【文徒】2019年(令和元)11月28日(第7巻216号・通巻1636号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】藝賞受賞の「かか」と「改良」が単行本化された
2)【記事】オークファン、大広も大澤昇平から手を引きスイスのstreamr社は提携打ち切り
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.11.28 Shuppanjin

1)【記事】藝賞受賞の「かか」と「改良」が単行本化された

杉江松恋の新鋭作家さんいらっしゃい!」は藝賞受賞の宇佐見りん「かか」を絶賛している。
《目の前で次々に章が生成され、それが小説になっていく瞬間を目撃した、とでも言い換えるべきだろうか。》
https://www.excite.co.jp/news/article/E1574617089299/
杉江によれば宇佐見りんは「自らと世界の関係を小説の章へと変換する作家」だそうである。藝賞は宇佐見の単独受賞ではなかった。今回は遠野遥「改良」も受賞している。「Web河出」が「第56回藝賞受賞作『かか』『改良』単行本発売記念対談 宇佐見りん×遠野遥 受賞のとき何してた? デビューとは? ともに20代の受賞者ふたりによる、本音炸裂トーク!」を公開している。遠野が「かか」について次のように述べている。
《感情を揺さぶる力が尋常じゃないくらい強くて、それはあのの作用でもあるので、あの体で絶対に良かったと思います。》
宇佐見は「改良」について次のように述べている。
《私は結構『改良』に出てくる固有名詞のネーミング、好きです。つくねちゃん、って名前、絶対にほかの小説には出てこないだろうし、なんだか愛着が湧きます。》
http://web.kawade.co.jp/bungei/3087/
佐藤友美は「かか」を絶賛している。
《なんだなんだこれ。これ本当に20歳の作家さんが書いているの
なにこのあったかい、切ない、苦しい世界観。
章がとろりと体に侵食してくる感じ。あたたかいはちみつを舐めたときのように、そのはちみつが食道を通り、胃に到達し、そこを過ぎて子宮にまで届くような。章が身体の中をゆっくりとしたたっていくのが感じられる。
決して長い作品ではないから、どんどんページが少なくなって、読み終わってしまう時間に到達するのが悲しくて。最後のほうは、何度もページを閉じて目を閉じて、また開いて少し読んで閉じてを繰り返した。
あー、すごいもの読んじゃったな。この作家さん、次の作品はいつかな。》
https://telling.asahi.com/article/12892258
「第56回藝賞受賞記念対談 村田沙耶香×宇佐見りん『進化する“母と娘”の物語』」で宇佐見が好きな作家は中上健次だという。おいおいオレの大好きな「浄徳寺ツアー」について次のように語っているではないか。
中上健次さんが一番好きです。読書量は多くなくて、好きな本があるとずっとくり返し読んでしまってなかなか新しいのを読まなくて。中上さんは章に力があって、他では読んだことのない描写の仕方がされていたり、言葉を自分に強く手繰り寄せて書いている感じがすごくします。
例えば「浄徳寺ツアー」という短編に「和尚はそう言い、骨があるのか疑いたくなるほどのふっくらとした青っぽい指であごのあたりを触る」という描写があるんですが、「そこ書く? 普通指を見て、ふっくらとした青っぽいと書く?」というふうにわくわくして、すごく心惹かれるんです。
息遣いとか匂いとかがリアルに感じられて。章そのものに揺さぶられて、結果的に自分が回復している、という不思議な感覚です。『十九歳の地図』が最初で、読み終えた瞬間、「ああ、私この人の小説、今までのを飛び越えて好きだ」と思いました。泣けて泣けてしょうがなかった。》
https://www.bookbang.jp/review/article/594127
「家族無計画」(朝日出版社)の柴原明子が呟く。
《宇佐見りん『かか』すごい作品だった》
https://twitter.com/akitect/status/1198446086811086848
「改良」もすごい作品のようだ。「第56回藝賞受賞記念対談 磯﨑憲一郎×遠野遥『圧力と戦う語り口』」で磯崎は「改良」を次のように評価している。
《自分自身も含めた世界のありようを、疑わずにはいられないんですよね。その思考の癖みたいなものがどうしようもなく出てきてしまっているところが、小説として信頼に足ると思った。
「改良」が受賞にふさわしい作品なのはその点です。この小説は、物事を型にはめよう、単純化しようという世の中の圧力に対して、徹底的にゼロに立ち戻って考えているんです。
「なんで女子と男子で水着のかたちが違うんだろう」という主人公の言葉についてバヤシコが、「たぶんお前は身体は男で心は女っていう、そういう人なんじゃないか」と言い、「隠さなくても大丈夫だよ。オレ、変な目で見たりしないし。たぶんメチャメチャ理解とかあると思うし」とつづける。こういう、凡庸さの型にはめようとする圧力に抵抗する、その戦いが描かれている。》
https://www.bookbang.jp/review/article/594085

