【文徒】2019年(令和元)12月17日(第7巻229号・通巻1649号)


Index------------------------------------------------------
1)【記事】装幀家菊地信義に迫る映画「つつんで、ひらいて」が公開された
2)【記事】西世賢寿「路上の映像論―うた、近代、辺境」(現代書館)の出版を祝う会に出席した
3)【本日の一行情報】
4)【深夜の誌人語録】
----------------------------------------2019.12.17 Shuppanjin

1)【記事】装幀家菊地信義に迫る映画「つつんで、ひらいて」が公開された

1万5000冊以上もの書籍の装幀を担当した菊地信義の仕事ぶりを正面から捉える広瀬奈々子監督のドキュメンタリー映画「つつんで、ひらいて」が公開されている。
https://www.magichour.co.jp/tsutsunde/
アエラドット」が12月13日付で「電子書籍にはない『触感』を 装幀家菊地信義ドキュメンタリー映画公開」を発表している。
《「酒と戦後派」と書かれた紙をしわくちゃにしてコピーし、のカスレ具合を確認したり。タイトルの字をはさみで切り、ピンセットで並べ、テープで留めて並べ方を調整したり。映画は菊地さんが手作業で丁寧にデザインする手元から、印刷や製本に至る工程を描いていく。本づくりもデジタル化が進む中、紙の本やアナログなものに対する菊地さんと広瀬監督の愛着が、ひしひしと伝わってくる。》
https://dot.asahi.com/aera/2019121100025.html?page=1
この映画にも出演している、菊地の弟子である若い世代の装幀家水戸部功がツイッターに投稿している。
《明日14日、菊地信義さんのドキュメンタリー映画『つつんで、ひらいて』が公開します。1977年に独立して以降、澁澤龍彦吉本隆明中上健次古井由吉など、芸書を中心に、40年以上に渡って装幀シーンのど真ん中を駆け抜けた方の境地、これからの本の在り方が記録されています。》
https://twitter.com/mitobeisao/status/1205402900475695104
広瀬奈々子は是枝裕和監督のもとで監督助手を務めてきた才能である。広瀬がツイートしている。
《『つつんで、ひらいて』無事に初日終えました。お越しくださいました皆様ありがとうございました。今回の映画の公開に際して出版業界の方々に多方面でご支援いただき改めて深く御礼申し上げます。菊地さん、水戸部さんと公開を迎えられて幸せに思います。この映画が本を愛する人に届きますように。》
https://twitter.com/rose_hiro7/status/1205845029702385664
是枝がこれをリツイートして「公開、おめでとう。(祝)」と呟けば、広瀬が「かんとく、ありがとうございます!」とリプライしている。
https://twitter.com/hkoreeda/status/1205877075493543936
https://twitter.com/rose_hiro7/status/1205888277162557445
ユリイカ」(青土社)の12月臨時増刊号「総特集・装幀者・菊地信義。」の表紙が素敵だ。
http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3361
いとうゆみのツイートも紹介しておこう。
《装幀者・菊地信義さんのドキュメンタリー『つつんで、ひらいて』鑑賞。紙は肌と言い触る場面にニヤニヤしながら共感。デザインは設計ではなく《こさえる》か。なるほど温もりを感じる良い言葉。この映画、自分含めデジタルにどっぷり浸かっている人こそ観るべき作品と思った》
https://twitter.com/23imuy/status/1205857858845233152
そう「こさえる」なんですよ。

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2)【記事】西世賢寿「路上の映像論―うた、近代、辺境」(現代書館)の出版を祝う会に出席した

