【文徒】2019年(平成31)2月8日(第7巻24号・通巻1442号)


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1)【記事】広告出さなきゃ記事書かない(?)「ASCII」編集長ブログへの賛否両論
2)【本日の一行情報】
----------------------------------------2019.2.8 Shuppanjin

1)【記事】広告出さなきゃ記事書かない(?)「ASCII」編集長ブログへの賛否両論(岩本太郎)

大谷イビサが4日付で「note」に発表した「メディアにとっての『お兄さんスタートアップ問題』」が話題を呼んでいる。
大谷はKADOKAWAの運営するウェブメディア『TECH.ASCII.jp』編集長。
このエントリは創業から数年を経てある程度の安定感が出てきた新興企業(いわば「中堅スタートアップ企業」)をメディアが記事で紹介することの意義、というか「紹介しなくなる理由」をメディア側の視座から論じているのだが、次のような一節が物議を醸している。
《なぜ取材をしないかの1つ目の理由は、やはり「新鮮さがない」というのが大きいです。(略)また、資金や人員に余裕のできたお兄さんスタートアップは情報発信を「オウンドメディア」でやり始めます。こうなると、無理にメディアに伝えてもらう必要もないんですよね》
《一方、メディアから見て悩ましいのは、スタートアップのお財布具合です。要は「この人たちってわれわれにとってお客様になるのか?」という点。売上のほとんどを広告に依存しているWebメディアにとって、これはわりと切実な問題です。その点、宣伝費を持たないスタートアップは広告主にはなりえないので、ニュースバリューがあるからつきあっているというのが本音だと思います》
《Webメディアに広告予算を使う気もない会社、しかもニュースバリューも低い会社を取材する義理はないと思います。(略)なので、やっぱりスタートアップはニュースバリューが高いうちしか取り上げません。ごめんなさいね。ホント、熱量に負けたとき、タイミングがあったとき、勉強になりそうなときにはふらっと行きますが、あくまで気分次第です》
https://note.mu/ibisaotani/n/n51035d4cf948
ようするにスタートアップ段階にあるところを除けば、自分のところのメディアに広告を出してくれるわけでもない企業を「取材する義理はない」と断じているのである。いかにも広告収入ベースのウェブメディアの編集者らしい割り切りのようでもある。大谷自身はKADOKAWAという大手出版社傘下の「角川アスキー総合研究所」のスタッフで、もともとは1990年代にアスキーアルバイトで入ってきた人物。以後20年のキャリアの前半を月刊誌編集、後半はWebメディアの記者として過ごしてきたと自己紹介している。
https://note.mu/ibisaotani/n/n5667f3c69db3?creator_urlname=ibisaotani
無論、こうした大谷の意見に頷く声もある。『BuzzFeedYahoo!を経て現在は『SmartNews』に所属する山口亮は《これは実際のところだろうなあ》とツイート。
https://twitter.com/d_tettu/status/1093312647536140288
LINEの「Developer Relationsチーム」で技術広報に取り組んでいる櫛井優介も《ですよね… という気持ちしかない良エントリ。メディアに取り上げてもらうのも、メディアになるのも色々と大変》と評価。
https://twitter.com/941/status/1093020114411089921
これらに対してさっそくTwitter異議ありと表明したのはマーケティングコンサルタント同志社大学大学院でメディア理論を教えてきた高広伯彦だ。曰く《この記事、めっちゃやばいこと書いてるやん》。高広はもともと博報堂の出版営業局出身で、博報堂DYメディアパートナーズ、電通インタラクティブコミュニケーション局、Googleというキャリアを積んできた人物だ。
《広告出稿見込めるかどうかで記事書いてるって言うてるようなもんやん。
こんなん書いて大丈夫なんか?》
https://twitter.com/mediologic/status/1093335874870358016
http://ac-f.net/2006prf04.html
高広もまた「note」に「広告と広報と編集の狭間~ヲィ、そんなこと書いちゃっていいの?という話。」と題した論考をエントリした。
《いや、メディアビジネスのしんどさはわかりますが、アスキーいう社名を出して、上のようなことを書いてしまうのは非常にまずくないですかね? 増田とかじゃなくって、実名で社名入りでこの章を書いてるってことは、堂々と、
弊社アスキーは広告の見込みのある企業の提灯記事を書きます
って、言ってるってことじゃないですか。
そもそも、メディアにとって、取材対象というのは「義理」があるから取材対象となりえるんですか? それってメディアの死を意味してませんか?》
https://note.mu/mediologic/n/n156b4f69cd82
周知の通り現在「アスキー」は社名ではなくKADOKAWAの1ブランドであるわけだが、いずれにせよ仮にも出版メディアの一翼を担う企業の編集長職にある人物の言として大谷の見解を高広は看過できなかったらしい。また、大谷に賛同する広報担当者からのコメントが多いことについてもこんな注を付けていた。
《(特にレガシィな)広告業界の人々は、編集と広告の狭間についてきっちり分けるべきものと感覚的に理解してる人は多いと思うんですが、広報の人々の中には金銭などの経済的便益を持ってして編集者に記事を書いてもらうということについて、距離が近すぎるせいなのか、その倫理的な問題を理解してない人がまだまだたくさんいるのは残念です》
《ここに「ネタ」を持ち込む企業の広報やPR会社の人は、ステマやノンクレジットタイアップの共謀者になるかもしれない、ってことですよね?》
『PRESIDENT Online』編集長の星野貴彦も高広のツイートに「大丈夫なわけないですよね」と反応しつつ、こう語る。
《広告主を優先するというのはメディアの自殺です。大谷イビサカドカワアスキーで責任ある立場にいるようで愕然とします。「きれいごと」を守れない媒体を読者はどう評価するか。このポストをサイトに掲示すべきです。》
https://twitter.com/ho4not/status/1093346281148211200
マスメディアは構造的に「きれいごと」を守れない媒体である。問題は「汚れ」を自覚できるかどうかである。大谷も、星野も、高広も、「汚れ」を自覚したことなどないのだろうな。「マクベスの、魔女によって囁かれる、あの有名な台詞を思い起こそうではないか。
「きれいは汚い 汚いはきれい」!

