【文徒】2019年(令和元)11月29日(第7巻217号・通巻1637号)


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1)【記事】厚労省「人生会議」ポスターをめぐる議論
2)【本日の一行情報】
----------------------------------------2019.11.29 Shuppanjin

1)【記事】厚労省「人生会議」ポスターをめぐる議論(岩本太郎

厚労省が、人生の最終段階における医療やケアについて本人や家族らが話し合う「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」に「人生会議」との愛称を選定。その啓発ポスターを25日に公表するや「患者や家族への配慮がない」「誤解を招く」などの批判を浴び、予定されていた各自治体あてのPRポスター配布が見合わせになった。
26日付『BuzzFeedNews』は、がん患者の仲間や家族へ相談支援を行う卵巣がん体験者の会「スマイリー」厚労省あてに抗議書を送ったことなどを報じた。
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/jinseikaigi-poster
担当記者の岩永直子はTwitterで記事の趣旨を次のように述べている。
《そもそも、このポスターの内容だと、何を誰と何のために語り合っておくのか、「人生会議」が目指すもののイメージがわかないんですよね。誰かを傷つける可能性以前に、啓発ポスターの機能を果たしていないのが根本的な問題だと思います》
https://twitter.com/nonbeepanda/status/1199237212069433345
ただ、ウェブ上の批判はさらに、ポスターを作成したのが吉本興業であること、さらにキャラクターとしてお笑いタレントの小籔千豊を起用して軽妙なメッセージを添えたという図案に集中している。1年前に愛称「人生会議」を決めた選定委員会には放送作家の小山薫堂やサントリーホールディングス社長の新浪剛史など、この分野以外のメディアや一般企業の人材も参加しているが、批判の材料にそこを持ちだす向きも目立った。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02615.html
例えば日本フードスペシャリスト協会理事などを務めるコンサルタントの伊藤淳子は次のように呟いた。
《「人生会議」という言葉を提案した看護師の女性は、このポスターに納得しているのでしょうか。看護師として死に直面した人が悔いる場面ばかり見ているのでしょうか。標語の選定者はほぼ男性。吉本も広告代理店も厚労省もデリカシーがない。まさか小山薫堂んがコピー書いたのではないですよね?》
https://twitter.com/junco/status/1199554921890115584
ただ、小籔千豊も1年前に選定委員を務めており、背景には小籔自身かつて悪性リンパ腫で亡くなった母を看取った経験の持ち主ということもあった。制作者やキャラクターがお笑いの世界の者だからとすぐさま批判につなげるのもフェアではない。
このポスターの表現自体は議論されて然るべしだが、それ以前に「批判を受けた途端にお蔵入り」というパターンが、このケースでもまた繰り返されたことへの批判もある。『AbemaTV』では慶応大学特任准教授の若新雄純が《堂々と賛否をぶつけ合えばよかったのに、なかったこと(発送中止)にするのは残念》厚労省の対応に苦言。
https://times.abema.tv/posts/7030455
Twitter上でもポスターに理解を示す声は少なくない。家族よりも、患者として病床に伏した経験の持ち主、あるいは医療現場従事者と思しき者からの声も、そこでは目立つ。
《がんサバイバーだけど、こういうのほんまに大事やと思う。これ見て傷つかないし、配慮がないと思わない。批判してるのは当事者以外の人かなと思う》(一級建築士
https://twitter.com/archi02edward/status/1199663175802572800
《正直、これの何が問題なのかよくわからん。がん死より事故や予想外の死が前提かなと思ったし、救急外来でよく遭遇する場面だし》(産婦人科医)
https://twitter.com/tabitora1013/status/1199467961574051840
《医療者や癌患者団体からかなりの批判が噴出しています。しかし、届けたかった無関心層は好意的でした。まさに医療従事者がたこつぼに陥ってる様子を示しているなと》(研修医)
https://twitter.com/lackooon/status/1199352803665174529
日本医療コーディネーター協会共同代表理事で「終活ジャーナリスト」を自称する金子稚子はポスターが結果的に多くのメディアで取り上げられたのは「無関心よりはいい」として賛否両面からの持論をブログで展開。「『人生会議』は、死に方の話し合いではない」との表題だ。
《ポスターを見た時、コピー、ビジュアルの表現からして、これは「人生会議」という言葉を知らず、もしもの時を考えたこともないような、そんな人に向けてのものだということが伝わってきました
《私が想像するに、心電図の波形や患者衣、酸素吸入器といった、当事者にとっては苦しさや辛さと直結するあまりにもリアルなものが、まず目に飛び込んできたからなのではないかな、と。(略)もしも、何も知らない人に向けての啓発ポスターならば、もっとその人たち向けに“振り切った”表現でもよかったかもしれません》
https://twitter.com/WakakoKaneko/status/1199665560998428674
https://kanekowakako.hatenablog.com/entry/2019/11/27/210038
医療人類学の研究者としてのフィールドワークの一方、現代アートや映画批評の分野で活動する井上リサ(著書に『アート×セラピー潮流』、共著に『<社会派シネマ>の戦い方』など)は、今回の件を受けてこんな「予言」を呟いた。
《全ての人間が生まれ持つ「生老病死」のなかで「死」だけを不自然に遠ざけてきた社会がこの様な感情を産む。同時に、極端なアンチエイジング志向もやがて「老」すら遠ざけ嫌悪するようになるだろう》
https://twitter.com/JPN_LISA/status/1199533092882354176
昨27日にはBBCが、ある男性の最期を前に撮影された笑顔の家族写真に対し《感動と共感がSNSで広がっている》との米国での例を報じた。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-50569788
同じ27日に日本では、厚労省主催のHIV予防啓発を呼びかけるイベントに出演予定だったAV監督の村西とおるが《一般から「不適切だ!」という意見が複数寄せられた》ことから降板になったとの報道もあった。
https://www.bengo4.com/c_23/n_10447/
こうした別の事例も考え合わせるに、「病」や「死」に絡む広告表現を日本のメディアや広告において議論するには、この先もまだまだ困難が待ち受けていそうだ。