わが朝倉喬司が遂には踊り出してしまう「大菩薩峠 果てなき旅の物語」は確か5時間を超える長編ドキュメンタリーである。NHKにあって西世賢寿は、とんでもない作品を次々に世に問うてきた作家である。
大菩薩峠 果てなき旅の物語」は中里介山の小説「大菩薩峠」を出発点にして、「大菩薩峠」の主人公たる机竜之介が漂泊の旅に身を任せたように、西世賢寿は日本列島の周縁に偏在する河内音頭江州音頭浪曲瞽女唄、説教節といった「うた」=「語り物芸能」を丁寧に掘り起こしながら、路上の芸能者がそうであったように西世もこれにならって民衆史を「騙って」=「うたって」しまうのだ。その大胆さに私などは圧倒されてしまった記憶がある。まさに「騙るシス」を堪能したわけである。
そんな西世賢寿が現代書館から初めての著書となる「路上の映像論 うた、近代、辺境」を上梓したことを記念して、12月15日に新宿の「居酒屋 浪漫房」で「西世賢寿さんの出版を祝う会」が開かれた。西世の人間としての幅の広さと、奥行の深さを象徴するかのようにアジアプレスの野中章弘、篠原勝之、高山彦、高澤秀次、ジャン・ユンカーマン、鈴木琢磨といった多彩な人たちが挨拶に立った。
「路上の映像論 うた、近代、辺境」がどういう本かと言えば高澤秀次が「週刊読書人」12月13日号に掲載された書評で的確に指摘している。
《本書で試みられるのは、再現不可能な「過去」へのノスタルジックな遡行ではなく、「懐かしい未来」への、およそNHKらしからぬテレビディレクターによる果敢な「逃走」なのだ。》
https://dokushojin.com/article.html?i=6329
西世は、こう書いている。
《『大菩薩峠』は終わらない。破滅へと向かう時代の底で、果てしない旅路はどこまでも続く。今、未来に開かれたテキストとして、この未完の大長編小説を読み返してみるなら、そこに浮かび上がってくるものは、近代の国家システムに根こそぎ追いやられ、限りなく簒奪されていった民衆の想像力―「物語」の復権であった。》
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-5867-9.htm
朝倉喬司が亡くなったのは2010年の11月下旬だが、その遺体の第一発見者が西世賢寿であった。ちなみに私が朝倉に会ったのは、その少し前の大阪の阿倍野の居酒屋・明治屋においてであった。私たちが入ったら偶然にも朝倉と西世が酒杯を交わしていたのである。もちろん、合流し、痛飲。その翌日も飛田、西成で深夜に至るまで酒精を味わったのが朝倉の「うた」を聴く最後となってしまった。
この日の出版を祝う会には鷲巣功も出席していた。鷲巣は、ちょうど「河内音頭」をPヴァインから上梓したばかりである。鷲巣にとっても朝倉は「師」である。当然、朝倉についても一章が割かれていて、こう結ばれている。
《わたしは師にこの本を読んで貰いたかった。反応はおそらく「お前はなーんにも分かってないね」の、ひと言だったろう。それを聞きたかった。》
http://p-vine.jp/music/isbn-978-4-909483-44-7

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3)【本日の一行情報】

◎宝島社は、第18回 「このミステリーがすごい!」大賞受賞作の「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」を2020年1月10日に発売する。「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」は紙鑑定士とプラモデル造形家の二人組みが謎に挑むミステリーだが、事件の謎を解く重要証拠品となる紙を実際に本の中に綴じ込んでいるというし、ページごとに紙を変えた作りで、物語の本筋と一緒に紙の違いを読者が楽しめる内容となっているそうだ。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000967.000005069.html

◎TBSは新春スペシャルドラマとして「半沢直樹イヤー記念・エピソードゼロ ~狙われた半沢直樹のパスワード~」を放送するが、4月からは「半沢直樹」が連続ドラマとして帰って来る。これに合わせて講談社は12月13日に続編ドラマ原作「半沢直樹3 ロスジェネの逆襲」「半沢直樹4 銀翼のイカロス」を講談社庫より12月13日に同日発売した。
また「週刊モーニング」「週刊少年マガジン」「月刊少年シリウス」ではコミカライズに取り組む。更に公式半沢名言集や、日めくりカレンダーも企画中だそうだ。講談社社長の野間省伸も、池井戸潤もともに慶応OBにして、三菱銀行OBである。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002466.000001719.html

