【文徒】2018年(平成30)8月16日(第6巻153号・通巻1327号)

Index------------------------------------------------------
1)【記事】変わりつつある? 海賊版対策・有識者会議での議論
2)【本日の一行情報】

                                                                                • 2018.8.16 Shuppanjin

1)【記事】変わりつつある? 海賊版対策・有識者会議での議論(岩本太郎)

13日付の読売新聞が「海賊版漫画サイト対策、『遮断』以外も有効策続々」と題して、今春の「漫画村」騒動で盛り上がったブロッキング問題に関する政府の有識者会議における議論の「その後」を報じていた。「立法には様々なハードルがあることも分かってきた」との前振りに続いて、有識者会議の座長の一人である中村伊知哉の「4月の政府決定から状況は大きく変わった」とのコメントがまずは紹介されている。
《政府がブロッキングを緊急対策として打ち出した後、問題の3サイトは事実上閉鎖され、出版社の売り上げは回復した。さらに会議の議論などを通じ、ブロッキング以外にも様々な対策が取り得ることも分かってきた。中村座長は「現時点でブロッキングが『緊急避難に該当する』という解釈は成立しないと思う」とした上で、「今後は知恵を出し合って総合的に対策をとりまとめていく。その中にブロッキングが入るかどうかは今後の議論次第。入らないという選択肢もありうる」とする》
https://www.yomiuri.co.jp/science/feature/CO017291/20180813-OYT8T50099.html
もちろん、同記事ではなおブロッキングに肯定的な川上量生の会議における発言など、既に他でも報じられている意見も改めて紹介されているわけだが、中村をして「4月からは状況が大きく変わった」と言わしめる背景には、もしかしたら上記のコメントにある以外の要素も採用しているのではないか? という気もしてくる。同記事中にもある赤松健らの「マンガ図書館Z」のみならず、4月の騒動以降のわずか4カ月のうちに実に様々な取り組みの事例が上がってきているからだ。
『ねとらぼ』が11日に掲載した「漫画のサブスクや無料広告モデルは可能か 業界1位「LINEマンガ」に聞く5年の軌跡と漫画ビジネスの未来」という記事もその一つだろう。この4月でスタートから5周年を迎えた「LINEマンガ」について、同サービス運用部部長の原田圭と編集長の中野崇へのかなり長尺のインタビューだが、例えば中野は「LINEマンガ」が昨年10月に運用型広告配信プラットフォームの「LINE Ad Platform」を導入し、作家にも広告収入の分配金を払うようになって以降、作家によっては「広告収入が原稿料を上回る」といった事例が出てきたと紹介する。
《読者数に比例するのですが、作家さんによってはガラッと収入が変わった人もいます。ある程度の規模での重版分の印税が入ってくるイメージでしょうか。LINEマンガが抱えるユーザー規模だから成し得る収益還元システムだと思います》
無論、だからといって2人ともここから一気に新たなモデルへのシフトが進むといった楽観的な観測を持っているわけではない。原田も、音楽や動画での「定額●●放題(サブスクリプション)」の導入は、《現状投入は検討していないです》としつつ、理由として「漫画村」や他社の定額サービスの名前も挙げつつ次のように述べる。
《新刊を書店で「今日発売中」と宣伝しているところでサブスクリプションでも配信していたら、出版社のこれまでの販売モデルが一気に崩れてしまう。サブスクリプションに切り替えた場合、その書店の売上が落ちた分までも回収できるという見込みを示さなければ、出版社も首を縦に振ってくれないと思います。そのハードルはまだまだすごく高いかと》
《「コミックDAYS」が1誌15作品読めると思うと、だいたい90作品くらいで700円ほどで読めるわけじゃないですか。漫画村の規模で言うと、何十万タイトル。これを月額1000円でやろうとすると、回していけませんよね(苦笑)。月額1万円でも足りるのかという話だと思うんですよ、本当にあの規模感で考えると》
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1808/04/news006.html
それでも「kindle unlimited」がちょうど2年前の今頃にスタートしたものの2ヶ月後に講談社などの作品が配信中止されるような大混乱に至った時期から思えば、読み放題サービスや無料広告モデルといったものについて可能性はどこまであるのかはともかく、まだしも具体的な事例をもとに語れるようになったのではないか。
そのアマゾンも、一方ではアマチュア漫画家を対象にkindleストアで自作を無料でセルフ出版できるサービス「Kindleインディーズマンガ」が、今年7月5日の開始以来、読者に読まれたページ数が累計100万ページ以上を達成したことを受けて「インディーズ無料マンガ基金」の8月の分配金を増やすことを公表したのだ。
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1808/11/news021.html
2年前には「ウチが作家からいただいたコンテンツをタダでばらまくのか」といった批判で出版社側からバッシングを浴びたアマゾンも、例えばこうしたところからも布石を打ちつつあるように思える。上記の「有識者会議」での議論における変化が、こうした周囲の動きからの潮汐力も作用したものかは定かではないが。