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2)【記事】オークファン、大広も大澤昇平から手を引きスイスのstreamr社は提携打ち切り

 オークファンは11月25日付で「寄付講座担当特任准教授の不適切な書き込みに関する
当社の見解について」を発表した。
《株式会社オークファン(本社 :東京都品川 区 、代表取締役 :武永修 一 、以下 「オークファン」)はAI ソリューション人 材 の育 成 及 びそれに伴う市場の活性化を目的 として、2019年2月末日付で東京大学大学院情報学環への寄付を決定し、『情 報 経 済 AI ソリューション』寄付講座のご案内をリリース致しました。しかしながら、この度 の本講座 の担当特任准教授(以下、「本特任准教授」)の SNS等での発言を受 け、当社は今後本講座 に対する寄付は速やかに停止する方針です。
当社としては、社会科学と工学の両方の知見を有した AI ソリューション開発人材を輩出 するとともに、AI ソリューションの定量分析に関 する研究を進め、学術面のみならず政策立案 にも貢献するという、本講座の主旨に賛同した結果 、東京大学大学 院 への寄 付 を決定いたしました。
しかしながら、この度の本特任准教授による特定の個人及び特定の国やその国の人々に対 する不適切な書き込みは、当社の経営方針とは著しく乖離しており、到底容認 できるものではありません。
当社はSDGs達 成を含め持続可能な社会の実現に向けた事業を運営しております。基本的人権の尊重の上に成り立つグローバルなパートナーシップは当社の事業にとって不可 欠であり、今後も積極的に推進してまいります。当社としては、たとえ個人的なものであったにせよ、本特任准教授の価値観は到底受け入れられるものではなく、極めて遺憾であります。》
https://aucfan.co.jp/wp-content/uploads/20191125_%E8%A6%8B%E8%A7%A3.pdf
大広も11月25日付で「当社寄付先 東京大学『情報経済AIソリューション寄付講座』担当准教授によSNS等への投稿に対する見解」を発表した。
《弊社が「AI人材の育成」という趣旨に賛同し寄付を行った、東京大学情報学環における寄付講座「情報経済AIソリューション寄付講座」の担当准教授が、SNS等において特定の個人、特定の国やその国の人々に関する不適切な内容の投稿を複数回行いました。
弊社を含む大広グループ、および弊社が属する博報堂DYグループは、いかなる差別にも断固として反対する立場をとっており、その行動規範にも「人権を尊重し、不当な差別は行わない」ことを定めております。
当該の投稿は、担当准教授個人の見解であり、弊社の意図、活動とは一切関係がございません。
また弊社は、アジアを中心にグローバルに事業展開をしており、これまでも適材適所の人材を国籍にかかわらず平等に採用しております。今回の当該准教授の投稿は弊社の方針とは大きく異なり、遺憾であります。
当社と致しましては、今後の本講座に対する寄付を中止する方針とさせて頂きます。》
https://www.daiko.co.jp/dwp/wp-content/uploads/2019/11/191125_Release.pdf
東スポWebは11月27日付で「『中国人は採用しません』で炎上の東大特任准教授が反論『居酒屋でしゃべるぐらいのノリで書いた』」を掲載している。
《番組の取材に対し男性は「発言は企業の代表としてのもの。東大准教授として発したものではない」と反論。男性は「およそ200人の雇用データを分析し、中国人のパフォーマンスが低いことが統計的に明らかだった。社の採用について発したもので、差別の意識はなかった」と反論した。》
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/news/1637064/
大澤が代表取締役をつとめるDaisy社と提携していたスイスのstreamr社は、大澤の一連のツイートは人種差別的で攻撃的で不快であるとして、提携を打ち切った。streamr社の創設者のひとりが指摘しているように、将来の最も強力な革新的技術のひとつである人工知能が、完全に差別を意図する人々によって開発されるのは恐ろしいことなのである。
https://medium.com/streamrblog/terminating-our-business-relationship-with-daisy-ai-822371d1e233
香港の英字紙「アジア・タイムズ」はか、日本のアカデミズムは差別に甘いと書いている。
https://www.asiatimes.com/2019/11/opinion/japanese-academia-appears-soft-on-racism/

