻原彰晃が流行りのタレントよろしく出演していた「黒歴史」を指摘していた。
https://togetter.com/li/1244232
BuzzFeed NEWS』も「オウム真理教麻原彰晃ビートたけしとんねるずに語ったこと」と、マスメディアとオウムとの過去の「共犯関係」を指摘。
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/shoko-tv?utm_term=.fj7DV4Dq3
それを引用しつつ、江川紹子も《これだけではない。坂本弁護士一家殺害事件の後も、メディアがこんな風にオウムや麻原を取り上げていた過去は、忘れずにいて、教訓として欲しい》とツイート。
https://twitter.com/amneris84/status/1016168723109986304
もちろん出版界もこれと無縁ではない。『反権力ニュースサイト TABLO』は6日付「女性の下着を透視するなど楽しいヨガ・サークルだったオウム真理教が『殺戮集団』へと変化した決定的瞬間」と題した記事の中で、教団初期の80年代半ばより『週刊プレイボーイ』『トワイライトゾーン』『ムー』などの雑誌がオウムを取り上げていた歴史と、当時の誌面も引用しつつ紹介している。
http://tablo.jp/case/news003520.html
既に9年前のエントリになるが、元『SPA!』編集長のツルシカズヒコも同誌が89年に麻原彰晃中沢新一の対談を掲載した際の模様を「麻原彰晃の嘘」と題して書いていた。
http://www.kureyan.com/column-pochi/2733.html
麻原彰晃荒俣宏が登場した『03』1991年6月号は新潮社の公式サイト上でもその存在が確認できないが、古書店のほか蔵書する個人がツイートで表紙を載せている。
https://www.suruga-ya.jp/kaitori_detail/ZKIN9779
https://www.yomitaya.co.jp/?p=52984
https://twitter.com/tshmz/status/578707805516918785

◎西日本中心に襲った大雨のため配達が不能もしくは大幅に遅延した中国新聞は紙面を電子版で無料公開した。
http://www.chugoku-np.co.jp/news_flash/article/article.php?comment_id=446006&c
omment_sub_id=0&category_id=222
http://www.chugoku-np.co.jp/paper/

信濃毎日新聞は「創刊145周年サイト」を立ち上げた。
http://www.shinmai.co.jp/feature/145anniversary/

読売新聞グループ本社は、宮崎県全域と鹿児島県の大半の地域に配達する読売新聞朝刊の約5万部を来年夏から宮崎日日新聞に委託することを発表。同グループ本社の山口寿一社長は4日の記者会見でこの件に関連し、読売新聞による宮崎日日への資本参加については「考えていない」と否定した。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32607470U8A700C1TJ2000/

◎7日夜に千葉県沖を震源として発生した最大震度5弱地震の後、地震情報を伝えるNHK千葉放送局からのレポートにTシャツ姿のままのディレクターが出演したとしてウェブ上で話題になった。休日夜だったためかアナウンサーの手配が難航したらしい。
https://twitter.com/usako73678703/status/1015562635423592448
五十嵐鐵嗣雅というディレクターの氏名の読み方をめぐってもまとめスレッドが立つほどの祭りとなった。
https://matomedane.jp/page/10883

◎『ダ・ヴィンチニュース』でジャーナリスト・コンテンツプロデューサーのまつもとあつしが、相次ぐ紙のコミック誌の休刊に関して「雑誌休刊は悲しむべきじゃない?――本格化する電子版への移行」を寄稿。《ここのところの「休刊」はその意味合いが変わってきている》との見方の下、次のように論考している。
《マンガアプリランキングでも、IT系企業が目立つ中に、小学館が展開する「マンガワン」、集英社の「少年ジャンプ+」など出版社が展開する雑誌連動型アプリが安定した地位を築いている。逆に、オリジナルマンガの無料購読を武器にダウンロード数、ユーザー数を伸ばしてきたIT系企業が展開してきた新興マンガアプリは、出版社のような編集機能を十分には備えていないこともあり、断続的に人気を維持したり、メディアミックス展開で読者を増やしたりといった取り組みに苦慮しているという話も聞こえてくる。
つまり、ウェブ・ソーシャルメディアの活用の勘所を学んだ出版社が、紙から電子への移行を積極的に進め、ヒトやカネといったリソースのデジタルへの集約が本格化しつつある、というのが現状ではないだろうか》
https://ddnavi.com/review/470863/

◎『日経ビジネス』は4日付で「オープンジャーナリズム宣言」を行うと共に、オピニオン・プラットフォーム「日経ビジネスRaise(レイズ)」を新たに立ち上げたことを発表。会員登録したユーザーが意見を書き込んだりアンケートに回答したりしながら議論に参加できるほか、「オープン編集会議」と称してユーザーの意見も取り入れつつ、記者の取材に同行してもらう機会も今後は提供していくという。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/070300278/?n_cid=nbpnbo_twbn
https://raise.nikkeibp.co.jp/media/new

◎ジャーナリストの三宅勝久が『MyNewsJapan』で8年前から継続的にレポートしてきた記事をまとめた『大東建託の内幕―“アパート経営商法”の闇を追う』を6月下旬に同時代社から上梓。発売直前の5月末には出版を知った大東建託側から「名誉棄損にあたる」「民事刑事の法的措置をとる」といった趣旨の配達証明郵便が版元に届いたそうだ。
http://www.doujidaisya.co.jp/book/b369786.html
http://www.mynewsjapan.com/reports/2402
三宅は1965年岡山県出身。フリーカメラマンとして海外を長く取材した後、故郷の岡山で山陽新聞の記者となったが、2001年1月に香川県高松市で開催された成人式の取材中、暴れた新成人たちから暴行を受けてPTSDとなったことをきっかけに退職してフリーライターに。以来、武富士問題などのサラ金闇金問題や自衛隊員の自殺問題などを精力的にルポ。今も阿佐ヶ谷駅前の月4万円のアパートで寝袋で夜を明かしながら活躍する硬派ジャーナリストだ。
http://www.doujidaisya.co.jp/author/a51720.html

◎コンビニ業界ジャーナリストの日比谷新太が『MAG2NEWS』で「ジリ貧のローソンが始めた『コンビニの書店化』がパッとしないワケ」をレポート。業界で「一人負け」状態のローソンの「書店化」は、戦略としては間違っていないものの《そもそものリアル書店の勝ちパターンである「幅広い品ぞろえが必要」という点に関しては、どうやら抜け落ちているようです》などと分析している。
https://www.mag2.com/p/news/364457