                                                                                                          • -

2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

◎2日前にも紹介した日経記事「『トリツギ』の危機 書店に本が来なくなる日」について「ウラゲツ」が《このところ記事になることが増えている気がします》と前置きしつつ現場からの「補足」として連弾ツイートしていた。
https://twitter.com/uragetsu/status/1029246157992558592
以下にそのスレッドから一部のみを紹介しよう。
《「出版社も自社の書籍がいつどこで売れたかに強い関心を示さなかった」というご見解には、んなわけないじゃんか、としか言いようがありません。いつどこで売れたのかを知るのにはお金がかかります。売上データは金なりです。金を払っている版元は熱心に売上を見ていますよ》
https://twitter.com/uragetsu/status/1029247464979623936
《次に「大手出版社の幹部は「自戒を込めてだが、業界全体が持ちつ持たれつの関係で、誰も構造改革を強く訴えてこなかった」と話す」というのは、社内ではという話ではないのか。構造改革の必要性については様々な人や団体が発言してきました。こんな寝ぼけたことを言う幹部なんて実在するのかしら。》
https://twitter.com/uragetsu/status/1029248602822987776
《取次も版元も書店も「商品調達の速さ」以外の自己価値化をしっかりと深めていくべきです。速さだけを競うのならとっくの昔に負けているのですから。速度社会からドロップアウトすることは必ずしも悪いことではないはずです。スロー・カルチャーの豊かな価値を戦略的に選択することもできるはず。》
https://twitter.com/uragetsu/status/1029253437710454784
呼応する形で次のようなリプライがついていた。
《金融機能の部分がばっさり語られてないからモヤモヤする記事。
金融機能と再販維持制度の鎖を外科手術する方法があればなぁ〜》
https://twitter.com/hiyokoya_san/status/1029347442259447809

トーハンは三洋堂ホールディングス(三洋堂HD)との間で資本業務提携を行うことについての契約書を14日付で締結し、発表した。トーハンは三洋堂HDの行う第三者割当増資による普通株式140万株の発行を引き受ける一方、それに先立ち既存株主より10万株を取得の予定。これによりトーハンの三洋堂HD株式における所有議決権割合は36.50%(筆頭株主)となる。
http://www.tohan.jp/news/20180814_1255.html
http://www.sanyodohd.co.jp/wp-content/uploads/2018/08/20180814-03.pdf

◎自らを「日本で一番ではないかと思われるヴィトゲンシュタインマニア小説家」とし、「慶応大学プロレス研究会幹事長」でもありつつ書店員として働いてきたという「諸隈元シュタイン」なる人物が、Twitter上で《15年勤務した書店を解雇になりました》として「解雇予告通知書」の現物写真までもアップしながらこんなツイートをしていた。
《近所だったので中学生の頃から通い、大学卒業後の引きこもり時代に雇ってもらい、引っ越してからも自転車で40分かけて通い、近年は週に5時間だけ趣味のように働き続けてきましたが、今週とうとう閉店です
いつかここで自著のサイン会を、という夢は夢のままでした》
https://twitter.com/moroQma/status/1028993945718611969
《自分の最終勤務日は店長が帰ってしまい、まさかの半日店長任命という粋な計らいをされました》
https://twitter.com/moroQma/status/1029127589569486850
他のツイートで自らの今のペンネームを「上戸元」だと明かしていた。4年前に第118回文學界新人賞を「熊の結婚」で受賞した「諸隈元」か!
https://twitter.com/moroQma/status/881517308778209281
http://www.bunshun.co.jp/mag/bungakukai/bungakukai1406.htm
https://www.sankei.com/life/news/140421/lif1404210013-n1.html