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2)【本日の一行情報】(岩本太郎)

東京新聞記者の望月衣塑子に対する首相官邸からの「質問制限」の件は昨日の『』でも取り上げたが、その望月が「8月恒例の大規模人事異動」を口実に官邸担当から外される可能性を、フリージャーナリストの田中龍作が指摘している。「望月の大先輩にあた東京新聞関係者」が気を揉んでいるそうだ。
http://tanakaryusaku.jp/2019/02/00019595
先日、私も東京新聞記者が関わる集会に行き、田中もそこに出席。終了後の懇親会には田中はいなかったが、上記記者から確かにそんな話は聞いた。

◎CCCがTカードの会員情報を裁判所の令状なしに捜査当局に提供していた問題について、一般財団法人「情報法制研究所」理事長新潟大学教授(情報法)の鈴木正朝は『弁護士ドットコム』ニュースの取材に応じ「個人情報保護法上は一応違法ではない」とする一方「適法であっても、民法不法行為法上の責任が問われることがあります」など、過去の具体的な判例なども示しながら2日付の記事で公表。
https://www.bengo4.com/c_8/n_9181/
当のCCCは5日付で「お客さま情報のお取り扱いについて」と題したお知らせを公表。同情報の取り扱いに関する基本方針の「再検討を行っております」としつつ、基本方針が確定するまでは「捜査機関からの要請に対しては、捜査令状に基づく場合にのみ対応することといたします」と表明した。
https://www.ccc.co.jp/news/2018/20180205_005472.html
これを受けて『弁護士ドットコムニュース』も続報。この問題に関連し、1月23日の衆院法務委員会の閉会中審査で立憲民主党議員山尾志桜里警察庁の担当者に質問した際のやり取りも踏まえつつ伝えている。山尾は国立国会図書館に対しても、ユーザーの利用図書履歴を捜査機関に情報提供することについての方針を質しており、同館側は「令状なしの利用履歴の提供に応じたことはなく、今後も同様」と回答したそうだ。
https://www.bengo4.com/internet/n_9197/

小学館は2015年に刊行した『戦争をしない国 明仁天皇メッセージ』(矢部宏治著)に、退位についての「お考え」などを新たに加えた増補改訂版を6日に刊行。また、同日より3月5日まで同書の電子書籍版を、著者・矢部の意向を受けて1ヵ月限定で全無料公開中だ。
https://www.shogakukan.co.jp/books/09380108
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000225.000013640.html

◎『コロコロコミック』増刊号として1月25日に発売された『ミラコロコミック』は緊急重版が決定したそうだ。同26・27日に幕張メッセで開催された『次世代ワールド ホビーフェア2019 Winter』の特設売り場では用意された1200冊が完売したという。
https://www.oricon.co.jp/news/2128855/full/

◎『海月姫』『東京タラレバ娘』『かくかくしかじか』などで知られる漫画家の東村アキコが、スマホ向けの縦読みマンガ(ウェブトゥーン)に挑戦している。もはや中高生がほとんど漫画雑誌を読まなくなりつつある現状の中で新たな挑戦に乗り出した心中を、例えば次のように語っている。
《雑誌がタイタニックみたいな大きな船で、編集や漫画家を船で演奏するオーケストラだとすると、今はお客さんがほとんど乗っていない船みたいなんです》
《反響がないんです、雑誌でやっていても。10~15年前はみんなアンケートに感想を書いてくれたり、ファンレターが届いたり、ネットに感想が上がったりしたけど、今はそれほどの反響がない》
《今まではメインのピアニストのファンがたくさんいて、オーケストラの一員でも食っていけた。それが、いきなり荒波に放り出されて、自分で小舟を漕いで釣りをしながら食っていく、みたいな世界になってる》
《だったら私は港に行って、少人数しか小銭を払ってくれないけれど、生身の人の前で演奏したいな、という気持ちでいます》
https://www.huffingtonpost.jp/2019/02/06/akiko-higashimura-webtoon_a_23662662/