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

リクルートの無料求人誌『TOWN WORK』最新号(25日発行の新宿・高田馬場・四谷周辺版)にパソナが「東京2020で働く」と題して「競技会場運営」「選手村運営」など8項目の募集(時給1600円以上。ユニフォーム一式支給)を行っていることについて、元博報堂の本間龍が《これを知ったボランティア応募者から「同じ仕事を自分たちは何時間やってもタダなのに、なぜ?」という怒りの声も出ているというが、組織委はどう説明するのか》と指摘。
https://twitter.com/desler/status/1199275504886407169
確かに東京五輪公式サイトに掲載された大会ボランティアの「活動分野・内容」とは業務がダブりそうにも見える。パソナ募集のスタッフと現場でどのように役割分担されるのだろうか。
https://tokyo2020.org/jp/special/volunteer/activity/

◎北海道の千歳・恵庭両市をカバーエリアとする地域紙『千歳民報』が25日付紙面に掲載の社告で来年1月31日付を最後に休刊することを発表。
1963年創刊の地域紙で公称発行部数は約1万部。道南の苫小牧民報社の千歳本社が発行してきたが、部数の減少などを理由に事実上の廃刊に追い込まれた模様。休刊に伴い恵庭支局は閉鎖されるが、千歳本社は人員縮小のうえ千歳支局となり、社員の雇用は同社や関連会社で継続されるという。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/368286
https://www.nikkansports.com/general/news/201911260000290.html

◎『VentureTimes』が26日、なぜクラウドファンディングでのアニメ制作が増えているかを報じている。低賃金・長時間労働が常態化している制作現場を、クラウドファンディングによる資金調達により改善するという。
https://venturetimes.jp/venture-news/column/49224.html
だがしかし、そうした実態はアニメの制作会社側が裁量労働制を労基法における抜け道として活用しつつ、現場の制作者たちに低賃金・長時間労働を強いていることも原因ではないかと、労働問題に取り組むNPOの「POSSE」代表・今野晴貴が同日付『Yahoo!ニュース』で指摘していた。実際にブラック企業ユニオン」が支援したアニメ制作会社への未払残業代訴訟の事例も紹介しているが、こうした裁判に掛かる費用も同ユニオンがクラウドファンディングで賄っているそうだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20191126-00152377/

◎「廃刊・休刊していたと知って驚いた雑誌ランキング」を26日付で『gooランキング』が掲載。1位が『月刊少年ジャンプ』、2位が『別冊花とゆめ』、3位が『ぴあ』、4位が『コミックボンボン』といった具合に59位まで紹介されている。
https://ranking.goo.ne.jp/column/6227/

講談社の『コミックDAYS』で連載中の『娘の友達』(萩原あさ美)をめぐってウェブ上で騒ぎに。アラフォー男性と未成年の女子高生の関係を描いた作品だが、『モーニング』の公式Twitterアカウントが同作品について15日に広告動画付きで投稿した告知が発端だったらしい。
https://twitter.com/morningmanga/status/1195223667275231233
やがて『BLOGOS』が《「性的搾取を助長する」との声も》《「犯罪を扇動」連載中止を求める声 一方で反論も》などとウェブ上の議論を紹介。
https://blogos.com/article/418626/
もっとも、ライターの昼間たかし講談社に直接取材したところ「電話でもメールでも作品に対する抗議はひとつも来ていません」との回答が「編集部・談」で返って来たそうだ。
https://otapol.com/2019/11/post-86250.html

◎『実話ナックルズ』 (大洋図書)と『la farfa』 (友舎)の2誌を対象にSNS上での無料配信が期間限定で行われる。
上記2社とソフトバンク傘下でiPadへのコンテンツ配信を行うビューン(東京・東新橋)の連携で、両誌の内容をビューンのSNSアカウント(TwitterFacebook)で順次配信。会員登録やアプリのダウンロードの必要もなく、画面に掲載された雑誌の表紙をタップするだけで閲覧できる仕組みだ。閲覧期間は『実話ナックルズ』(12月号)が11月25日から来年1月7日まで。『la farfa』1月号が12月4日から来年1月10日までの予定。ビューンによれば今後は雑誌だけでなく、マンガの無料配信も実施する予定という。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000010966.html