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3)【本日の一行情報】

日経BPが発表した「デジタル化実態調査」によれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している企業は36.5%、全く推進していない企業が61.6%となった。従業員300人未満の企業でDXを推進しているのは21.8%、これが5000人以上の企業では80.3%に及ぶ。企業規模が大きいほどDXを推進している企業の割合が非常に高くなる。
https://www.nikkeibp.co.jp/atcl/newsrelease/corp/20191125/

毎日新聞が11月25日付で「都道府県ランキング 魅力最下位、憤る茨城 知事『イメージ著しく損なう』 発表元『あくまで県名の印象』」を掲載している。茨城県は10年前に調査を開始してから、46位だった2012年を除き、常に最下位の47位だという。
https://mainichi.jp/articles/20191125/dde/041/040/024000c
日刊スポーツは10月17日付で「地域ブランド茨城県が7年連続10度目の最下位」を掲載している。
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201910170000272.html
この「地域ブランド調査」の「発表元」はブランド総合研究所である。代表取締役田中章雄は元日経BP社記者である。
http://www.tiiki.jp/
http://www.tiiki.jp/company/gaiyo.html

産経新聞は11月26日付で「ドラえもん単行本、23年ぶり刊行 “幻の第一話”収録」を掲載している。「ドラえもん」の「0巻」が11月27日に発売されたが、反響が凄いのだそうだ。
藤子・F・不二雄さんの人気漫画「ドラえもん」の“幻の第一話”を収録した「0巻」(小学館)が、27日から順次発売される。同作誕生から50年の節目を記念したもので、単行本の刊行は平成8年の45巻以来23年ぶり。インターネットなどでは多くの注があり、すでに2度の重版がかかるなど反響は大きい。》
https://www.sankei.com/entertainments/news/191126/ent1911260007-n1.html

双葉社は「小説家になろう」発の異世界転生ファンタジー「異世界チート開拓記」(モンスター庫)を「月刊アクション」でコミカライズ連載を開始した。
https://natalie.mu/comic/news/356936

◎「東海テレビドキュメンタリー劇場」シリーズ11作品に、光市母子殺害事件の弁護団を追った「光と影」などの司法シリーズ4作を加えた全15作を上映する特集上映『東海テレビドキュメンタリーのお歳暮』が、12月14日から東京・ポレポレ東中野で、12月21日から愛知・名古屋シネマテークで開催される。
https://www.cinra.net/news/20191125-sayonaratv
「さよならテレビ」の公開は1月2日(木)から。雑誌も新聞も他人事ではあるまい。

朝日新聞社の2020年3月期の中間決算が発表された。第2四半期累計期間の業績は、売上高1794億1100万円(前年同期比▲2.4%)、営業利益6億5300万円(▲78.2%)、経常利益29億6900万円(▲49.3%)、純利益14億2800万円(▲68.3%)。売上高は微減に留まったが、利益が大幅に減少した。
単体決算では売上高1208億2800万円、営業損失3億3900万円と、赤字に転落した。
http://www.asahicom.jp/shimbun/company/short_interim_result_191125.pdf
J-CASTニュース」は11月26日付「朝日新聞社、中間決算で「単体赤字」 デジタル分野への注力進めるが...」で、次のように書いている
《同社はメディア事業と不動産事業を主力とするが、祖業の"紙"が経営を圧迫しているのは周知の事実。デジタル分野へ経営資源集中して立て直しを急いでおり、18年11月に全社横断の組織「デジタル政策タスクフォース」を立ち上げた。》
https://www.j-cast.com/2019/11/26373667.html
デジタル事業は投資がかさむだけで思うような利益を生み出すには至っていないということだろう。いずれにしても、メディアの赤字を不動産が補填する構図は出版業界でも見られる。

◎「NHK NEWS WEB」は11月25日付で「小6女児誘拐 ツイッターの非公開で会話できる機能でやりとり」を公開している
《大阪の小学6年生の女の子を誘拐したとして、栃木県の35歳の男が逮捕された事件で、女の子が男と知り合うきっかけになったSNSはツイッターで、非公開で会話できる機能を使っていたことが捜査関係者への取材で分かりました。》
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191125/k10012190571000.html
ツイッターのダイレクトメッセージを使っていたのだろうが、小学生がスマホを使う時代であれば、未成年はダイレクトメッセージを使えないなど、そうした制限が必要なのではないだろうか。

◎「BBC NEWS JAPAN」は11月26日付で「ジョンソン英首相の質疑で観客の笑い声消した映像放送、BBC間違い認める」を発表した。
《英公共放送BBCは25日、ボリス・ジョンソン英首相の質疑を昼のニュースで放送した際、観客の笑い声を消していたことについて、「我々の間違い」だったと認めた。》
https://www.bbc.com/japanese/50554381

