【文徒】2017年(平成29)12月26日(第5巻243号・通巻1272号)

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1)【記事】 本間龍が著書『大手広告代理店のすごい舞台裏』で版元とトラブル
2)【記事】 大宮駅前ビル火災での犠牲者実名報道にネット上で批判の声が続出
3)【本日の一行情報】

                                                                                • 2017.12.26 Shuppanjin

1)【記事】本間龍が著書『大手広告代理店のすごい舞台裏』で版元とトラブル(岩本太郎)

博報堂出身で原発問題を追求し続ける作家・本間龍が自著の版元であるアスペクトと揉めたようだ。読者からの《「大手広告代理店のすごい舞台裏」Kindle版が「現在在庫切れです。この商品の再入荷予定は立っておりません。」となったまま。電子書籍なのに???》というTwitter上での問いに以下の返答。
《ご迷惑をおかけしております。実は出版元のアスペクトが契約違反行為をしておりましたので、契約解除にしたのです。差し支えなければ紙本の中古か、書店注文でしたら新品もまだ手に入るかと思います。宜しくお願い致します!》
https://twitter.com/emi_ya/status/943795170473996288
https://twitter.com/desler/status/943797631062380544
本間龍に問い合わせたところ、アスペクトとは契約後ずっと、2年以上もの間、電子書籍の印税の報告も支払いもなかったそうだ。間に入って仕事をしていたフリー編集者を通じて何度も督促をしたものの音沙汰がなかったため、3度にわたって社長に直接メールを送付。ようやく「来月払う」との返事が返ってきたのに対して「ふざけるな。すぐに払わないとTwitterで晒すぞ」と脅したところ2日後に2年半分の印税(1万5000円)がようやく振り込まれるといった状況で「もう付き合いたくないので契約破棄を通告しました」とのこと。なお、著書の担当編集者は給料遅配で既に退社しているという。
実は今年1月15日号の『メディアクリティーク』に掲載した「気鋭の女性ライターがブチ切れた! 某有名出版社のトンデモ編集者とギャラ値切りの実態を告発」という記事で報じた「某有名出版社」というのがアスペクトだった(話を聞いたライターによれば「もう社名を出してもらってもいい」とのこと)。ライターがアスペクトに企画を持ち込んだところ仕事の進め方やギャラの支払いをめぐってトラブルに発展したというケースだった。以下に一部を再び紹介しておこう。私がそのことを知ったのは昨年のちょうど今頃、彼女から送られてきたこんなメールからだった。
《先ほど、アスペクト経理から電話があり、「12月末は年も押し迫るので、支払いは1月10日以降になります」と。
契約書には、4か月後の月末とあり、12月は例外などと書いてないので、
「契約違反では? 出版労連などに相談するかもしれません」
と答えておきました。
いい気分で年越しできると思ってたのに!!》
《版元の担当編集者から、「管理・経理にかけあいましたがだめでした」とメールあり。
私のメールから30分もたたずに返事がきたので、「かけあって」などないだろう、って。
完全になめられてる感じ。》
経理から、「大口の入金が年明けになり、資金繰りがつかない」と泣きの電話がありました。
来月6日に必ず支払う、と社長印入りの文書が届いた。》
こうした奮闘の甲斐あってかギャラは年明けに払い込まれたものの、もう1本の別の仕事で払い込まれるはずだったギャラは、期限の1月末になって《資金繰りできず、来月末にしてくれ、と》またまた彼女を激高させる電話が入ったという後日譚もあった。最終的にはこちらのギャラも支払われたが、できあがった本に《誤植が見つかったのに私には連絡がないといったトンデモなことも発生しました》と憤懣やるかたなしの様子だった。あるいは1年後のこの年末も似たような事態が繰り返されているのかもしれない。

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2)【記事】大宮駅前ビル火災での犠牲者実名報道にネット上で批判の声が続出(岩本太郎)