◎10日に石破茂が行った自民党総裁選出馬の記者会見はフリー記者にも開放されていたそうだ。「平河クラブ」が主催しフリーは排除されるのが通例な自民党関係者の会見では珍しいケースであろう。
https://hbol.jp/172758
「日仏共同テレビ局France10」の記者として『ハーバー・ビジネス・オンライン』でこの件をレポートした及川健二はこの件についてTwitter上でさらに次のように補足していた。
《フリー記者は政治で会見のオープン化を長く主張しているのに、フリー記者に開放した石破茂・会見に来たのは、弊社とファクタとTHE PAGEだけ。大手メディアの総裁選・報道はアベ寄りになるんだから、せめて、フリー記者が公平・公正な報道をしないといけないだろう。》
https://twitter.com/esperanto2600/status/1029304498877952001
及川は1980年生まれで早稲田大学社会科学部卒。今枝弘一の下で写真を学んだ後にジャーナリストとなり『サイゾー』や『週刊金曜日』でも活躍した。『週刊金曜日』に2001年に掲載され「『伝説のオカマ』は差別か」といった論争を巻き起こした東郷健についての記事「伝説のオカマ 愛欲と反逆に燃えたぎる」の筆者で、この論争についての共著もある。
http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-939015-40-3.html
https://twitter.com/esperanto2600/status/930090608064053248

◎1948年の『美しい暮しの手帖』の誕生以来、今年で創刊70周年を迎えた『暮しの手帖』が記念出版『戦中・戦後の暮しの記録 君と、これから生まれてくる君へ』を7月に出版。
https://www.kurashi-no-techo.co.jp/70th
暮しの手帖』編集長の澤田康彦(マガジンハウスで『BRUTUS』などの雑誌編集者、および書籍編集長として活躍)と、同書の担当編集者・村上薫が『ハフポスト日本版』のインタビューで「いま、戦争を伝える理由」について語っている。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/08/14/kurashi-no-techo_a_23501907/

NHK朝の連続テレビ小説半分、青い。」のスピンオフ書籍として『秋風羽織の教え 人生は半分、青い。』がマガジンハウスから9月6日に発売される。ドラマで主人公が師事した少女漫画家・秋風羽織を演じた豊川悦司、原作者の北川悦吏子へのインタビューも収録されているという。同社書籍編集部の公式アカウントのほか、北川悦吏子自身も自らのアカウントで発表当日の14日からさっそく告知のツイートをしていた。
https://twitter.com/booksmagazine/status/1029144496443805696
https://twitter.com/halu1224/status/1029151493050445824
https://news.yahoo.co.jp/byline/okadayuka/20180814-00093077/

◎1958年から1965年にかけて『幼年クラブ』や『たのしい幼稚園』などに連載されていた藤子不二雄Aの『わが名はXくん』が講談社から全3巻で発売された。原稿が失われたまま現在も発見されていなかった作品だが、当時の掲載誌からスキャンするなどして単行本化したらしい。
http://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000190787
http://buzz-plus.com/article/2018/08/13/wagana-ha-x-kun-manga/

博報堂DYホールディングスの2019年3月期第1四半期報告書。売上高は3238億7000万円で前年同期比7.5%増。売上総利益は791億5800万円(同35.4%増)、営業利益は199億3500万円(同154.9%増)、経常利益は215億1700万円(同143.2%増)。売上高増は連結子会社のユナイテッドが投資先であるメルカリの株式を売却した影響のほか、インターネットメディアを中心にマーケティング・プロモーションとクリエイティブが好調だったことなどが作用。売上総利益も新規連結子会社の取り込みによる押し上げ効果などにより増加した。
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=yuho_pdf&sid=2742480

ADKが2018年度の「経験者採用」を実施。公式サイトに告知をアップした。募集対象は「アカウント・エグゼクティブ(営業職)」「ダイレクトビジネス」「メディア」「インタラクティブ・メディア」「クリエイティブ」「プランナー」「データサイエンス」「コンテンツビジネス」「コーポレート」「ITポジション」の10職種。
https://www.adk.jp/recruit/career/

熊本県を走る第三セクター南阿蘇鉄道」の「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」に週末の金・土のみオープンする古書店「ひなた文庫」が8月25日に「本屋真夜中 honya mid night」を開催。昼にはワークショップ、夜からは朗読会やマーティン・スコセッシの映画『ヒューゴの不思議な発明』の屋外上映会なども行うそうだ。
http://www.mt-torokko.com/2018/08/03/2226/
http://www.midnight.hinatabunko.jp/