◎「JJ」読者モデルだった小川淳子が亡くなった。
https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/201912/0012952623.shtml
《嘘やろ、、chesty の代表小川淳子さん脳腫瘍で亡くなったって、、嘘でしょ、、まだ39歳。神戸にいた時からずっと好きで阪急のイベントの時めっちゃ笑顔で話して下さって憧れの人。神戸では有名な方で、、しかも私今日の服とバックchesty や。泣きそう。》
https://twitter.com/ayu215215/status/1205099276746911745

小学館から発売された「『コロコロコミック』1月号デジタル版閲覧権つき 付録セット」は、紙のケースに付録とシリアルコードが封入されていて、コードを打ち込むことで、タブレットスマホで本誌のデジタル版が読める。本誌がないぶん通常版よりも100円安いのか!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000479.000013640.html

講談社VOCEウェブサイトは20周年を記念し、同じく20周年を迎える@cosmeとのコラボ企画を始動する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002465.000001719.html
講談社はマンガを除いて、他の雑誌は総て紙からデジタルにシフトしたいのだろう。マンガと書籍を両輪とする企業を志向したいのだ講談社にとって雑誌は赤字を増やすだけの存在である。

◎リアルとバーチャルの融合で新たな体験を創造するxR Tech(エックスアールテック)カンパニーであるバルスと秋葉原の街の観光活性化のために合同会社として設立されたAKIBA観光協議会と大日本印刷は共同で、「バーチャルスナック in AKIHABARA」を12月21日~25日の期間限定で展開する。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000038172.html

凸版印刷のグループ会社である総合電子書籍ストア「BookLive!」は、12月13日(金)より、アーク・スリー・インターナショナルが運営する旅行予約・情報サイト「Tトラベル」において、同社が企画・実施する旅行ツアーを予約すると、「BookLive!」で使える500円分のクーポンをプレゼントするキャンペーンを開始した。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000083.000022823.html

コンデナスト・ジャパンの「WIRED日本版」と自動車メーカAudiによる「WIRED Audi INNOVATION AWARD 2019」の受賞者は次の通りだ。この賞はセンスが良い。
舘鼻則孝(アーティスト)、加藤崇(Fracta最高経営責任者)、小林新也(シーラカンス食堂/MUJUN代表)、渡部清花(NPO法人WELgee代表)、中西敦士(トリプル・ダブリュー・ジャパン最高経営責任者)、酒匂真理(miup社長)、湯浅政明(アニメーション監督)、穂村弘歌人)、福島邦彦(ファジィシステム研究所特別研究員)、中村朱美(minitts社長)、高山隆志(高山医療機械製作所社長)、北野華子(NPO法人「Being ALIVE Japan」理事長)、藤岡淳一(ジェネシスホールディングス社長)、川田十夢(開発者/AR三兄弟 長男)、菅裕明(東京大学大学院理学系研究科教授)、小川希子(国立研究開発法人物質・材料研究機構 構造材料研究拠点 研究員)、小島希世子(えと菜園代表、NPO農スクール代表理事)、田根剛(建築家、Atelier Tsuyoshi Tane Architects代表)、やくしまるえつこ(アーティスト)細野晴臣(音楽家)。
https://wired.jp/wired-audi-innovation-award/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000649.000000930.html
野間出版化賞が新海誠にではなく湯浅政明を選んでいたら、特別賞に白石麻衣生田絵梨花ではなく穂村弘を選んでいたら、さすが講談社だとなるのだけれど、いつの間にか、講談社はそういう世界から訣別してしまったようである。

ANAセールスと主婦の友社は、2歳以下の赤ちゃん連れの旅行客限定のツアー「赤ちゃんごきげん沖縄の旅3日間」を発売した。催行は2020年3月1日~3日(2泊3日)。
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1224407.html