さる17日にさいたま市のJR大宮駅前でビルが全焼して男女4人が死亡した火事では、現場となったビルで営業していたのがソープランドであり、4人の中に従業員らしき女性とお客と見られる男性とが含まれており、身元が判明した被害者の名前の報道をめぐって各メディアの対応が分かれることとなった。
『J‐CASTニュース』が独自に確認したところによると《NHK首都圏ネットワーク」、TBS系「Nスタ」、そして産経新聞が3人の実名を伝えたのに対し、テレビ朝日系「スーパーJチャンネル」、朝日新聞毎日新聞、読売新聞では「埼玉県志木市の女性(29)」(毎日)といった形で、名前を伏せて報道した》《ウェブでは20日午後の時点で、実名を報じた記事を公開している社は確認できない。NHKは19日、ウェブ版で「埼玉ビル火災 死亡した3人の身元判明」として3人の実名を掲載したが、該当の記事は20日午後までに閲覧できなくなっている》という。
https://www.j-cast.com/2017/12/20317154.html?p=all
もっとも、こうした情報は一度ネット上に出てしまうと拡散することは避けられない。ブロガーの木走正水は21日付のブログで、《うーん、どうなのでしょうか、被害者の実名報道であります》としつつ、既に削除されていた上記の19日付NHK報道を、自身の判断で実名部分を伏字として紹介したうえで《はたしてここまで報じる必要性はあったのだろうか》と疑問を呈示している。
《一時保存された記事データの多くはそのまま捨て置かれましょうが、例えば今回のNHKのようにクレームを受けて元記事を削除したりした場合、その削除された記事データの価値は高まります、そうするとネット上で復活いたします。
当ブログが削除されたNHK記事を再掲したのは、その記事に読者に紹介する価値があると判断したからですが、このように個人サイトでもマスメディアが削除した記事を見つけることは、簡単なことです》
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20171221/1513843875
アノニマスポスト』も上記TBSの当初の報道(元サイトでは既に実名を削除)を、やはり一部伏字で紹介しながら《名前発表すんなよ可哀想だろ》《酷すぎ、やめてあげて!》《マスコミの、名前出す出さないの基準がわからない…》《セカンドレイプ的なの分かっててやってるからな 報道各社社内では笑いのネタとかにもしてそう》といったネット民たちの声と併せて紹介している。
https://anonymous-post.com/archives/17573
Twitter上でも、見る限りマスメディアの実名報道にはむしろ批判的な声のほうが目立つようだ。
《ソープか…これきっと女の子は実名晒されるんだろうな。いろんな事情があって風俗で働いてるはずだから、実名だけは出さないであげてほしいし明日は我が身だ、、》(「23歳、ソープ嬢」だというユーザーが事件直後の17日に行ったツイート)
https://twitter.com/kisshug49/status/942312336383082498
《こんなとこで死んだら恥だとか親不孝だとか色々ありますが
働いている女の子にも事情はあるわけで
お店に来てくれているお客さんだってそりゃあ一緒です
実名報道されないことを祈ります》(同日、元ソープ嬢だというユーザー)
https://twitter.com/basan0721/status/942333397392769024
《大宮のソープ火災の被害者の女の子達を実名報道したって。なんのために??
人権ってなに?プライバシーって何?
同業じゃない方も実名報道はダメって言ってたのにどうして??》
https://twitter.com/_icechanel_/status/943042201482706944
東京スポーツ』も21日付で「NHKに批判殺到 大宮・風俗ビル火災の被害者を実名報道」という記事を掲載。NHK広報のコメントをとったうえで《ウェブ版削除の理由はボカしたが、拡散の恐れがあるネットで記事を配信したことに批判が相次いだためと思われる》と推測している。
https://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/866170/
しかし先の座間市の事件でマスメディアが被害者9人の顔や実名を報じていたのをネットや週刊誌が批判していた際にも感じたことだが、最近では実名報道や顔出し報道をめぐって「批判する側・される側」が一昔前とは逆転してしまったかのようだ。
『J‐CASTニュース』も上記の記事で指摘しているように、重大事件・事故における被害者の実名報道については2001年に新宿歌舞伎町でキャバクラの入ったビルの火災で44人が亡くなったケース、そして上にも書いたが座間市の事件でもマスメディアによる実名報道への批判の声が沸き起こった。一方で、昨年7月の相模原市「やまゆり園」で19人が殺害された事件では逆にマスメディア各社が報道で被害者の名前を伏せたことで「なぜ報じないのか」との疑問の声が多数聞かれたことも、実名報道をめぐる議論の中では忘れてはなるまい。

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3)【本日の一行情報】(岩本太郎)

イラク報道などで知られる綿井健陽が、同業の戦場ジャーナリストたち9人(石丸次郎、川上泰憲など)との共著で集英社新書から出した『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか――取材現場からの自己検証』の電子書籍版の印税が「175円(消費税込み)」だったと、支払明細書の写真も添えてツイートしていた。10人で頭割りということは総額でも1750円ということだろう。
https://twitter.com/wataitakeharu/status/943844787479654401

北九州市若松区のJR若松駅近くにある「白石書店S-PAL若松店」が1月31日限りで閉店。同市内では今年2月末に「小倉ブックセンター」も閉店となっている。
http://s-hon.co.jp/info/白石書店s-pal若松店%E3%80%80閉店のお知らせ/
https://www.myliving.info/areanews/19732/