◎今年で創刊20周年を迎えた宝島社『sweet』編集長の渡辺佳代子がKADOKAWA『ウォーカープラス』のインタビューに登場。
創刊から8か月後の1999年11月より20年に渡り編集長を務めている渡辺は、当初《前任者のやり方は引き継がず、手探りで雑誌の方向性を決めていった》。創刊号ではモード誌としてスタートした『sweet』が“大人カワイイ”路線へ次第に変化していった軌跡を回顧。特に「やっぱり、売上増加のターニングポイントになったのが付録」と、今では「付録化を作った雑誌」とみなされるまでに至った経緯も語っている。
https://www.walkerplus.com/article/208532/

集英社「キャラクタービジネス室」と、ミクシィ傘下でゲーム・映像事業を手掛ける「XFLAG」による期間限定の無料マンガサイト『スポバトマンガ研究所』が26日にオープン。「マンガの未来を研究する“スポーツ”と“バトル”の」サイトで、スタート時点で15タイトルの連載作品と読み切り3本を公開。以後、毎週火・金に連載作品が更新される予定。
公式YouTubeチャンネルでは、連載8作品のショートアニメPVも順次公開され、Twitterを使用した公開記念キャンペーン(3000円分の図書カードが当たる)も28日から12月23日まで行われる。
https://twitter.com/spobatlabo
https://cbiz.shueisha.co.jp/spobatlabo/
「note」にもページが開設され、集英社キャラクタービジネス室室長の薄井勝太郎(スポバトマンガ研究所初代所長)とミクシィの北村有吾がオープンまでの経緯を語っている。
https://note.com/spobatlabo/n/ne7f598f6ca19
薄井は『コミックナタリー』の記事でも《マンガの連載はもちろんのこと、従来の出版業界ではあまり考えられない、思い切ったプロモーションや調査をしていく予定です》と抱負を語っていた。
https://natalie.mu/comic/news/357006

◎新潮社は《ついに電子書籍で「宮部みゆきの小説」が読める!》との触れ込みで、 紙媒体では出さない「電子書籍限定版」の『宮部みゆき よりすぐり短篇集』を12月6日より配信する
https://www.shinchosha.co.jp/news/article/2208/

◎「表現の不自由展・その後」実行委員会メンバー・岡本有佳とアライ=ヒロユキが編者を務めた『あいちトリエンナーレ展示中止」事件 表現の不自由と日本』が昨27日に岩波書店から発売された。中止事件の経過、各種の声明、参加作家たちによるメッセージなど。アライと武田砂鉄・常見陽平による座談会、前川喜平ほか著名人による寄稿なども収録されている。
https://www.iwanami.co.jp/book/b482347.html
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784000613781
その「表現の不自由展・その後」実行委員会が、韓国の「キム・ボクチン賞」の今年の受賞者に選ばれた。
http://japan.hani.co.kr/arti/culture/35077.html

◎「表現の不自由展・その後」中止で注目を浴びた芸術家の大浦信行(主展作「遠近を抱えて」などが「昭和天皇の写真を燃やす作品」として批判された)が17日、瀬戸内海の百島(広島県尾道市)で開催されたトークイベント(「ひろしまトリエンナーレ」のプレイベント)にゲストで出演。『春オンライン』が当地まで取材に赴いている。
会場には『WiLL』『Hanada』の常連執筆者のほか津田大介も観客として質問に立った。右翼団体街宣車もやってきたそうだが、尾道市街からも遠い小さな島での開催ということもあってか、特に大きなトラブルなどもなく終わったらしい。
https://bunshun.jp/articles/-/15697

沖縄県那覇市首里の料理店「CONTE」より、沖縄の暮らしや伝統をテーマに雑誌『CONTE MAGAZINE』が創刊される。
編集長・川口美保は6年前まで東京で『SWITCH』の副編集長を務めていた。退職後に旅行で訪ねた沖縄で、料理店を経営していた男性に一目ぼれして結婚。やがて首里に2人で店をオープンし、クラウドファウンディングで資金を集めて創刊にこぎつけたという。全国流通には乗せない手売りベースの自費出版だが、『SWITCH』時代からの縁も活かしつつ、笑福亭鶴瓶角田光代などが創刊号から登場している。12月8日にはジュンク堂書店那覇店で記念イベントも開催されるそうだ。
http://conte.okinawa/
https://www.hinagata-mag.com/comehere/36073

◎ベインやレノ(村上正彰の傘下とされる)も絡んだTOBの件(結局不成立)に揺れた印刷会社・廣済堂から先頃、子会社の廣済堂出版の全株式や債権を譲り受けた「日本国内在住の個人」とは西和彦だったと、26日付で『BusinessJournal』が報道。《9月30日付で廣済堂出版のオーナーに》に就任したことなどを伝えている。
社員や元社員、執筆者への不払い問題にゆれたアスペクト(かつてアスキーから独立)の実権はなおも有しているようだ。この11月にもアスペクトに残っていた数少ない編集者が退職した。
https://biz-journal.jp/2019/11/post_129693.html