秋田書店は、「ヤングチャンピオン」「ヤングチャンピオン烈「別冊ヤングチャンピオン」の兄弟誌として、11月26日(火)に新たに電子雑誌「どこでもヤングチャンピオン」を創刊した。毎月第4火曜日発売。約350頁。希望小売価格:500円(税別)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000040601.html

Netflixはニューヨークにある「パリ劇場」(Paris Theater)とリース契約を締結したそうである。ここは1スクリーンのみの劇場だ。「cinemacafe.net」は「Netflix、今年8月閉館のNY老舗映画館『パリスシアター』を再オープン」で次のように書いている。
《元々はフランス映画を上映するための映画館で最初は『田園交響楽』が8か月間上映された。ロン・ハワード監督によるドキュメンタリー映画『Pavarotti』(原題)の上映を最後に、今年8月に閉館した。》
https://japanese.engadget.com/2019/11/26/netflix/
https://www.cinemacafe.net/article/2019/11/26/64637.html

朝日新聞社は、ウェブサイト「好書好日」内に人書を紹介する「じんぶん堂」を11月26日(火)にオープンした。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000772.000009214.html
https://book.asahi.com/jinbun

朝日新聞デジタルは11月27日付で「スクショも違法?著作権の線引きは きょう有識者会議」を掲載している。
《原作をそのままひとまとまりでダウンロードする場合や、もとの作品が売れなくなるなど著作権者に実害がある場合などに限って違法とすることが想定される。》
https://www.asahi.com/articles/ASMCT6F2KMCTUCVL03N.html
広告漫画家・WEBデザイナー・広告プロデューサーだという、うるの拓也は次のようにツイートしていた。
《本当の有識者の意見がちゃんと採用されるといいんだけど。とにかく花を守ろうとして根を切るような真似はしないでほしい。》
https://twitter.com/takuya_uruno/status/1199518095133433858

◎「ミシュランガイド東京2020」が11月29日に発売される朝日新聞デジタルが11月26日付で「すきやばし次郎本店、ミシュランから消える 最新版発表」を掲載している。
《…2008年版の東京のガイド開始から三つ星の評価を得てきたすきやばし次郎本店」(すし・中央区)は、一般客の予約ができなくなったことを理由に評価の対象外となり、ガイドから消えた。10年版から三つ星だった「鮨 さいとう」(すし・港区)も同様だった。》
https://www.asahi.com/articles/ASMCV3D4XMCVULZU002.html
https://www.bbc.com/japanese/50568647

三井不動産が展開している法人向け多拠点型シェアオフィス「ワークスタイリング」とベネッセコーポレーションが提携する世界最大級のオンライン学習プラットフォーム「Udemy」(ユーデミー)は、ワークスタイリングというリアルな場とUdemyの多彩なオンライン動画学習コンテンツの特徴を活かし、ビジネスパーソンの新しい学びの機会を生み出すべく、協業を開始する。
協業の取り組みの1つとして、11月29日(金)にはワークスタイリング東京ミッドタウンにて、Udemy講師である前田鎌利をゲストに迎えた会員向けイベント「プレゼンで変わる!“伝え方”から働き方をアップデート」を開催する。ワークスタイリングはUdemyと共に、イベントの実施や「学び」を深めるコミュニティの形成等に取り組む。
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2019/1125/

◎光社は公式アプリ「まいにち寂聴さん」をリリースした。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000223.000021468.html

集英社は「週刊少年ジャンブ」に連載されている吾峠呼世晴の「鬼滅の刃」のコミックス18巻の初版発行部数をシリーズ初の100万部にすることを決めた。これにより累計発行部数が2500万部(電子版含む)を突破する。9月29日時点での累計発行部数は1200万部だった。僅か2ヶ月弱で累計部数が2倍以上に跳ね上がる驚異的なペースで売り伸ばしているということだ。
https://www.oricon.co.jp/news/2149643/full/

◎日産は、初のSF小説「答え合わせは、未来で。」(日産未来庫)を2019年11月26日(火)より2020年1月30日(木)までKindleで発売する。全19話のショートショート、97円(税込)。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000097.000009883.html
https://www.nissan.co.jp/SP/MIRAIBUNKO/
https://www.amazon.co.jp/dp/B081SG7DNP

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4)【深夜の誌人語録】

頭脳警察の「戦士のバラード」によれば「疲れたら休めばいい。斃れたら夢を見ればいい」のである。