◎自称投資家の吉岡信哉が自身の『WEB情報資産の研究ブログ』で、株価低迷など依然として苦境の続くクックパッドについて「マジでオワコン!」と切り捨てている。今春にブロガーのちきりん(評論家の伊賀泰代)を社外取締役に起用するなどの人事を「終わった感じが半端ない」と評したほか、全て無料の「楽天レシピ」や台頭著しい動画レシピに食われつつある現状を分析している。
https://webplatform.info/node/112903

◎そのクックパッドの100%子会社であるコーチ・ユナイテッドが運営する習い事マッチングサイト「サイタ(Cyta.jp)」が、クラウドソーシング大手のクラウドワークスに事業譲渡されることになった。
http://www.mag2.com/p/money/352474
「サイタ」は2013年にクックパッド経営統合され、当初クックパッドからは代表執行役だった穐田誉輝が役員に就任。それから4年で再びオーナーが変わることになった。
https://cyta.jp/pr/entry/781

◎1988〜90年に『ヤングジャンプ』に連載されて人気を博したきたがわ翔の「19〈NINETEEN〉」の続編『『19 FOREVER』が、クリーク・アンド・リバーがサポートする「漫画家クラウドファンディング」の「続編マンガ執筆支援プロジェクト」を経てこのほど制作された。2010年に『オー・スーパー・ジャンプ』に「19 FOREVER Prologue」として1話限りの続編が掲載されたところ、「続きが気になる」との読者からの声が出たことからプロジェクトが始まったという。
https://faavo.jp/tokyo23/project/1833#pj-single-nav
https://www.jiji.com/jc/article?k=000001071.000003670&g=prt

◎26歳の個人開発者「せせり」が11月22日にわずか6時間で開発のうえ公開したTwitter上の匿名質問受付サービス「Peing(質問箱)」を、価格比較サイトの「ヒカカク」を運営するネット企業の「ジラフ」が12月21日に買収(価格は非公開)。開始から3週間で月間2億PVを超えるほどの人気サイトに成長したが、せせり自身のツイートによれば《サーバ負荷で大変なことになると毎日ビクビクしていた》とのこと。売却によりインフラの心配がなくなり、運営元の信頼性も高まると判断したらしい。
https://peing.net/
https://twitter.com/_sesere/status/943643114031398912
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1712/21/news060.html
今年4月に22歳の大学院生「ぬるかる」が立ち上げて評判を呼び、約10日後に当人がたちまちドワンゴに入社することになった新SNSマストドンMastodon)」のインスタンス「mstdn.jp」と同様、こうした新興ネットメディアは立ち上がりからの展開が異様に早い。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1704/24/news045.html

◎これはプロの物書きも試してみる価値はあるかもしれない。最近の大学生はインタビュー音声などの文字起こし(昔で言う「テープ起こし」)を「iPhoneiPad」といった形で行っているという。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授の岸政彦が、卒論のために行った調査の文字起こしがとても丁寧だった龍谷大ゼミ生にやり方を尋ねたところ《インタビューの音声をiPhoneで再生してイヤホンで聞きながら、iPadのメモを音声入力にして、マイクに向かって自分で同じセリフを喋り続けた》と答えたのだそうだ。
http://www.standby-media.jp/case-file/172001

◎「音声のインスタグラムを目指す」というアプリ「ラジオトーク(Radiotalk)」がじわじわ普及しつつあるらしい。ネット企業のエキサイトに所属するラジオ好きの女性プロデューサーが企画のうえ8月からアプリの提供を始めていたもので、スマホなどでの簡単な操作で最大12分までのトーク音声を収録し、発信できるという。ポッドキャストよりも簡単にできるようだ。
https://corp.excite.co.jp/press/radiotalkios20170824/
http://www.koisuru.info/entry/2017/12/18/222915
担当プロデューサーがネットラジオ番組に出演し、アプリの概要や開発の経緯を語っている。
https://soundcloud.com/dongurifm/244-radiotalk

NHK放送文化研究所が来年3月7〜9日にフォーラム「テレビの未来 メディアの新地図」を紀尾井町千代田放送会館で開催する(参加無料・先着順)。シンポジウムとして「欧米メディアのマルチプラットフォーム戦略」(7日午後)「『きょうの料理』60年の歴史とこれから 〜“老舗”番組から考えるコンテンツの未来〜」 (9日午後)のほか、「ワークショップ 大学生たちと考える“テレビ”の未来 〜スマホ時代のテレビの可能性〜」(8日午前)などが企画されている。
http://www.nhk.or.jp/bunken/forum/2018/index.html