◎光社の美容誌「美ST」2月号(12月17日発売)の表紙を飾るのは、フィギュア・スケートの羽生結弦。 しかも、表紙も中身も異なる、通常版と増刊号の2種類を同時発売する。通常版は「日本に舞い降りた美の化身 雪の妖精 羽生結弦さん美STORY」をテーマに、8ページにわたりスペシャルストーリーを掲載。付録は「雪肌精の透明肌スキンケア、ファイテンのビューティーパワーテープ」で890円。増刊号では「同じ時代に生きる幸せ 強く気高い妖精 羽生結弦さん美STORY」として、12ページにわたり羽生の名言を掲載し、付録は表裏印刷の羽生結弦の特大ポスターで、860円。

◎「Yahoo!ニュース」が「累計2000万部突破!宗田理ぼくらの七日間戦争』シリーズが30年以上子どもに読み継がれる理由とは?」(飯田一史)を公開している。
《廃工場を占拠して解放区を作る、廃校を使ってお化け屋敷を作るなど、子どもだけの特別な空間、普通の大人は入ってこられない「秘密基地」的なアジールを作るところも魅力的だ。》
https://news.yahoo.co.jp/byline/iidaichishi/20191213-00154837/

◎「ハフポスト日本版」は12月13日付で「44言語をスマホ自動翻訳、Googleが無料アプリを提供」を公開している。
《米グーグルは12日、スマートフォンで会話をほかの言語に自動的に翻訳できる新機能を同日から世界で始めると明らかにした。同社が強みを持つ人工知能(AI)技術を使って44の言語に対応し、無料で使える。日本などで売られている通訳専用機にとっては脅威となりそうだ。》
https://www.huffingtonpost.jp/entry/jidouhonyaku-google-44_jp_5df2e5cae4b0deb78b50f16b

パピレスが運営する電子書籍レンタルサイト「Renta!」は2019年電子書籍売り上げランキングを発表した。
少女マンガの1位は「【分冊版】誰かこの状況を説明してください! ~契約から始まるウェディング~」(フロンティアワークス)。少年マンガの1位は「駆除人」(KADOKAWA)。青年マンガの1位は「あせとせっけん」(講談社)。ヤングレティースの1位は「あなたがしてくれなくても」(双葉社)。レディースコミックの1位は「凪のお暇」(秋田書店)。4コマの1位は「夫の扶養からぬけだしたい」(KADOKAWA)。料理・グルメ漫画の1位は「最強の鑑定士って誰のこと? ~満腹ごはんで異世界生活~」(KADOKAWA)。動物マンガの1位は「骨董猫屋」(少年画報社)。ホラー・サスペンスの1位は「強制除霊師・斎 自殺女房」(ぶんか社)。ルポ・エッセイ漫画の1位は「レズビアンが教える最高に気持ちいいSEX」(ぶんか社)。
https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/page/topics/c_2019best.htm

芥川賞の候補作が発表された。
木村友祐「幼な子の聖戦」(すばる11月号)、髙尾長良「音に聞く」(學界9月号)、千葉雅也「デッドライン」(新潮9月号)、乗代雄介「最高の任務」(群像12月号)、古川真人「背高泡立草」(すばる10月号)。
https://twitter.com/shinko_kai/status/1206302910650273792
私は木村友祐の「幼な子の聖戦」を推す。
一方、直木賞の候補作は次の通り。
小川哲「嘘と正典」(早川書房)、川越宗一「熱源」(藝春秋)、呉勝浩「スワン」(KADOKAWA)、誉田哲也「背中の蜘蛛」(双葉社)、湊かなえ「落日」(角川春樹事務所)。
https://twitter.com/shinko_kai/status/1206302909052227584
私は川越宗一の「熱源」を推す。直木賞湊かなえ以外は全員が初ノミネートである。

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4)【深夜の誌人語録】

過去に逃げるのではなく、未来に逃げるのだ。