◎出版事業を始める方針を先月Twitter上で公表した青山ブックセンター本店店長の山下優に、日刊工業新聞社の『ニュースイッチ』がインタビュー。書籍第1弾は2015年創業のアパレルメーカー・オールユアーズ代表の木村昌史による著書で、今年7月7日に発売するとのこと。当面の出版事業の概要については以下のように述べている。
《初版の規模感としては、1,000部の刊行を予定しています。例えばその内の500部は店頭で売って、残りの500部は開設予定のECサイトで販売する予定です。著者が店舗を持っている場合などは、そこでも販売して頂きます》
《重版以降は、卸すことも考えていますが、ISBNコードは取得しない予定ですし、広く一般流通させるための出版は、当店がやる必要はないのではと。薄く広くというより、高い熱量と濃さを持って、しっかり読者に届けたいです。(略)今のところジャンルは決めずに、いろいろなものを出したいなと考えています》
https://newswitch.jp/p/16402

◎『Forbes JAPAN』発行元の「アトミックスメディア」が、昨年12月1日付で「Forbes JAPAN Web」編集部を新体制に移行。さらに来たる3月1日からは、国内ニュースの強化を目的に「Forbes JAPAN ニュースルーム」を社内に組織することを6日付で発表した。「Forbes JAPAN Web」の新たな編集長には前副編集長で元朝日新聞の林亜季、同副編集長にはAFP通信のニュースサイト「AFPBB News」のファッション系担当やぶんか社の『Gina』の編集などを務めた鈴木奈央がそれぞれ就任。
https://forbesjapan.com/articles/detail/25350

◎元『噂の眞相』編集長の岡留安則への追悼記事が続く。岡留が2016年に脳梗塞で倒れるまで「マンデー激論」を連載していた『東京スポーツ』では、2004年の岡留と作家・岩井志麻子との「ディープキス写真」を含めた1面トップ記事を久々に持ちだしたり、同じく作家で岡留と親交のあった中平まみによる追悼記事「大事な大切な存在に逝かれてしまった」を相次いで掲載。
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/1270024/
https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/entertainment/1270978/
『ハーバー・ビジネス・オンライン』では元『噂の眞相』編集部員で、後にフリー編集者として岡留の出版物にも関わった小石川シンイチも寄稿。2014年には『噂の眞相休刊10周年も記念しつつ、岡留が移住先の沖縄で書き溜めた沖縄に関する時評などをまとめた本の企画が進行していたものの、本人が病に倒れたことで実現しないまま終わってしまったそうだ。
https://hbol.jp/184937
蛇足ながら今日8日発売の『週刊金曜日』でも元『噂の眞相』副編集長の川端幹人による短い談話(私が聞いてまとめた)を掲載している。体調を崩して以降も医者通いを頑強に拒む岡留を、元『噂の眞相』スタッフらが沖縄まで出向いて説得。かなり強引に入院させたらしい。「お別れの会」など追悼の企画については「まだ何も考えられない状態」とのことだった。

東京スポーツ新聞社が編集局「校閲担当」のアルバイトを募集している。
https://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/special/1272046/

◎今年の『ニコニコ超会議2019』の「超特別協賛」にはNTTがつくことになった。5日に六本木のニコファーレで開かれた発表会で公表された。
http://gogotsu.com/archives/47944
もっとも、ウェブ上ではさっそく「発表会で取材陣からの質問がなかった」「任天堂が特別協賛から撤退した」等々の書き込みで盛り上がっている。
http://www.kyodemo.net/sdemo/r/news/1549377156/

◎以前にも紹介したライターの伊川佐保子による一人書店「ほんやのほ」が日本橋大伝馬町のビル内にある広さ3坪のスペースで1日にオープン。「会員制書店」というスタイルで伊川がセレクトした1000冊を棚に並べているという。カウンターの横にある本棚は「まだ売る決心がついていない」コーナーだとか。
https://nihombashi.keizai.biz/headline/1714/

◎コンピュータ関連書籍専門のオンライン古書店「電脳書房」が2月末で閉店すると発表。現在「閉店セール」を実施中だ。
https://twitter.com/bookcyber
http://www.bookcyber.net/20190204.htm
https://www.zaikei.co.jp/article/20190206/493422.html

◎業績不振から昨年10月限りで演劇情報誌『シアターガイド』の発行を含む事業を停止していた版元の「モーニングデスク」に東京地裁が2月4日に破産開始決定。負債は現在調査中とのこと。
https://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20190205_02.html